ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

査問会

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イーサカがマーガレット大学査問会に召集されたのは五月の五月晴れが気持ちいいある日の事であった。
その部屋はこれでもかと言うくらい広く、壁には金が儲かっている事を表しているのか、査問相手の教授が座っている椅子と長机の背後に世界各地に名画が飾られている。
空気はエアコンが効いているのか、冷たい空気がイーサカの頰に染み込む。
また、イーサカの座る豪華な椅子に三方に囲まれた席は教授たちが座る席とは対照的に質素な造りの簡素なものであった。
イーサカは三方に囲まれた豪華な椅子に囲まれた席の中で一際目立つ豪華な椅子に座って、踏ん反りかえっている偉そうな男を凝視した。
男は年齢から判断するに中年の層に準じており、肉のつき方が厚く、頭には一本の髪の毛も生えておらず、頭がかわいそうなくらいにピカピカと光っていた。
イーサカはもしこれが権威に弱い人間ならば、この場で屈して何も言えなくなっただろうと考察し、それから椅子にドシンと腰を据えた。
すると、例の偉そうな男が口を一文字に歪めながら喋り出した。
「ようこそ、ジョナサン・スカーレット教授…私はバード大学の理事長でこの大学の顧問を務めているダグラス・ジンバレンである!」
続いてその横に座っていた偉そうな中年の女が口を開いた。
「私の名前はロンダ・コーネリアと言います。バード大学の教授であり、今日はスカーレット教授の審査のためにここに参上致します」
イーサカは誰がこんな事をやってほしいと心の中で悪態を吐く。
「では、始めようか」
ダグラスはまずイーサカの高校時代の成績や大学時代の成績なんかを話し始めた。これは、過去の実績を証明するためらしいが、イーサカには吊るし上げとしか思えなかった。
「うーん、素晴らしいな、どれもかれも上位に入っているな」
「ですが、理事長…これだけは苦手だったらしいですわ」
コーネリア教授が指摘したのはイーサカが高校生の頃に取った数学の成績であった。
「うーん、これは酷いな」
ダグラス理事長は成績が書かれた紙を眺めながら、率直な感想を述べた。
誰がそんな事をしろと頼んだ。イーサカは頰を赤らめながらも、悪態を吐く事だけは忘れる事がない。
「まぁ、これはここら辺でいいとして…次に教授に聞きたい事は君がマフィア組織と繋がりがあるかを聞きたいのだよ、君はあのドイツ一のマフィア『シュヴァルツバルト』の最高幹部であるとの報告書が出ているが、実態はどうなのだね?」
「事実無根の事であります」
イーサカはキッパリと断言した。
「そうか、だが君は1989年から現在に至るまで不自然な出所の金が湧いているが…これは何なのだね?」
「ソーセージです」
イーサカは迷う事なく答えた。
「ソーセージとな、私にはそれが何のかは検討が付かんのだが教えてくれんかな?」
「では、お応え致しましょう。私は1989年にドイツを観光目的で訪れ、その時にドイツでソーセージに目を付けたのです。私はそれから従兄弟に借金して、ソーセージ輸入会社を設立しました。それが軌道に乗った後には、不動産業や建築業それから金融業なんかで財を成したのです。ここまでに何か不都合な点でもおありでしょうか?」
イーサカはダグラスの目をジッと睨みつける。
「い…いや、無いのだが…」
「理事長!スカーレット教授がマフィア組織と癒着があるのは暗闇の中で焚き火を起こしたら、そこにハエとか蛾が飛び込むのと同じくらい確実な事でなんです!しっかりしてください!」
ダグラスはコーネリア教授の言葉にたじろいだのか、身を震わせている。
「では証拠を提出願います」
イーサカは当然の権利を行使した。
「うっ…今は用意できませんが…その内に用意する事をお約束致しますわ」
中年の女教授は声を震わせながら言った。
「その間、私はどうなるのです?」
「君はホテルか何かで缶詰になってもらおう!いいな!」
ダグラス理事長は体を興奮で震わせている。そんなに俺を閉じ込めていたいのか、イーサカはこの不細工な教授に哀れみの微笑を送った。
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