ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

文字の大きさ
185 / 198
クリスマス番外

13:潤side

しおりを挟む
 貴矢さん、たまに自炊もするみたいだけど、忙しい時はやらないはずだ。最近会えないくらい忙しくしていたのに、キッチンに立つことがあったのだろうか。もしそうだとしても、いつも出しっぱなしのものをしまってあるのはなぜ?

「潤?どうした?」
「……貴矢さん、家に誰か入れました?」

 そんなわけないよね。気のせいだって否定してほしくて、直球で貴矢さんに投げかける。
 しかし、返ってきた言葉に目の前が真っ暗になった。

「え?ああ」

 何でもないことのように貴矢さんが頷く。

「キッチン触らせたんですか?」
「そうだけど、何かあった?」

 やっぱり、あの時。

『おいしかったよ。あれまた作ってほしい』

 間違いなく、そう言ってたんだ。
 あの人がここで料理して、貴矢さんが食べて、おいしかったって。また家に来て、作ってほしいって言ってた。

 あの人、誰?
 僕は貴矢さんの何?
 初めて家に入れてもらったとき、これからは僕だけだって言ってくれたのは嘘だったの?

「………嘘つき」
「え?」
「貴矢さんの嘘つきっ!」

 全部勘違いだったらいいって思ってた。盗み聞きなんてした僕が悪いし、そんなこと貴矢さんに知られたくないって。でももう溢れ出す感情と涙を止めることができなかった。

「僕だけって言ったのに!」

 ずるいよ。僕なんて愛してもらえるわけないって、分かってたのに。こんなに好きになってから、今までのことが嘘だったなんて酷すぎる。
 僕とは忙しくて会えないって言っていた間に、他の人とは会ってたんでしょう?
 そんなの、僕もういらないじゃん……。

「潤?ごめんね?」
「ううっ……」

 何を謝ってるの?これから僕を捨てること?
 こんなに狡くて、酷くて、もう大っ嫌い……になれたらいいのに、なんで僕はまだ傷ついているんだろう。
 捨てないでって縋りついたら、何番目かの相手としてまだ傍に置いてくれるだろうか。
 それも、無理かな。昨夜読んだ、束縛が激しい恋人の特徴をまとめたネット記事が頭をよぎる。こんな面倒くさい絡み方しちゃったら、もう無理だよね。

「ごめん、そんなに泣かないで」

 ごめんなさい。早く涙を止めたいのに、全然止まってくれないんだ。言葉を発しようにも、全部嗚咽になってしまって、意味のある言葉が紡げない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

処理中です...