国立魔法大学の革命児〜異世界より来たりた救世主

五大ファミリーの陰謀編

国立魔法大学の革命児〜設立以来の天才児、アメリカに現る。

「お前が、一番の成績だなんて、納得がいかないッ！オレはお前に正式に決闘を申し込むッ！」
短い金髪の男は、向かい側の席でビールを飲んでいた青年を指差す。
「一体、私の何が不安なんだ？首席で卒業したのは、私の実力さ、キミの実力がそれに及ばなかっただけだろ？」
指を差された青年は目を丸くする。青年は困惑していたが、周りの人々は、気にかけるよりも前に、青年の美しさに目がいってしまう。短く整った黒い髪に、指を指した青年の視線を昂然と受け止める顔はこの上なく整った鼻と目であり、その日本刀のように鋭く整った瞳はまさしく美男子という言葉がよく似合う。笑えば、大層な貴公子になるのだろうと酒場の人たちは感じた。
だが、青年は人々の期待を裏切るかのように、ギロリと見下すような視線を男に向けている。
そんな端正な顔立ちの青年の言葉と視線に怒ったのであろう。短い金髪の男はベルトにかけていたであろう短い剣の付いた腕輪を自らの右腕に嵌める。その剣こそ、サセックス王国及び『キャミナッツ』全体で、武器として採用されているＣＭＳコンパクト・マジック・ソードであった。この剣には本人が使える魔法が使用でき、その剣を使う事により、同じ魔法剣士や怪物相手に威力を発揮できるのだ。
「私の腕が信頼できんと言うのなら、いいだろう……勝負してやるよ」
「その言葉を取り消すなよッ！決闘だッ！クソ野郎ッ！」
その言葉にサセックス王国国立魔法大学の生徒たちや酒場の人間たちが全員集結していく。
何しろ、大学のＮｏ．１とＮｏ．２の決闘だ。この学校の生徒ではなくとも、誰でも興味はあるだろう。
ましてや、その対決までの過程を直に見ていた人間ならば尚更だろう。見物人には卒業祝いに飲みにきていた学生だけではなく、酒場の主人や酒場女。それに仕事終わりに訪れたであろう職人たちなども混じっている。
そんな多くの人々の視線を集めて行われる決闘を行われる決闘の場所はサセックス王国中央広場であった。
広い芝生が生えている他は、入り口に王の銅像が建っているだけの場所であり、普段は子供が遊ぶためだけの場所となっているが、臨時の時には魔法剣士やら王国騎士の決闘場として使われている、まさに二人の決闘場所には最適な場所であった。殆ど西に落ちかけている夕陽も、まさに決闘にはお誂え向きの景色を演出していた（例えるのなら、アメリカの荒野で行われる、ガンマンとガンマンとの決闘だろうか）一体、決闘に勝ち、落日を迎える敗者はどちらになるのだろうか、そんな事を考えながら、決闘を見ていた人々は生唾を飲み込む。
金髪の男は剣を横に振ると、芝生が突然動き出し、男の背後に生えてくる。
「これが、オレの魔法さ、エリートさん、あんたも出してみろよ」
「ならば、お言葉に甘えて」
そうは言ったものの、男は一向に魔法を出そうとはしない。
「やれッ！！ 自然を操る我が魔法よッ！」
その言葉通りに、男を襲うのだが、男は薄笑いを浮かべるばかりで、何もしようとはしない。それこそが、男にとっては不気味だったが、それだけではない。一瞬で、金髪の男が操ろうとしていた芝を凍らせてしまったのだ。
「一体……何でそうなってしまったんだ？」
男は絶句する。だが、もう片方の男は容赦ない。速さが増す魔法を使用し、男の喉元に刃を突き付けたばかりではなく、男の武器も地面に叩き落としてしまったのだ。恐怖に駆られた男は、思わずに、
「まっ、参ったッ！ 」
と、叫んでしまう。
男がまるで、お化けを目にした子供のように怯えている事や、先ほどの敗北宣言から、彼が負けたのは火を見るよりも明らかな事実であった。
男が未だに腕を地面に視線を落としていると、勝った方と思われる男も女も一目惚れしそうというたいそう端正な顔を持った短い黒髪の青年が何か丸い物を男に投げつける。
「私からの卒業祝いだ。ありがたく受け取りなッ！」
男が投げつけられたものを見ると、それはこの国最大の貨幣たる純粋オリオンズ金貨であった。恐らくこちらの世界の日本円に例えれば、２万円はするであろう代物であった。
そんな引きつった顔をしている金髪を放っておいて、男は宮殿への足を進める。
宮殿はサクソニアン中央広場から僅か３０メートル程の距離であった。
男はその距離をたくさんの同性、異性の男女に囲まれながら進んで行く。
「おめでとう、アンドリュー！ 親友として、心からお祝いするよ！ 」
その大勢の男性の中で、アンドリューと呼ばれた美男子の一番のお気に入りの人物が声をかけた。
彼は東洋の地域ジパイナと呼ばれる地域から来た留学生で、サクソニアン王国魔法国立大学においてはアンドリューと言われる男。決闘に負けた金髪の男に次ぐ第３位の成績で卒業したエリートに分類される男であった。
「ありがとうな、お前には在学中助けられたな、感謝するよ」
「感謝だなんて……むしろ、ボクの方こそキミに感謝するよ！ 散々授業の時に助けてくれたんだし！ これからも王国騎士団に入ったら、キミに助けられる可能性もあるしね！ 」
その言葉を聞くなり、アンドリューは何かを思い出したようにクスクスと笑い出す。
「キミはジパイナからの留学生だったんじゃあないのかい？この大学を卒業したら、ジパイナに帰る予定だろ？」
「いいや、ボクはジパイナからこっちに移住するねッ！向こうが何と言おうが……」
その東洋系の青年を押し出すように割り込んできたいかにも元気系ですと主張するようなオレンジの髪の女性が現れた。
「さっすが、アンドリューだよ！ あたしの見込んだ通りの男だッ！あんたは首席で卒業すると思っていたよ！ 」
「ああ、ありがとな、ジーナ」
彼女の名前はジーナ・グィネヴィア。この国の有力貴族の一つグィネヴィア伯爵家の出身だが、飾らない人柄が大学内では人気であった。
「それよりさぁ～成績最優秀者はこの国の王と謁見できるんでしょ？いいなぁ～陛下からお言葉がいただけるなんて……憧れるわァ～」
そう思いを馳せているジーナをよそに、他のアンドリューを囲んでいる男女が次々とアンドリューに質問を浴びせている。
アンドリューは嫌な顔せずに、一人一人の質問に答えていく。
「あーあ、どうして、アイツだけ人気があるんだよ」
そう愚痴をこぼすように言ったのは先程の東洋系の青年であった。
「しょうがないでしょ？あんたにあんな神対応ができんの？」
そうアンドリューとその大勢の取り巻きを見つめながら、呟くジーナの答えに東洋系の男は完敗を悟ったのか、そのまま宮殿へと向かっていくアンドリューとその取り巻きを見つめた。


アンドリュー・カンブリアはこの国の王であるシャルル・フランソワーズ・ド・サセックスに謁見した。
謁見中の彼は自分の愛剣を自分の横に置き、こうべを垂れて臨んでいた。これはこの世界における王族へのルールであった。
「表を上げよ、アンドリュー」
その言葉でようやく、アンドリュー・カンブリアは頭を上げた。
「お前はワシの作ったサセックス王国魔法大学を優秀な成績で卒業したそうだな？」
「ええ、陛下にご期待に添えますように、努力致しました」
この原稿を棒読みするような声も彼の特徴の一つであった。
彼から出る賛辞の言葉は雨あられのごとく、愚鈍な王や無能な王なら、瞬く間に彼に懐柔されてしまうだろう。
だが、シャルルは賢明な国王である。アンドリューの口車に乗ったりはしなかった。
「実はな、お前に一つ提案があるのだが……」
予想外の言葉にアンドリューは眉をひそめた。
「……何でしょうか？」
「この度はな、我が国の魔法師の開発により、別の世界へと繋がる魔法を発見したのだ。お前にはその大使として行ってもらいたいのだ」
「私がですか？」
アンドリューはここで断るべきかと思案した。自分は大学を出たばかりの言うのなら、青二才だ。それをこんな大任を任せられるなんて……。
「折角ですが、お断り致します」
アンドリューは丁重に頭を下げながら言った。
「何故だ？ワシはお前が適切だと思うたのだが」
「陛下にここでハッキリと理由を述べさせていただきます。わたくしは大学を出たばかりの青二才であり、そんな大任が務まるとは思いませぬ。それに私の魔法があれば、その世界に多大な影響を与える可能性も考慮していただければ、いかに愚かな判断かと、お分かりになられると思いますが……」
アンドリューは深々と頭を下げ、国王から許しが出るのを待った。
だが、その国王からは一向に許可が下りない。
（どういう事だ？私に何か不満でもあるのか？）
アンドリューがそう思った時だった。ここで、狙ったように国王が口を開く。
「アンドリューよ、お主の不満も最もだ。だから、特別に従者として二人付けることを許そう」
アンドリューはここまで国王に譲歩を許してしまったのかと思うと、自分を殴りつけたくなってしまう。
だが、そんな事をする訳にもいかないので、ここは国王に妥協することにした。
「分かりました。国王陛下のご期待に添えるかどうかは分かりませぬが、必ずや、別世界の国王と同盟を結び、この国の発展に協力させていただきます！ 」
アンドリューは最後にもう一度深く頭を下げた。
「よい、三日お主に猶予を与えよう。三日の間に準備を整えよ、分かったな、では、下がってよい」
アンドリューはその言葉を聞き、頭を上げて、謁見の間から退出していく。
アンドリューは三日という時間がどれだけ影響があるのかを理解していた。
だから、アンドリューはあの二人に相談し、それから両親に挨拶をし、荷物をまとめて、異世界へと行こうと心に決めた。