隙を突かれて殺された伝説の聖女騎士と劣等生の夫、共に手を取り、革命を起こす!

アンジェロ岩井

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護衛編

舞踏会の中で

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せめてもの償いとしてルイーダからの言葉を聞いたジードは万が一のことがあればなんでもやり遂げるという覚悟を持っていたが、幸いなことに式典は何の問題もなく進んでいった。官邸の謁見室に護衛たちと入っていったジェラルドたちは軍楽隊の吹く歓迎のラッパによって出迎えられた。
そして中央に座っていた礼装用の紫色のドレスを着たエルダーがジェラルドの前に頭を下げ、ジェラルドたちを中央へと先導していった。

赤い絨毯が敷かれた中央の場所に着くと、ジェラルドは丁寧に頭を下げて祝辞を読み上げていく。
祝辞が順調に読み上げられていくと、今度は主賓席にいたエルダーが返礼の言葉を返していく。その後は両者が椅子を並べての会談となる。分厚いクッションの付いた椅子に腰をかけて話し合いを始めていく。何分かの会談を経た後で式典の最後にジェラルドとエルダーによる話し合いが終わると、その後は歓迎の晩餐会となった。

会場は総統官邸として使われているバルベデ宮殿の中央ホールである。
確かに贅を尽くした中央ホールは一国の国賓をもてなすというのに相応しい場所のように思えた。
ホールの中央に吊るされている巨大なシャンデリアや金を基調とした贅を尽くした壁紙、大理石を使用した茶色と黒色のチェック状となったお洒落なタイル、それに歴史上のドラマチックな場面描写を描いた劇的な描かれ方をした絵や鹿や狼といった動物たちの頭の剥製が飾られた壁の下に清潔で汚れ一つない純白のテーブルクロスが掛かった机の上にオードブルやサラダ、肉料理、魚料理などが所狭しと並ぶ様子からは見てもルイーダの考えは間違っていないように思えた。

だが、もてなすために用意されたのは内装だけではない。ジェラルドにとって会談の相手であると同時に今回自分招いてくれた主人役ホストであるエルダーの言葉によれば見ているだけでも癒しになりうるというデザートは食後に官邸のシェフたちが直々に運んでくるらしい。
現在の世界情勢において近代国家かつ非王制の国においては珍しく舞踏会の会場というとなっており、国家の中枢を担うマナエ党の幹部やその家族たちの他にエルダーの取り巻き兼護衛である親衛隊を務める金髪碧眼の正装した青年たちが同じようにドレスアップした自分たちのパートナーを連れて参加していた。

親衛隊ばかりではなく、エルダー本人も紫色の派手な装飾を施したドレスを着て参加していた。
サテンを下地にした裾までのロング丈のドレスであるが、上半身はエルダーの胸囲故かそれとも袖や肩部分を覆う部位がない故か、随分と挑発的なデザインに仕上がっているもので、ルイーダからすればエルダーのドレスは卑屈なように感じられた。

胸元はシンプルな金色の首飾りを巻いているだけのルイーダとは異なり、黒曜石や天然石などを用いて、その中央に作り込まれた宝石を収めた派手な首飾りを幾重にも巻いていたし、両耳には赤い宝石が付いた首飾りが付けられていた。
まるで、古の絵画から出てきたような貴婦人のように美しかった。

ジェラルドはエルダーの見開いてしまうような美しさに身惚れてしまっていた。妖艶な女性が醸し出す危険な色気に惹かれるのは男のサガというようなものである。
すっかりと惚けてしまっているジェラルドの手を取り、エルダーは口付けを落とす。

「どうぞ、私とご一緒に踊っていただけませんこと?ジェラルド殿下」

「よ、喜んで、レディエルダー」

手の甲に落ちた口付けが決定打となり、ジェラルドはエルダーの申し出を受け取り、ホールの中央でお互いにワルツを踊っていく。
当然のことながら二人で踊るのは初めてのことであった。しかしジェラルドの予想を裏切るほど息ぴったりのダンスを行うことができたのだ。

エルダーはジェラルドをリードしつつも、彼を立てて心地の良いダンスを踊らせるように心掛けていた。

お抱えの楽団によってホール中に奏でられたダンス用の曲が一番盛り上がるところにまで差し掛かっていく。
ここでエルダーは体を逸らし、それをジェラルドが支えるというワルツの中でも難関とされる箇所を見事に踊りきった。
そしてやり遂げたと言わんばかりの顔を浮かべながらダンスを踊るジェラルドの耳元でエルダーは甘い声で囁いていく。

「どうでしょうか、殿下?長靴の王国の将来を担うあなた様と今もそして未来もガレリアの未来を担うこの私の息は神が最初からそう定めていたかのようにピッタリですわ。会談では後ろ向きなお言葉を頂きましたが、どうです?お考え直しになっていただけません?」

 この時のジェラルドはガレリアの魔女を相手にして「はい!」と叫びたい衝動を必死に飲み込んでいた。
自分の一存でこんな大事なことを決めるわけにはいかない。ましてや場の空気に飲み込まれて同盟を締結するなど言語道断だ。そんなことが許されるはずがない。

だが、エルダーの怪しげな色気で頭がどうにかなってしまうのも事実だ。
ジェラルドは困惑してしまった。

そんなどうしようもない状況へと置かれたジェラルドを救い上げたのはルイーダであった。ルイーダはジェラルドからエルダーを引き離し、自身が相手を行うように進言したのである。
突然の出来事にジェラルドは放心していたが、エルダーは口角を上げて抗議の言葉を口に出していた。

「ちょっと!私は今殿下と踊っていたのよ。そこに割り込むなんて礼儀知らずだわ」

「フン、礼儀知らずはどっちの方だ。ダンスにかこつけて何をしようとしていたのか私は分かってるんだぞ」

ルイーダの睨み付けるような視線を受けたが、エルダーは何も言わずに 無言であった。
沈黙は肯定とよく巷では言われるが、まさしくその通りであった。ルイーダは悔しそうに苦虫をすり潰すエルダーに対して見下ろすような表情を浮かべて、

「貴様のような下品な魔女は為政者に相応しくない。見ていろ、私が本当の踊りというものを見せてやる」

と、ジェラルドの手を引いて、彼と共にホールの中央でワルツを踊っていく。

最初はエルダーのダンスが中止されたことで目を丸くしていた楽隊たちであったが、ルイーダの心意気に惹かれていったのか、はたまたプロとして途中で曲を中断させることを良いとは思わなかったのだろう。
不快な顔をして二人を睨む総統を他所に音楽の続きを奏でていく。

ルイーダもダンスに関しては初心者ではなかった。かつて彼女が騎士として活躍していたのは踊り手として優秀であったのはエルダーの方であった。その証拠にルイーダは踊りの最中に何度もジェラルドの足を踏みそうになったり、ダンスの息が合わず地面の上に倒れそうになったりした。
だが、逆にルイーダの下手なダンスがジェラルドの心をくすぐった。先ほどとは対照的にジェラルドがルイーダに向かってダンスを教えていった。

お陰でダンス大会が終わる頃には二人の息は合うようになっていき、最後の方ではピッタリのワルツを踊れるようになっていた。
曲が止まると、ルイーダとジェラルドはお互いに頭を下げて健闘を讃え合っていた。

「ありがとう。騎士ルイーダ。お陰で今日のダンスは私にとって最高の思い出となった!」

「いえ、こちらこそ、楽しい時間をありがとうございます」

ルイーダは照れながら言った。ジェラルドはそんなルイーダすら愛おしいと考えていた。ルイーダは無敵の女騎士である。それは自身の体験から言えることだ。

だが、その反面ルイーダにはこうした愛おしさを感じるような一面もある。
もしこうした一面を併せ持つ皇妃ができたとしたら父も喜んでくれるに違いない。
ジェラルドが意を決して想いを伝えることに決めた。ハッキリとその想いを口にしようとした時のことだ。歓迎会の終了を告げる鐘の音が鳴り響いていく。

「あの、殿下、どうなさいましたか?」

「……いいや、なんでもない。明日は飛行船での出立だから早くなるぞ」

ジェラルドは一瞬だけ悲しげな顔を浮かべていたが、すぐにいつもの微笑みを浮かべると、自身の護衛と共に式典の会場を後にしていった。
この時ルイーダは気が付かなかったが、その顔には吹っ切れたような笑みさえ浮かんでいた。

それでも部屋を去っていくジェラルドの背中がやけに寂しげに感じられたのは事実である。もっとも鈍感なルイーダはジェラルドが密かに胸に秘めていた思いや余計な鐘が鳴ったばかりに想いを伝え損ね、その想いを永遠に胸の中へと仕舞わざるを得なかったという事実に気が付かなかった。

それ故に、
「なぁ、ジード。殿下はどうしてあんなに悲しげな顔をしているんだ?」

と、回答に困るような質問を夫にしてしまった。貧乏籤を引いたのはジードである。彼としては恋のライバルに応援を行うような真似をしたくはなかったが、妻を傷付けたくもなかった。それ故に困ったような笑みを浮かべてこの場を乗り切るよりも他に対処する術を思い付かなかった。
真面目一辺倒なルイーダにとってはまさか護衛対象であるジェラルドが自身に対して恋心を抱いているなどとは考えもしなかったのだ。

こうしてジェラルドは報われない思いを抱えたまま祖国へと帰ることになった。
ジェラルドが帰りの足として使用することになったのはマナエ党が運行する巨大飛行船である。
マナエ党の護衛たちやルイーダたちに見送られ、ジェラルド一行はガレリアの土地を後にした。

飛行船のラウンジはエルダーの図らいによって高級ホテルのロビーのような贅を尽くした空間となっており、赤く裸足になれば足に心地の良い毛が巻き付いてきそうなほどの絨毯が敷かれている他にジェラルドのため特別に運ばせたガレリア人が必ず読むと言われる教養のための本が揃った本棚やそれを読むための巨大なカウチが置かれている。
飲み物も簡素なバーやカフェが併設されているため退屈することはない。
そのためジェラルドは飛行船の中で何不自由なく過ごせるはずだった。
しかしその顔はどこか物悲しいように見られた。
 
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