魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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聖杯争奪戦編

名古屋城の戦い前夜

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昌原道明は村西秀夫にああは言ったものの、やはりもっと多くの聖杯の欠けらを手に入れておきたかった。教祖のために特別にリムジンの中に用意されたソファーに座りながら、名古屋はどうしようかと考えていた時だ。
「どうされましたか?会長?」
と、赤川に顔を覗き込まれていた。昌原は平静を取り繕ってから、聖杯の欠けらの旨を告げる。
「成る程、昌原会長は名古屋の聖杯の欠けらも欲しいと?」
「その通りだよ、私としては名古屋で聖杯の欠けらを手に入れる事は宇宙の究明に一歩近づくと思うからね」
そこから、昌原は息を大きく吸い込んで、呼吸を整えてから、隣の席に座っていた赤川に理由を話す。
「私はね、昨日にイエス様からお告げがあったんだよ、横取りもいいが、聖杯の欠けらはなるべく多く持っておくべきだとね」
「分かりました。私が行きましょうか?」
「いいや、今回は名古屋の支部長の鈴谷春彦に任せるとするか」
「分かりました。鈴谷さんには私の方から連絡を入れておきますね」
赤川は懐から携帯端末を開き、鈴谷に連絡を入れる。昌原としてはいささか隣がうるさくなってしまうが、聖杯の欠けらを手に入れられる可能性が上がるのならば、儲けものだ。
そんな事を考えているうちに連絡を入れ終えたらしい、赤川が携帯端末を切るのが見えた。
「お待たせしました。どうやら、名古屋城に向かうらしいですよ、明後日の朝には精鋭を集めて、向かうと思われます」
「そうか、石川に爆弾作りは捗っているか、聞いてくれ」
続けての昌原の指示にも赤川は嫌な顔一つせずに、再び携帯端末の通話アプリを開く。
再び、車内に通話の声が聞こえる。
だが、今度は先ほどのボソボソとしたいかにも陰キャラというような声ではなく、の石川の可愛らしい声だ(赤川の子供向け番組のお兄さんのような爽やかな声も混じってはいるが)
昌原はそれだけを聞くと、満足そうな顔を浮かべた。その顔はまさにすけべ親父そのものであった。
と、石川との連絡が終わったらしい、赤川がこちらを向いてくる。
「まだ……だそうですね。会長の計画に間に合うように催促しているのですが……」
赤川の懇願するような目を向けられると、昌原としても困ってしまう。
「そうだな、だが、中村孝太郎の奴やロシアのテロリストより早くに爆弾が製造できれば、我々にもチャンスはある……」
と、残念そうな顔をした教祖の機嫌を取るためか、赤川は気まずそうな笑いを浮かべながら、ある事を告げる。
「そうだ、会長覚えていますか?川岸清志を……?」
「ああ、ロシア支部長を任せている川岸がどうかしたのか?」
「川岸さんがですね。近いうちにこちらの方に戻ってくる可能性が高いんですよ」
「本当かッ!」
「ええ、もしかしたら、川岸がロシアの小型性の時限式爆弾を持ってくるかもしれません! 川岸さんがロシアに行く時に会長が頼んでいた筈ですから……」
「よし、それでいいぞッ!だが、爆弾製造班にもそのまま製造を続けるように言ってくれ! 」
「どうしてですか?」
ここで、初めて赤川が怪訝そうな顔を見せる。
「私としてはね……『もしも』の可能性を考えているんだよ」
「『もしも』ですか?」
昌原は首を縦に振る。
「ああ、イエス様は夜な夜な私に全ての『もしも』を考えなさいと仰られている。もしも、今回爆弾が途中で警察に見つかったら?もしも、石川の作る爆弾が川岸の持ってくる爆弾よりも早くにできたら?あるいはどちらかの爆弾に不備があれば……どうだ?」
赤川は昌原の言葉がすごく説法じみて聞こえた。まさか、こんな話でもそれを教えにしてしまうなんて……。赤川はただただ感服するばかりだ。
「仰る通りです! そのままでよろしいと思われます! 」
赤川は深く頭を下げながら言った。
「よろしい、この後は名古屋の方で討論番組に出演する予定だからね、キミも私の弟子として付いて来なさい」
赤川は決意した。何があっても、自分は昌原道明会長の顧問弁護士であり続けようと。討論番組で昌原会長が周りからいじめられたと思われたら(昌原は妄想癖が激しく、以前に別の討論番組に出た時に、こっそりと自分に耳打ちで、『自分は周りの人たちから、メチャクチャいじめられているんだ』と哀願するように言ってきたのだ。この時から、赤川には絶対的な会長に従うという忠誠心の他にも、絶対に守ってあげなければならないという父性愛が芽生えたのだ)自分の持てる力の全てを出し切って、全力で相手をねじ伏せよう。
赤川はリムジンの中で拳を握り締めた。



名古屋に着くや否や、昌原道明を待ち構えていたのは、報道陣の詰問であった。
「昌原会長! 昨日の小田原城での井川森繁氏の暴動事件は教団が黒幕だと噂されおりますが、その件はどうお考えでしょうか!?」
昌原は女性リポーターの声を無視して、名古屋道場に向かおうとするが、女性リポーターはしつこく食い下がる。
「昌原さん! 世間一般ではあなたを世界審判教のライター・ヘンプと同類の人物だと見ているのですが、その点はどうお考えなのですか!?」
と、ここに来て、赤川友信の怒りが爆発したようだ。頰をプルプルと震わせながら、女性リポーターを怒鳴りつける。
「あなた方ジャーナリズムのやり方は卑劣を極めているッ!我々を過去のカルト教団と同等に扱い、信教の自由を侵害しようとしているッ!貴様らも竹部政権と同類だッ!我々教団は国家やあなた方の弾圧には負けずに、布教活動を勧めることを宣言致しますッ!」
赤川は伝え終わって満足したのか、フゥと小さな溜息を吐いてから、昌原を守るかのようにメディア陣の前に立つ。
そのせいか、報道陣はこれ以上昌原に何かを尋ねることは不可能であった。
だが、報道陣は諦めた様子はない。未だに名古屋道場の前で昌原が現れるのを今か今かと待ち構えている。
昌原は道場長が剥いてくれたリンゴを食べながら、窓の外に待機している報道陣を忌々しそうに見下す。
「アイツらは何とかならんのか?」
だが、赤川は頭を下げるばかりだ。赤川は弁護士で尚且つ、教団一の魔法師であったのだが、この状況では弁論でも魔法の力でも報道陣を帰すのは不可能らしい。
昌原は「もういいよ」と吐き捨てるように言うと、赤川に部屋を出るように指示を出す。赤川はそれをローマ帝国の皇帝から指示を受けるローマ兵のように恭しく頭を下げてから、昌原の部屋を跡にする。
「さてと、問題は奴らを宇宙に返す事は不可能だと言う事だ……奴らを宇宙に返せば、我々の方に警察の目がいくだろうしな……」
昌原は肩の力を抜いてから、何もかも諦めたように天井を見上げている。
「強制捜査の時も近いしな、着いて早速で悪いが、聖杯の欠けらを探して来てもらえんか?」
昌原の言葉に道場長は頭を下げて、武器を整えてから、名古屋城へと向かうようだ。地下の武器庫へと向かう。
武器保存ワーペン・セーブとは便利な魔法だがね、私が思うにいちいち保存しなければならんのが、面倒でならない……何とかして効率化する方法はないのだろうか?」
昌原はこの簡単な魔法に感謝しつつも、欠点を指摘していた。
事実、魔法で武器を作れるのならば、どれだけ便利だろうかと殆どの人々は考えていたのだから、昌原の言う事は世間一般の人々の意見を代弁したとも言えよう。
「個人的には銃やナイフ以外にも爆弾や毒ガスも精製できればいいのだがな」
昌原はそれを自分が使う事を考えると、その時ばかりは何もかも忘れて、愉快な気分になれた。


すいません! 明日から、2月の27日まで休ませていただきます! 多忙を極めておりまして……。申し訳ありません! 
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