ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

戦場は荒野

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メイヤーが紅茶を片手にぼんやりとしていると、先ほどの伍長とは別の人物がメイヤーのテントに入室した。
「失礼致します!攻撃準備は万全であります!メイヤー中佐殿!」
「分かったよ、ヒルトン軍曹…しかしテントとはいえ、いきなりテントを開けるのはどうなのかね?」
メイヤーは自身の考え方を邪魔された腹いせとばかりに、少し意地悪く呟く。
「もっ…申し訳ございませんメイヤー中佐…ですが緊急のご用事だったもので…」
まごまごしく呟く軍曹を尻目にメイヤーは自身の指示を伝えた。
「もういい、出撃だ!私の馬を用意しろ!」
メイヤーは声を荒げる。その様子を見て彼の怒りの対象である、軍曹は少し恐縮したようだった。
「りっ…了解であります!」
軍曹はテントを大慌てでテントを退出した。メイヤーはその様子を見て、少しだけ溜息を吐いた。

ボブは基地で攻めてきた二つの騎兵隊とその補給部隊の戦いで受けた疲労を回復すべく、基地の小屋の一つで眠っていた。だがボブは、その一時的な安息な時を一つの揺さぶりで目を覚ました。
「何なんですか…一体」
ボブが眠い目をこすって起き上がると、そこにはこの基地の隊長であるマイケル・ジョロキアであった。
マイケルはアメフトの選手のように引き締まった体格であり、その古き良きネイティブ・アメリカンの戦士を思わせるような立派な体格であった。だが顔は大地の軍の士官達に比べれば、落ちており、彼を知らない第三者から見てみれば、彼は恐らく不細工だと認定されるだろう。だがそんな事はどうでも良かった。
とにかく彼は指揮能力や腕っ節の良さではこの基地の中で一番の実績を誇っていた。そんな彼が何の用だろうと、ボブは落ちるか落ちないかの瞼と格闘しながら、尋ねてきた理由を思案していると、ようやく見つかったようで、あっと叫ぶ。
「メイヤーとやらが攻めてきたんですか!」
「メイヤーなんなんだ?それは?」
「戻って来た時に伝えたでしょう!補給部隊の連中が喋っていた言葉の一つですよ!」
「……そうか、そうだったな」
ジョロキアのあまり感情のこもっていない声にボブは少しポカンとしてしまった。
「それじゃあ無いんですか!?」
「それもあるんだが…オレが君を呼びに来た目的は新部隊の創設の目的だ……」
「新部隊…ですか?」
ボブは呆気なさそうな声を上げた。
「あぁ、先ほどの襲撃でかなりの戦士が殺されてしまってな、上からのお達しで新部隊を創立するそうだ」
ジョロキアは淡々と説明するが、ボブは自身が考えていた言葉を口にした。
「その部隊の名前はなんなんですか?」
ジョロキアは待ってましたとばかりにボブの疑問に答えた。
「『クレイジーホース部隊』だそうだ…」
ボブは心の中で悪態をつく。
(いかれた馬か…凄い名前だな、ぼく的にはあまりカッコいいとは思えないけど)
ずっと黙っているのを不審に感じたのか、ジョロキアがボブに「何があった」と尋ねた。ボブは「何もありませんよ」とだけ述べた。
ジョロキアがボブに早速付いて来いと指示するのと同時にボブの家に一人の大地の軍の戦士が入ってきた。
「たっ…大変だ!近くにアメリカ騎兵隊がッ!オレ達の基地に向かって来ていやがる!」
「ボブ聞いたかッ!早く行くぞ!」
ジョロキアはボブを急かすと、敵が向かってくると思われる近くの荒野までに馬で向かう。
「ジョロキアさん…他の人たちは!?」
「後で紹介しよう!だがあのメル・メイヤーを倒せるのはお前だけなんだ!」
「どういう意味なんですかッ!」
「……とにかく、今はメル・メイヤーを倒す事だけを考えてくれ、雑魚はオレが引き受けた」
「あなたもあれを扱えるんですか!?ジョロキアさん!」
ジョロキアはそのボブの疑問に黙って首をコクリと縦に振る。
「その通りさ…オレの魔人は『デッド・ミニスネーク』能力は小さなヘビを大量に操る能力さ…それに能力だけに頼っているわけじゃあ無いぞ」
ジョロキアは自身の胸ポケットをポンと叩いて見せる。
「射撃に自身があるって事ですか?」
ボブがそう尋ねると、ジョロキアは「その通りだ」と短くだが淡々とした調子で答えた。するとボブが目の前を指差す。
「見てください!ジョロキアさん!騎兵隊です!騎兵隊が目の前に見えます!」
ボブの言っていることは本当だった。
土煙は上がり、凄まじい数の馬の足音が聞こえた。
「凄まじい数だな…恐らく100…いや200はいるだろう…ワンブリウェス閣下とその弟のワナギースカはこんな数を5回も相手にしていたとはな…」
ジョロキアは思わず冷や汗を垂らす。
「ええ、流石としか言えませんね…でもぼく達の計画に狂いはないはずでしょう?予定通りにジョロキアさんは他の雑魚をお願いします。ボクはメイヤーを殺りますから…」
ジョロキアは首を縦に動かすと、そのまま首を横に振り、騎兵隊の中から一人で突撃してくるメイヤーを相手にするように指示した。ボブは馬を駆り、それから馬に備え付けてあった槍を装備し、最後に自身の守護霊である白い騎士を召喚した。
それを見たのか、メイヤーも満面の笑みを振りかざしながら、ボブの馬に迫っていく。
「さてと…久しぶりだな、私のガードゴーストを使うのは…貴様で久しぶりに使わせてもらおうか!」
メイヤーは自身の独特な魔人を出して、ボブの攻撃に備える。
そして馬に乗った二人の戦士のガードゴーストがぶつかり合う。
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