ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第2章「ネメシスレジストン」

第54話「進みゆく時の中で」

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エイブラハム・リンカーンは、クレイグ・ジョンソンの死を聞かされてから、少し、平静を保てなくなっていた、あの信頼すべき友が死んだ…まただ…まただとリンカーンは、インディアンに憎悪を抱いた、奴らめ…また私の大事な人を殺したのか…祖父だけではなく、今度は、大事な友人まで…リンカーンは、怒りに震えていた。そして友人を遠回しではあるが死に追いやった、指輪を見つめ、それを粉々に砕いた、もうこれで、私の友人のような犠牲者が出ないだろうと考えた、もうこんな指輪に人生を狂わされるのはあいつだけでいいと考えて、南部の牽制に使う予定であった、指輪を壊したのだ。そして考えた、今は無理だが、いずれ奴らを滅ぼしてやろうと…
ワンブリウェスは、今日もぼんやりと山から景色を眺めていた。ポーっとしていると、馬の足音が聞こえた、あの戦い以来、聞こえなかったが、騎兵隊の音かと身構えたが、直ぐにそれは杞憂であると悟ったからだ、何故なら馬の足音が沢山あるのではなく、一つだけだからだ、一体誰かと考えていると、馬は側までやって来た。ワンブリウェスが馬上を見ると、南部の女中佐セシリア・アームストロングであった、ワンブリウェスは、久しぶりなので挨拶を交わした。
「よう、久しぶりだな、セシリア」
「お前こそ…変わりないのだな…」
ワンブリウェスは、セシリアに会ったら是非とも聞いておきたかったことを聞いた。
「なぁ?どうして、あの時おれたちを助けてくれたんだ?教えてくんないかなぁ~と思ってさぁ~」
セシリアは、静かに答えた。
「決まっているだろう、あそこで味方して、合衆国に戦力を少しでも、減らしておこうという上の判断だからだッ!それにお前に助けてもらった、その恩にも報わなければならない、それが武人としての、精神だろう?」
ワンブリウェスには、セシリアの言っていることは、半分嘘だと分かった、だから、もう半分の真実を聞くことにした。
「本当かなぁ~ん、本当はもっと個人的な感情なんじゃぁないの~」
セシリアは、ワンブリウェスの質問に頬を赤く染めながら答えた。
「そっ…その本当は、その…命令や恩義もあったのだが…実はお前のことが好きだったからだ…」
ワンブリウェスは、それを冷やかしながらなおかつ、本当の気持ちも混じえて言った。
「へっへっ、じゃぁおれもあんたのことが好きだったんだよ、なぁキスしてみようぜ?」
そして、二人が唇をかわそうとすると、ワナギースカがやって来た。
「おい、兄さんッ!何をやっているんだ!?まさか…」
ごっ…誤解だよ~と言おうとする、ワンブリウェスを見て笑った後にセシリアは、弟を安心させるために、こう言った。
「心配するな、少しフザけていただけだ、私はもう帰るよ、そろそろ本州に戻らなければな…実は今日帰還する、本当のことを言うとお別れを言いに来たのだ、さようならワンブリウェス…」
ワンブリウェスは、そのまま立ち去ろうとする、セシリアを制止させた。
「おい、待てよ!おれは…おれは…」
そこまで言いかけたところで、セシリアはいつもの武人言葉ではなく、女性が使う言葉でワンブリウェスに答えた。
「ふふ、心配しないで、神様が私たちに意地悪しないのなら、きっとまた合わせてくれるわ、まただいつか何処かで会いましょう、さようならワンブリウェス」
そう言って、セシリアは走り去って行った。それを兄弟で見送り、しばらく二人で下らない話なんかをしていると、大量の足音が聞こえてきた、ワンブリウェスは、弟を誘った。
「また来やがったか、行くぞワナギースカッ!」
「ああ、兄さん!おれたちは無敵のコンビさッ」
そうやって、二人はまた、戦いへと身を投げていった。
ここで、三人の最後を説明しておくと
ワンブリウェスは、その後も合衆国への抵抗を続けるも最後は保留地での虐殺に巻き込まれ死亡する。
ワナギースカもワンブリウェスと同様に合衆国への抵抗を続けるも最後は、彼の愛した山で千発以上の弾を浴びせられ戦死した。
セシリア・アームストロングは、その後ワンブリウェスに再会することなく、ゲディスバーグの戦いで戦死する。
そして月日は流れ、1962年アメリカ合衆国
二人の男が、ボストンへと向かって行った。その理由としては、戦いの宿命を自身の甥に教えるためである。
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