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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』
闇に光る目
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とある日の昼下がり。休日ということだけもあり、人は多かった。
カーラは買い物を済ませ、食事を終えると、発売されたばかりの探偵小説を買いに出掛けていた。
今日は特に何もない平穏な日である。用事がないという休日の素晴らしさを幼い頃からカーラは知っていたために、半ば無意識のうちに鼻歌を歌っていた。
楽しい気分のまま本屋へと到着し、本屋の店頭に並んでいる残り一冊という目当ての探偵小説の新刊を手に取ろうとした時だ。
カーラが伸ばした手と背後から伸ばした手が触れ合った。柔らかく白い手である。
女性の手に違いない。カーラが背後を振り返ると、そこには小動物のような愛らしい顔をした女性の姿が見えた。
二つ結びに結ばれた赤い色の髪と僅かに残ったそばかすが目立つ若い女性だった。いや、下手をすれば少女と言ってもいいかもしれない。
カーラは愛らしい少女の困ったような顔を見ると、居た堪れなくなってしまったのか、あっさりと手を引っ込め、その女性に探偵小説を譲ったのだった。
「あの、ありがとうございます」
彼女は小さくても、小動物のような可愛らしさを感じる声で感謝の言葉を述べた。
「いいえ、この探偵小説が好きだというのならば私もあなたも同じ小説を愛好するお仲間ということになりますわ。何も遠慮なさることはございませんのよ」
彼女は照れ臭そうに両頬を赤く染め上げながら本屋の中へと消えていったのだった。
カーラはそれを見届けると、満足気な笑みを浮かべながら同じシリーズの外伝とも呼ばれる作品を買いに向かったのだった。探偵小説を購入し、立ち去る間際に先程、自分と手が触れ合った少女の姿を目撃した。
そこで見た彼女は貴族と思われる男性に怒られているようだ。
彼女を叱責しているのは着ている服が庶民のものとは大きく異なる紋章や金色の刺繍が裾に施された外套を羽織った白髪と既に前髪が後退し生え際が目立つ中年の男性だった。
その近くには王様のメタファーと思われる赤い鱗を持つ竜によって教え屋に学ばされている円形の角を生やし、背中から翼を生やした魔物という紋章が刻まれた馬車の姿が見えた。
カーラはその紋章が王国内の有力貴族であるルーラルランド男爵家の紋章であるということがわかった。
そして、あの中年男性は現ルーラルランド家の当主であるカレッジであるに違いない。カレッジという男はベクターに近い存在であるとも言われており、かつては現国王フィンに対して明確な敵意を持って臨んでいたということを覚えている。
だが、その一方でネオドラビア教については嫌悪しており、昨日のネオドラビア教壊滅に連座しての爵位剥奪や資産没収などの憂き目は免れたらしい。
大した人物である。ネオドラビア教と懇意でなかったというだけで、あのような悍ましい行いが許されるのだから……。
カーラは人前であるにも関わらず、大声で叱責され、人格否定とも思われる言葉さえ投げ掛けられている赤い髪の少女を哀れむような目で見遣っていた。
いよいよ、彼女の目から涙が溢れてきた時だ。カレッジは彼女の目から溢れた涙が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せ、歯を軋ませてから少女が持っていた探偵小説を奪い取り、そのまま地面の上へと投げ付けると、それを靴で無茶苦茶に踏み抜いたのだった。
あまりの出来事を前にして唖然とする少女の手を引っ張ると、乱暴に馬車へと押し込み、そのまま屋敷へと戻っていったのだった。
カレッジの馬車が通り過ぎるのを見ると、少女が虐められる様を見ていた人々が次々とカレッジへの文句を吐き捨てていくのだった。
「ルーラルランドの奴め、男爵だからって偉そうにしやがって……」
「本当、何様のつもりよ。あんな子に」
「ったく、王様が変わっても貴族の奴らは何も変わらねぇ。相変わらず、自分たちは力があると思い込んで、乱暴を働いてやがる」
人々が思い思いに愚痴を吐き捨てていた時だ。近くで女性の悲鳴が聞こえた。人々の関心がルーラルランド男爵からそちらへと向かっていく。
どうやら傭兵崩れと思われる柄の悪い男性二名がたまたま目を付けた女性に絡んでいるらしい。
女性には恋人が居たのだが、どうも柄の悪い男たちに殴り飛ばされた上に酷い暴行を加えられたのか、道の端で呻き声を上げていた。
その姿を見た通行人の一人が思わず吐き捨てた。
「クソッタレ、腐ってるのは貴族だけじゃねぇ。どこもかしこもだ」
その言葉聞こえたのか、二人組の傭兵の一人が人々の元に現れ、先程その言葉を吐いた男を人々の前から無理やり剥がし、自分達の前に引き寄せると、勢いよくその顔を殴り付けたのだった。
「誰が腐ってるって?えっ?」
傭兵の男は先程愚痴を吐き捨てた男の胸ぐらを掴み上げながら問い掛けた。
「そ、そんな……」
男は必死に言い訳の言葉を考えていたのだが、傭兵の男は愚痴を吐き捨てた男の言葉など耳に入っていなかったらしい。
男の言い訳など聞くこともなく、男を殴り続けていたのだった。
あまりにも凄惨な光景に我慢ができず、カーラが袖の中に仕込んでいる針を取り出し、そのまま男たちを駆除してしまおうかと考えていた時だ。
「お待ちなされ」
と、背後から男たちを呼び止める声が聞こえた。男たちが振り返ると、そこには恰幅の良い五十ほどの白髪混じりの男性が硬貨の入ったと思われる小さな袋を持って現れたのだ。
男は袋から金貨を取り出し、それを掌の上に載せながら男たちに向かって笑い掛けた。
「この金貨でその人と先程のお嬢さんを見逃してやってくれんかな?」
男たちはその姿を見て、顔を見合わせていたが、次第に頬を吊り上げて満足気な笑みを浮かべていく。
「そうか、なら仕方がねぇな。その金貨とお前さんが持っている袋を差し出せば見逃してやらんこともないなぁ」
「そうですか、お安い御用です」
恰幅の良い男は男に袋を手渡し、二人を帰らせると、女性の元へと駆け寄り、慰めの言葉を掛けた。
「大丈夫でしたかな?」
「えぇ、大丈夫です。それよりもあなたは?」
「わしですか?わしは単なる旅の隠居でございますよ」
男はそう言って笑っていたが、カーラにはどうも単なる隠居した老人には見えない。どこか決定的な秘密を隠し持っているような気がしてならなかったのだ。
カーラがその老人を見つめていると、老人の背後から丸い帽子を被った二人の男が慌てて追い掛けてきた。
「ご隠居、勝手な行動をなさるなとあれ程……」
「おぉ、テオドアにハンターか。よかったらお前さんたち、力を貸してくれんか?」
「力と申しますと?」
「そこに大きな怪我を負った御仁が二人もいらしてな。わし一人で運ぶのには少々骨が折れるのじゃ」
老人の指示を受けたテオドアとハンターとはそれぞれ負傷した男たちに肩を貸し、病院へと運んでいったのだった。
感心するべきところは二人が負傷した男性を意気揚々と運んでいるところだろう。通常であるのならば人一人に力を貸せば多少なりとも辛さを見せるが、テオドアとハンターからはその様子は感じ取れなかった。
只者ではない。確信を得たカーラは自宅に帰ってからレキシーにそのことを話したのだが、レキシーは困ったような笑みを浮かべながら、
「あんた、そりゃあ、気にし過ぎだよ」
と、なんでもなさげな様子で言ってのけた。
「で、でも、あれは普通の人間にはできませんわ!余程、訓練を積んだ人じゃないと」
「仮にそうだとしても、その人たちが迷惑をかけたわけじゃないだろ?それどころか、逆に迷惑をかけた人を制裁しているじゃあないか」
「そ、そうですけれど」
「じゃあ、問題はないさ。それより明日も診療所は開いてるんだから、それに備えて準備しなよ」
レキシーに言われてしまえば仕方がない。その日は準備をして過ごすことになったのだが、どこか悶々とした気分を抱えたまま過ごす羽目になったことはいうまでもあるまい。
カーラの心配が現実のものとなったのは翌日のことであった。
翌日、診療所の手伝いを行なっていると、患者同士の話の中に昨日の傭兵崩れの話が出てきたのだが、不思議なことに傭兵崩れの二人が昨日の夜に何者かに惨殺され、金を奪い取られたという話が出てきたのだ。
患者たちからすれば単なる噂話に過ぎなかったのだが、カーラからすれば一大事であった。
やはり、あの恰幅の良い男は只者ではなかったのだ。もしかすれば、どこからか自分たちを狙うために派遣された刺客の類であるかもしれない。他にも金付くで善人の命を奪う駆除人の類であるかもしれない。
やはり、放ってはおけない。カーラは昼休憩の時間を利用して、ギルドマスターの元へと相談に向かった。
ギルドマスターはカーラの話を聞いている間、黙ってお茶を淹れていたのだが、話が終わるのと同時にお茶を差し出し、難しい顔を浮かべながら自分の意見を述べていくのだった。
「なぁ、カーラ。駆除人ギルドっていうのはな。昔からギルドマスターによって直轄されているんだが、オレたちギルドマスターの上にも上がいるんだよ。あんたの爺さんから習わなかったか?」
カーラはかつて祖父から習った言葉を思い返していた。
各街にはそれぞれ駆除人が存在し、それを束ねるギルドマスターがおり、そのギルドマスターは更に上、駆除人ギルド総会と呼ばれる総会によって運営されているのだという。
総会は五人のボスによってなる会議で動かされ、そのボスの直属の配下として各街のギルドマスターや駆除人を見張り、腐敗していたのならば総会を動かし、腐敗したマスターや駆除人の駆除へと動き出す“番犬”と呼ばれる存在がある。
「ということはあのお三方は総会より派遣された番犬ということですのね?」
「可能性は高いな。恐らくオレたちを監視しに来たんだろうな」
「順番ですものね。駆除されなければならない理由がないにしても、私たちも期間があるとはいえ監視を受けなくてはならないのは少し遺憾に思いますわ」
カーラは不満げな様子でギルドマスターが淹れたお茶を飲み干した。
それから椅子の上から立ち上がり、診療所へと戻っていく。
その道中のことだ。
「お嬢さん、よろしいですかな?」
と、背後から声をかけられた。カーラがゆっくりと振り返ると、そこには噂の老人がお供と思われる男性を引き連れて立っていた。
あとがき
皆様、投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありません。
そして、重ね重ねのお詫びとなりますが、本日は予定のために1話しか投稿できませんでした。次回の更新ではなんとか二話ほど書き上げようと思いますので、本日のところは大目に見てくだされば幸いです。
カーラは買い物を済ませ、食事を終えると、発売されたばかりの探偵小説を買いに出掛けていた。
今日は特に何もない平穏な日である。用事がないという休日の素晴らしさを幼い頃からカーラは知っていたために、半ば無意識のうちに鼻歌を歌っていた。
楽しい気分のまま本屋へと到着し、本屋の店頭に並んでいる残り一冊という目当ての探偵小説の新刊を手に取ろうとした時だ。
カーラが伸ばした手と背後から伸ばした手が触れ合った。柔らかく白い手である。
女性の手に違いない。カーラが背後を振り返ると、そこには小動物のような愛らしい顔をした女性の姿が見えた。
二つ結びに結ばれた赤い色の髪と僅かに残ったそばかすが目立つ若い女性だった。いや、下手をすれば少女と言ってもいいかもしれない。
カーラは愛らしい少女の困ったような顔を見ると、居た堪れなくなってしまったのか、あっさりと手を引っ込め、その女性に探偵小説を譲ったのだった。
「あの、ありがとうございます」
彼女は小さくても、小動物のような可愛らしさを感じる声で感謝の言葉を述べた。
「いいえ、この探偵小説が好きだというのならば私もあなたも同じ小説を愛好するお仲間ということになりますわ。何も遠慮なさることはございませんのよ」
彼女は照れ臭そうに両頬を赤く染め上げながら本屋の中へと消えていったのだった。
カーラはそれを見届けると、満足気な笑みを浮かべながら同じシリーズの外伝とも呼ばれる作品を買いに向かったのだった。探偵小説を購入し、立ち去る間際に先程、自分と手が触れ合った少女の姿を目撃した。
そこで見た彼女は貴族と思われる男性に怒られているようだ。
彼女を叱責しているのは着ている服が庶民のものとは大きく異なる紋章や金色の刺繍が裾に施された外套を羽織った白髪と既に前髪が後退し生え際が目立つ中年の男性だった。
その近くには王様のメタファーと思われる赤い鱗を持つ竜によって教え屋に学ばされている円形の角を生やし、背中から翼を生やした魔物という紋章が刻まれた馬車の姿が見えた。
カーラはその紋章が王国内の有力貴族であるルーラルランド男爵家の紋章であるということがわかった。
そして、あの中年男性は現ルーラルランド家の当主であるカレッジであるに違いない。カレッジという男はベクターに近い存在であるとも言われており、かつては現国王フィンに対して明確な敵意を持って臨んでいたということを覚えている。
だが、その一方でネオドラビア教については嫌悪しており、昨日のネオドラビア教壊滅に連座しての爵位剥奪や資産没収などの憂き目は免れたらしい。
大した人物である。ネオドラビア教と懇意でなかったというだけで、あのような悍ましい行いが許されるのだから……。
カーラは人前であるにも関わらず、大声で叱責され、人格否定とも思われる言葉さえ投げ掛けられている赤い髪の少女を哀れむような目で見遣っていた。
いよいよ、彼女の目から涙が溢れてきた時だ。カレッジは彼女の目から溢れた涙が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せ、歯を軋ませてから少女が持っていた探偵小説を奪い取り、そのまま地面の上へと投げ付けると、それを靴で無茶苦茶に踏み抜いたのだった。
あまりの出来事を前にして唖然とする少女の手を引っ張ると、乱暴に馬車へと押し込み、そのまま屋敷へと戻っていったのだった。
カレッジの馬車が通り過ぎるのを見ると、少女が虐められる様を見ていた人々が次々とカレッジへの文句を吐き捨てていくのだった。
「ルーラルランドの奴め、男爵だからって偉そうにしやがって……」
「本当、何様のつもりよ。あんな子に」
「ったく、王様が変わっても貴族の奴らは何も変わらねぇ。相変わらず、自分たちは力があると思い込んで、乱暴を働いてやがる」
人々が思い思いに愚痴を吐き捨てていた時だ。近くで女性の悲鳴が聞こえた。人々の関心がルーラルランド男爵からそちらへと向かっていく。
どうやら傭兵崩れと思われる柄の悪い男性二名がたまたま目を付けた女性に絡んでいるらしい。
女性には恋人が居たのだが、どうも柄の悪い男たちに殴り飛ばされた上に酷い暴行を加えられたのか、道の端で呻き声を上げていた。
その姿を見た通行人の一人が思わず吐き捨てた。
「クソッタレ、腐ってるのは貴族だけじゃねぇ。どこもかしこもだ」
その言葉聞こえたのか、二人組の傭兵の一人が人々の元に現れ、先程その言葉を吐いた男を人々の前から無理やり剥がし、自分達の前に引き寄せると、勢いよくその顔を殴り付けたのだった。
「誰が腐ってるって?えっ?」
傭兵の男は先程愚痴を吐き捨てた男の胸ぐらを掴み上げながら問い掛けた。
「そ、そんな……」
男は必死に言い訳の言葉を考えていたのだが、傭兵の男は愚痴を吐き捨てた男の言葉など耳に入っていなかったらしい。
男の言い訳など聞くこともなく、男を殴り続けていたのだった。
あまりにも凄惨な光景に我慢ができず、カーラが袖の中に仕込んでいる針を取り出し、そのまま男たちを駆除してしまおうかと考えていた時だ。
「お待ちなされ」
と、背後から男たちを呼び止める声が聞こえた。男たちが振り返ると、そこには恰幅の良い五十ほどの白髪混じりの男性が硬貨の入ったと思われる小さな袋を持って現れたのだ。
男は袋から金貨を取り出し、それを掌の上に載せながら男たちに向かって笑い掛けた。
「この金貨でその人と先程のお嬢さんを見逃してやってくれんかな?」
男たちはその姿を見て、顔を見合わせていたが、次第に頬を吊り上げて満足気な笑みを浮かべていく。
「そうか、なら仕方がねぇな。その金貨とお前さんが持っている袋を差し出せば見逃してやらんこともないなぁ」
「そうですか、お安い御用です」
恰幅の良い男は男に袋を手渡し、二人を帰らせると、女性の元へと駆け寄り、慰めの言葉を掛けた。
「大丈夫でしたかな?」
「えぇ、大丈夫です。それよりもあなたは?」
「わしですか?わしは単なる旅の隠居でございますよ」
男はそう言って笑っていたが、カーラにはどうも単なる隠居した老人には見えない。どこか決定的な秘密を隠し持っているような気がしてならなかったのだ。
カーラがその老人を見つめていると、老人の背後から丸い帽子を被った二人の男が慌てて追い掛けてきた。
「ご隠居、勝手な行動をなさるなとあれ程……」
「おぉ、テオドアにハンターか。よかったらお前さんたち、力を貸してくれんか?」
「力と申しますと?」
「そこに大きな怪我を負った御仁が二人もいらしてな。わし一人で運ぶのには少々骨が折れるのじゃ」
老人の指示を受けたテオドアとハンターとはそれぞれ負傷した男たちに肩を貸し、病院へと運んでいったのだった。
感心するべきところは二人が負傷した男性を意気揚々と運んでいるところだろう。通常であるのならば人一人に力を貸せば多少なりとも辛さを見せるが、テオドアとハンターからはその様子は感じ取れなかった。
只者ではない。確信を得たカーラは自宅に帰ってからレキシーにそのことを話したのだが、レキシーは困ったような笑みを浮かべながら、
「あんた、そりゃあ、気にし過ぎだよ」
と、なんでもなさげな様子で言ってのけた。
「で、でも、あれは普通の人間にはできませんわ!余程、訓練を積んだ人じゃないと」
「仮にそうだとしても、その人たちが迷惑をかけたわけじゃないだろ?それどころか、逆に迷惑をかけた人を制裁しているじゃあないか」
「そ、そうですけれど」
「じゃあ、問題はないさ。それより明日も診療所は開いてるんだから、それに備えて準備しなよ」
レキシーに言われてしまえば仕方がない。その日は準備をして過ごすことになったのだが、どこか悶々とした気分を抱えたまま過ごす羽目になったことはいうまでもあるまい。
カーラの心配が現実のものとなったのは翌日のことであった。
翌日、診療所の手伝いを行なっていると、患者同士の話の中に昨日の傭兵崩れの話が出てきたのだが、不思議なことに傭兵崩れの二人が昨日の夜に何者かに惨殺され、金を奪い取られたという話が出てきたのだ。
患者たちからすれば単なる噂話に過ぎなかったのだが、カーラからすれば一大事であった。
やはり、あの恰幅の良い男は只者ではなかったのだ。もしかすれば、どこからか自分たちを狙うために派遣された刺客の類であるかもしれない。他にも金付くで善人の命を奪う駆除人の類であるかもしれない。
やはり、放ってはおけない。カーラは昼休憩の時間を利用して、ギルドマスターの元へと相談に向かった。
ギルドマスターはカーラの話を聞いている間、黙ってお茶を淹れていたのだが、話が終わるのと同時にお茶を差し出し、難しい顔を浮かべながら自分の意見を述べていくのだった。
「なぁ、カーラ。駆除人ギルドっていうのはな。昔からギルドマスターによって直轄されているんだが、オレたちギルドマスターの上にも上がいるんだよ。あんたの爺さんから習わなかったか?」
カーラはかつて祖父から習った言葉を思い返していた。
各街にはそれぞれ駆除人が存在し、それを束ねるギルドマスターがおり、そのギルドマスターは更に上、駆除人ギルド総会と呼ばれる総会によって運営されているのだという。
総会は五人のボスによってなる会議で動かされ、そのボスの直属の配下として各街のギルドマスターや駆除人を見張り、腐敗していたのならば総会を動かし、腐敗したマスターや駆除人の駆除へと動き出す“番犬”と呼ばれる存在がある。
「ということはあのお三方は総会より派遣された番犬ということですのね?」
「可能性は高いな。恐らくオレたちを監視しに来たんだろうな」
「順番ですものね。駆除されなければならない理由がないにしても、私たちも期間があるとはいえ監視を受けなくてはならないのは少し遺憾に思いますわ」
カーラは不満げな様子でギルドマスターが淹れたお茶を飲み干した。
それから椅子の上から立ち上がり、診療所へと戻っていく。
その道中のことだ。
「お嬢さん、よろしいですかな?」
と、背後から声をかけられた。カーラがゆっくりと振り返ると、そこには噂の老人がお供と思われる男性を引き連れて立っていた。
あとがき
皆様、投稿が遅れてしまい誠に申し訳ありません。
そして、重ね重ねのお詫びとなりますが、本日は予定のために1話しか投稿できませんでした。次回の更新ではなんとか二話ほど書き上げようと思いますので、本日のところは大目に見てくだされば幸いです。
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