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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』
ヒューゴ、ギーク共に動く
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ヒューゴとギークの両名はギルドマスターの依頼を受けて以来、日程にして二日ぶりに『ビクトム』という石造りの二階建ての宿屋に籠りながり、テオドアとハンターという厄介な悪の道に堕ちた駆除人たちをどのように仕留めるのかということを話し合っていた。
護衛であるギークが抜けた時間の穴は別の駆除人が代わりに護衛として、派遣されるということなので、ウィリアムに関しては心配することもないだろう。ギークとしても安心してヒューゴとの話し合いに応じることができた。
二人が間借りする『ビクトム』の一角で、二人は酒を啜り、脚がついた鶏肉に、キャベツと青豆のサラダ、よく煮込まれたカブのスープ、籠の中に入った三種類のパンという豪華な夕食が机の上に並べられていた。
ギークは皿の上に大きく置かれた鶏肉に口を付けながら、自身が考えた計画を再度口にしていく。
「つまるところ、奴らがもう一度襲い掛かってきたところを狙い撃ちにするのさ。そうすれば、奴らは一網打尽ってわけだ」
「それに関しては異論がないよ。けど、どうやって奴らを誘き寄せるのさ?」
ヒューゴがカブのスープを啜りながら問い掛けた。
だが、ギークは返事を返さなかった。懸命にカブのスープを啜っているように見せていたが、実際のところは困惑しているのだろう。
恐らく、肝心の誘き出し計画というものが思い浮かばなかったのだろう。例えるのならば作戦は浮かんだものの、肝心の戦術が思い浮かばずに行き詰まっているというところだろうか。
ヒューゴは過去の歴史上において、今のギークのような計画を出して、将兵を困らせる高級将校の話を思い出した。
救いともいえるのはその将兵は今のような作戦を実行したのだが、ギークはあくまでもそれを口にしただけなのだ。
これだけならばまだ救いようもある。一緒に作戦を考えていけばいいだけだ。
ヒューゴが苦笑しながら作戦を共に考えようと口にした時だ。
「失礼します」
と、ノックの音が聞こえた。
ヒューゴが入室を許可すると、温かいお茶が入ったお盆と小さなレモンケーキを乗せたお盆を持ったクイントンの姿が見えた。
甘いものが好物であるギークは湯気の立っている淹れられたばかりのお茶とレモンケーキという組み合わせに目を輝かせていた。
話も途中で切り上げ、わざわざお盆を取りに向かったのだ。
まるで、宝物を抱えるかのように大事そうにお盆を抱えて席へと戻っていくギークの傍で、クイントンがヒューゴに声を掛けた。
クイントンはハンセン公爵家の駆除依頼、駆除人として正式にギルドへと迎え入れられたのだ。
表稼業の世話をしたのはギルドマスターであり、丁度人手が足りなかった『ビクトム』に口を利き、クイントンを潜り込ませたのである。
これには二つの意味がある。一つはクイントンに生活の糧を与えるため、もう一つは『ビクトム』の中に彼を潜り込ませることで、『ビクトム』を駆除人たちにとって安全な会合場所とするためだ。
クイントンもその意図を分かっており、仕事を紹介された際には文句の一つも言わずに受け入れたのだ。
その時と同じような和かな笑みを浮かべながら確認を行なったのだ。
「大変ですねぇ。なんでもギルドマスターから大掛かりな駆除を依頼されてるとか」
「そうだよ。しかし、あんたは気楽でいいよな」
ヒューゴは疲れからか、嫌味を発した後で、脱力したように勢いよく背もたれにもたれかかっていく。ここ二日、敵の動向を探り続けていたためか、疲労が蓄積していたためだろう。疲弊した体は少し気を抜いて、力を落としただけで、ズルズルと地面の上へと滑り落ちていく。
仕舞いには尻もちさえ打ってしまい、ヒューゴはお尻をさする羽目になってしまったが、そんなヒューゴにクイントンは優しく手を差し伸ばしていく。
「何か自分にもお手伝いできることがあれば言ってください。不詳の身なれども一流の駆除人としてお役に立ってご覧にいれましょう」
クイントンの目には確かな覚悟が見受けられた。大好きなカーラを守るという確固たる決意だ。
ヒューゴからすれば同じ人物に恋焦がれる恋敵ということになる。すなわちクイントンの力を借りるというのは自身の恋敵に借りを作るということになる。
ヒューゴにとって本来であるのならば避けなくてはならないことだ。
しかし、駆除人である以上は私情を優先させるわけにはいかない。
ただでさえ今回の駆除は厄介な相手なのだ。ヒューゴは表向きは愛想の良い顔を浮かべながらクイントンに討伐の案を問い掛けた。
クイントンはヒューゴの妥協案を聞いてしばらくの間は妙案が思い付かず、唸り声を上げていたが、やがて妙案を思いついたのか、人差し指を掲げ、得意げな顔を浮かべて言った。
「噂です。人の噂を利用して誘き出すんです」
「噂だって?」
話を聞いていたヒューゴとそれまではレモンケーキをパクついていたはずのギークが殆ど同時に声を合わせて問い掛けた。
「えぇ、奴らにとって美味しい噂を流して、奴らを誘き寄せるんです」
それは、ウィリアムの体調が戻り、既に根城にしていた空き家に戻ったという噂だ。
クイントンがわざわざ空き家を選んだ理由は関係のない人たちを巻き込まないためである。そのためわざわざ場所を病院から元々彼が根城にしていた郊外の空き家に移し、そこでヒューゴとギークの両名が待ち伏せを行うという作戦である。
もちろん、怪しまれないために本物は極秘裏にベッドを移し、安全が保障されるまでの間は駆除人ギルドとなる酒場の一室へと医師と看護師をつけて移ることになっている。
問題はこの箇所であるが、ギルドマスターのコネクションがあればこそなせるはずだ。
三人は入念な打ち合わせなどを行った。夜遅くにギークが護衛の任務に戻ったところで、打ち合わせは終了となり、ヒューゴはそのまま宿の一室で心地の良い夢を見ることになった。
翌日になって心地の良い思いのまま宿を去ったヒューゴがギルドマスターにその件を打ち明けた。
二人の計画を聞いたギルドマスターはしばらくの間、腕を組み難しい表情を浮かべていた。
ヒューゴはてっきり自分たちにとってマイナスの返答を送られるものかと思われたのだが、ギルドマスターは呆気なくヒューゴの提案を了承したのだった。
かくして、計画は慎重かつ迅速に移された。クイントンによって噂が広まったのだ。
ウィリアム退院の噂を耳にしたリーデルランドの勅命を受けたゴーグによって、確実にウィリアムを始末するためにテオドアとハンターの両名が郊外の家に派遣されたのである。
テオドアとハンターの両名は今度は短剣ではなく、木こりが持つような鋭く尖った斧と巨大な鎚を持っていた。
互いにこのような武器を触ったことがないような人から見れば途方もない重さを誇るものだが、二人はそれを難なく肩に担ぎながら標的が住まう空き家へと向かっていた。
「それにしても今度の仕事は早く済ませたいものだな」
重い斧を担ぎながらでも冗談を飛ばせるテオドアは流石というべきだろう。駆除人総会にて番犬の護衛を務められる実力というものを窺い知ることができた。
「全くだ。年明けまでにはこんな仕事はさっさと終わらせて、温泉にでも浸かりたいものだ」
ハンターが相槌を打つ。こちらからも鎚を握っている故の疲労感などは一切感じられない。
二人はこれから遊びにでも出かけるかのような気軽な調子で標的の住む家へと向かっていた。
無駄食いを叩きながらであると、標的の元にはあまり時間の経過を気にすることなく辿り着けるらしい。二人の目に飛び込んできた建物は空き家というだけのことはあり、ところどころの塗装が剥げ落ち、建物の板さえ地面の上に落ちていた。屋根には穴さえ空いている。
屋根が一直線に破られていなかったのは不幸中の幸いというべきであるが、この場合は雨が降った場合にはそこから雨水が跳ね、雨粒が直撃することになるので、幸いとはいえないかもしれない。
テオドアはそんな無駄なことを考えていたが、ハンターは槌を振り上げて、一気に扉を打ち砕いた。
ただでさえボロボロであった扉が鎚の一撃で粉々に粉砕され、扉であった破片があちこちに散らばっていく。
二人はそのまま武器を構えて、中に潜んでいるはずのウィリアムを殺そうと目論んだが、中にいたのはウィリアムではなく、見知らぬ二人であった。
互いに武器を突き付けながら見知らぬ二人に向かって声を震わせながら叫ぶ。
「だ、誰だ貴様らは!?」
「本来だったら名乗る必要なんてないけど、冥界王の下賜品として教えてあげよう。ぼくの名前はギーク。この街の駆除人の一人だ」
「同じく、ヒューゴ。ヒューゴ・ド=ゴール。この街の駆除人だ」
両者は互いに剣を抜き、その剣先を二人に突き付けながら答えた。
「そうか、全て理解したぞ……貴様らは街中に噂を撒き散らして、その噂を元にウィリアムを始末しに現れたオレたちを待ち構えて、逆に始末するつもりだったんだな?」
テオドアが人差し指を震わせながら問い掛けた。二人は首肯する。その後になって、無表情で両手で剣を構えながら近付いていく。徐々にその距離は詰まっていく。後一歩で目と鼻の先にまで近寄ろうとしていた。このまま接近を許してしまえば狭い家の中で斬り合わなくてはなるまい。
家の中で斬り合いになったとしても、目の前にいる二人くらいであるのならばテオドアもハンターよりも腕は落ちるはずだ。それ故に思ったよりも簡単に始末できるはずだ。しかし、そんなことを行えば戦いの衝撃で家ごと崩れ落ちてしまう。
そうなれば自分たちの身もただでは済むまい。
二人はそのことを理解した。後退りをしながら慌てて入り口から飛び出ようと目論みたが、二人が素早く剣を上段から振り上げたまま、踏み込み、そのまま二人に怪我を負わせたのだ。
テオドアには右腕の筋に、ハンターには足の筋を、それぞれ傷を負わせた。
それでも脱出には成功したが、二人は大きなハンデを背負ったまま戦うことになってしまった。
郊外の広い草原の上で四人の駆除人がそれぞれ標的を睨み合っていく。
この四人のうち、最初に動いたのは右腕の筋に怪我を負ったテオドアである。
テオドアは巨大な斧を振り上げながらヒューゴへと斬りかかっていく。
もし、右腕の筋に攻撃を受けず、精細さを欠いていなければ恐らく五、六発目の斧でヒューゴは頭を叩き割られて死んでいたに違いない。
ヒューゴは改めて、陽動作戦を行っていたことに感謝した。それでも、テオドアは左手のみで巨大な斧を操り、なんとかしてヒューゴの首を跳ね飛ばそうと目論んでいた。
やはり、テオドアは腐ったとしても名うての駆除人である。ヒューゴはテオドアの斧が自らの顔の前を掠めた際に改めて思い知らされた。
護衛であるギークが抜けた時間の穴は別の駆除人が代わりに護衛として、派遣されるということなので、ウィリアムに関しては心配することもないだろう。ギークとしても安心してヒューゴとの話し合いに応じることができた。
二人が間借りする『ビクトム』の一角で、二人は酒を啜り、脚がついた鶏肉に、キャベツと青豆のサラダ、よく煮込まれたカブのスープ、籠の中に入った三種類のパンという豪華な夕食が机の上に並べられていた。
ギークは皿の上に大きく置かれた鶏肉に口を付けながら、自身が考えた計画を再度口にしていく。
「つまるところ、奴らがもう一度襲い掛かってきたところを狙い撃ちにするのさ。そうすれば、奴らは一網打尽ってわけだ」
「それに関しては異論がないよ。けど、どうやって奴らを誘き寄せるのさ?」
ヒューゴがカブのスープを啜りながら問い掛けた。
だが、ギークは返事を返さなかった。懸命にカブのスープを啜っているように見せていたが、実際のところは困惑しているのだろう。
恐らく、肝心の誘き出し計画というものが思い浮かばなかったのだろう。例えるのならば作戦は浮かんだものの、肝心の戦術が思い浮かばずに行き詰まっているというところだろうか。
ヒューゴは過去の歴史上において、今のギークのような計画を出して、将兵を困らせる高級将校の話を思い出した。
救いともいえるのはその将兵は今のような作戦を実行したのだが、ギークはあくまでもそれを口にしただけなのだ。
これだけならばまだ救いようもある。一緒に作戦を考えていけばいいだけだ。
ヒューゴが苦笑しながら作戦を共に考えようと口にした時だ。
「失礼します」
と、ノックの音が聞こえた。
ヒューゴが入室を許可すると、温かいお茶が入ったお盆と小さなレモンケーキを乗せたお盆を持ったクイントンの姿が見えた。
甘いものが好物であるギークは湯気の立っている淹れられたばかりのお茶とレモンケーキという組み合わせに目を輝かせていた。
話も途中で切り上げ、わざわざお盆を取りに向かったのだ。
まるで、宝物を抱えるかのように大事そうにお盆を抱えて席へと戻っていくギークの傍で、クイントンがヒューゴに声を掛けた。
クイントンはハンセン公爵家の駆除依頼、駆除人として正式にギルドへと迎え入れられたのだ。
表稼業の世話をしたのはギルドマスターであり、丁度人手が足りなかった『ビクトム』に口を利き、クイントンを潜り込ませたのである。
これには二つの意味がある。一つはクイントンに生活の糧を与えるため、もう一つは『ビクトム』の中に彼を潜り込ませることで、『ビクトム』を駆除人たちにとって安全な会合場所とするためだ。
クイントンもその意図を分かっており、仕事を紹介された際には文句の一つも言わずに受け入れたのだ。
その時と同じような和かな笑みを浮かべながら確認を行なったのだ。
「大変ですねぇ。なんでもギルドマスターから大掛かりな駆除を依頼されてるとか」
「そうだよ。しかし、あんたは気楽でいいよな」
ヒューゴは疲れからか、嫌味を発した後で、脱力したように勢いよく背もたれにもたれかかっていく。ここ二日、敵の動向を探り続けていたためか、疲労が蓄積していたためだろう。疲弊した体は少し気を抜いて、力を落としただけで、ズルズルと地面の上へと滑り落ちていく。
仕舞いには尻もちさえ打ってしまい、ヒューゴはお尻をさする羽目になってしまったが、そんなヒューゴにクイントンは優しく手を差し伸ばしていく。
「何か自分にもお手伝いできることがあれば言ってください。不詳の身なれども一流の駆除人としてお役に立ってご覧にいれましょう」
クイントンの目には確かな覚悟が見受けられた。大好きなカーラを守るという確固たる決意だ。
ヒューゴからすれば同じ人物に恋焦がれる恋敵ということになる。すなわちクイントンの力を借りるというのは自身の恋敵に借りを作るということになる。
ヒューゴにとって本来であるのならば避けなくてはならないことだ。
しかし、駆除人である以上は私情を優先させるわけにはいかない。
ただでさえ今回の駆除は厄介な相手なのだ。ヒューゴは表向きは愛想の良い顔を浮かべながらクイントンに討伐の案を問い掛けた。
クイントンはヒューゴの妥協案を聞いてしばらくの間は妙案が思い付かず、唸り声を上げていたが、やがて妙案を思いついたのか、人差し指を掲げ、得意げな顔を浮かべて言った。
「噂です。人の噂を利用して誘き出すんです」
「噂だって?」
話を聞いていたヒューゴとそれまではレモンケーキをパクついていたはずのギークが殆ど同時に声を合わせて問い掛けた。
「えぇ、奴らにとって美味しい噂を流して、奴らを誘き寄せるんです」
それは、ウィリアムの体調が戻り、既に根城にしていた空き家に戻ったという噂だ。
クイントンがわざわざ空き家を選んだ理由は関係のない人たちを巻き込まないためである。そのためわざわざ場所を病院から元々彼が根城にしていた郊外の空き家に移し、そこでヒューゴとギークの両名が待ち伏せを行うという作戦である。
もちろん、怪しまれないために本物は極秘裏にベッドを移し、安全が保障されるまでの間は駆除人ギルドとなる酒場の一室へと医師と看護師をつけて移ることになっている。
問題はこの箇所であるが、ギルドマスターのコネクションがあればこそなせるはずだ。
三人は入念な打ち合わせなどを行った。夜遅くにギークが護衛の任務に戻ったところで、打ち合わせは終了となり、ヒューゴはそのまま宿の一室で心地の良い夢を見ることになった。
翌日になって心地の良い思いのまま宿を去ったヒューゴがギルドマスターにその件を打ち明けた。
二人の計画を聞いたギルドマスターはしばらくの間、腕を組み難しい表情を浮かべていた。
ヒューゴはてっきり自分たちにとってマイナスの返答を送られるものかと思われたのだが、ギルドマスターは呆気なくヒューゴの提案を了承したのだった。
かくして、計画は慎重かつ迅速に移された。クイントンによって噂が広まったのだ。
ウィリアム退院の噂を耳にしたリーデルランドの勅命を受けたゴーグによって、確実にウィリアムを始末するためにテオドアとハンターの両名が郊外の家に派遣されたのである。
テオドアとハンターの両名は今度は短剣ではなく、木こりが持つような鋭く尖った斧と巨大な鎚を持っていた。
互いにこのような武器を触ったことがないような人から見れば途方もない重さを誇るものだが、二人はそれを難なく肩に担ぎながら標的が住まう空き家へと向かっていた。
「それにしても今度の仕事は早く済ませたいものだな」
重い斧を担ぎながらでも冗談を飛ばせるテオドアは流石というべきだろう。駆除人総会にて番犬の護衛を務められる実力というものを窺い知ることができた。
「全くだ。年明けまでにはこんな仕事はさっさと終わらせて、温泉にでも浸かりたいものだ」
ハンターが相槌を打つ。こちらからも鎚を握っている故の疲労感などは一切感じられない。
二人はこれから遊びにでも出かけるかのような気軽な調子で標的の住む家へと向かっていた。
無駄食いを叩きながらであると、標的の元にはあまり時間の経過を気にすることなく辿り着けるらしい。二人の目に飛び込んできた建物は空き家というだけのことはあり、ところどころの塗装が剥げ落ち、建物の板さえ地面の上に落ちていた。屋根には穴さえ空いている。
屋根が一直線に破られていなかったのは不幸中の幸いというべきであるが、この場合は雨が降った場合にはそこから雨水が跳ね、雨粒が直撃することになるので、幸いとはいえないかもしれない。
テオドアはそんな無駄なことを考えていたが、ハンターは槌を振り上げて、一気に扉を打ち砕いた。
ただでさえボロボロであった扉が鎚の一撃で粉々に粉砕され、扉であった破片があちこちに散らばっていく。
二人はそのまま武器を構えて、中に潜んでいるはずのウィリアムを殺そうと目論んだが、中にいたのはウィリアムではなく、見知らぬ二人であった。
互いに武器を突き付けながら見知らぬ二人に向かって声を震わせながら叫ぶ。
「だ、誰だ貴様らは!?」
「本来だったら名乗る必要なんてないけど、冥界王の下賜品として教えてあげよう。ぼくの名前はギーク。この街の駆除人の一人だ」
「同じく、ヒューゴ。ヒューゴ・ド=ゴール。この街の駆除人だ」
両者は互いに剣を抜き、その剣先を二人に突き付けながら答えた。
「そうか、全て理解したぞ……貴様らは街中に噂を撒き散らして、その噂を元にウィリアムを始末しに現れたオレたちを待ち構えて、逆に始末するつもりだったんだな?」
テオドアが人差し指を震わせながら問い掛けた。二人は首肯する。その後になって、無表情で両手で剣を構えながら近付いていく。徐々にその距離は詰まっていく。後一歩で目と鼻の先にまで近寄ろうとしていた。このまま接近を許してしまえば狭い家の中で斬り合わなくてはなるまい。
家の中で斬り合いになったとしても、目の前にいる二人くらいであるのならばテオドアもハンターよりも腕は落ちるはずだ。それ故に思ったよりも簡単に始末できるはずだ。しかし、そんなことを行えば戦いの衝撃で家ごと崩れ落ちてしまう。
そうなれば自分たちの身もただでは済むまい。
二人はそのことを理解した。後退りをしながら慌てて入り口から飛び出ようと目論みたが、二人が素早く剣を上段から振り上げたまま、踏み込み、そのまま二人に怪我を負わせたのだ。
テオドアには右腕の筋に、ハンターには足の筋を、それぞれ傷を負わせた。
それでも脱出には成功したが、二人は大きなハンデを背負ったまま戦うことになってしまった。
郊外の広い草原の上で四人の駆除人がそれぞれ標的を睨み合っていく。
この四人のうち、最初に動いたのは右腕の筋に怪我を負ったテオドアである。
テオドアは巨大な斧を振り上げながらヒューゴへと斬りかかっていく。
もし、右腕の筋に攻撃を受けず、精細さを欠いていなければ恐らく五、六発目の斧でヒューゴは頭を叩き割られて死んでいたに違いない。
ヒューゴは改めて、陽動作戦を行っていたことに感謝した。それでも、テオドアは左手のみで巨大な斧を操り、なんとかしてヒューゴの首を跳ね飛ばそうと目論んでいた。
やはり、テオドアは腐ったとしても名うての駆除人である。ヒューゴはテオドアの斧が自らの顔の前を掠めた際に改めて思い知らされた。
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