ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第6章 ディスピアランス・サーガ

壁画の秘密

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イーサカことジョナサン・スカーレットが自分たちの精霊たちが眠る山を訪れたのは、1999年の12月31日の午後の事だった。
「……やれやれ、酷い有様だぜ、人が滅多に入らねぇせえか、かつてのテントを模造した建物がボロボロだ」
イーサカの言っていることは最もであった。日中でもこの山を訪れる人間は数少なかった……。理由は昼間なのに暗い森がこの村の跡地がある場所まで生い茂っていること。近隣の住民がこの森に入る道で確かにネイティブ・アメリカンの幽霊を見たという目撃情報。他様々な憶測が飛び交っているためにこうも人が少ないのだ。
「それに、近隣の人間があまりおれたちハプロック族を始めとしたネイティブ・アメリカンにあまりいい印象を持っていないのが原因だろうな」
イーサカは冷静に分析してみせる。そしてしばらくすると再び近くにある小さな洞穴に足を運んだ。
イーサカが足を踏み入れた洞穴には多数の壁画が作られており、その中には明らかに鉄道や線路や飛行機さらにはヨーロッパ人がアメリカにやってくるまでには見られなかったであろう鶏や豚と言った家畜が描かれていた。
「……これはどういうことだ!?鶏に豚だと!?この壁画が描かれたのは恐らく聖なる戦士カレタカがカール・ジェームズと戦い、アメリカとの長き戦いが始める前の筈だ!?どうして豚や鶏それにカール・ジェームズの襲撃の際にも作られていない鉄道や線路が描かれているんだ!?」
イーサカはこれを学会に報告せんと、懐からカメラを取り出し、壁画の写真を撮った。イーサカのカメラのフラッシュの音が漆黒の色によって支配されている洞窟の中でピカリと光った。
「こいつを学会に報告すりゃあ今までの常識が覆るかもしれんな……」
イーサカは自身が感じた事に対して思わず冷や汗を垂らす。イーサカはその汗が自身の背中から垂れていくのを全身で感じた。
「そう言えば、オレたちハプロック族は不思議な民族だぜ、どうしておれたちは白人はおろか他の部族すら持っていない指輪を使い、更には指輪から精霊を味方にする事ができるんだ……一体聖なる指輪のルーツは何のだ……」
イーサカはその時に自身が15歳の時に体験した成人の儀式のことを思い出した。彼はその時に『イーサカ』という名前を与えられ、これまでの54年間の人生を敵から自分や仲間を守ってくれた守護精霊を与えられたのだ。その時の長老が話してくれた神話の事を彼は思い出していた。
『よいか、イーサカ……お前は白い兄弟たちの世界で過ごそうとも、おハプロック族の戦士となり、我々の成人だと迎えられたのだ。そこでお前やコチーズ更には他の戦士諸君にもワシらの神話を教えてやろう』
そこから、長老の話が始まった。
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