婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

赤ずきんはかく語りける

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カーラがピーターを仕留め、その隙に乗じた駆除人たちが悪人たちを始末していく中で、ロビンはまだ息があった。矢による痛みは残っており、体を動かそうとすれば矢による痛みは更に強くなってしまうだろう。
地面の上に大の字となったロビンは小さな声で吐き捨てたのであった。

「……こういう時、エイブリーならなんていうのかな?『クソッタレ』とは言わないか……彼の口は綺麗だったから」

エイブリー。ロビンはその名前に、そしてその存在にどれだけ助けられただろう。
幼い頃から共に育ってきた二人は互いの存在に助けられた。一人になり辛い時はエイブリーの名前を思い出し心を助けられたし、赤ずきんになってからはエイブリーに命を助けられたこともあった。


二人で背中を守り合いながらこなしてきた依頼というのはばかり知れないものがあり、それは二人にとっての誇りであり、勲章であったといってもいいだろう。

輝かしい記憶がある一方で消えるはずがない痛みがある。消せるはずがない記憶がある。
それは心の内に巣食う過去という名の魔物である。

ロビンは産まれた時から世間でいうところのちゃんとした格好よりも異性の格好をして過ごす方が好きであった。
何故だかわからない。それでも男の格好よりも異性の格好の方が好きであったのだ。ロビンという中性的な名前も彼は気に入っていた。

一方で異性の格好をすることに対して両親はいい顔をしなかった。当然である。
また、周りも同様であった。異性の格好をしたロビンとエイブリーは周囲からからかいの標的となった。
ロビンは何度も好きな格好をしたいと両親や周囲に訴えかけたが、その度に訴えは退けられ、彼の好まぬ服を着させられた。

ロビンは学校に通う中で、

(こんなのおかしいよ。ぼく本当は可愛らしい格好がしたいのに。どうして、パパもママもわかってくれないの?)

と、無意識のうちに問い掛けていた。そのことを理解できたのは彼の最愛の人物にして双子の兄であるエイブリーのみであった。

王国騎士の家であるブラックリィ家の恥晒しとロビンと同様に両親や周囲から煽られてはいたものの、弟同様の考えを捨てなかった。
そんなこともあって、双子の兄弟は寄り添うように生きた。そして、いつしか依存は愛情へと変わり、血の繋がった双子の兄弟であることや男同士であるということも忘れ、夢中になって愛し合うようになっていた。
そして禁断の愛が芽生えていくのと、赤ずきんを被り、「狼狩り」という形で人に頼まれて人を殺すようになっていった。

これも兄弟共にである。当初こそ二人は森の奥に住む「大婆様」と呼ばれる殺しの元締めからもらう金だけを目当てに殺しを続けてきたが、次第に自分たちの快楽として「狼狩り」を楽しむようになっていった。
兄弟同士の愛を、自分たちの好きなことを行うことを抑圧し、見知らぬふりをしてきた人たちを殺すことが堪らなかったのだ。次第に気分次第で人を殺すようになり、「大婆様」からは追放するかのように依頼遂行という目的で城下町へと追いやられたのである。

それが今この場で返り討ちにあって倒れている自分へと繋がったのだ。本来であるのならば「大婆様」を恨み、この場を生き残った暁には「大婆様」へと報復を行うべきだろう。
だが、今のロビンにそんなことをする気力はない。いいや、正確には「残っていなかった」と称するべきだろう。

今のロビンはうっすらとした意識の中で、カーラを仕留めることのみを考えていた。手始めにロビンが行ったのは自身の体に突き刺さった矢を引き抜くことであった。矢を地面の上へと放り投げ、溢れ出る血を片手で抑えながら、必死に体を這って、エイブリーの元へと向かう。
飾り紐はまだ手元に残っているが、無念の思いで死んだエイブリーの得物で仕事を終わらせたかったのだ。

ロビンはやっとの思いでエイブリーの手に握られた櫛を取り、それから下唇を噛み締めながら立ち上がって、カーラの元へと向かっていく。
カーラはネオドラビア教の刺客たちを片付けて仲間たちと共に帰る最中であった。今ならば油断していて隙だらけだ。
駆除人たちの背中を見て、確信を得たロビンは最後の力を振り絞って、カーラへと襲い掛かっていく。
ロビンにとって運が悪かったのはカーラが腕利きの駆除人であったことだろう。カーラは駆除人としての本能で背後からの気配に気が付き、慌てて振り返ったのである。
気が付かれはしたものの、今更ロビンは止まることができない。雄叫びを上げながら櫛を振り上げていく。

櫛はカーラの着ていた服の肩部分を破いた。しかし、肝心の体には掠めさえしていない。
そればかりか、返す刀とやらでロビンはカーラによって針で心臓を突き刺されてしまったのである。
ロビンは最後の攻撃の機会と引き換えにその命を失ってしまったのである。
カーラ息を切らしながらも、何か思うところがあったのだろう。無念の思いで倒れたロビンに対し、見下ろすことはせずにしゃがんで、対等な視線を合わせながら言った。

「……あなたに何があったのかはわかりませんけれど、それでもあなたを動かす何かがあったのでしょうね」

相手を哀れむような口調であったのが意外で、それを聞いたギークが意外そうな口調で尋ねた。

「珍しいね。カーラが敵に同情するなんてさ」

「……そうですわね。私も驚いておりますわ」

「本当にそう思わせる何かがあったんだろうねぇ」

レキシーの言葉にカーラは黙って頷く。
こうして、どこか重い空気が漂う中で赤ずきん並びに城下町の中へと潜り込んだネオドラビア教戦士たちとの決戦は終了したのだった。

死亡したマテオを除く駆除人たちはギルドへと戻り、慰労のために酒を呑んでいた。今回はギルドマスターの奢りということもあり、各々が酒を愉しみ、料理に舌鼓を打っていた。
マテオの死は悲しかったが、生き残った七人はマテオに捧げるようにささやかな宴会を楽しんだのである。

そんな中で、カーラは一人だけ密かにロビンにも献杯を行っていた。
カーラはロビンの過去など知る由がない。ただ、あの鬼気迫る執念というものに敬意を表していたのである。
献杯が終わるのと同時にカーラは黙って白色の酒を飲み終えた。
いつもならば何も感じない酒であるのだが、この日はどこかほろ苦く感じた。


















「この役立たずがッ!」

自室に置かれた快適な長椅子の上に優雅に腰を掛けながら、イメルダ・プラフティー公爵夫人はギヤマンのワイングラスを片手に報告を行っていたメイドのレイラを叱責していた。
レイラは平身低頭で謝り続けるものの、イメルダの機嫌が治る様子は見えない。
イメルダは余程、面白くなかったのか、既にワインを五本も空けていた。
それでも、顔には赤くなった様子を見せないのだから大したものである。

レイラが半ば感心した様子でイメルダの様子を窺っていた時だ。扉を叩く音が聞こえ、レイラは扉を開き、来客を出迎えた。

来客として現れたのはあの毒殺未遂騒動以降、現国王フィンからは白い目で見られているイメルダの甥にして有力貴族ハンセン家の長男、ロバートであった。
ロバートは手土産のつもりか、両手に高価な果実酒が携えられていた。
ロバートはレイラに土産の果実酒を渡し、二人分の酒を作るように指示を出し、叔母が座っているのと同じ長椅子の上に腰を掛けた。

「叔母上、本日は大変ご機嫌が悪いようで」

「……そこの不出来なメイドが忌々しい小娘の始末を助けるはずだったのにも関わらず、それができなかったものでね」

イメルダはそれだけ語り終えると、レイラから受け取った果実酒を一気に飲み干し、自身の不満を伝えていく。

「それは大変でしたなぁ。しかし、大貴族の叔母上ともあろうものがたかだか小娘一人にここまで苦戦するとは……」

イメルダにとっては実の娘、ロバートにとっては従兄弟であるのにも関わらず敢えて二人は「小娘」と蔑称で呼んでいることから二人が昔からカーラを恨みもしくは蔑んでいたということがわかるだろう。
だからこそ、イメルダは普段嫌っている甥とも共に長椅子に座りながら酒を飲むことができるのだ。

それでも長らく接点の少なかった二人は会話が思い付かなかったのか、しばらくの間無言で酒を啜り、時折レイラが盆に乗って持ってくるベーコンやハムといったつまみを口にしていた。
ロバートが口を開いたのは共に二人で酒を呑み、新たに三本ほどのワインを開けてからだろう。
ロバートはギヤマンのワインを片手に未だに素面のイメルダに向かって問い掛けたのであった。

「叔母上はこの先、どうしてあの小娘を始末なされる気です?」

その問い掛けにイメルダは忌々しいと言わんばかりに歯を軋ませながら答えた。

「決まっているでしょう?新たな刺客を探し出して、雇い入れ、あの小娘を始末するのよ」

「それに関してですが、叔母上……私、耳寄りな情報を仕入れましてな」

「耳寄りな情報ですって?」

「えぇ、巷に害虫駆除人なる輩の存在を耳にしましてな。今度の刺客はその方々にお任せになられればよろしいのでは?」

害虫駆除人。市井の噂となっている殺し屋の名称である。害虫と呼ばれた人物に対し、金を受け取って殺す存在で、その相手は貴族であろうが、平民であろうが、貴賎なく始末する存在であるのだ。
ここだけの話であるが、城下町に屋敷を束ねる貴族の中で不審な病死や事故死を迎えた人間は大抵が家の体裁を保つための嘘であり、その多くが駆除人による駆除であるという話をイメルダは社交界で仕入れていた。

もし、害虫駆除人に連絡を取ることができれば、亡くなったマルグリッタの無念を晴らし、自分にとっての忌まわしい存在を片付けることができるだろう。
イメルダは身を乗り出しながらロバートに詳細を尋ねていく。
だが、ロバートもどこに行けば駆除人に依頼ができるということは知らないのだという。

ここで、白羽の矢が立ったのは潜入調査を言い付けられているレイラである。
イメルダはレイラに駆除人との連絡方法を見つけ、依頼を受諾させることを約束させ、その場を下がらせたのであった。
イメルダはワインを片手に今度こそ娘の死を確信し、不敵な笑みを浮かべたのであった。
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