90 / 90
エピローグ:大衆よ、さらば!高岩一家、山奥への逃亡!
しおりを挟む
「で、だ。親父、なんで、あんたらは山の上に住んでるんだ?」
長男、義喜の問い掛けに対し、沈黙を貫く高岩直人。その両手には水の入った木の桶が握られている。
この中に入っているのは風呂用の水である。そう、夜に風呂に入る時に用いる水なのだ。
高岩は所定の位置に水を置いた事を確認すると、義喜を手招きし、新たに作り上げた小屋の中にある自作の椅子に腰を下ろす。
義喜が高岩の向かい側に座ると、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべた妹が父と自分との前にカップに入った紅茶を置いていく。
義喜を除く、高岩一家は現在、山の上で人目を避けるように暮らしている。というのも、この一家は街の人たちに白眼視されているからである。
それは魔王を倒した日の一ヶ月後。魔王城での休息を終えた高岩一家が意気揚々と街へと出かけ、魔王討伐の旨を伝えたのだが、その際に街ゆく人々から罵声を浴びせられたのだ。
どうやら、前の街の悪評や更に盾の人たちを苦しめた事や魔王の城までの道中の悪評が伝わっていたらしい。
それでも、魔王退治の報奨金を要求したのだが、悪評が立っており、結局のところ、大金を手にするまでに数週間という長い時間を要さなければならなかった。
この長い時間、高岩たち一行は魔王の死後に野良と化した魔物たちを狩り、そこから得られる報奨金で過ごしていたのだ。
宿代を選出し、必死の思いで大金を国から手に入れるものの、高岩は完全に働く気を失せたらしい。
おまけに大金は前世での借金での返済分を差し引いて渡されるので、目が眩むような大金という額ではなかった事もカネの心を持つ男の心象を悪くしたに違いない。
ブスッとした表情を浮かべたまま、金を受け取った高岩は暫く俯いた後に、顔を上げて、振り返り、背後に控えていた二人の子供に向かって問い掛けた。
「なぁ、お父さん……この余った金を使って、アレがくるまで、山奥に引っ込もうと思うんだけど」
その提案に二人の子供は意表を突かれて、当初は目を飛び出さんばかりに驚いていたが、菜穂子は頬を赤く染め上げながら「お父さんが居るなら、どこでも」と高岩へついて行く決心を表明する。
義喜は納得がいかなかったらしく、週に二度だけ山奥での仕事を手伝う事を条件に、別の街へと移動した。
半ば夜逃げのような形で山へと引っ込んだ高岩一家であったが、『住めば都』という言葉があるように、父と妹は帰る度に義喜を山菜を始めとする山の幸でもてなしてくれた。
義喜はいつも通りに滞在を終え、帰る日になり、高岩に向かって緊張を含んだ小さな声で言った。
「そういえば、親父……そろそろ『波』がくるぞ」
「な、なんだって!?」
高岩が声を上げる。
『波』というのは魔王の討伐後に神が提示した新たな脅威である。
どうも、異次元と異次元とが繋がり、その世界の勇者同士がぶつかり合う事があるらしい。
例年通りならば、槍と盾で対処できるのだが、高岩が盾の人を入院させたために、対処ができないのだという。
それで、チート能力を与えた高岩に白羽の槍が立ったのである。
魔王を倒した後の神からの言葉を要約すれば『『波』が落ち着くまでは戦え!戦えなかったら、地獄行き』という事なのである。
「まったく、そんな事は神がなんとかしろよ。こっちは無関係なんだが」
菜穂子はボヤきながらも、部屋に戻り、かつての剣腰に下げて戻ると、兄の元へと向かっていく。
「菜穂子の準備もできたし、そろそろ、オレも行こうか」
高岩は椅子の上から立ち上がり、義喜と共に家の外。つまり、『波』が起きる筈の場所へと向かっていく。
恐らく、槍の王子の一行も異界からの侵略者を待ち伏せるために勢揃いしているだろう。
それに『波』からはどんな相手が出てくるのかはわからない。
それでも、高岩一家はいくのだ。自身の地獄行きを免れるために。
彼ら一家は果たして、『波』の脅威に上手く対処し、地獄行きを免れるのだろうか。
だが、大丈夫だろう。なにせ、高岩一家には何がなんでも生き残ろうとするカネの心があるのだから。
あとがき
最終話にも関わらず、この前の話の公開予定日が明日にズレていました。申し訳ありません!
2022/5/14追記
最初の矛盾箇所を直しました。大変申し訳ありませんでした!
長男、義喜の問い掛けに対し、沈黙を貫く高岩直人。その両手には水の入った木の桶が握られている。
この中に入っているのは風呂用の水である。そう、夜に風呂に入る時に用いる水なのだ。
高岩は所定の位置に水を置いた事を確認すると、義喜を手招きし、新たに作り上げた小屋の中にある自作の椅子に腰を下ろす。
義喜が高岩の向かい側に座ると、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべた妹が父と自分との前にカップに入った紅茶を置いていく。
義喜を除く、高岩一家は現在、山の上で人目を避けるように暮らしている。というのも、この一家は街の人たちに白眼視されているからである。
それは魔王を倒した日の一ヶ月後。魔王城での休息を終えた高岩一家が意気揚々と街へと出かけ、魔王討伐の旨を伝えたのだが、その際に街ゆく人々から罵声を浴びせられたのだ。
どうやら、前の街の悪評や更に盾の人たちを苦しめた事や魔王の城までの道中の悪評が伝わっていたらしい。
それでも、魔王退治の報奨金を要求したのだが、悪評が立っており、結局のところ、大金を手にするまでに数週間という長い時間を要さなければならなかった。
この長い時間、高岩たち一行は魔王の死後に野良と化した魔物たちを狩り、そこから得られる報奨金で過ごしていたのだ。
宿代を選出し、必死の思いで大金を国から手に入れるものの、高岩は完全に働く気を失せたらしい。
おまけに大金は前世での借金での返済分を差し引いて渡されるので、目が眩むような大金という額ではなかった事もカネの心を持つ男の心象を悪くしたに違いない。
ブスッとした表情を浮かべたまま、金を受け取った高岩は暫く俯いた後に、顔を上げて、振り返り、背後に控えていた二人の子供に向かって問い掛けた。
「なぁ、お父さん……この余った金を使って、アレがくるまで、山奥に引っ込もうと思うんだけど」
その提案に二人の子供は意表を突かれて、当初は目を飛び出さんばかりに驚いていたが、菜穂子は頬を赤く染め上げながら「お父さんが居るなら、どこでも」と高岩へついて行く決心を表明する。
義喜は納得がいかなかったらしく、週に二度だけ山奥での仕事を手伝う事を条件に、別の街へと移動した。
半ば夜逃げのような形で山へと引っ込んだ高岩一家であったが、『住めば都』という言葉があるように、父と妹は帰る度に義喜を山菜を始めとする山の幸でもてなしてくれた。
義喜はいつも通りに滞在を終え、帰る日になり、高岩に向かって緊張を含んだ小さな声で言った。
「そういえば、親父……そろそろ『波』がくるぞ」
「な、なんだって!?」
高岩が声を上げる。
『波』というのは魔王の討伐後に神が提示した新たな脅威である。
どうも、異次元と異次元とが繋がり、その世界の勇者同士がぶつかり合う事があるらしい。
例年通りならば、槍と盾で対処できるのだが、高岩が盾の人を入院させたために、対処ができないのだという。
それで、チート能力を与えた高岩に白羽の槍が立ったのである。
魔王を倒した後の神からの言葉を要約すれば『『波』が落ち着くまでは戦え!戦えなかったら、地獄行き』という事なのである。
「まったく、そんな事は神がなんとかしろよ。こっちは無関係なんだが」
菜穂子はボヤきながらも、部屋に戻り、かつての剣腰に下げて戻ると、兄の元へと向かっていく。
「菜穂子の準備もできたし、そろそろ、オレも行こうか」
高岩は椅子の上から立ち上がり、義喜と共に家の外。つまり、『波』が起きる筈の場所へと向かっていく。
恐らく、槍の王子の一行も異界からの侵略者を待ち伏せるために勢揃いしているだろう。
それに『波』からはどんな相手が出てくるのかはわからない。
それでも、高岩一家はいくのだ。自身の地獄行きを免れるために。
彼ら一家は果たして、『波』の脅威に上手く対処し、地獄行きを免れるのだろうか。
だが、大丈夫だろう。なにせ、高岩一家には何がなんでも生き残ろうとするカネの心があるのだから。
あとがき
最終話にも関わらず、この前の話の公開予定日が明日にズレていました。申し訳ありません!
2022/5/14追記
最初の矛盾箇所を直しました。大変申し訳ありませんでした!
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる