ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【1】出会い

16:直居side

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 学食で渡辺を見つけた。声をかけ、一緒に座る。

「この間サンキューな」
「ああ、あれから企業研究進んでるか?」

 唐揚げ定食を頬張りながら、ヒラヒラと手を振る。

「全然。でも、ITベンチャーみたいなとこの方が雰囲気好きかも」
「ITか。SE?」
「や、職種とかはまだ全然決まってないよ」

 渡辺はカレイの煮付けをつついている。食べ方きれいだな。

「ああいう業界はインターンからそのまま、っていうところ多いだろ?本気で狙うなら早めに動いた方がいいぞ」
「う、うん……。あ、そういえば、名刺もらったんだよね」

 まだ財布に入れっぱなしだ。城崎さんのと一緒に。

「お礼の連絡入れたか?」
「へ?」

 ぽかんとする僕にため息をつく渡辺。

「説明会のお礼だよ。お前に興味持ってくれたってことだろ?チャンスじゃないか」

 え!そんなの必要だったの!?

「いや、でも、まだそこに行くって決めたわけじゃないし……」
「当たり前だ。そして向こうもまだ内定はくれてない」

 うぐ……たしかに。

「今からでも連絡した方がいいかなあ。迷惑じゃない?」
「連絡されて迷惑な相手に名刺渡さない」
「そ、そうか……」

 箸を置き、財布から名刺を取り出す。

「見せてみ?」

 合説で出会った鉾田さんの名刺を渡辺に渡す。

「あ、ツイッターのアカウント載ってるじゃん。DMでサクッと連絡しちゃえよ」
「そんな、渡辺みたいに上手くできないよ」

 渡辺は就活用のアカウントを持っていて、SNSでもいろいろ情報交換している。企業から直接DMが来ることも多いらしい。

「別にこの会社に行かなくてもいいじゃん。興味ある業界なんだったら、勉強のためにもこの人脈は使えるだろ。繋がっといて損はない」
「渡辺……代わりに文章作って」

 ダメ元でスマホを差し出すと、本当に代わりに打ってくれた。は、早い……。

「ほい。内容確認して」
「ありがとう~!!」

 やっぱり持つべきものは意識高い系の友人だ。悩むそぶりもなくサクッと作られた文章は、お手本のように完璧だった。

「そっちは?」

 手元に握りしめたままの城崎さんの名刺を見て問われる。

「こ、これは違う……」

 慌てて財布にしまう僕を一瞥し、鉾田さんの名刺も返してくれた。

「さっきも言ったけど、連絡されて迷惑な相手に名刺渡さないからね。誰のか知らないけどさ」
「う、うん……」

 そうかな。そう、だよな。
 むしろこっちだけ相手の個人情報を知っているって、なんかすごく申し訳なく思えてきた。普通大人は、名刺もらったら自分のを渡すんだもんね……。

「連絡、してみようかな」
「ははっ、そうしな」

 渡辺に相談してよかった。今夜、城崎さんに連絡してみよう。
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