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外伝:一日外出目録ヨシキ後編
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「これは草」
義喜は自身が欲しかった服が売り切れている事に対し、思わず店の中でそう声を漏らしてしまう。
「困ったなぁ、他に似た様なのないかなぁ~」
義喜が店の中で困惑していた態度をアピールしていたためか、はたまたあからさまにそういった類の言葉を口に出していたからかはわからない。
だが、店員が義喜の元へと駆け寄ったのは事実である。
「でしたら、お客様、こちらのデザインはどうでしょうか?」
店員が勧めたのは黒の上着に縞色のシャツという組み合わせである。
「いいなぁ、オレ、音楽やってんだけど、こういう服を着て、楽器を鳴らしたら、みんな来てくれるかなぁ」
「音楽をやられてるんですね?でしたら、この服を着ればより多くの方がお客様の演奏を聴きに訪れると思いますよ」
「……よし、買おう!新たに服を買って、古い服を処分するのも大事だしな」
「ありがとうございます!」
義喜は店員から勧められた服を購入し、店を出ると、その足で街の酒場へと向かう。
大勢の人が混み合う酒場。だが、義喜はそんな光景を見ても慌てるそぶりは見せない。
彼はあくまでも、冷静な顔を浮かべながら、奥の空いている席の上へと腰を落ち着ける。
それから、義喜はいつも通りに酒場のメニュー表を持ち上げ、今日のメニューを吟味していく。
人差し指をメニュー表の上で滑らせていき、一通りのおつまみと酒のメニューをなぞり終えると、意を決して、メニューを戻し、酒場で給仕をおこなっている若い女性に向かって言った。
「すいません。ぶどう酒二杯にフィッシュアンドチップス。それから、白カルビのサラミにオリーブの盛り合わせでお願いします」
「はい!いつものメニューですね」
義喜はこの酒場の常連である。なにせ、魔王軍の幹部から得られる報奨金は前世における借金の返済分を除いても、高額でちまちま使えば、三年間は余裕をもって生活ができるだけの金を高岩家の金庫の中に納めているのだから。
ただ、高岩一家の場合は浪費が激しいため、その三年間の蓄えも瞬時に消えてしまうのである。
毎回、義喜が家計簿を付けるために青い顔をするのはそのためである。
一重には引きこもりの父と妹のせいであるが、義喜の酒場に入り浸る悪い癖もこれに大きく貢献しているといえるだろう。
だが、義喜はそれで後ろめたさを感じたりはしない。彼にとって大事なのは今を楽しむ事なのである。
義喜は店員の猫の耳を生やしたお姉さんからのお酌のサービスに鼻の下を伸ばし、酒がグラスの中に注ぎ込まれるのと同時にその中身を一気に飲み干す。
「いやぁ、美味いねぇ!ここの酒はやっぱり、世界一かもッ!」
「お褒めに預かり光栄です」
店員の女性は頭を下げて、他の客の給仕をするために戻っていく。
この時、義喜は感慨に耽り、自分がかつては自由に飲み食いできなかった勇者パーティの事を思い返す。
パーティのリーダーは剣を扱う勇者であり、サブリーダーはそれに惚れているという亜人の少女。
そして、他にメンバーが二人。そこに、義喜が加わっていたのだが、自分は役立たずと称されて追放されてしまったのである。
そんな彼らが今の自分の事を見れば、どんな事を思うだろう。
自分を堕落者となじるだろうか。
いいや、昼間から酒を飲んでいる事を羨ましがるに違いない。
そう思った義喜は気分が高まり、もう一度、グラスを酒で満たし、一気にグラスを空にしていく。
そんな時だ。不意に真横から聞き慣れた格好の良い声が聞こえたのは。
「おっ、久しぶりじゃん。義喜」
義喜は自身が欲しかった服が売り切れている事に対し、思わず店の中でそう声を漏らしてしまう。
「困ったなぁ、他に似た様なのないかなぁ~」
義喜が店の中で困惑していた態度をアピールしていたためか、はたまたあからさまにそういった類の言葉を口に出していたからかはわからない。
だが、店員が義喜の元へと駆け寄ったのは事実である。
「でしたら、お客様、こちらのデザインはどうでしょうか?」
店員が勧めたのは黒の上着に縞色のシャツという組み合わせである。
「いいなぁ、オレ、音楽やってんだけど、こういう服を着て、楽器を鳴らしたら、みんな来てくれるかなぁ」
「音楽をやられてるんですね?でしたら、この服を着ればより多くの方がお客様の演奏を聴きに訪れると思いますよ」
「……よし、買おう!新たに服を買って、古い服を処分するのも大事だしな」
「ありがとうございます!」
義喜は店員から勧められた服を購入し、店を出ると、その足で街の酒場へと向かう。
大勢の人が混み合う酒場。だが、義喜はそんな光景を見ても慌てるそぶりは見せない。
彼はあくまでも、冷静な顔を浮かべながら、奥の空いている席の上へと腰を落ち着ける。
それから、義喜はいつも通りに酒場のメニュー表を持ち上げ、今日のメニューを吟味していく。
人差し指をメニュー表の上で滑らせていき、一通りのおつまみと酒のメニューをなぞり終えると、意を決して、メニューを戻し、酒場で給仕をおこなっている若い女性に向かって言った。
「すいません。ぶどう酒二杯にフィッシュアンドチップス。それから、白カルビのサラミにオリーブの盛り合わせでお願いします」
「はい!いつものメニューですね」
義喜はこの酒場の常連である。なにせ、魔王軍の幹部から得られる報奨金は前世における借金の返済分を除いても、高額でちまちま使えば、三年間は余裕をもって生活ができるだけの金を高岩家の金庫の中に納めているのだから。
ただ、高岩一家の場合は浪費が激しいため、その三年間の蓄えも瞬時に消えてしまうのである。
毎回、義喜が家計簿を付けるために青い顔をするのはそのためである。
一重には引きこもりの父と妹のせいであるが、義喜の酒場に入り浸る悪い癖もこれに大きく貢献しているといえるだろう。
だが、義喜はそれで後ろめたさを感じたりはしない。彼にとって大事なのは今を楽しむ事なのである。
義喜は店員の猫の耳を生やしたお姉さんからのお酌のサービスに鼻の下を伸ばし、酒がグラスの中に注ぎ込まれるのと同時にその中身を一気に飲み干す。
「いやぁ、美味いねぇ!ここの酒はやっぱり、世界一かもッ!」
「お褒めに預かり光栄です」
店員の女性は頭を下げて、他の客の給仕をするために戻っていく。
この時、義喜は感慨に耽り、自分がかつては自由に飲み食いできなかった勇者パーティの事を思い返す。
パーティのリーダーは剣を扱う勇者であり、サブリーダーはそれに惚れているという亜人の少女。
そして、他にメンバーが二人。そこに、義喜が加わっていたのだが、自分は役立たずと称されて追放されてしまったのである。
そんな彼らが今の自分の事を見れば、どんな事を思うだろう。
自分を堕落者となじるだろうか。
いいや、昼間から酒を飲んでいる事を羨ましがるに違いない。
そう思った義喜は気分が高まり、もう一度、グラスを酒で満たし、一気にグラスを空にしていく。
そんな時だ。不意に真横から聞き慣れた格好の良い声が聞こえたのは。
「おっ、久しぶりじゃん。義喜」
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