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ロックウェル一族の闘争篇

高層ビルの決戦

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エリックは一度大きな溜息を吐いてから、ローランドの方に向き直り、
「ともかくだ、このジョン・スミスなる男を向かわせれば、必ずアンドリュー・カンブリアを捕縛する事ができるんだろうな?」
エリックの質問に首を縦に動かすジョン。
「よろしい、ならば報酬の件は考えておこう……そして、これはキミに……」
エリックは懐から本革の財布を取り出し、そこから100ドル紙幣を二枚取り出し、ジョンに向かって差し出す。
「ありがたいな、ならば、少しだけ待ってな、おれの仲間を総動員して、必ずその野郎を……」
ジョンがどうしようもない高揚感に包まれながら、自慢話をしようとした時だ。
「大変です! 屋上の方から、大きな動きがして、それでヘリコプターから……」
「ヘリコプターがどうしたのだ?」
エリックは慌てて来たらしく、ヨレヨレの状態になっているスーツ姿の男に尋ねる。
「ええ、ヘリコプターからですね……エリック……あなたが探している例の人物が降りて来たんですよ。それも全員……あの忌々しいシャリム・ギデオンまで乗っています! 」
シャリム・ギデオンの名前を聞いて、エリックは思わず頰を膠着させてしまう。
まさか、この事態にまで奴が関わっていたとは……。
エリックは悔し紛れに机を叩いてから、ビルの防備を固めるようにローランドに指示を出す。
ローランドは慌てて、急いで駆け付けた男に細かい指示を出す。
「分かりました! 直ちに我々の警備を……」
「ああ、お前たちはジョンと協力して、あいつらを捕縛してくれ、私はここでエリックを守る」
男はそう言うと、部屋を退出し、ジョンもそれについて行く。
ローランドは不安気な瞳でエリックを見つめ、
「我々の勝ちですよね?我々は世界中の敵を倒して来ましたもんね?ロックウェル家に逆らえる敵なんて、もうこの地球上には……」
エリックに語りかけると言うよりは、自分に言い聞かせているよう。
そんなローランドの気持ちが分かったのだろう、エリックは椅子から降りて、ローランドの手を握り締め、
「勿論さ、今度の敵も私たちの手で叩きのめしてやろう……」
ローランドはエリックの手から伝わる優しさに癒されていた。




屋上においては、ロックウェル家の警備隊が3人を食い止めんと懸命になっていたが、アンドリューとチャーリーのこの世ものとは思えない攻撃によって、殆どが無意味に死んでいく。
「これで、何人やられた!?」
ヘリコプターとビルへと続く扉の間に築かれた、簡易的なバリーケードの間で、防護服に身を包んだ、白人男性が同じく仲間の白人男性に必死の形相で尋ねていた。
「分からんな、何せ当初は100人くらいで向かっていたはずなのに、もう20人くらいしかいねーからな、生き残っている奴が後はどのくらいいるのか……」
そんな問答をしていた時だ、いきなり閃光弾が炸裂したかのような鋭い白い光が2人を襲い、気が付いた時には。
「お、おい嘘だろ!?起きてくれよ! 」
つい、さっき自分に生き残った数を尋ねたばかりの男が焼き焦げて死んでいたのだ。
男は言いようもない恐怖心に襲われたが、次の瞬間には、今の恐怖すら忘れるような更に大きな恐怖感に襲われたのだ。
そう、例の2人がバリケードの中にまで現れたのだ。
「私の強さは理解してくれたかな?」
と、ここで侵入して来た、アンドリューなる血色の悪い、だがハンサムな顔立ちの男が尋ねる。
だが、男は口をパクパクと動かすばかり。
「私の強さは理解してくれたかなと聞いたんだぜ、私は」
アンドリューの恐喝じみた言葉に男が蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいると、
「よせよ、アンドリュー。もうこれ以上殺戮をする理由は無いはずだぜ、こいつだけじゃあ無い、他の兵士も大体がおれ達を恐れて、もう歯向かって来ないだろうしな」
「ふーん、分かったよ。キミがそれでいいならね」
アンドリューはそう言って、踵を返してビルへと続く扉のノブに手をかけた。





「こちらが、事件現場です! 」
リポーターと思われるメガネ姿のいかにも真面目と言う言葉の似合う男が、懸命にマイクを握り締め、このビルに起きた事実を何とか伝えようとしている(最も、普通の人間にロックウェル家所有のオフィスビルの屋上で起こった事など伝えられる筈がないが)
「このロックウェル家所有のビルにて、先程稲妻のような光が見えたと言う情報が伝わり、現場は混乱しております! かくいう私自身もあまり上手く言葉には現せられ無いのですが……とにかく、現場は大変な状況です! 」
そのリポーターの言葉を裏付けるように、オフィス街には異常とも言える数の救急車とパトカーが並んでいる。
「いや、物凄い数のパトカーですね……あ、刑事と思わせる人が来たので、彼女に尋ねてみましょう! 」
リポーターが向けた人物はあのメアリー・青山冬菜であった。
「あの刑事さん……現場で何が起こったのか、教えてくれませんか?私は稲妻のような光が見えたという情報しか伝わって来なくて……」
「それが……警察もこのビルの屋上で何が起こったのかは分からないんですよ。何せ、ヘリを飛ばすのにも、上層部からの指示がありまして……」
その時だ、再び屋上の方でまばゆいばかりの閃光が放たれた。
「い、一体何が起こったのでしょう!?とにかく、また詳しい情報が入り次第、お伝え致します! 」
リポーターはそう言って実況中継を切った。





「さてと、どうしたんだ、アンドリューさんよぉ~あんたの力はそんなもんかよ! へへ」
「いえいえ、私からすれば、ジョン・スミスさんの攻撃の方が滑稽と言っても過言と言ってもいいですよ。何せ、全て銃オンリーですからね、全く上品さの欠片もありませんね」
アンドリューの更なる挑発が功を奏したのだろう。ジョンは鼻の穴を膨らませながら、ポンプ式ショットガンを構えて、こちらに向かって来る。
アンドリューは再びCMSを装着した時だ、
「こっちだッ!化け物めッ!」
チャーリーが死んだ警備員から奪取したのだろう、M16という軍用マシンガンの銃口をジョンに向け、発射する。
ジョンはその銃弾が当たる前に、立っていたビルへと続く扉の近くから、左に向かって進んだためだろうか、銃弾は全てオフィスビルへと向かう扉に当たる。
「危ない奴だなッ!おれが死んだら、どーすんだよ! 」
ジョンのその抗議には、2人も呆れたように肩をすくめるしかなかった。
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