魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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第一部 『白籠町のアンタッチャブル (決して触れられないもの達)』

第一話 連邦局からの使者

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魔法という概念が、一般的に使われるようになって何年が経過したのだろうか。
まず、魔法という概念が発見されたのは、西暦2199年の十二月一日の事だった。たまたま、古よりの魔術の本を解読していたヤン・ウィルソンが、ふと本に書いてある本に載っている魔法をつぶやいてみたところ、何と目の前の自分の机が燃え始めのだ。
慌てて火を消すうちにウィルソンは近くに載っていた火消しの魔法を唱えると、その炎は消化器を吹きかけられた時のように消したんだのだ。
ウィルソンはすぐに魔法の事を学会に発表し、魔法は現実のものだという事を発表したのだった。
ただに魔法の解読が進められ、様々な魔法を人は体に秘めている事が発見された。
その後の論文では、人は誰しも必ず空を飛ぶ魔法は使え、あとはその人個人の魔法を使えるのだと。
だが、稀に三つも四つも使える特異な魔法を使える人も出るらしい。
魔法を人の体から取り出す魔法検出器マジック・ディセイターが開発され、その後は誰しも魔法を使えるようになった。
だが、いつの世にも悪人は出る。例え法律が完全に施行された後でも……。

2329年のある日白籠市の一施設で一人の美形の実業家がインタビューを受けていた。
「刈谷さん !あなたはタバコの密造に深く関わっているとの噂ですが、本当ですか?」
記者の質問は一種の踏み込んではいけないラインだという事はこの市の住人ならば、誰しもが知っている事である。
だが、記者はこの市の住人ではない、普段はビッグ・トーキョーの中心地であるニューシブヤで活動している記者だ。そんなルールは知る由もない。それを見越してか、刈谷と呼ばれた男も陽気に答える。
「そんな事はないぜ、それはオレを陥れるためにビッグ・トーキョーの連邦捜査局の奴らが吐いたデタラメさ、酷い話だ !」
刈谷と呼ばれた男は顔を強張らせながら言った。
刈谷は美しい人物であった。アーモンド型のダークの瞳は見る人を引き付けたし、その細長い鼻は古代の浮世絵の美人を思い出させるような美しい鼻であったし、唇は朝露を浴びたバラのようにみずみずしく、しなやかに伸びた身体は細長く力強い鹿を思い出させた。
「では、あなたは白籠市の犯罪には一切関わってはいないと?」
記者の質問に美しい男は首を縦に振った。
「ありがとうございます。それでは次の質問なのですが……」
と、記者のマイクがここで遮られる。
「申し訳ありませんが、会見はここまでとさせていただきますわ」
と、会見を止めたのは刈谷の秘書であり、組の参謀役でもある久方彩香であった。
彩香は美しい女性で、背が高くモデルのような人物であった。
「そんな、もう少し話をさせてくださいよ !」
記者は抗議の声を上げたが、まるで獲物を睨みつける猫のように睨む彩香に記者はたじろぐばかりであった。
「よし、行くぜ……彩香。お前は後ろの車に乗りな、オレはどうも浮遊車スカイアップ・カーというのは好きになれん、オレは地面に足がついた地上車ラウンドカーの方が好きだ」
刈谷の声に彩香はペコリと頭を下げる。
「分かりましたわ、何かあれば、通信回線で連絡を取るという事で……」
刈谷は「そうだ」と素っ気なく言った。


連邦捜査局の捜査官折原絵里子はそのテレビの様子を酒場で呑んだくれながら、眺めていた。彼女はつい数時間前までに刈谷を捕縛する予定だった。いや、その捕縛できただろう。現に彼が密造タバコを作っている現場に突入した時に情報を売った裏切り者さえいなければ……。
「ハァ~何で賄賂なんか受け取るのよぉ~!」
絵里子は酒場だということも忘れ、その場で情報を刈谷組に流した警察官を恨んだ。
「お客さん……生きていれば、ミスもありますよ、お客さんの場合はたまたまデカかっただけで……」
その店主の慰めの言葉がますます絵里子を絶望の淵へと追い立てた。絵里子は酒場のジョッキを安物の木製のテーブルに叩きつける。
「あんたに何が分かんのよぉ~!あんな大失態を晒して、やすやすと本部に戻れると思うのォォォォ~~!!」
絵里子の顔にはかわいそうに涙が混じっていた。余程悔しかったのだろう。店主は放って置くことにした。
店主は空になったジョッキを全自動水洗機にかけながら、考えた。
事の発端は今日の朝だった。彼女ー折原絵里子はビッグ・トーキョーの連邦捜査局から、連邦捜査官として派遣され、刈谷阿里耶及び、刈谷組の一斉壊滅に執念を燃やしていた。
そのために彼女は彼が違法にタバコを製造していると言われる機関に殴り込みをかけたのだ。
だが、結果は見るも無残なものだった。タバコだと思われたのは全部ココアシガレットなるお菓子だったのだ。
しかも、その様子を新聞に撮られーー
彼女は両親や友達に会わせる顔がなかった。
「あ~もう、だから言っているでしょ?あたしは悪くないんだってッ!」
絵里子の怒りは収まりそうにない。
「ねぇ、ちょっと聞いてるの !」
店主はこちらに飛び火した事に驚いた。
「ええ、勿論……」
店主としては口ではなければ、美人の話を聞くのは大歓迎なのだが……。
折原絵里子は刈谷には及ばないとしても、充分にモデルや俳優としてやっていける程の美しい顔と連邦捜査官という職業柄引き締まった体を有していた。彼女が今着ている女性用の黒いスカートスーツはとても似合っており、新聞でその姿を見た時に新聞社に連邦捜査局の失態をあざ笑う電子メールよりも、彼女に一目会わせろという電子メールが殺到した程であるが……。
現在の彼女は酔いつぶれている。しかも涙を流しているとあっては、男の庇護欲を掻き立てずにはいられない。
「成る程、成る程、あなたは何としても刈谷を逮捕したいと……」
「そうよ !でも白籠市警察には腐敗した警官が多くて……」
「ならば、地域の名物お巡りさん……彼を訪ねてみればいいと思うよ」
店主の言葉に絵里子は目を輝かせる。
「地域の名物お巡りさん……誰なの?」
絵里子の問いに店主は黙って店の監視モニターに映っている一人の若い警官を指差す。
「もしかして……」
絵里子はその警官に見覚えがあった。
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