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秋野小窓

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本編

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 夕食や歯磨きを済ませ、優太君を抱き上げる。

「自分で歩けます……!」
「ふふふ。僕が甘やかしたいんですよ」

 そう言うと、恥ずかしそうに首にしがみついてきた。密着してくる体温に、昨夜の乱れた姿を思い出してしまう。
 週に一度と言わず、すぐにでも構いたくなる。だが、疲労困憊のところを襲うわけにもいかない。

 寝室に入り、ベッドに寝かせた。枕元の灯りを点ける。

「今夜は早めに寝ましょうね」
「まだ9時ですよ。鹿賀さん、お風呂は?」
「優太君を寝かしつけてから入ってきます」

 ベッドサイドの椅子に腰掛け、布団の胸のあたりをぽんぽんと叩くと、

「子どもじゃないです!」

とむくれてみせる。笑って頭を撫でてやると、「もう!」と言いながらも嬉しそうだ。

「会社は大丈夫でしたか」

 初めて社宅についていった日のことを思い出す。
 手続きを終えて車に乗り込んだ際には元気そうに見えたが、具合が悪くならなかったかと心配していた。

「はい。鹿賀さんのおかげで克服できたかもしれません。それに、対応してくれたのが同期だったから」
「なるほど。随分仲良さそうだと思ったら、同期入社の方だったんですね」

 玄関で出迎えたときのはしゃぐような会話のトーン。親しげに呼ぶ声。距離感の近さ。すべてに合点がいった。

「あ、そうだ。鳩ちゃんから連絡来てたんだった」

 寝返りを打って、サイドテーブルに手を伸ばす。その手にスマホを渡してやると、小さくお礼を言った。

「えっと、来週末、鳩貝とご飯行ってきてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます。病院でも、入れられる予定があるならどんどん外に出てみるようにって言われてて」

 優太君はあれからマッチングアプリもやめたようだし、療養中、ご家族と私くらいしか会っていないはずだ。外部の人と交流しようという気持ちも、病気を快方に向かわせる力になるのだろう。

 ずっとここにいてほしい。私だけを頼ってほしい。そんなエゴは、優太君の回復の妨げにしかならない。

「優太」
「ん?……ん」

 スマホが顔の前から離れた隙に、キスを掠め取る。

「僕ともまたデートしましょうね」
「へへっ」

 はにかんだように笑う君が愛しくて。この家に閉じ込めて、どこまでも独り占めしたくなってしまう。

ーーまいったな。

 厄介な本音が漏れないうちに、「おやすみ」と声をかけて寝室を離れた。
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