ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【8】二人の関係

8-6:直居side

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 いつものように、バイトが始まる。ランチ利用からカフェタイムに切り替わる頃合い。

「直居君、こっち豆補充しといて」
「は、はい!」

 仕事に集中しなきゃいけないのに。

『……潤』

「おい、溢れるぞ?」

『可愛いね』

「直居?ちょっと!」
「うわっ!」

 近藤さんの声で我にかえると、目の前にはコーヒー豆の山。

「どうしたんだよ、珍しいな」
「すみません!」
「大丈夫だよ。俺も前は力加減間違ってぶちまけたことあるから」
「……すみません……」

 考え事をして仕事でミスするなんて今までなかった。入れすぎた豆を近藤さんが片付けてくれる。

「直居君、バック入るからレジ代わってもらえる?」
「はい!」

 店長に言われレジに立つが。

『好きだよ』

 あんな素敵な人が、僕のことを好きって。
 それも、プロポーズ……されてしまった。

 あれ?自分がもらってもらえるかばかり気にしてたけど、僕が貴矢さんの恋人になるってことは、貴矢さんが僕の恋人……?

 仕事で電話しているときのキリッとした表情。
 お友達の結婚式に参列していたときのスーツ姿。
 流暢な英語を操りエスコートしてくれたプールバーでのこと。
 運転中の横顔。

 思い出す笑顔はいつもキラキラしていて……。

「あの、すみません」
「はいっ!」
「これ、金額おかしくないですか?」

 カフェラテ1杯のはずが、なんで11杯になってるんだ!

「大変失礼いたしました!」

 慌てて打ち直す。今日の僕はだめだめだ。
 その後もいろんなものを零したり、倒したり、間違えたりしながらバイトの時間が過ぎていく。入店初日よりもひどい有様だ。

「コンちゃん、直居君大丈夫かな」
「なんか今日アイツおかしいんですよ」

 店長と近藤さんが話している。うぅ……さすがに怒られるよな。

「さっきから赤い顔してて、熱でもあるんじゃないすか?」
「たしかに、ボーッとしてるよな今日。直居君!」
「っはい!!」

 店長に大きめの声で呼ばれる。

「裏の救急箱に体温計あるから、測っておいで」
「え、あの、大丈夫です!」
「どう見ても調子悪そうなんだけど」
「直居がこんなにミス連発するなんて、大丈夫じゃないだろ~」

 慌てて否定するが、バックヤードに押し込められてしまった。体温を測るが、当然平熱である。

「おかしいなあ、これから上がるんじゃないか?」
「いえ、元気です!ご迷惑をおかけして本当にすみません!」
「もうあと1時間で上がりだろ?客数落ち着いてるし、今日はもう上がっていいよ」
「元気なんですけど……」
「元気でも、今日はもう上がり。いいね?」
「………はい、すみません」

 これ以上ミスを重ねて迷惑をかけるよりは、素直に帰った方がよさそうだ。

「明日出たら明後日から就活なんだって?」
「はい、4日間お休みいただきます、すみません」
「熱あったら明日休みなよ?林ちゃんには俺から言っとくから」
「大丈夫です。ありがとうございます」

 優しい職場。心配掛けてしまって申し訳ないが、ありがたく上がらせてもらった。
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