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タクシーキラー編
ビッグ・トーキョーの怪事件
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「いや~今日もすっかり遅くなっちまったな、運転手さん飛ばしてくれよ! 」
人の良さそうな青年は殆どの人が想定するような穏やかな声で、運転手に指示を出す。
「はい、お客さん」
運転手もそれが気に入ったのか、愛想の良い声で答える。
そうして、しばらく話し込むうちにいつの間にか東京の外れにまで来ていたらしい。
それに気が付いたのか、青年も運転手に来た道を戻るように指示する。
「分かりました、来た道を戻ればいいんですね……」
と、言って運転手が青年に合図を求めた時だ。
急に自分の掌に赤い液体が滴り落ちている事に気が付く。
そして、もう一度青年を見つめると……。
「フフフフ、行き場所はここで合っているよ、おれのアトリエはこの近くだからな」
男は冷徹な声で言い放つ。
「お前さんはおれの大切な作品になってもらうんだからな」
運転手はその言葉を聞くなり、それまで味わったことの無い恐怖に襲われた。
「これは、重大な事件だッ!行く不明者は全てこの白籠市で多発しているんだッ!それも、タクシー運転手ばかりがッ!」
野々原署長はこの異常とも言える連続殺人事件についての会議に集まった警察署の幹部達を怒鳴りつけて居た。
事件が発生したのは、ちょうど三日ほど前。
宇宙究明学会によるテロ事件が未然に防がれ、全員が安堵の溜息を漏らしていた時期だっただけに白籠署の上部は混乱に混乱を重ねている状態であった。
「ともかくだ……このタクシー運転手連続殺人事件は異常だッ!犯人は狂っているに違いないッ!」
野々原はホワイトボードに何度も何度もペンを叩きつけながら言った。
「かもしれませんが、署長……問題は何故被害者がタクシー運転手ばかりを狙うのかという事ですよ。犠牲者とされる被害者の中には一人だけ女性が混じっていましたが……それ以外は殆どが全員が男性です! こういう普通ではない連続殺人事件の場合は、大抵狙われるのは女性だとばかり思っていましたが……」
波越副署長兼署長代理の言葉に野々原は思わず頰をピクピクと動かしてしまう。
「黙れッ!そういう固定観念が、事件を迷宮入りにしてしまうんだッ! もっと色々な視点から事件を見ろと習わなかったのか?」
野々原の最後の皮肉とも言える言葉に波越は黙ってしまう。
「全く、お前なんかより双子の弟の方がよっぽど役に立つな」
野々原の嫌味に言い返せない波越は自分が嫌で仕方がなかった。
「しかし、何とも長い取り調べだったよなー」
聡子は白籠署公安部室の自分のディスクにうつ伏せになりながら、溜息混じりに呟く。
「まあ、この間に事件が起きていたのだからしょうがないわ、わたし達が姿を消した後にあんな事件が起こったんだもの」
絵里子はコーヒーを啜りながら言った。
「参ったよな、おれらがそんな犯罪を犯すかよ、そもそも本多太郎の犯行さえ見抜けなかった、無能のくせに……」
と、孝太郎が愚痴をこぼしていた時だ。部屋の扉が開く音が聞こえた。
孝太郎は訪問者に入室の許可を与える。
「あ、ありがとうございます……」
おどおどとした様子で入室してきたのは、メガネをかけたセーラー服姿のいかにも大人しそうな女の子であった。
「あ、あのお父さんの事件についての話をお伺いしたいんです……」
女の子は震えた声で言った。
「ええ、おれ達に言えることならば、何でも……」
孝太郎は女の子を来客用のソファーに座らせて、コーヒーを振る舞う。
だが、女の子はコーヒーを口に付ける余裕もないのか、ハァと小さな溜息を吐いた後に言った。
「単刀直入に伺います。お父さんは本当に行方不明なんですか?」
その言葉に孝太郎は思わず女の子から目を逸らしてしまう。
女の子はその孝太郎の異変を見逃さなかったのだろう。女の子は核心的部分に触れながら、話を続ける。
「お父さんはあたしを置いて、逃げるような人じゃあないんです。家でも優しいお父さんだったし、お父さんの同僚の人だって、真面目でいい運転手だって言っていたんです! それなのに……」
「……」
孝太郎の視線が更に地面の下を向いていた時だ。
「大丈夫よ! お父さんは必ず見つかるから……あたし達を信じてッ!それにあなたも知ってるでしょ?宇宙究明学会を追い詰めた事を?」
女の子は首を縦に動かす。宇宙究明学会についてのニュースはテレビやネットを見れば、嫌でも目に映る。
そして、そのニュースの中央には少し前に刈谷阿里耶と本多太郎の検挙に検討した白籠市のアンタッチャブルの名前が刻まれていたので、彼女も自分に話しかけている女性は白籠市のアンタッチャブルの女リーダー折原絵里子だと知っていた。
だから、女の子は絵里子の両手を握る。
「ありがとうございます……必ず、必ずお父さんを見つけ出してください……」
「良かったら、あなたのお父さんが失踪した時期を教えてくれないかしら?」
「一週間前……ちょうど、世間が宇宙究明学会の疑惑で沸いていた頃です……」
一週間前。恐らく、彼女のお父さんはタクシーキラーに……。
確信をもって言えたわけではないのだが、絵里子にはこう思えねて仕方がなかった。
それは、他のメンバーも同じだろう。全員が何やら気まずそうな表情を浮かべていた。
「本当にありがとうございます! あたしも頑張ってお父さんを探してみますね! 」
と、女の子は手を振りながら、帰っていく。
扉が閉め終わるのを見届けるのと同時に、孝太郎は絵里子には囁く。
「姉貴……恐らく、あの子の……」
「ええ、間違いないわ、でも捜査本部はこの事件は三日前から起きた事件だと頭から決めつけているんだもの! だから、あの子はあんなにずさんな扱いを受けてきたのよ……」
「かもしれんな、おれとしてはあの子に寄り添ってやる事さえできないかもしれん」
孝太郎は過去の世界で吸っていたタバコを今こそ吸ってやりたい気分だった。
そうでもしなければ、このモヤモヤとした思いは収まらないと感じた。
「で、どうなの?作品の出来は?」
現職の東京都知事三原青子はお気に入りの蝋人形職人に尋ねる。
三原は恐らく、ルネンサンスの全盛期に生きていたのなら、絵画のモデルになれそうなくらいの美人であった。
その古代の美術品を思わせるような顔は男も女も思わず惹かれてしまうくらいの美人であった。
蝋人形職人の青年田山浩三郎は頰を赤くしながら答える。
「ええ、あんたが事件を揉み消してくれましたからね、だけれど三日前の事件。あれを消せなかった理由を教えてほしいんです」
「ええ、いいわ……」
三原は都庁からビッグ・トーキョーを一望できる強化ガラスの側から離れて、都知事の椅子に座り、田山と向き合いながら、
「あなたにはもっともっと大きな事件を起こしてもらいたいのよ、少し前にね、宇宙究明学会の事件に雲隠れして、上手く誤魔化せたはずの事件が三日前にまたぶり返されたのよ」
「三日前というと?」
「決まってるじゃあない、徳川様の支援母体から、あたしが大量の献金を受け取ったという問題よ」
「ああ、例の徳川賄賂事件ですか?」
「世間ではそう言われてるわね、ともかく……実山聖子がまたぶり返してね、宇宙究明学会とわたしの党は同等とまで言ってきたの! 」
三原の言葉がここで強くなる。余程、聖子の言葉が許せなかったのだろう。
「ええ、だからね、今回は揉み消せないの……でも、心配しないで、あなたなら逮捕されるとは思っていないから」
「その言葉ありがたく、受け取っておきますよ」
田山はそう言って、都知事の部屋を跡にする。
三原は田山が退出するのを見届け、デスクからタバコを取り出して、それを吸った。
まさに極上の味だった。
人の良さそうな青年は殆どの人が想定するような穏やかな声で、運転手に指示を出す。
「はい、お客さん」
運転手もそれが気に入ったのか、愛想の良い声で答える。
そうして、しばらく話し込むうちにいつの間にか東京の外れにまで来ていたらしい。
それに気が付いたのか、青年も運転手に来た道を戻るように指示する。
「分かりました、来た道を戻ればいいんですね……」
と、言って運転手が青年に合図を求めた時だ。
急に自分の掌に赤い液体が滴り落ちている事に気が付く。
そして、もう一度青年を見つめると……。
「フフフフ、行き場所はここで合っているよ、おれのアトリエはこの近くだからな」
男は冷徹な声で言い放つ。
「お前さんはおれの大切な作品になってもらうんだからな」
運転手はその言葉を聞くなり、それまで味わったことの無い恐怖に襲われた。
「これは、重大な事件だッ!行く不明者は全てこの白籠市で多発しているんだッ!それも、タクシー運転手ばかりがッ!」
野々原署長はこの異常とも言える連続殺人事件についての会議に集まった警察署の幹部達を怒鳴りつけて居た。
事件が発生したのは、ちょうど三日ほど前。
宇宙究明学会によるテロ事件が未然に防がれ、全員が安堵の溜息を漏らしていた時期だっただけに白籠署の上部は混乱に混乱を重ねている状態であった。
「ともかくだ……このタクシー運転手連続殺人事件は異常だッ!犯人は狂っているに違いないッ!」
野々原はホワイトボードに何度も何度もペンを叩きつけながら言った。
「かもしれませんが、署長……問題は何故被害者がタクシー運転手ばかりを狙うのかという事ですよ。犠牲者とされる被害者の中には一人だけ女性が混じっていましたが……それ以外は殆どが全員が男性です! こういう普通ではない連続殺人事件の場合は、大抵狙われるのは女性だとばかり思っていましたが……」
波越副署長兼署長代理の言葉に野々原は思わず頰をピクピクと動かしてしまう。
「黙れッ!そういう固定観念が、事件を迷宮入りにしてしまうんだッ! もっと色々な視点から事件を見ろと習わなかったのか?」
野々原の最後の皮肉とも言える言葉に波越は黙ってしまう。
「全く、お前なんかより双子の弟の方がよっぽど役に立つな」
野々原の嫌味に言い返せない波越は自分が嫌で仕方がなかった。
「しかし、何とも長い取り調べだったよなー」
聡子は白籠署公安部室の自分のディスクにうつ伏せになりながら、溜息混じりに呟く。
「まあ、この間に事件が起きていたのだからしょうがないわ、わたし達が姿を消した後にあんな事件が起こったんだもの」
絵里子はコーヒーを啜りながら言った。
「参ったよな、おれらがそんな犯罪を犯すかよ、そもそも本多太郎の犯行さえ見抜けなかった、無能のくせに……」
と、孝太郎が愚痴をこぼしていた時だ。部屋の扉が開く音が聞こえた。
孝太郎は訪問者に入室の許可を与える。
「あ、ありがとうございます……」
おどおどとした様子で入室してきたのは、メガネをかけたセーラー服姿のいかにも大人しそうな女の子であった。
「あ、あのお父さんの事件についての話をお伺いしたいんです……」
女の子は震えた声で言った。
「ええ、おれ達に言えることならば、何でも……」
孝太郎は女の子を来客用のソファーに座らせて、コーヒーを振る舞う。
だが、女の子はコーヒーを口に付ける余裕もないのか、ハァと小さな溜息を吐いた後に言った。
「単刀直入に伺います。お父さんは本当に行方不明なんですか?」
その言葉に孝太郎は思わず女の子から目を逸らしてしまう。
女の子はその孝太郎の異変を見逃さなかったのだろう。女の子は核心的部分に触れながら、話を続ける。
「お父さんはあたしを置いて、逃げるような人じゃあないんです。家でも優しいお父さんだったし、お父さんの同僚の人だって、真面目でいい運転手だって言っていたんです! それなのに……」
「……」
孝太郎の視線が更に地面の下を向いていた時だ。
「大丈夫よ! お父さんは必ず見つかるから……あたし達を信じてッ!それにあなたも知ってるでしょ?宇宙究明学会を追い詰めた事を?」
女の子は首を縦に動かす。宇宙究明学会についてのニュースはテレビやネットを見れば、嫌でも目に映る。
そして、そのニュースの中央には少し前に刈谷阿里耶と本多太郎の検挙に検討した白籠市のアンタッチャブルの名前が刻まれていたので、彼女も自分に話しかけている女性は白籠市のアンタッチャブルの女リーダー折原絵里子だと知っていた。
だから、女の子は絵里子の両手を握る。
「ありがとうございます……必ず、必ずお父さんを見つけ出してください……」
「良かったら、あなたのお父さんが失踪した時期を教えてくれないかしら?」
「一週間前……ちょうど、世間が宇宙究明学会の疑惑で沸いていた頃です……」
一週間前。恐らく、彼女のお父さんはタクシーキラーに……。
確信をもって言えたわけではないのだが、絵里子にはこう思えねて仕方がなかった。
それは、他のメンバーも同じだろう。全員が何やら気まずそうな表情を浮かべていた。
「本当にありがとうございます! あたしも頑張ってお父さんを探してみますね! 」
と、女の子は手を振りながら、帰っていく。
扉が閉め終わるのを見届けるのと同時に、孝太郎は絵里子には囁く。
「姉貴……恐らく、あの子の……」
「ええ、間違いないわ、でも捜査本部はこの事件は三日前から起きた事件だと頭から決めつけているんだもの! だから、あの子はあんなにずさんな扱いを受けてきたのよ……」
「かもしれんな、おれとしてはあの子に寄り添ってやる事さえできないかもしれん」
孝太郎は過去の世界で吸っていたタバコを今こそ吸ってやりたい気分だった。
そうでもしなければ、このモヤモヤとした思いは収まらないと感じた。
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「ええ、あんたが事件を揉み消してくれましたからね、だけれど三日前の事件。あれを消せなかった理由を教えてほしいんです」
「ええ、いいわ……」
三原は都庁からビッグ・トーキョーを一望できる強化ガラスの側から離れて、都知事の椅子に座り、田山と向き合いながら、
「あなたにはもっともっと大きな事件を起こしてもらいたいのよ、少し前にね、宇宙究明学会の事件に雲隠れして、上手く誤魔化せたはずの事件が三日前にまたぶり返されたのよ」
「三日前というと?」
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「ああ、例の徳川賄賂事件ですか?」
「世間ではそう言われてるわね、ともかく……実山聖子がまたぶり返してね、宇宙究明学会とわたしの党は同等とまで言ってきたの! 」
三原の言葉がここで強くなる。余程、聖子の言葉が許せなかったのだろう。
「ええ、だからね、今回は揉み消せないの……でも、心配しないで、あなたなら逮捕されるとは思っていないから」
「その言葉ありがたく、受け取っておきますよ」
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