婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

駆除の交換

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暖かい日差しが差し込むある日のことだった。晴れ晴れとした天気とは対照的に曇りの日のような曇った表情を浮かべた男がいた。
男の名前はギーク。元は旅人であり、現在は城下町にて駆除人を務める男である。彼の得物は剣と長鞭。昔は剣一本であったのだが、少し前にとあることが起きてから長鞭を得物に使用するようになった。
この長鞭を飛ばすことで遠距離から相手の首を締め上げることが可能になり、より一層殺しの手段が高まったのである。

そんな彼は城下町の一角にある小さな宿屋で厄介になっており、駆除の仕事がない時には本を読んだり、外で鍛錬をしたりして過ごしている。
外で鍛錬をしていたり、時折に駆除で長い間留守にしているためか、ギークは剣の師範で外で拳銃を教えているのだと周りの人々には思われており、ギーク本人も否定しないことからギークは自然と宿で働く人や同じく長期逗留の人々から「先生」と呼ばれるようになっていた。
「先生」などと称されるような立派な人物ではないと思うのだが、これもまた否定する理由がないので黙っている。

「先生」と称されるギークが駆除に迷うとは余程の理由があってのことだ。ギークは大きな溜息を吐いて、標的の家の近くにある酒場で何杯目かの酒を飲んでいた。
いい加減酒を飲むのにも飽きてきた時だ。目の前に高いソプラノ声で酒を頼む声が聞こえた。ふと、目をやると、そこには同業者であるカーラの姿が見えた。

「やぁ、カーラ」

「あら、ギークさん」

二人は自然な挨拶を交わす。その後二人はしばらくの間無言で見つめ合っていたが、やがて、カーラがギークの目を見つめながら言った。

「ギークさん。あなた何か悩んでいらっしゃるのではなくて?」

「……キミには敵わないな」

ギークはカーラの木で出来たジョッキの中に酒を入れながら自身の元にきた事情を話していく。

「成る程、少し気乗りのしない駆除ですか……」

「うん。マスターの斡旋だから間違いないとは思うんだけれど、相手が温和な父親じゃあねぇ」

温和な父親。それがギークに駆除を躊躇わせた要因の一つであった。単に噂で聞く分ならばギークも容赦なく長鞭を飛ばす或いは剣を突き立てて容赦なくその命を奪ったに違いない。
だが、相手の様子を探るうちにギークに殺しを躊躇わせるようになったのだ。
家族を連れて外出する標的、幼い息子に優しく笑い掛ける標的、自身のパートナーを気遣う標的。それらの姿が鞭を飛ばす手を或いは剣を突き立てる手を止めさせた。

ギークが城下町の駆除人の中ではその経歴が短いことも大いに影響している。
ギークが前金をギルドマスターに返そうかとカーラに思いを投げ掛けた時だ。

「では、ギークさん、私の駆除とあなたの駆除を交換致しません?」

「交換?」

「えぇ、あなたの標的は私が駆除させていただきます。代わりに、私の標的をあなたが駆除なさるのです」

「……それは面白いね」

ギークは口角を上げる。それから黙ってカーラに硬貨が入った袋を手渡す。
代わりに、カーラがギークに渡された報酬が入った袋を受け入れる。
これで依頼の交換ができた。
カーラがギークが自分がどのような依頼を受けたのかを説明しようとした時だ。

「だからテメェはダメなんだよッ!」

と、店中に響き渡るような大きな声が聞こえた。二人が声をした方向を振り向くと、そこには三日月のように鋭く尖った目をした人相の悪い三十過ぎほどの男とその取り巻きと思われる男が自分たちの向かい側に座る小太りの男を恫喝していた。

ギークは酒場の端で繰り広げられている光景を見て憎悪の感情に駆られたようで、険しい視線を出して三人の男を睨んでいた時だ。カーラがギークの肩に手を置き、小さな声で「あれですわ」と囁いた。
店の片隅で小太りの男を恫喝している三人の男たちが本来の標的であったらしい。

「あいつらがカーラの標的なの?」

「えぇ、お三方とも傭兵でしてね。それはもう手が付けられない乱暴者ですの」

カーラが三人の男たちがいかなる悪業を行なっていったのかをギークに説明していく。
三人は傭兵団や傭兵たちを雇い入れる暴力団からもあぶれてしまったいわゆるはみ出し者の傭兵たちの集まりであるのと同時に街の外れでサイコロだけを使う小規模な賭博を開くと元締めたちでもあった。

その手口は悪質を極め、小金持ちや大金持ち未満の金持ちいわゆる中金持ちと呼ばれる金持ちの人々。それからろくに賭け事も知らないような真面目な住民に狙いを定め、まず手下の二人が先に金持ちを街中などで襲い、それを纏め役であるワイアットという男が助け、感謝の念を抱いている金持ちたちに野外で開く博打へと招き、最初は相手が勝つように工作したサイコロを用いてわざと相手を勝たせ、博打の楽しさを刻み込ませる。

それから哀れな被害者たちを博打の楽しさにのめり込ませた後に一週間のうちにある同じ時間、同じ時刻に騙された人々を誘い、再び博打を打たさせる。
今度は本気でやるわけだから当然騙された人は大敗する。あっという間に有り金を巻き上げられた人に対してワイアットは甘い声で囁くのである。

「何?もう金がない?心配いらねぇよ。証文さえ貰えればツケで賭けが楽しめるんだぜ。細かいことは気にしないで勝負しようじゃないの」

これが引っ掛かった人にとって崩落の一歩であった。ツケということで金が手元にないこともあり、限界を忘れて大きな勝負を張り、気が付いた時には抜き差しのならぬ額になっているのである。
こうなればもうワイアットも甘い顔をしない。剣に物を言わせ、被害者に私財はおろか勤め先の金や家族のための貯蓄にまで手を伸ばすのである。
それでも払いきれない時には手下二人を引き連れ、その人物の家へと押し掛けるのだ。
家族に知られたくない、或いは家族に危害を加えられたくない被害者は三人の男たちに分割による返済を懇願し、以後毎週に渡って金をせびられ続けていくのである。

警備隊や自警団に泣きつくこともできない。というのも、個人でやる賭博にはこうした組織は介入できないし、そんなことになれば本格的に家族が分散してしまう。
また、傭兵であるため腕っ節も立ち、そんじょそこらの人物では役にも立たない。
故に多くの人々があの三人によって泣き寝入りを要求させられているのである。
今店の奥で泣かされている小太りの男もその一人だろう。

ギルドマスターに依頼したのはこの三人に泣かされている金持ちたちの集まりであるかもしれない。
ギークは酒を片手に三人の動向を見守っていた。
三人は酒を飲むだけ飲み、小太りの男を小突き回した後で下品な笑いを上げながら店を後にしていくのである。

「なるほど、あいつらは駆除した方がいいね。一人でも残っていると厄介だ」

「同意致しますわ」

「……それで、カーラは本当にぼくの駆除をするつもりなの?」

「えぇ、ですからギークさんがお集めになられた情報を私にお教えくださいませんか?」

「……ぼくが今日一日歩き回って調べ回った情報によるとね」

ギークはさりげない聞き込みや実際に標的の自宅を観察し、標的がどのような人物であるのかを知ったという。
標的となる男の名前はオーウェン。城下町の一角で骨董品店を営む男性である。
家族構成はパートナーと彼の息子と思われる幼い男の子が二人。
子供はどちらも父親にひどく懐いており、外出の間も父親にピッタリとくっ付いて離れていなかったのだという。
パートナーとは一緒になってから既に10年の時が経過しているが仲は良好で、近所からも評判になっている。

オーウェンからの大きな愛が向けられているのは家族ばかりではなく、その近所の人たちにも向いているそうで、自宅を使っての大規模なパーティーやゲームの大会に近所の人たちを招くなどの良好な近所付き合いを築いている他に街の行事や付き合いにも金を惜しむことなく出し人々からの好感を得ていた。

また、慈善に溢れる人物としても知られており、家族を亡くした子どもたちを店で働かせ、雇い入れるのである。
どの人物に聞いても肯定的な意見ばかりが出てきており、先程酒場に現れたワイアット一味とは対照的とさえ思えた。

だが、ギルドマスターが一応は依頼を受諾したのだ。数日前にナタリーの一件があったことを差し引いても、ギルドマスターからの依頼は信頼に足るものだ。
事実ナタリーの一件でも騙されたことを確認したギルドマスターが直々に制裁に向かっているではないか。
そのような人物の言葉が信頼できないわけがない。何か裏があるのだろう。

もしかすれば証拠を集めればもっと確たるもの、いわゆる駆除に値するような証拠が出てくるかもしれない。
そう考えたカーラとギークは共に席を立ち、翌日に再びカーラとレキシーの自宅にて落ち合うことを約束し、酒場を後にしたのだった。
店を出た後カーラは少し酒を飲み過ぎたためか、足元をふらつかせながら明日が休日であることに感謝しつつ自宅へと戻っていった。
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