ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第3章「ホリィ・ソルジャーズ」

第200話「カールの記憶ーその8」

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「何故押し黙っているのだ…私の質問に答えないかッ!」
カールは思わず声を荒げた。
「ふん、まぁいい、所で…ニュヨーク州からここまでの旅ご苦労だった…両親の敵も討てたようだしここまで無事に辿り着けたわけだ…」
ここに来てメアリーはようやく口を開いた。
「そう、何か祝わせて欲しいのならあなたの首が欲しいわね」
カールは、それについては何も言わずに代わりに手を差し出しながらドイツ語でお嬢さんを意味する言葉を口にした。
「一つチャンスを与えよう…フロイラインクラントン」
カールは氷のような笑みを貼り付けてこう言った。
「死にたければ私に近づいて来い…逆に私に仕え…心身ともに奉仕するのなら反対に私から遠ざかるといい」
だがメアリーはまるで先祖からの敵でも見るかのような目でカールを睨みつけた。
「…あたしは初めてあなたに出会った時に心底恐怖したわ、私が恐怖したのなんて今までの人生で数えきれないくらいあるけれど、あの時は違ったそれまでのあたしは例えどんなに酷いことをされても魂までは屈していなかった…けれどあの時のあなたには魂まで屈してしまったの」
「だけれど…」とメアリーは一呼吸を置いてから先ほどの自身の意見とは正反対のことを述べた。
「今のあたしはあなたに魂なんか一つも売っちゃあいないわ!今私は自分のトラウマを払うため…そして愛しい人のために戦うわ!」
「…よかろう、フロイライン…私に近づいて見るがいい…」
メアリーは、カールのその言葉通りに近づこうとしたが何故か自分が何かに浮かされたような感覚に襲われて近づけなかった。
「どっ、どうして近づけないの!」
「…フロイライン、やはり君は私を恐れているな…だから妙な理由を付けて自分から遠ざかったのだ。違うかね?なら今からでも遅くない私の部下になりたまえ、お前は非常に強力なガードゴーストを持っている…死なすには惜しい…それにあなたの態度次第ではそれなりの対偶も考えよう」
「くどいわよ!私がそんな言葉に乗るとでも思ったの!」
「…これがラストチャンスだよく考えたまえ、私に仕えろ…何を恐れているのだ私に仕えればお前の人生を滅茶滅茶にしたあの町の住民どもを皆殺しにすることも可能なんだぞ…君とヤングは両親の敵であるアープを殺したが、君たちを長年苦しめていた町の住民どもは野放しのままだ…それでもいいのかね?フロイラインクラントン…」
カールは、薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
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