ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

ジャクソニンのタフボーイーその⑤

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次の瞬間にパァーンという乾いた音が狭いアパートの中に響く。
「うぐッ」
イクバヤは流石に避けきれなかったのか、地面に膝をついてしまう。
「ふふははは~ざまぁ見ろッ!貴様ごときが私に逆らうのが悪いのだッ!お前如きがウィリアム様に逆らうのが悪いのだッ!」
ロバートは全身傷だらけになりながらも、自身の勝利を確信し、笑い声を上げる。
薄れていく意識の中でイクバヤは目の前にいる男がこれから自身の教授を殺害するのだと思うと、悔しくて涙が止まらなかった。
そして玄関で横たわっている親友に謝罪の言葉を呟いた。
(ごめんな、ジャクソニン…おれのせいでお前をあんな痛い目に遭わせちまってよぉ~本当にゴメンよ、後申し訳ついでなんだけれどよぉ~オレが死んだら親父やお袋に申し訳ねぇって言っといてと欲しいな)
イクバヤはそれだけ心の中で呟くと、もう心配はないとばかりに目を閉ざそうとしたが、次の瞬間に自身の体が瞬時に治っているのを感じた。
「あれっ…これどうなってんだよ!?」
「…それはよぉ~オレのせいだと思うぜ」
イクバヤの疑問に答えたのは玄関で横たわっている筈のジャクソニンだった。
「じ…ジャクソニン !お前無事だったのかよ!?」
「あぁ…オレな夢を見てたんだよ」
「夢?」
「なんかさぁ~屈強な形したよぅ~黒の革ジャン着た魔人がオレを睨んでんのよ、それから魔人は『私と契約するか、お前がこのまま死ぬかどちらか選べ、お前が悔いのない選択をしろ」ってな…で、おれは『お前と契約する』って答えたんだ…なら、その魔人はよぉ~おれの手の甲に口づけしてこう言ったんだぜ『決まった !我が契約者よ !お前はこれからは私が付いている…この自分や相手の傷を治すこの『タフボーイ』が付いてるってな !」
イクバヤはそれを聞いて無言で瞳から透明の液体を流しながら叫ぶ。
「うるせぇよ !生き返ってんなら生き返ってるってサッサと言えよ !」
「悪かったな、だがこれでもうあいつは怖くないって寸法だぜ !」
「ぐっ…ぐっ、己…だがッ!だがッ!私は負けた訳じゃあない !おい、お前…ジャクソニンとか言ったな !取引きしないか?もしお前が私を見逃し、尚且つ私の怪我を治してくれたら、お前を私と同様にウィリアム様の部下にしてやろう…心配はいらないウィリアム様は話のわかる人だからな…さぁ、そんな野蛮なインディアンの事なんて忘れて私と一緒に…」
「おいおい、ふざけてもらっちゃあ困るぜッ!」
「何だと…」
ロバートは信じられないとばかりに目を見開いた。
「"野蛮なインディアン"だと !オレはイクバヤの事をそんな風に思った事なんて一度もないッ!それにおれはそんなものの見方しか出来ねぇような野郎は大っ嫌いな性質なんでなッ!お前を治す気はサラサラねぇぜ !」
「くっ…クソが…」
ロバートはジャクソニンに銃を向けるも、全ては"無駄な抵抗"に過ぎない。銃弾は全てジャクソニンのガードゴーストの拳に跳ね返されていく。
「うぉラァァァァァァァァ~~」
「うべっ…ぶっくし、うおらばばばばばばばばばばぁぁぁぁぁぁ~」
ジャクソニンのラッシュを受けて、ロバートは玄関のドアを突き破り、外に吹き飛ばされた。
「治さなくてよかったのか?お前はオレと一緒に強大なマフィアを敵に回したことになるぜ?」
「構わねぇよ、それよりもサッサとズラかろうぜ?さっきの銃声を聞きつけた近隣の住民が警察を呼ぶぜ…」
イクバヤはそれを聞くなり、ジャクソニンの手を引いて、アパートの屋上に上がり、屋根伝いに逃走した。

後書き
すいません、今日から一日一本投稿になります。四月になれば戻しますので、暫くは一日一本でご了承下さい。

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