ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第4章「美しき羽の蝶」

君ともっと愛し合いたかった

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「早く治せっていんだよぉ~!早くダニエルを治せって言うんだよ!」
フレーゲルがイーサカに掴みかかりながら叫んだ。
「…何度も言わせて悪いが…オレが使えるガードゴーストの中には相手の怪我を治す…もしくは死んで精霊となった人間を蘇らせる能力なんてないんだ」
イーサカは帽子を掴んでいる手をプルプルと震わせながらそう小声で呟いた。
「嘘つけよこのヤロー!お前にならできるだろう!!それをさっさとやれって言ってんだよ!」
「やめないか!フレーゲル!!!」
興奮するフレーゲルをクウニャウマは一喝した。
「…J・K…あんたは…あんたは…」
フレーゲルは中々言葉が出なかったのか何回も「あんたは…」を繰り返した。
「あいつの恋人だったんだろう?!なら治るって可能性にかけてみろよ!」
フレーゲルが結論を出したのは最初に「あんたは…」を呟いてから十分も経ってからのことだった。
「彼もこんな最悪な結末を想定してここに来たんだ…覚悟はしていただろう」
その言葉にフレーゲルは手のひらに爪を食い込ませていた。よっぽど怒っていたのか顔を下に向けたまま動こうとはしなかった。全員が暗い顔で下を向き続けている中最初に言葉を発したのはエドガーであった。
「J・K…ここでダニエルを置いていくつもりですか?」
クウニャウマは黙って頷いた。
「そんな…そんなことってないだろう?!ダニエルはオレたちの仲間で…貴族だけれど、とってもいい奴で…オレのこの顔を見ても嫌悪感を向けられることなんてなかったし…なによりあいつはあんたの恋人で…」
マルクがそこまで言った所でクウニャウマは「やめろ!」と一喝を浴びせた。
「ごめん…オレが無神経だった」
クウニャウマは沈黙を続けた。
「…すまないが、あれを見てくれないか?ダニエルが握っている写真のような物を」
イーサカがそう指摘するとクウニャウマはダニエルの手に握り締められている写真を見ると、驚愕した顔を見せた。そして自分が驚愕した理由を全員に教えた。
「みんな、これを見てくれないか?」
クウニャウマが悲しみに沈んでいる仲間たちに写真を見せた。仲間たちは写真を見ると全員が驚愕の表情を浮かべた。何故ならダニエルが撮った写真には、彼らがマインシェフと呼んでいる男の素顔が写っていたからだ。
「こいつが…マインシェフ…」
「こいつが長年にわたってドイツを麻薬で汚染させてきた原因…」
「こいつがダニエルを死に追いやった遠縁の原因」
イーサカ、エドガー、マルクが順番にマインシェフへの意見を述べた。
「この美しい男が我々が最も憎む敵だ…マインシェフの居場所は後で聞こう」
「一つ聞きたいんだが?どうやってダニエルは写真を撮ったんだ?あの時咄嗟にオレを庇って撮る暇なんかなかったのに…」
「恐らく魂の叫びという奴だろうぜ…ダニエルは死の瞬間に最後のシャッターを切ったんだろう…」
イーサカのその言葉に全員が薄っすらとした涙を浮かべた。クウニャウマは泣きながらダニエルの死体を見ると、ダニエルのポケットに手紙と小さな箱が入っていた。クウニャウマがそれを見ると小さだが高価なダイヤモンドがついた指輪が入っていた。クウニャウマが手紙を見てみると、その内容はクウニャウマを泣き崩れさせるのに十分だった。
『なぁ、クウニャウマ…もう俺たちが出会って三年なるな、覚えてるよ…俺はお前があのバーに入ってきた時のことを…俺は初めてあのバーでお前に会った時、俺はまるで春の妖精にあったみたいな気分だったよ、なぁ知ってるか?俺の家族がお前のことを嫌ってたの…そりゃあそうだよな、大事なリッテンハイム家の長男を身寄りも楽歴もない女と結婚なんてさせられないからな…でも…そんなお前に朗報だ!何と俺の家族が孫を連れてくるならお前との結婚を認めるって言うんだよ!だから俺たちで可愛い子供を作ってさぁ~それから豪勢な結婚式の披露宴を挙げようぜ!勿論マインシェフを倒してからだけどな…この指輪は婚約祝いさ…受け取ってくれ、君に似合う綺麗なダイヤモンドを選んだんだ。親愛なるダニエル・フォン・リッテンハイムから愛を込めて』
クウニャウマは手紙の内容を全て読み終わるともう瞳から溢れ出てくる透明の液体を止めることができなかった。透明の液体は手紙の上にポタポタと落ちていく。
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