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マスコミ・ウォーズ編

フェイク・アイドル作戦ーその⑥

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鬼島はそんな孝太郎に動揺する素振りも見せずに、大げさに両手を広げて笑いを交えた大声で言った。
「フフフ、お前何か勘違いをしているんじゃあないのか?お前はたった一人でこの女どもを守りながら、戦うつもりなのか?ローンレンジャーにでもなったつもりかい、お前は?」
「いいや、ローンレンジャーじゃあない、エリオット・ネスだな、今のオレの気分は、お前のような凶悪犯を相手に対峙するアンタッチャブルのリーダーだよ」
「へへへ、なら、エリオット・ネスさん、あんたはこのピンチをどう切り抜けるのよ、正面にはオレという強力な魔法師がいるんだし、周囲には機関銃を構えたヤクザたちが、所狭しと並んでいるんだ、お前が勝てる勝算は……」
しばらくの沈黙の後に鬼島は指をパチンと鳴らしてから、「ゼロだ」と悪魔のような不気味な微笑で孝太郎に迫る。
「そうかよ、お前はどうやら、オレが潜入している事は予測していたらしいが、この事は予想外だったらしいなッ!」
孝太郎はその予想外の出来事とやらを証明してみせるためか、「聡子! 明美! 」と大きな声で仲間を呼ぶ。
その言葉に反応し、女性たちの中から、多少小柄な三角ビキニの青髪の子と、黒髪の丸眼鏡をかけている地味そうな緑色のワンピース型の水着を身に付けている女の子がヤクザたちの足に発砲していく。
派手なネクタイ無しのスーツを着た柄の悪そうな男たちは次々と倒れていく。
「やれやれだな、こんなもんかな、あたしの相手は?」
ヤクザたちがその場にうずくまっている間に聡子は持っていたスコーピオン軽機関銃を西部劇のガンマンのように、グルリと回しながら呟く。
「そうみたいね、あとはプロデューサーの鬼島だけよ」
だが、鬼島は笑っていた。しかも、大きく……。
「フフフ、ハハハハ~!!! 」
その鬼島の様子に全員が黙って、鬼島の次の言葉を待つ。鬼島はそれを悟ったのか、フゥと小さなため息を吐いてから、怒りを押し殺すような声で言った。
「オレを本気で逮捕できると思っているのか?おめでたい警官どもだぜ、言っておくけど、オレは自分の性格をよーく分かっているんだ……オレが色々な芸能人に嫌われている事もな……その中にはオレを殺そうとしてくる奴だっていたんだぜ、だけれど、オレは生きている……それは何故か?答えは簡単ッ!オレの魔法が強力過ぎるからだよォォォォォォ~~!!! 」
鬼島はその自身の強さを誇示するかのように、自身の右腕から無数の紙を出す。孝太郎はただの紙じゃないかと、侮っていたのだが……。
「油断するなよ、白籠市のアンタッチャブルのリーダーさんよぉ~」
その一言ともに、空中に舞った無数の紙の一枚が、ハヤブサのような速さで、孝太郎の頰に迫り、そして、孝太郎の頰を切ったのだ。そして、その傷跡はまるで、ナイフで切られたかのように、ザックリと切られていたのだ。
「これがオレの実力や! 今頃、浜辺にいるお前らの仲間は別の仲間に始末されている頃だろうな」
と、鬼島はいやらしく笑う。
(やれやれだな、オレが傷付くのは全然構わないが、女性たちが傷付いちまうのだけは避けたい……)
孝太郎がそう考えていると、鬼島がそれを察したのかのように、宙に上がった紙のうちの何枚かを聡子や明美ではない女性に向かって放つ。
孝太郎はそれを見るなり、急いで女性たちの方に向かい、襲おうとしていた紙のうちの二枚を破壊した。
だが、一枚だけは間に合いそうにない。やむを得ずに孝太郎はある選択肢を取った。
「すっ、すいません)
孝太郎は女性を抱きかかえ、地面に紙が迫る前に地面に伏せる事で難を逃れた。
紙が何もない地面の上に突き刺さったのを確認してから、孝太郎は謝罪のために頭を下げる。それから、再び紙を放った卑劣間に向き直る。
「お前は本当にロクデナシだな?」
「何と言われようとも結構さ、お前はあの刈谷阿里耶を逮捕した実力者だしな、こんな手でも使わないと、勝てないんだよ」
「高評価してもらうのは、嬉しいけど、こんな卑怯な手を使うのは感心しないな」
「フン、どうだかね、いずれにしろ、お前はこの紙のせいで、自由に動けない……そうだろ?銃を使おうとしても、オレが撃たれる前に紙の一枚をオレが振り下ろさせて、誰かを道連れにするなんて考えはお前らにも予想済みなんだろ?だから、そのお嬢さんたち二人はオレを撃たないんだ、違うかい?」
孝太郎は思わず「正解」と言ってしまいなくなる程正確な答えを導き出した鬼島に思わず拍手をしてやりたい気分になってしまう。何故、彼は銃を撃たない事を察知したのだろうか。他にも理由はありそうなのに。孝太郎には謎だった。
「フフ、その顔だと図星らしいな、若いアンタッチャブルのリーダーさん」
「だとしたら、どうする?」
「だよなー! オレが有利だという状況は一向に変わらんからね! お前を助ける味方でも現れん限りなッ!」
鬼島がトドメとばかりに、孝太郎に紙を振り下ろそうとした時だった。突然、自分の足に刀で斬られたような傷ができ、その場にうずくまる。
「なっ、何がどうなっていやがるゥゥゥ~~!! 」
と、鬼島が斬られた右脚を抑えていると、鬼島にとっては馴染みのある男がワザと足音を立てながら歩いてくる。
「浜辺のヤクザどもが予想外に早く片付いたもんでね、お陰でずっと早くこっちの方に来れたからな」
淳一は勝者の笑みと言うような笑みを浮かべながら、鬼島の元へとやって来る。
「さてと、オレの友人を随分と苦しめてくれたようじゃん、このお礼はタップリとさせてもらうぜ」
淳一はそのまま無言で、右腕から魔法の刃を放っち、鬼島の右腕を斬る。ただし、ちゃんと腕が着くように浅く。
鬼島は苦痛に悶えていたが、左腕で淳一を狙うとする。
だが、淳一はそれを発見すると、即座に魔法で左腕を先ほどと同じ加減で斬り刻む。
もはや、鬼島に抵抗する気力は殆どない。その場で苦痛に泣き叫んでいるだけだ。空中に無限に浮かんでいたと思われる紙もいつの間にか消えて無くなっている。
そして、淳一は鬼島に近づき、手錠をかけた。
「これで一件落着ってところかな?」
淳一は何気なさそうに言ったが、女性たちからはまるでヒーローを見るようなキラキラと光る目で見られている。
「すっげぇ! マジでカッコいい! 」
「あっ、あたしと握手してよー」
そんな言葉が口々に聞こえてくる。淳一は「市民の安全を守るのは、警察官の義務ですから」なんて言いながらも、握手などに応じている。孝太郎は呆れながらも、助けに来てくれた淳一に感謝していた。



淳一が帰ってから、孝太郎が浜辺へと戻ろうとすると。
「あの、先程はありがとうございます! 」
と、孝太郎に頭を下げるのは、先ほど孝太郎に助けてもらった赤色のワンピース型の水着の女性であった。孝太郎は先ほどは顔をあまりよく見なかったので、普通の顔だと思っていたが、よく見れば今咲いたばかりの花のように美しい顔の女性であった。それに、先ほど淳一が呼んだ応援の警官が来た時に、女性は殆ど帰ったと思っていたので、孝太郎はまだ残っていた事に驚きつつも、平静を装い、微笑を浮かべながら言った。
「いえ、オレは警察官として当然のことをしたまでですよ」
孝太郎がそう言って、帰ろうとすると。
「待って! あの、あたしは普段はイタリアン料理のお店に勤めているんですけれど、その店とっても美味しいんです! 今度食べに来てくれませんか?勿論、一人で……」
孝太郎はその女性の思いに一応気づいたが、ここは敢えて指摘せずに、ええと微笑み、女性に一緒に帰るように諭してから、その場から去って行く。
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