ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

星空の下に

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イザベラはボブと会話を交わした後に、外の空気を吸うと言って近くの道を歩いていた。
「ふぅ…あの人があたしの本当の父親なの…どうして…分からないわ」
イザベラが頭を抱えながら気の向くままに歩いていると、向こうから自分の父親と思われる男ーメル・メイヤーと何度も自分たちを苦しめてきた女性将校ーケイティ・マーグレットの声が聞こえる。
「気分は落ち着いたかね、少佐?」
「……ありがとうございます中佐、私はもう平気ですわ」
イザベラは二人の声を聞くや否や近くの大きな木の陰に身を潜めた。
「さぁ、もう部隊の方に戻ろうか少佐…明日も『馬』の追跡をしなければならんだろう?」
ケイティ・マーグレット少佐が年上の中佐の手に引かれて帰ろうとしたその時である。近くの大きな木の陰の方から枝が分かれるような音が耳に届いた。
「誰だッ!隠れていないで出てこいッ!」
メイヤーが腰からピストルを取り出して、大木の方にピストルの筒を向けると、その警告を発せられた人物はすんなりと顔を見せた。
「やはり君か…ちょうど良かった是非君と話してみたいと思っていたのだよ」
メイヤーはその証拠とばかりに、ピストルを自分の腰に戻す。
「ねぇ昼間のことは本当なの?あなたがあたしのお父さん…」
イザベラは警戒する態勢も、攻撃するような素振りも見せずに、まるで小さな子供が担任の先生に分からない問題を聞くかのようにメイヤーに尋ねた。
「…私に残された書き置きが正しければそうなのだろうな…君は私の娘ということになる…」
イザベラは信じられないとばかりに、目を見開いていた。
「信じられんのも無理はないさ、私ももう娘は居ないかもしれんと諦めかけていた所だったからな」
メイヤーがそう呟くと、イザベラは何も感じることはないとばかりに無表情な顔でメイヤーにある事を尋ねた。
「あの…あたしの母についてどう思っていますか?」
「…彼女はシェリーは私が今までの人生の中で唯一最終的な愛に至った女性だ…忘れるわけがないだろう」
イザベラはそれを聞いて少しだけゆっくりと微笑む。
「今度は私から聞かせてもらいたい…君はどうして大地の国なんかを志そうと考えた…私にはそれが理解できない」
「…わたしは母があなたに別れを告げた後は、誰にも頼る事なくわたしを育てると決めたそうです。ですがこの不景気…母の収入だけでは食べられずに、わたしも働かなければなりませんでした…ですが家計はあまり良くならずに右往左往していました…その時にワンブリウェス総司令官閣下の大地の国思想に影響を受けたのです…以上です」
イザベラは何てことはないんだよとばかりに素っ気なく言って見せたが、メイヤーは彼女の瞳に少しだけ曇りを見せたのを見逃さなかった。
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