読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第24話 トーマ、謎解きをしない

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 オークのいた広間を捜索。酒と食い物以外特に何もなかったので、先に進む。
 正直、ルーン魔法の回復のためにここで時間を潰したかったけど、こんなワケわからんとこに24時間もいたくない。
 オークが使ってたせいか、やたら臭いし。

「少しずつ、中央に向かってるようだな」

 本で読んだ話だと、ミノタウロスの迷宮は元来、
「迷宮の中央にミノタウロスがいる」
というだけの、あまり難しくない迷路だったはずだ。
 アリアドネの糸とか、ぜったいに要らないレベル。
 後世の作家が、迷いまくるとか設定を脚色したんだよな。


 で、またそこそこ歩き回らされて、ようやく2つめの扉。

 開けると、まったく同じ外見の女が2人いた。服まで寸分たがわず一緒。

……は?


「「助けて! 殺される!」」

 しかも、2人がステレオで叫んでいる。声もそっくり。

「「コイツ化け物なの!」」

 ああ耳が混乱する。


 2人の言い分を要約すると。どうも、片方はさらわれた人間。で、もう片方が怪物で、姿そっくりに化けているらしい。
 で、どっちも「相手が化け物だから殺してくれ!」と言い争っている、と。


 そんなことできる化け物がいるのか。まあ、キツネやタヌキも化けるって言うし。
 インド神話にもたしか、鳩槃荼くばんだっていう、人に化ける魔物がいるんだっけか。

 要はイジワル問題だな。
 さて、どっちがニセモノか。

 ……ただ、「片方だけが化け物」ってのは2人の主張でしかない。ルールの前提が既におかしい可能性もあるんだよな。 


「アタシ、アタマ使うのはニガテ。トーマ、普段益体もない本なんか読んでるんだから、アタマ使うの得意でしょ?」
 言い方ァ!
 アリスは早々に思考放棄してしまった。スカーにいたっては、座り込んでオークから盗ってきた酒を飲み始めている。


 本来ならここで悩むんだろうが、こっちには反則技があるんだよな。

ティールウィルド知る
 
 普段は使わないルーン文字の組み合わせだ。ルーン文字によっては、使い方の限られすぎてる名動詞がある。
 今回の「知る」とか。

 組み合わせて「心を知る読む」。読心術の完成だ。
 普段は使いたくないな。わざわざ人間の心なんて読んでも、いいことなんてない。
 読むのは本だけで充分だ。

 対象の思考が、脳内に流れ込んでくる。

(ああ、早くスキを見せねえかなあ)
(背を向けたら、ガブッて噛みついてやるのに)
(心臓がうまいんだよな)
(女の脚はうまそうだ)


「どう?」
 アリスの質問に頷いてみせる。
「うん、どっちもニセモノだ」


「「えっ」」

 2人とも固まる。

 しょせん「どっちかがニセモノ」ってのは、あいつらが言い出したルールだ。どっちもニセモノで、口裏を合わせている可能性は考えてた。

 「ホンモノ扱いされた方」が、俺たちに同行して、油断してるところを襲うつもりだったんだろう。

 女たちが、手足の長い猿のような生き物に変化した。爪を長く伸ばして襲い掛かろうとする。

 が、さりげなく背後に回っていたアリスのナイフが閃き、1体は瞬殺。
 もう1体も、スカーが投げつけた竜骨木材を顔面に食らってKOを食らった。

「戦士としてのデキは良くないナ」

 さすが生粋の戦士、宴会してるように見えても、しっかりこっちに気を配っていたか。



……しかし、本の病気、病気か。

骸骨……死んだ後も残るもの
オーク……金に群がる、汚い生き物

で、自分そっくりの猿みたいな生き物。

ボスはミノタウロス。牛。
以前有り金はたいて買った「貴族の礼法」によれば、牛は財産、遺産の象徴。

なーんとなく、分かってきたぞ。










 中心部は、どこまでも開けた空間だった。
 ココが終点ゴールか。

 ミノタウロスは、ちょっと原材料がなんだか考えたくない肉を食っている。頭が牛なのに草食じゃないのな。

 肉の塊を放り捨てると、立てかけていた大斧を拾い上げた。

「オォオオッ!」

 下っ腹に響く雄叫びだ。

「帰っていい?」
 アリスがげんなりした顔をしてる。3mの巨体にムキムキな筋肉。大斧はとてもじゃないがナイフで受けきれない。
 アレにナイフで挑め、ってのは酷だよなあ。

 さて、状況整理。
 今日俺が使ったルーンは、

エオリア
ソウェイル生命
マナ
ギューフ身体
ティール
ラド移動する
ハガル破壊する
イング増幅する
シエスト止める
ウィルド知る

の計10つ。結構使ってるなあ。戦闘に使える名詞が少ないぞこりゃあ。
 少なくとも、俺が独力で撃破、ってセンはないな。


「ブォイオオ!」

 巨大な戦斧が叩きつけられる。空振りで事なきをえたが、石床にクレーターのような大穴があく。

「うっわあ。ほとんど爆心地だ」

 スカーが竜骨で殴るが、あまりこたえた様子はない。
 返す刀で斧を叩き込まれた。

アルジス仲間エイワズ保護する!」

 とっさに魔法の盾でガードする。
 アリスが追撃しようと近寄ると、ミノタウロスが反応する。
「ブォウ!」

 床を踏み鳴らすと、地面から石柱が飛び出して進路を阻んだ。

 なーるほど。厄介なことをしてくれる。


支配階級ルーラーって、マトモにやりあったらこんななんだケド。策を期待していいワケね?」

 バレてたか。
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