呪われた処刑人一族の少年は、精霊の姫に愛される

木山ムイ

文字の大きさ
1 / 1
序章

白銀の世界

しおりを挟む

 息さえも凍てつく真冬の山には、まるですべてを拒絶するかのような吹雪が絶えず、猛威を振るっている。
 しかし、そんな極寒をものともしない樹林が生い茂る深層部だけは、白銀の世界から隔絶され、ふもとの山村に住む人々の間では過酷なこの山で身を守れる術のひとつとされていた。
 
 そんな場所に、倒れた小さな影がひとつ浮かぶ。
 金の髪は白に近い色の雪で覆われ、澄んだあおの瞳はすっかり生気を失って強いかげりが覗いている。肌や唇も、およそ人間のものとは思えない血色へと変わり果てていた。
 ——寒い。
 朦朧もうろうとする意識の狭間で、少年らしき姿の子どもは心中で独り、そう呟いた。
 何故ここに居るのか、家族は自分を放って何処で何をしているのかと最初は疑問で一杯だった頭は次第に濃い霧に包まれて、もう正常な判断など下せはしない。
 加えて、手足も凍えすぎているのか、指一本さえも思い通りにならずにいた。
 
 そしてそんな憐れな少年を救済するためか、はたまた追い討ちをかけるためか、死が確実に迫り来ていた。
 この世に生を受けてからの記憶が走馬灯として鮮明に蘇り、儚く散り消えていく。
 少年は与えられた死の導きに抗うことなく、重い目蓋をゆっくりと下ろす。
 
 意識はそこでぷつりと途切れ、深い眠りへと落ちていった——
 
 ◈◈◈
 
 倒れた少年の前に、毛皮のローブを着込んだ少女が立っている。
 少年を鋭く捉えるその瞳は幼いながらもぞっとするほど冷たく、恐ろしい。そして、それ以上に神秘的とも呼べる壮絶な美しさを放っていた。
「……ねえ」
 少年に向けて呼び掛ける。だがすでに意識を失い、ぐったりと横たわっている少年が、不機嫌そうに眉を寄せる少女に応えることはまず無理な話だった。
 
 それから何度も少年に声を掛けたり、手を振ったりしても返事が無いことの意味にやっと気付いた少女は、冷えきった少年の首筋にさっと手を当て、唇をきつく引き結んだ。
 そして少年を出来るだけ動かさず、吹雪から身を護るために着込んでいたローブを少年に覆い被せる。
 少年の命を繋ぐ脈はまだ波打っていた。
 このまま極寒の地に捨ておけば、少年は死ぬ。だが裏を返せば、助かる可能性を十分すぎるほど示しているということになる。
 
 少女は、生に縋りつこうと抗う少年を見遣る。
 正直、色々と問い質したい思いはあったが、今は一刻の猶予さえ許されない。
 少女は目を伏せると、凛とした静かな声で命じた。
常冬とこふゆの吹雪よ。——今だけは、眠りを与える。安らぎを得るがいい」
 するとふたりを拒絶し、苛まんとしていた吹雪が瞬く間に姿を消した。
 まるで時そのものが止まっているかのように思える景色は、辺り一帯に砕け散った宝石の輝きを、山頂の月光が照らしているようだった。
 
 さくりと軽い足音を立てて、少女の高い踵が雪に包まれた地面に突き刺さる。
 巨大な紋章が、眩い光とともに浮かび上がる。溢れたあたたかな残滓の灯火が、なにかを求めて少女が大切に抱えている少年の周囲を、蝶のように舞う。
 そして少女が伏せていた目を開いた刹那せつな、ふたりの姿は忽然と消え失せた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』

YOLCA(ヨルカ)
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」 名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。 死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。 彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。 それから数年。 エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。 すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。 一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。 「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」 捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。 今、その幕が上がる。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...