隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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入学編

麗しき女騎士の凱旋

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「ご安心くださいませ、国王陛下!!我らが土地を脅かす忌々しい竜はもう居りませぬ!私の手で凶悪なる竜、ファヴニールは討伐し、私と同化させました!」

ガレリア王国の高潔なる女騎士、ルイーダ・メルテロイはその真っ白な陶磁器を思わせる様な白くて美しい顔を上げて上座に座る国王に向かって告げる。
ガレリア王国、現国王、フリードリヒ・フォン・マルクルスは手を叩いて若く美しい英雄の功績を讃える。

「素晴らしい!それでこそ、武勇を司る王国騎士よ!儂はお主の手柄を称え、大陸教の教皇にかけおうて、大陸全土で使う暦を竜暦へと改めよう!それだけではないぞ、お主を王国騎士団長から貴族へと取り立てよう!」

フリードリヒの言葉にその場に集まった王国の延臣たちが騒めく。
当たり前だろう。幾ら、大陸を苦しめていた黒竜、ファヴニールを仕留めたとはいえ、彼女はあくまでも平民の身。
普通ならば、騎士に取り立てられただけでも大抜擢の筈だ。
貴族という身分のみに胡座をかき、大した戦績を上げずに、将の階級を持つ立派な髭の貴族たちは次々にフリードリヒに抗議の声を飛ばす。

「陛下!あまりにも無茶です!生意気なる金髪の小娘をこれ以上の地位に上げるなど、我が国の伝統を無視しております!」

立派な紋章の入った飾り付きの鎧を着た金のカイゼル髭を蓄えた中年の男が率先して声を上げたのだが、若き国王、フリードリヒは聞く耳を持たずに、目の前で跪き、報告を垂れる若く可憐な女騎士に思い付く限りの称号を与えていた。
いずれも、彼女は辞退していたのだが、ただ一つ《竜乙女ドラニア・メイデン》という称号のみは承り、これに王の剣を共に与える事で、その日の彼女の褒美は終わった。

国王、フリードリヒはその晩、自室で肉を切りながら、今後の彼女への方針を考えていた。
だが、その考えは中途で終わってしまう。
と、言うのも肉が硬くて切れなかったからだ。幾ら、銀のナイフを引いても切れはしない。
苛立ちを覚えながら、彼が肉を切っていると、部屋の扉が勝手に開き、全身を黒いローブに包んだ妖艶な風貌の女性が現れた。

フリードリヒは彼女が現れるのと同時に、素っ気無い口調で言った。

「誰かと思えば、エルダーか?何用じゃ?」

エルダー・リッジウェイはガレリア王国における宮廷魔導師であった。
今日の世でこそ、魔法は大陸全土に広渡っているが、この当時は魔法の技術が発達しておらずに、各国は争って魔導師を雇っていたという。
彼女、エルダー・リッジウェイもそんな当時の『宮廷魔道士』の一人であった。
だが、彼女は他の多くの宮廷魔道士と違う点があった。

それは各国の王に取り入る事。彼女はローブの上からハッキリと分かる児童が遊戯に使うボールにも喩えられる豊満な胸をワザとフリードリヒの体に当て、立派なくびれのある体に、道ゆく異性が思わず振り向く程に魅力的な臀部を地面に付かない程度に浮かせて、椅子に座るフリードリヒと顔を並べてから、わざとローブの隙間から髪を靡かせていく。
見事な赤い髪が風に当てられて動いていく。並の王ならば、ここで彼女の調略に乗っていただろう。
だが、エルダーはフリードリヒが頑強をもってする王である事は彼女が誰よりも知っていた。

知っていた試したのだった。彼女は可愛らしく笑いながら、そのリンゴの様に赤い唇でフリードリヒの耳元で囁く。

「国王陛下、今日の裁き、見事でございましたわ。陛下にしかできないご決断……平民出身の金髪の小娘が一生、掛かっても手に入らない様な騎士団長の称号と英雄の名声……それを一気にお与えになられるとは……感服致しましたわ」

「ふん、魔法を使い楽ばかりする魔道士に分かってたまるものか。政治術という人間にのみに許された高度な技術がな」

フリードリヒはそのまま勢いよく机の上の肉を一気にナイフで切り裂く。
そして、ようやく切れた硬い肉切れを口の中に放り込む。
彼は暫く口を動かした後に不快な表情を浮かべて筋肉を飲み込む。

「不味い。やはり、動物の筋肉など食えたものでないな」

フリードリヒが口元を拭うと、相変わらず、その胸を押し付けていた魔女はその場を離れて、真剣な表情で王に尋ねる。

「陛下、筋肉は捨てる事をお勧め致します。どんなに良い肉でも少しでも筋肉があれば捨てる……それが美味しい食事を頂くマナーではなくて?」

「残念だがな。筋肉だからと簡単に肉は捨てられんよ。肉自体は食えるのだからな」

フリードリヒはそう言うのと同時に、肉を切る作業へと戻っていく。
エルダーはその様子を暫くの間は見守っていたが、やがて、当てていた胸を離し、中腰を上げて立ち上がると冷たい声で言った。

「ならば、陛下……あなた様は将来にその筋肉が喉の中に詰まるとお知りでも、放っておくつもりでございますか?」

その言葉を聞いてフリードリヒが肉を切る手をやめて改めてエルダーに向かい合う。

「詳しく聞きたいものだな。エルダー。主はあの小娘についてどういう見解を示しておるのじゃ?」

「……あの金髪の小娘を生かしておくのは陛下の偉業を妨げる最もなる行為です。さればこそ、我々の手で小娘を永久に地獄へと追い落とすのが得策かと」

エルダーは語っていく。何故、救国の女騎士、ルイーダ・メルテロイを生かしおいてはいけないのかを。
彼女の竜を秘めているという発言の事、そして、彼女の存在が引き金となり、他の眠りし竜たちを呼び起こしてしまうという事を。
冷静に落ち着いた様子で決して焦る事なく、彼女は語っていた。

それが功を奏したらしい。フリードリヒはエルダーに真剣な目を向けながら問う。

「騙し討ちせよと申すのだな?救国の女騎士を」

「ええ、例え私が居たとしても、彼女を殺すのは無理でしょう。なので、あの女を大聖堂に誘き寄せ、隠していた兵で射殺してしまえば、幾ら無敵の騎士と言えども直ぐに死ぬでしょう」

彼女は顔に黒い微笑みを浮かべながら言った。
フリードリヒは暫くの間、目を瞑っていた。決断に迷っていたらしく、首を左右に懸命に振っているが、やがて決意が芽生えたのだろう。

両目をカット開いて、

「決めたぞ、儂はやる。この国のためならば仕方あるまい」

彼は唇を一文字に結び、硬く決意した表情で告げた。
救国の英雄に酔っている王をエルダーは内心、嘲笑ったが、やがて彼の酔いを深めるために彼に称賛の言葉を浴びせる。
何にせよ、明日だ。明日に全てが始まる。
エルダー・リッジウェイは心の中で勝利を、永遠の天下を確信した。
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