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逃げ水
3:育海side
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バイト終わり、ロッカーから荷物を取り出す。バッグにしまったまま放置していたスマホには、正くんからの不在着信。
朝見たメッセージに、俺が返信しなかったせいだ。
家に着いてから折り返す。
「育、怒ってる?」
「怒ってないし」
「本当に?」
心配そうな響き。
怒っているわけではない。でも、何かをぶつけないと気が済まない。
「……東京来るなら連絡くらいしろよ」
「ごめんね。俺が黙って行ったのが嫌だったんだ?」
電話口で、ふふっと笑ったような気がする。
謝られたのに、軽く苛ついた。
「別にいいけど」
デートなら、俺に連絡もらっても会う時間なんてないんだろうし。
ただの嫉妬心だ。それを説明するのもなんか違う。
「怒ってないからな」
「はいはい」
俺の刺々しい口調をそっくり反転させたような、柔らかく響く正くんの話し方。
聞き慣れたその声に、なぜか泣きそうになる。
あと何回、この声を聴けるだろう。
すぐそこにあると思っていた存在が、遠く、遠くなっていく。まるで逃げ水みたいに。
「育」
何、と言おうとして、うまく声が出なかった。
「好きだよ」
「あー……うん」
その話はしたくない。弟としてしか見られていないのはわかっているから。
「切るよ」
「育は?俺のこと好き?」
聞こえないふりをして、終話ボタンを押した。
~~ 逃げ水 おしまい ~~
朝見たメッセージに、俺が返信しなかったせいだ。
家に着いてから折り返す。
「育、怒ってる?」
「怒ってないし」
「本当に?」
心配そうな響き。
怒っているわけではない。でも、何かをぶつけないと気が済まない。
「……東京来るなら連絡くらいしろよ」
「ごめんね。俺が黙って行ったのが嫌だったんだ?」
電話口で、ふふっと笑ったような気がする。
謝られたのに、軽く苛ついた。
「別にいいけど」
デートなら、俺に連絡もらっても会う時間なんてないんだろうし。
ただの嫉妬心だ。それを説明するのもなんか違う。
「怒ってないからな」
「はいはい」
俺の刺々しい口調をそっくり反転させたような、柔らかく響く正くんの話し方。
聞き慣れたその声に、なぜか泣きそうになる。
あと何回、この声を聴けるだろう。
すぐそこにあると思っていた存在が、遠く、遠くなっていく。まるで逃げ水みたいに。
「育」
何、と言おうとして、うまく声が出なかった。
「好きだよ」
「あー……うん」
その話はしたくない。弟としてしか見られていないのはわかっているから。
「切るよ」
「育は?俺のこと好き?」
聞こえないふりをして、終話ボタンを押した。
~~ 逃げ水 おしまい ~~
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