ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

殺しの景色ーその⑦

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それから、飛んでいく飛行船の上で激戦が展開された。
「ヨラァ!」
「フンッ!」
二人のガードゴーストの拳がカチ割った。
「中々強いパワーじゃあないッスか……」
「貴様に褒めてもらうまでもないな」
そう喋り終えると、今度はアントニーは彼が持っていた斧に口づけをした。イクバヤは気でも狂ったのかと考えたが、次の瞬間に斧がまるで自分の意思でも持ったかのように一人でに襲い掛かってきたのだ。
「何だとォォォォォォ~~斧がまるでてめえで意思持ってる見てぇだぜ」
「驚いたかね、これは『ライフ・オブ・キッス』と呼ばれるクウニャウマ・ジェームズの母親ポワカが所持していたガードゴーストさ……ガードゴーストを呼び出して自ら口づけする事によって物に生命を吹き込むのさ……」
アントニーはそれを知っているのは当たり前だという風に喋ってみせたが、イクバヤはただ戦慄するしかなかった。だが、そんな風に冷や汗をかいている暇ではないのは目の前に意思を持った斧が襲い掛かってくる状態だったため嫌でも分かる。
「クソがッ!これでも喰らいなッ!ヨラヨラヨラヨラヨラヨラヨラヨラァァァァァァァァ~~」
イクバヤは斧に狙いを定めるものの、中々当てる事が出来なかった。斧がイクバヤの肩に降りかかった。
「ウゲャァァァ~」
イクバヤハ痛さのあまりに思わず悲鳴を上げる。
そんなイクバヤを見下しながら、アントニーは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「もう終わりか?お前のガードゴーストも随分と弱いじゃあないか、ふふふふふ……終わるのは私や私の帝国じゃあなくて、貴様の方らしいな、ではこれでトドメだッ!強大な光によってお前は視界を失ってしまうのだッ!」
その瞬間の事だった。イクバヤは咄嗟に懐から鏡を取り出して、それをアントニーに見せた。
「かっ……鏡だとォォォォォォ~~しまった……目がッ!私の目がァァァァァァァ~~」
アントニーはよろめきながら、飛行船の上から、足を踏み外して地上へと真っ逆さまに落ちていった。
イクバヤはその光景を見ながら、こう呟いた。
「綺麗な景色か、いいや……違うね、これは殺しの景色さ……」
すると、飛行船がぐらっと揺れ始めた。
「うぉッ!マズイ !ここはオレも脱出しねぇと !」
だが、飛行船は遥か上空に飛んでいた。
「ちくしょゥゥゥ~折角あの野郎を倒しても、ここから脱出できないんじゃあ……」
その時だった。彼の目の前にかつて激戦を繰り広げた女が現れたのだった。
「イクバヤ !早く乗って !ここ二人ならギリギリ乗れるわよ !」
「てめぇはビリー・ジーン !どうしてこんな所に !」
「説明はあとよ !いいから早く乗って !」
イクバヤは丸いコクピットの中目掛けて飛び込む。運良く成功し、イクバヤはホッとため息を吐く。
「助かったぜェ~それから一つ質問させてもらうがよぉ~何でおれを助けたんだ?ビリー・ジーン……」
「あなたと空港で会った時に……何か運命的なものを感じた……それじゃあダメかしら?」
「いや、文句はないぜ」
イクバヤは至極満足そうな表情だった。
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