ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

リビング・デイ・ライツーその①

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イーサカはベントレーを荒っぽく乗り回しながら、先ほどの襲撃犯を追っていた。
「やれやれ、段々と距離が離れていくぜ…このままじゃあ追いつけるか、どうかが不安になってくるぜ…」
イーサカはそう弱音を吐きつつも、実際は必死こいてアクセルを踏んでいたし、ハンドルも左右に忙しく動かしていた。
「こうなりゃあしょうがねぇぜ…おれのスティールウィンドゥを使うしかねぇようだぜ…」
イーサカはそう言うと17歳の頃からの相棒を召喚すると、車の後ろの方につくように指示した。それからイーサカは新たに別の指示を風の魔人に下した。風の魔人はイーサカの次の指示を仰いだ。
「よし、車の後ろから大きな風を出してくれ…その勢いで野郎の車の追いついて見せるぜ」
「ウラァ!」
スティールウィンドゥはイーサカの指示通りに、車に向かって大きな風を放った。
「よし! いいぞ!このままトルネードに巻き上げられた魚見てぇに、飛んでけるぜ」
イーサカは運転席でたった一人きりにも関わらず、ほくそ笑む。
「おい! あれを見ろよ!」
イーサカの車が吹っ飛ばされる時間帯にたまたま通りかかって人が、唖然とした表情で浮き上がる車を見上げる。そしてその様子を近くに人にも伝えた。
「あぁ…とんでもねぇことだぜ…」
教えられた近くのホームレス姿の中年男性も最初に指摘した男性と同様に宙に浮かぶ車を唖然とした表情で見送った。
イーサカは自身の計算通りに事が進んだのを嬉しく感じた。それから自身の敬愛する上司の屋敷に機関銃を浴びせた無礼な鉄砲玉を追いかけた。
「待ちやがれ! てめえには色々と喋ってもらわなけりゃあならねぇことがあるんだ!どうしてお前はJ・Kの屋敷に機関銃を撃ちやがったんだ!」
イーサカがそう激しく問い詰めても、前方の車から何も返答はない。
「サッサと答えな!そうすりゃあてめえの命だけは助けてやるからよ!」
だが車の運転手は、それをただの脅し文句だと取ったのか、依然としてイーサカに返答することはなかった。
「やれやれ、乱暴なことはしたくなかったんだがな…」
イーサカは一瞬だけ顔を曇らせると、スティールウィンドゥを召喚して、相手の車のボンネットを思いっきり攻撃させた。車はスティールウィンドゥの拳を受けて歩道にスリップする。
「出てきな…話をしようじゃあねぇか」
イーサカはそう言うとベントレーのドアを開けて、スリップした車の方へと向かって歩き出す。それから後一歩という所で突然車が動き始めた。
「ばっ…バカな! おれはボンネットを攻撃させたんだぞ…普通の車ならもう動けねぇ筈だぞ!」
イーサカがそう眉をひそめると、ここにきてようやく運転手が喋り始めた。
「いいや、ここで動けるのがオレのガードゴーストの特徴なんでね !イーサカさん!そうオレのガードゴースト『リビング・デイ・ライツ』のね !」
「貴様の目的はなんだ?」
イーサカがスティールウィンドゥを構えた状態で依然運転席から姿を見せない、運転手に苛立ちを感じながら言った。
「それを教えるほどオレはお人好しじゃあないぜ !」
男はそう言うと車をイーサカの方に向けて突進させてきた。

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