魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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ロスト・ヘブン編

天使ら大天使らと共にーその③

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「何か、御用でしょうか?」
デビィットは本心を悟られまいと、あくまでも優しく慈悲深い「牧師」という顔を保ち、大慌てで、両手を背後に引っ込める。
「あなたに逮捕状が出ました。例の事件ですよ、現在日織亜市を賑わせている、例の……」
絵里子の笑いは悪意に満ちていた。少なくとも、夏美はそう思った。彼女の笑顔は悪党を追い詰めて心底楽しくてしょうがないという笑み。根性の曲がった女。
だが、そこが気に入った。やはり、悪党は徹底的に追い詰めなければ。
夏美は絵里子と同様の人の悪い笑みを牧師に向ける事にした。牧師は二人の恐ろしい表情に恐れおののいている様に思われる。
牧師は逃げようとしているのだろうか、先程まで、背後に添えていた筈の左手で顔を防ぎ、右手は背中に添えて、牽制するかのようにたまに左手を振り回す。
「あなたは追い詰められたわ、もう逃げられないのよ、大人しくお縄に付いた方が身のためよ! 」
ホラウェイ牧師は絵里子の言葉を聞き、観念したのだろうか。背後に添えた右手を差し出そうと、準備しているのか、何やら忙しなさそうに右手を動かしているのが、確認できた(何故、右手を動かしているのかまでは分からないが)
絵里子はその動きを降参のサインと判断したのだろう。
優しく諭すように、
「もう、抵抗はしないで、抵抗しないのなら、これ以上は……」
だが、絵里子は最後まで言う事が出来ない。何故なら、ホラウェイ牧師によって、彼女の運命が握られてしまったのだから。
「こいつを隠し持っていて良かったよ、キミのような小物に逮捕されるところだった……危ない、危ない」
ホラウェイ牧師はこの僅かの間に流れたであろう額に出来た小さな液体を拭う。
液体は完全に冷たくはなっていなかったが、少しばかりは冷えてしまったと言う温度だろうか。例えるなら、少しの間置きっ放しにし、猫舌にも美味さを味わえるような温度のコーヒー。紅茶になるのだろうか。
いずれにせよ、ホラウェイ牧師にとって、この場を自分が主導できるようになったのは有り難い事だろう。
現にあの女は、自分を逮捕しようとした生意気な女は、身を震わせているのだから。
ここにシャンパンがあるのなら、一気に飲み干し、勝利の美酒を味わいたい。ホラウェイ牧師の心境はこの一点であった。
自分を逮捕しようとした、目の前のアパッチの女は怖がっているのだろう。生唾を飲み込む仕草を目の前で確認できた。
大方、拳銃というのを見るのも初めてかもしれないなと牧師は思った。
だが、遊んでもいられない。ホラウェイ牧師はオート拳銃の安全装置を外して、いつでも撃てるような状況にして、更に女を怯えさせる。
「突きつけられるのが、怖いかね?私は怖くないよ、仮に聖職者としての役割を果たし終える事になってもだな……私には天の御加護が付いているんだッ!我らが救世主イエス・キリストがッ!イエス様が私を見守ってくださるッ!だから、お前たちなんぞに負けるはずなんてないッ!」
ホラウェイ牧師の目は据わっていた。絵里子を脅す牧師の目の表現を表すには、これ以上の表現はないだろうと、夏美は考えた。
「さてと、キミの名前はなんだっけな?まぁ、そんな事はいい……重要なのはキミが今から天罰を受けるという事なんだ……」
すると、突然目の前の女が大きな声で笑い出す。教会どころか、この通りを歩く人にも聞こえるかもしれないくらいの大声で。
「あなた、何か勘違いをしているんじゃあなくて?罰を受けるのはあなたでしょ?勝手に神の名前を語って、あまつさえ自ら罪を犯して、その罪を隠そうとするなんて、あなたは聖職者……いえ、人間失格よ! 」
ホラウェイ牧師はその言葉を聞いても、微笑むのをやめない。
いや、むしろ微笑が大笑いに変わるのも時間の問題ではないかと思うくらいのニヤケ面で、
「私が?言っておくがね、豊臣秀吉や徳川家康が日本のキリスト教徒にやった事に比べたら、私がやっている事なんて可愛いものさッ!二十六人聖人の殉教を知った時には、私は胸が張り裂けそうだった。あの二人はネロ皇帝……いや、それ以下だッ!キミらも分かっただろう?私の罪はネロや豊臣徳川の両名に比べれば、微々たるものだと……」
「お角違いよ、仮にね、あなたのご先祖が何か大罪を犯したからっと言って、子孫がそれで将来何か不利益を被る事もないし、今のあなたの犯罪が無実になる事もないの……、が自由三つ葉葵党で、要職に就いているようにねッ!」
絵里子の言葉に三人は思わず、絵里子の顔を眺めてしまう。
当たり前だろう。名字がそのままだった滝川や丹羽とは違い、江戸時代なら死刑になってもおかしくはない豊臣秀吉の直系だ。
名字を変えつつも、これまでに存続してきた家に敬意を払いつつも、絵里子は自分の本来の目的を思い出し、ホラウェイ牧師を睨みつける。
「フン、だからと言っても、私を捕まえてもいい理由にはならんだろう?不当逮捕だと……」
「残念ね、被害者の爪の間からあなたのDNAが検出されたわ! もうあなたの悪事はここまでのようよ! 」
ホラウェイ牧師はそこまで、決定的な証拠があるのなら、逃げられないだろうと大人しく腹を括ろうかと考えたが。
(今、私が捕まれば、約束はどうなる?それに先ほど頼んだ、宇宙究明学会の援軍も来ていないぞ! そいつに賭けてみてもいいかもしれん)
ホラウェイ牧師は指輪をめぐる旅に出た二人の人の良いホビットを騙すガラムという人型の怪物のような意地悪い笑顔を浮かべる。
「分かったよ、私の負けだ。大人しく手錠を掛けてくれよ」
ホラウェイ牧師は観念したかのように肩を落として言ったが、目の前の女はそれを信用していないようで、
「先に銃を地面に落としてからよ、さもないと逮捕できないわ、あなたが逮捕する可能性すらあるんだもの」
絵里子の言葉は連邦捜査官として最適なものだ。ホラウェイ牧師はやむを得ないという表情を浮かべて、銃を地面に落とした……。かのように思われたのだが、次の瞬間には再び絵里子に向かって銃を構えている。
絵里子はホラウェイ牧師が引き金を引くよりも前に、細いフラミンゴのような脚で銃を握っていた左手を蹴り上げる。
ホラウェイ牧師は思わずに手に持っていた銃を落としてしまう。
「くっ、私を何があっても、逮捕するつもりなのか!?」
「そうよ、あなたを逮捕し、この事件の真相を導く……それが、私の任務なの」
ホラウェイ牧師はこの場で例え、教会に蓄えてある金庫の中身を全て差し出しても、自分の逮捕は見送られないだろうと確信した。女の自分を見る目がそうはさせないと告げていたから。
ホラウェイ牧師は第二の手段を決行する事にした。自分があまり好ましいと思わぬ第二の荒っぽい方法を。
決意した瞬間には既にもう体の方が先に動いていた。すぐに教会の扉を開き、中に駆け込む。そこで、右腕を差し出し、四人が入ってくるのを待ち構える。
「終わりよッ!あなたは既に殺人罪の容疑で告訴されています! これ以上抵抗するのなら、殺害も……」
「殺害も辞さないと言いたいのかな?あいにくだがね、キミなんぞに殺されるほど私は間抜けではないぞ! 」
デビィット・ホラウェイ牧師は自分の魔法を使う事にしたらしい。早くも勝利を確信したような余裕を含めた微笑を顔に浮かべている。
その顔が絵里子には不快だった。
「なら、見せてやるかッ!私の魔法! 神は知っているゴッドノウズ!! 」
その瞬間に教会中が緑色の光に包み込まれた。
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