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番外編:『婚約破棄された侯爵家令嬢ですが、復讐はキチリとさせていただきますわよ』
月は笑ってらぁ
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プラフティー公爵家の屋敷。そこにある庭が格別な手入れがおこなわれているのは当然のことであるといえるだろう。
職人たちが腕によりを掛けて作られた彫刻が色々なところに設置され、ありとあらゆる花が飾り立てられた庭。
庭の端には巨大な屋敷から突き出したような木製のデッキの上に二脚の肘掛けが付いた柔らかな椅子と四脚の小さな黒色の机が置かれている。
二脚の椅子のうち右の椅子にリーバイが、左の椅子にカーマインが腰を掛けていた。小さな机を挟むように。
二人の背後には武装した兵隊たちの姿。彼らが護衛であることは言うまでもない。
彼らの頭の中に浮かんでいたのは先日の襲撃事件。彼らは憂慮していたのだ。
カーマインが討ち取られるということを。
カーマインは恐る恐るといった表情で自身の隣に座るリーバイを見つめていく。
リーバイは昨日、刺客が襲撃してきた時に見せた恐ろしい表情から一転して和かな顔で部下や家族たちからのお酌を受けながらデレデレと笑う姿に驚きを隠せない。
呆気に取られているカーマインに対してリーバイはニコニコと朗らかな笑みを顔いっぱいに浮かべていく。
その後でカーマインに杯を握らせて、地酒と主張する蒸留酒を注ぎこむ。
カーマインが握っている杯の中が紫色の液体で満たされていく。
地酒というのは葡萄酒のことなのかもしれない。肺を覗き込む限りは丸みのある上品な酒のように思えた。
カーマインが渡された酒を一気に飲み干すのと同時に少し荒いがコクがあって旨い。上質な味といっても過言ではない。
カーマインは杯をあちこち見回しながらリーバイに向かって問い掛けた。
「これらの酒は屋外へは輸出されないのか?」
素朴な疑問だった。リーバイの領地から複数の名産品が確認されているが、この酒を出せばリーバイの領地の収入も大幅に増幅するだろう。
リーバイはその疑問に対していつも通りの朗らかな笑みを浮かべながら答えた。
「そうですな。この酒を他の地域や国に輸出すれば我が領土の増えましょう。しかしそうなると私やここで作っている人たちの分がなくなりましょう」
リーバイは冗談めいた調子で答えたものの、その本質としてはこの地域では酒が少量しか取れぬ故に微かにでも作れる分を外に出せば領民たちが飲めなくなるというのがリーバイの意図であるに違いない。
それに加えて、更に多くの酒を作るとなれば領民たちにも負担を強いることになる。
とすれば領民たちで楽しむ分だけ作って、余ったものがあれば買いに来いというやり方で売るのが正しいのかもしれない。だから『地酒』という表現を使用しているに違いない。
プラフティー公爵家の領内で行商を行う有力な商人たちが反応しないのも公爵家の当主であるリーバイが留めているからだろう。
カーマインは酒を啜りながら考えていた。肘掛けの上に肘をついて頬杖をつく。疲れたとでも言わんばかりに。
カーマインはリーバイの正体に薄々気付きつつあった。といっても彼が駆除人だということまでは見抜いていない。
あくまでも『昼蝋燭』としての態度が演技に過ぎないということのみ。
ただの無能を装っているだけの有能な貴族だと判断したカーマインはリーバイに対して踏み込んだ質問までしてしまった。
「では、公爵。私に教えてくれないか?」
「何をです?」
「私は次期王位を継ぐことになるだろう。その際に私はアリス殿を王妃として見受けしたい」
見受けしたいということは即ちアリスを妃として娶りたいというところだろうか。
もしや揶揄っているのではないかと思われたが、隣に座っているカーマインが深々と頭を下げている姿を見るに本気だということだろう。
周りの兵士たちが騒めきを隠せずにいるが、リーバイは黙って手で静止させる。
本来であれば親でもないリーバイにはなんの関わりもないこと。
アリスも単なる居候もしくは話し相手として公爵家に雇い入れた世話役に過ぎない。
単なる雇用主でしかないリーバイに許可を求められても困るというのが本音。
だが、そういった言葉を口に出すことはしない。リーバイは杯を片手に黙って目を矢のように尖らせながらカーマインを睨んでいた。
黙って一瞥した後に少し低い声を出しながら言った。
「……アリスとは話はついていなさるんですか?」
「昨晩の合間にこっそりとな」
声の出し具合から察するにもしかすればアリスとは本当に心の奥底から愛し合っているのかもしれない。
後でアリスから話を伺うより他にない。
黙って一瞥を行った後に無言でリーバイは杯の中の酒を飲み干す。
ゆっくりと机の上に杯を置いたリーバイに対してカーマインは懇願するように言った。それも今まで使っていた上からの口調を敬語へと変えて。
「お願いしよう。いや、お願いします。プラフティー公爵殿! 急なことではありますが、私は本気でアリスをーー」
「殿下、少しお話がありまして。よろしいですかな?」
リーバイはカーマインに対して自身の政道に関する心構えを話していく。それは年長者から若者に対する助言であったのか、はたまた若き国王に対してリーバイが期待をしていたからであるのかは分からない。
ただ、彼が身振り手振りを交えて懇切丁寧に語っていったのは事実。
年若い王子に向かってリーバイは祖父が孫に教えるように語っていく。交易の重要性、農業の重要性、工業や職人の技を活用した上での発展術などを。
それらを有効的に活用する術を黙々と話していく姿は『昼蝋燭』と呼ばれる形からは程遠い。
「御政道というのは全ての人を幸せにすることは不可能です。ですが、使いようによっては多くの人を幸せにする素晴らしい魔術のようなものでございます。殿下はこのことを理解していただけますかな?」
カーマインは黙って首を縦に動かす。同時に互いの両目を見つめ合う。互いの瞳には決意に満ち溢れた男の姿が見えた。
全てを理解したと信じ、安心したということなのか、リーバイは無言でカーマインの杯へと瓶を注ぐ。カーマインもそれに応えるようにリーバイの杯へ瓶を注ぐ。
そして無言で杯をぶつけて乾杯を行う。
この時の二人少なくともカーマインにとってそれは未来へと向けた乾杯であったに違いない。
だが、リーバイはといえば不安が残っていた。カーマインの人を顧みないような態度や民衆を見下しているような態度には不安が残る。
一応は雇用主とメイドという関係性にはなっているが、既にリーバイの中ではアリスは大事な食客という扱いになっている。それに心の奥底で彼女をカーマインに渡して無事なのかという不安があるのも事実。
不安を胸に抱き、半信半疑の状態でありながらも自身の見識を渡し、考えを伝えたのはカーマインが少しでも良識を持つ王となってほしいと願ったため。
無駄なことではあるかもしれないが、少しでも内乱や権力による争いに巻き込まれることを防ぎたいというのが本音というものなのだ。
強引に愛する二人を引き裂くわけにもいかないので、少しでもマシ暗君や暴君といった最悪の道から外れてほしいと願った故の行動であるため少しでも道を逸れてほしいと無駄な努力をしているだけかもしれないが。
リーバイは杯を片手に苦笑するより他になかった。
*
リーバイとカーマインとの会談から2日の時間が経過した時のこと。
王都、ロッテンフォード邸。王都の郊外に位置する巨大な屋敷の主人となっているウィリアム・ロッテンフォードが自室のベッドの上に腰をかけながら不満気な顔を浮かべて足を鳴らしていた。
ウィリアムはこの屋敷の主人であるだけではなく、公爵という地位に相応しい広大な領地を受け取り、領地では軍備を重視した姿勢を取っている。
多くの費用を軍備に費やしているということもあってか、ロッテンフォード家の私兵は王国の軍隊の何分の一にも匹敵するほどの大軍勢であり、軍事についてであれば誰もが軍務について関心を持つであろうことは言うまでもない。
更に彼は十数台の馬車、三つの鉱山、二つの湖付きの別荘を所有する門閥貴族の筆頭とも言える存在であった。
臣民公爵の中で一番の力を持つのは彼以外にあり得ないだろう。
ロッテンフォード家に足りないものといえば王冠くらいだと揶揄する声さえ市中にある。
その噂が聞こえてか、ウィリアムは幼い頃より唯一足りないと言われる王冠を欲して仕方がなかった。それは先祖代々の遺言であったとも、彼自身の野心であったとも言われている。
だが、そのことを知る者はいない。それ程までに恵まれていた環境にいるウィリアムは苛立ち紛れに砂糖と桃を混ぜた甘味を重視した蒸留酒を飲み干し、口を拭うのと同時に不機嫌な態度で壁に掛けている剣に手を伸ばす。
自身が趣味で集めている鋭利な剣の手入れを行うためだ。
胸の内に感じた不満を消し去るため、一心不乱に剣を拭いていた時のこと。
コンコンとノックの音が聞こえる。自分だけの世界から現実へと引き戻されたことによって舌を打ちつつもウィリアムはノックの音に応えた。
「何者だ?」
「閣下、お客様でございます。ネオドラビア教の教皇を名乗る御仁がおいでだとか」
扉の向こうからしゃがれた声が聞こえる。声の主はロッテンフォード家に代々仕えたという由緒ある執事のロナルド・コーンであることは間違いない。
幼い頃から仕えている執事がきたこともあってか、少し穏やかなウィリアムは言い放つ。
「そんな暇はない。追い返せ」
「はっ」
ウィリアムは舌を打ちながら武器の手入れへと戻っていく。以前、ロナルドから聞いた話によればネオドラビア教というのは暗黒の竜を拝める邪教だとのこと。
聞けば国教とも言える多神教の教えさえも侮辱しているというではないか。そんな宗教の教祖に会う必要などない。
このところ、画策した計画が上手く進んでいないこと故に不愉快な来客が訪れたということもあって、ウィリアムの中の苛立ちは頂点へと達した。
すると、今度は扉の前でバタバタと歩く音が聞こえてきた。同時にノックを行うこともなくウラブラー侯爵夫妻が部屋の中へと雪崩れ込む。
息を切らし、両肩で息を吐き出しながら苦しそうな顔を浮かべる夫妻に対するウィリアムの反応はといえば冷淡なものであった。
「何の用だ?」
趣味の時間を邪魔されたこともあってか、ウィリアムは睨み付けるように問い掛けた。
「閣下、我々一同刺客を送り、カーマイン王子の抹殺を図りましたが、どちらもプラフティー公爵のために返り討ちにされ、我々は息子のエルバートまで……」
ウィリアムは口籠る姿に苛立ちを覚えた。まるで被害者のように振る舞うその姿に腹が立って仕方がなかったのだ。
ウィリアムの本音を言えば今握っている剣で叩き斬ってやりたい心境だが……。
(今、ここで奴らを斬っても銅貨一枚の特にもならんわ)
ウィリアムはやむを得ずに剣を鞘の中へと仕舞い込み、言い訳ばかりを続けるウィリアムの頬を強く叩いていく。
運動不足があったとはいえ強烈な張り手を喰らったウラブラー侯爵は回転しながら部屋の中へと倒れ込む。信じられないと言わんばかりに大きな口を開いてウィリアムを見つめるウラブラー侯爵。
勉強や家事手伝いを怠けたことで母親から張り手を飛ばされた子どものようにいつまでも頬を擦っていた。
そんな夫の姿を見て慌てて駆け寄るウラブラー侯爵夫人。彼女は明確に口にこそ出さないものの、批判するように鋭い視線でウィリアムを睨んでいた。
身の丈も考えずに、こちらを恨む夫人の姿にもウィリアムは苛立ちを覚えた。この時の怒りを敢えて例えるのであれば噴火寸前の火山というところだろうか。
それでも怒りという名の煮えたぎったマグマを抑え込み、ウィリアムは一人で剣を握り締めながら屋敷の外へと向かう。
既に屋敷の外は陽が西へと傾き、太陽に変わって月の光が世界を照らしていた。
暗闇の中で唯一の光とならなかったのはウィリアムが外に出かける風景を見て、同行したロナルドが洋燈を手に持って辺りを照らしていたからである。
彼が影のようにへばりついていたお陰で彼はあっさりと庭へと出ることができた。庭にある小さな林の中でウィリアムは剣を抜き、苛立ち紛れに小さな枯れ木を叩き斬った。
ウィリアムの道楽のため罪のない枯れ木が一刀のうちに斬り捨てられ、半分の形に分かれていく。切り口がやや雑であるのはウィリアムの実力がこの程度のものであるからとしか言いようがない。
「チッ、役立たずどもめ……」
「閣下、どうなさいますか? これ以上、この計画に我々が足を踏み入れればあのお二方の手によって名前を明らかにされてしまうかもしれませんぞ」
ロナルドは幽霊のような不気味な顔を上げながらウィリアムに向かって問い掛ける。
「……そうなってしまえば建国以来続いた名門もわしの代で終わりだな。なんとしても奴らの口を封じねば……」
「閣下、私にいい考えがございます」
ロナルドはこっそりと耳打ちを行う。ウィリアムは自分より何倍も歳を重ねた執事の言葉を聞いて、しばらくの間は呆気に取られたような表情を浮かべていたが、次の瞬間には邪悪な笑みを浮かべながら年老いたロナルドの背中を強く叩いていく。
「妙案だ! 早速、そのように手配しろ!」
「ハッ!」
執事は慌てて庭の林から姿を消す。そんな執事の背中をウィリアムは黙って見つめていた。彼が向かったのは先日ウラブラー侯爵夫妻から廃嫡を養子縁組を解除されたエレナの元である。
エレナはファンデレージ侯爵夫妻の娘であったが、侯爵夫妻が駆除人の手によって冥界の門をくぐったことで、その後は彼女を溺愛する婚約者のエルバートの元に養子として引き取られたそうだ。
が、エルバートが刺客たちに混じって襲撃に失敗して返り討ちに遭った後にはエルバートの生家であるウラブラー侯爵家からも追放され、今では聖堂で神々に仕えているとのこと。
そんな場所に執事が向かったのはエレナにウラブラー侯爵夫妻を冥界王の元へと送るように唆すため。その餌としてチラつかせるのはロッテンフォード家への養子入りという条件。
今のところ独身で次々と新しい恋人を作りつつも、頑なに子どもは作らないウィリアムの元へと養子に来れば貴族としての地位の回復のみならず、生家に居た時ともウラブラー侯爵家へ養子に入った時とも違う待遇を受けられるというのであれば彼女にとってまたとない条件であったはずだ。
そうなるための条件はウラブラー侯爵夫妻を冥界王の元へと送ることのみ。
成功すれば騙し討ちにしてエリナも口封じ、失敗したとしてもロッテンフォード家の名は明るみに出ない。
ウィリアムにとっては一度に二度美味しい計画といえた。
彼は不適な笑みを浮かべながらもう一度、斬りやすそうな枯れ木を探して林の中を彷徨う。
数十分ほど彷徨った後で枯れ木を探して叩き斬る。今のウィリアムにとって怖いものは何もない。全ては上手くいく。全てを調整した鉄板の上で焼く牛肉のように。
ウィリアムは一人、夜の庭で勝利の讃歌を上げた。
*
「……分かりました。私がウラブラー侯爵を冥界王の元へと送ればよろしいのですね?」
貴族令嬢に相応しい清貧を持ってする巫女やその見習いの制服とされる白色のワンピースへと着替えていたエレナはロッテンフォード邸から現れた使者の言葉に対して肯定の意を返した。
「その通りだ。ウラブラー侯爵はもはやお家のために居てはならぬ存在。成功すれば我が家の養子にしてやろう」
言葉を聞いたエレナは二つ返事でその言葉を受け入れた。前金で金貨の入った袋をロナルドから渡されたということも大きい。
とはいえどもウラブラー侯爵家を抹殺するのであればそれ相応の方法を思い付かねばならぬ。
悩みに悩んだ末に考えたのはエルバートを利用するということ。
卑劣な手段に思えるかもしれないが、既に身分を剥奪され、ウラブラー侯爵家からも勘当されて聖堂の巫女見習いとしての地位しかないエレナが近付けられるのはエルバートを利用するより他に手はないのだ。
計画としてはエルバートの墓前に神々の祝福を授けたいとウラブラー侯爵夫妻を誘い出し、二人が目を瞑っている間に短剣を突き刺すより他にあるまい。
エレナに協力者はいない。仕掛けて仕損じるわけにはいかないのだ。
エレナは早速、ウラブラー侯爵夫妻の元へと手紙を記し、二人を誘い出す。
息子を裏切ろうとした元婚約者からの手紙にウラブラー侯爵夫妻は疑念を持ったようだが、エレナが指定する日程を選んで聖堂を訪れたようだ。エレナ指定したのはカーマインが帰還する前日。カーマインに対する嫌がらせを目的とした日時であるのはいうまでもない。
目的としてはウラブラー侯爵を油断させるためというのも一つであったが、舞踏会で恥をかかれされたことに対する怒りの感情も込められている。
そんな嫌味を込めた日にエレナが夫妻に祝福を授けるのは聖堂の祈りの間。本来であれば見習いのエレナが祈りを授けられるはずがない。
が、この日ばかりは聖堂の主人である、白い髭を顎の下から臍の辺りにまで垂らした大神官に許可は取っている。
大聖堂の祈り間を用いて大神官と共に祝福を授けることを許されている。
その後に彼女が大神官の老人に強請った条件こそが最重要事項といえるだろう。
つまるところ、控えの間で三人だけで話す時間を与えてもらったのだ。
身分差など諸々のことを考えれば、話すことなどできないはずであるが、大神官の老人をたらし込んで控えの間を貸してもらったのだ。
上目遣いで媚びるように甘ったるい声を出せば大神官の老人はあっさりと許可を出した。
あとはウラブラー侯爵夫妻の態度であるが、問題はない。酒を飲ませて油断させたところに短剣を突き立てればよいだけなのだから。
熱心な計画を修行の合間に何度も復唱し、頭の中で想定の動きを繰り返していると日々が過ぎるのはあっという間のことであった。
エレナの指定した通りの日にウラブラー侯爵夫妻は大聖堂へと到着し、門の前で馬車を降り立つ。
大神官の老人に頭を下げても隣にいたエレナには見向きもしない。地位のためか、はたまたか心の中で抱いていた憎悪のためか、もしくは両方か。
エレナには判別もできなかった。だが、もはやどうでもいいことだ。ウラブラー侯爵夫妻は神の怒りを買ってその裁きを受ける羽目になるのだから。
大聖堂でうろ覚えの祈りの言葉を捧げ、人の良い大神官と別れた後でエレナは密かに購入した短剣とロナルドからもらった金の入った袋を服の中に忍ばせ、ウラブラー侯爵夫妻を部屋の中へと招き入れる。
自ら扉のノブを引っ張り、夫妻を用意された長椅子の上に掛けさせたのだが、二人はエレナに対して見向きもしなかった。まるで、小石でも側に落ちているかのような冷たい態度。
不満を持ちつつもエレナが手酌で酒が入った瓶をグラスの中へと注いでもウラブラー侯爵は不機嫌そうに眉を顰めるだけ。ウラブラー侯爵夫人に至っては敵を見つめるかのように細い目でエレナを睨んでいた。
明らかな敵意を向けられ、自身の心の中にある憎悪を高めていくエレナであったが、ここで挑発に乗ってしまっては計画が立ち行かなくなってしまう。
エレナは歯を食いしばりながら侯爵夫妻に酒を勧めていったが、侯爵夫妻の機嫌は獲物が手に入らない腹を空かした肉食獣のように悪くなっていくばかり。
それでもと耐えていたのだが、とうとう正面から酒を掛けられたので彼女の忍耐は限度を迎えた。
「何が義父様だ!白々しいッ!」
「そうよ! あなたは息子を……エルバートを裏切ろうとしたじゃない!! そんな子がよくも私たちに言えたわね!」
正面から酒を浴びせられたエレナはしばらくの間は沈んだ表情を見せていたが、すぐに両目を吊り上げ、瞳の中に確かな怒りの炎を燃やしながら無言のまま夫妻の元へと近付いていく。
「な、何よ」
それまでの取り入るように甘えていた姿から一変して、恐ろしい表情へと変貌したエレナを見て目を丸くする侯爵夫人に対して彼女は躊躇なく喉へと向けて隠し持っていた短剣を突き刺す。
エレナの短剣を喰らった侯爵夫人はしばらくは喉元に刺さった短剣を信じられないと言わんばかりの表情で凝視していたのだが、すぐに短剣がエレナの手によって引っこ抜かれ、夫人の喉から莫大な量の血液が噴き出す。
同時に噴水のように噴き出した血痕が雨のように地面の下へと散らばり、あちらこちらに赤いペンキで塗りたくったような彩りを作り上げていった。
同時に、エレナがこういった行為に対してはズブの素人でもあったということも加わり、返り血を塞ぐ術を用意していなかったこともあって彼女が着ていた純白のワンピースが真正面が余すことなく赤い色で染められていく。胸部からスカートの丈の部分まで。
赤色への変色を果たしたワンピースを着たまま右手に先端から先まで下手くそな画家が絵の具で塗ったように赤い液体で塗られた短剣を握ったまま近付いてくるエレナの姿は人々が闇の中に空想する闇の中から見出す怪異そのものといっても差し支えはない。
ウラブラー侯爵はしばらくの間、パクパクと口を動かしていたが、すぐに悲鳴を上げてその場から逃げ出そうとした。
もし、仮に侯爵が勇気を振り絞ってでもエレナと戦おうとしていたら結果は違ったものになっていたかもしれない。
しかし彼は恐怖心に負けた。相手が人間であるということも忘れ、妖怪から逃げようと扉へ向かって駆け出していったのだ。
その際に背中に向かって剣が勢いよく突き刺されていく。エレナが刺した短剣は侯爵の心臓へと到達したらしい。
しばらくの間はピクリとも動かなかったが、エレナが短剣を引き抜くのと同時に血液の大量出血を塞いでいた栓が離れたこともあって、勢いよく背中から血液が飛んでいった。
そればかりではない。何度も何度も突き刺す。大工が釘を打ち付ける時のように何度も執拗に。
壁や天井あたりに大規模な血が流れていく。既に部屋の中では惨劇が行われていた。
エレナは自身の足元に倒れている侯爵夫妻を見下ろす。足元でだらっとして倒れる夫妻たちは既に事切れている。
エレナは狂気に満ちた笑みを浮かべながら控えの間を後にした。
エレナと同時に同僚の巫女見習いが入れ違う形でお茶とお茶請けが載ったお盆を運んで訪れたのだが、彼女はその凄惨な光景を前にしてこの世のものとは思えぬような叫びを口にした。運が悪いとしか言いようがなかった。
遠くから絶叫を耳にしたエレナは己の勝利を確信して密かに微笑んだ。
同時にロッテンフォード邸の庭の中へと慌てた様子で駆け込む。
庭をくぐり、書斎の扉を懸命に叩くと、ロッテンフォード家の女中が血まみれとなった彼女の姿を発見して絶叫した。
悲鳴を聴きつけるのと同時にロッテンフォード家の私兵たちがエレナの元へと現れた。
予想外の相手が現れたことに対して絶句するエレナ。次に驚愕は恐怖へと変わり、両目に涙を浮かべながら兵士たちに向かって懇願を行う。
同時に癇癪を起こした子どもが喚き散らすようにロナルドからの依頼を口に出していく。
ウラブラー侯爵の一件はロッテンフォード家から頼まれたということ、この仕事を終えればロッテンフォード家の養子に出してくれることなどを。
私兵たちが皆、首を傾げていた時のこと。扉が開いてロナルドが姿を見せた。
「なんの騒ぎかね?」
ロナルドは不機嫌そうに両眉を顰めながら兵士たちへと問い掛けた。
「はい、この狂った娘が何やら訳のわからぬことを仰っておるのです」
兵士の一人が槍の穂先を突き付けて呆れ果てたような声で言った。
「私が? しかしなんのことだかわからんね。私とこの娘とは初対面だ」
ロナルドの言葉を聞いた時、エレナは頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。同時に悟った。ロナルドが、いや、ロッテンフォード家が自身を最初から捨て駒に活用していたということを。
「初対面? そんなはずない! あんたが私にウラブラー侯爵を冥界に送れって!」
「知らんものは知らん。目障りだ。この娘をさっさと警備隊にでも引き渡してしまえ」
その言葉を聞いたエレナは我を忘れた。強く握り締めていた短剣を片手にロナルドに向かって挑み掛かっていく。
だが、それよりも前にロナルドの前に二人の憲兵が立ち塞がり、エレナの両肩を槍で貫く。蚊に吸われたような小さな跡から順番に血が噴き出し、エレナは部屋の中に倒れ込む。
それを見たロナルドは眉を顰めながら私兵たちに命令を下した。
「何をしている! この娘の血でせっかくの家が汚れてしまうではないか!! 早く、この娘を屋敷の外へと投げ捨てろ!」
「はっ、はい!」
両肩に槍を突き刺した二人の兵士がエレナを抱き抱えて屋敷の外へと乱暴に放り捨てた。
「こいつ、トドメを刺さなくていいのか?」
「いいや、どのみちあの傷じゃもたないさ。せいぜい放っておくことだな」
エレナの両肩に二人の兵士は下品な笑みを口に出しながら屋敷の奥へと引っ込む。
エレナは二人の兵士が居なくなったのを確認し、傷が痛み、体を這いずらせながらも前へと進む。向かう場所はプラフティー公爵邸。
なぜ、彼女が人生の最後にそこを選んだのかは分からない。実際に彼女自身も分からなかったに違いない。
強いていうのであれば実姉であるアリスの存在だろうか。産まれてからずっと話す機会もなかった実の姉の顔が浮かぶ。
体を這いずらせながらエレナはこれまでの人生のことを思い返す。
これまで人生を振り返る時には自身の視点で身勝手に振り返るだけで、周りにいた他者のことは考えていなかった。
だが、薄らとした意識の下に冥界の門が近付いていくにつれてそのことに気付かされた。
かつての自分を俯瞰して見つめていくことで、自分は自分勝手で自分さえ良ければという身勝手な思いの持ち主だったと改めて気付かされた。
婚約者がいるというのに顔が良いという理由や王妃という地位に憧れを持ったが故にカーマインに接近したこと、エルバートの愛を裏切ったことなどを振り返っていくと自分の身勝手さが改めて思い起こされていく。
本来であれば貴族の地位をもっと昔に剥奪されるはずだったのにそんな自分を養子に迎え入れてくれたウラブラー侯爵夫妻、カーマインへと接近した話を聞いても信じずに自分を愛してくれたエルバート。
「刺客」としてカーマインの暗殺計画に自ら参加したのも何としてでも成功させて両親を安心させ、早くにエレナを迎えたいという焦りから生じたものだろう。
そのために彼は冥界王の元へと旅立ってしまったのである。
そして、カーマインとの一件まで我が儘でお転婆で破廉恥ともいえるような行動ばかり取っていた自分を見放すこともなく付いてきてくれた姉。
そんなこともつゆ知らずに世界は自分中心で回っていると思い込んでいた。
そうではないと気付かせてくれる機会はいくらでもあったはず。それを悉く駄目にしたのは自分自身。
エレナは両目に後悔の涙を流していく。嘘の涙ではない真実の涙。もう一度会えるのであれば全ての人たちに謝りたい。
自らの意思で傷付けてしまったウラブラー公爵夫妻にも真剣に頭を下げたい。
こうして、彼女は後悔の念にふけながらプラフティー公爵家の屋敷へと辿り着いた。
屋敷の門の前で彼女は必死になって姉の名前を呼ぶ。
消えそうなほどのか細い声であったためか、なかなか言葉は届かない。
もう駄目かと両目の瞼を閉じて門の前で倒れそうになった時のこと。
「おい! しっかりしろ!! あんたどうした!?」
と、門が開いて若い男の声が聞こえてきた。どうやらこちらへ駆け寄ってきているらしい。
人の声が聞こえてくるのと同時に安堵したのか、エレナは地面の上へと倒れ込む。
この時に頭をぶつけなかったのは頑強な若い男が彼女の体を両手でしっかりと支えていたからだろう。
若い男は倒れたエレナの体を必死に揺り動かし、耳元で「おい」と叫び続けるが、彼女の瞼は閉ざされそうになっていく。冥界王の元からの使者が彼女を冥界へと引っ張ろうとしている。
抵抗しようにも力が入らない。目の前にいる男が誰であるのかは知らない。
ただ、男のはっきりとした目鼻立ちや薄い桜色の唇から察するにそれなりの美男子であるということは想像がついた。
だが、仮に名前の知らない相手であっても冥界へと渡る前に懺悔の言葉を聞いてほしい。自身の後悔の念を聞いてほしい。ましてや美男子ならば尚更というところ。
最後まで自分は面食いらしいと苦笑しながらエレナは男の服の裾を強く引っ張りながらその耳元に向かってか細い声で吐き出す。
「私お姉様に酷いことばっかりしてきた……私、最低。お姉様はずっと私と仲良くなりたかったのに……私は自分さえよければって……見ないふりをしてた」
「……大丈夫だ。何があったのかは知らないが、きっとそのお姉様とやらも許してくれるさ」
男の言葉は慰めだ。声が震えているのがその証拠。ただ、その気遣いは嬉しいので指摘はしない。
エレナは黙って話を続けていく。
「私、身勝手だった。本当に愛してくれる人がいたのに、それを忘れて乗り換えようなんて……嫌われて当然だよね?」
「何を言ってるんだ。気の移り変わりなんて誰にでも起きることだよ」
男の口から苦笑するような声が漏れた。どうやら彼自身も反応に困っているようだ。当然だろう。
「相手の両親も怒るよね? 当然だよね。でも、こんな身勝手な私はきっと冥界に行っても怒りに触れて魂を食べられちゃうよね?」
「何を言ってるんだ。君はいい子じゃないか。ちゃんと謝れている。きみのお姉さんとなにがあったのか知らないけれど、きっと仲直りできるさ。さっさと傷を治して……」
どこまでもお人好しな男に好感を抱いた。この男であれば真相を打ち明けられるかもしれない。
エレナは服の裾を掴む力をより強く引っ張り、涙を交えながら今宵の懺悔を行う。
「ううん。無理、私は取り返しがつかないことをしてしまったもの。それに人だって……」
「人? 人がどうかしたのかい?」
「私騙されたの。ロッテンフォード家の執事に」
「騙されたってきみが?」
エレナは男の問い掛けを聞いて小さく首を縦に動かす。同時に懐から僅かばかりの金銭が入った袋を取り出す。
袋の入った手を震わせながらエレナは相手の男に必死な顔で懇願していった。
「こんなもの……公爵様の家に住むお姉様には端金かもしれないけれど、受け取って……それで少しでも役に立ってほしいんだ」
エレナはそう言い切るの同時に腕を落とし、そのまま両目の瞼を閉ざした。
男は何度も彼女の耳元で叫んだものの、彼女が起き上がる様子は見えない。
腕の中で既に彼女は冥界へと旅立ったらしい。腕の中で抱かれる彼女からは先ほどまで聞こえていた、か細い息すら聞こえてこなかった。
*
男もといオーウェンは彼女を抱き抱えながら自身の主人であり駆除人仲間でもあるリーバイの部屋の元へと向かう。
リーバイはつい先日、領地から帰宅したばかり。自身も今日付けで大工の仕事に戻ったばかりという時にとんでもないことが参ったというのを知らせるためである。
オーウェンは既に事切れた彼女を抱き抱えながら必死に窓を叩く。
部屋のベッドの上で休んでいたリーバイは眠そうに目を擦って窓を開くと、そこに血まみれとなって冥界王の元に向かったエレナの姿と彼女を抱き抱えたために服の正面を赤色で汚したオーウェンの姿を発見したのである。眠気など遥か彼方へと吹っ飛んでしまった。
「……オーウェン。そいつから何か言伝はあったのかい?」
「あぁ、これを姉さんによろしくと」
オーウェンはエレナから預かった袋をリーバイへと渡す。
ずっしりとした重みの伝わる皮袋。試しに中を開くとそこからは3枚の金貨を除けば全て銅貨という明らかな不揃いともいえる硬貨の山。
硬貨の山を積んだ後でリーバイはオーウェンに向かってもう一度問い掛ける。
「他に何か言っていたかい?」
「ロッテンフォード家の執事に騙されたと」
「……ロッテンフォード家の執事か」
リーバイの頭の中にカーマイン王子謀殺の陰謀がよぎる。
陰謀の黒幕であったロッテンフォード家は陰謀が失敗を感じるのと同時に操っていたウラブラー侯爵家を消そうと目論んだらしい。
そのためにエレナを利用したのだろう。
「……汚ったねぇ野郎だ」
リーバイは思わず吐き捨てる。同時に窓の外にいるオーウェンに向かって指示を出す。
「悪いが、明日までにロッテンフォード家の陰謀とやらを掴んでくれ」
「……わかった。任せておきな。駆除人として小さい頃から鍛えられたオレだ。屋敷に潜入するくらいは朝飯前ってもんよ」
オーウェンは胸を叩いて闇の中へと姿を消す。明日の朝までには情報を仕入れてくれるだろう。
リーバイは刀を握り締めながら明日のことを思案していく。
標的はロッテンフォード家の執事。困難な相手かもしれないが、駆除人名利に尽きるというもの。
リーバイは久し振りに駆除人として動き出せることに胸を弾ませていた。
*
「旦那から預かったウラブラー家を仕留めるための報酬は返すよ。そうなる前にあいつらが先に旅立ってしまったからな」
ギルドマスターは難しそうな顔を浮かべながらリーバイから受け取った金の入った袋を渡す。
だが、リーバイはそれを断り、ギルドマスターの前にエレナから受け取った袋を突き付ける。
「旦那、困るよ。賄賂なんて」
「賄賂じゃねぇ。新たな『ブラッディ・プリンセス』が入ったんだ。その金は迷惑料と新しい依頼を急に入れる手数料だと思ってくれや」
ギルドマスターは呆れたように深い溜息を吐き出しながらリーバイと向かい合う。頬杖をつき、面倒な顔を浮かべながら問い掛ける。
「わかったよ、それで相手は?」
「相手はロッテンフォード家の執事、ロナルド・コーン並びにロッテンフォード家の私兵の……なんつった?」
「ヘンリーとチャールズだ。ありきたりな名前だが、こいつらも十分に頭のおかしな奴でね。もともとはそこら辺にいるごろつき同然の傭兵だったんだが、ロナルドに身染められ、雇われたんだそうだ。しかもいつでも好き勝手に剣を振るえるというのが理由のふざけた野郎でね」
オーウェンは一晩のうちに調べてきた情報をバーカウンターの前で訳なく喋っていく。
ギルドマスターはなにも言わずに客が飲んだ酒が入った杯を拭いていた。
「どうするんだ? 旦那? こいつを冥界王の元へと送る機会はあるのかい?」
側で瓶をラッパ飲みしていたストーンが興味深そうな目を向けながら問い掛ける。
「どうなんだよ? オーウェン?」
方法が思い付かなかったのか、リーバイは責任を転嫁するようにオーウェンへと向かって問い掛けた。
「問題はない。あいつらは今日、街に繰り出す算段になってる。なんでもロナルドが自分の給料で奴らに『エノク』って宿屋で酒をご馳走するだそうだ」
「なるほど、こいつは奴らへの口封じ兼褒美ってところか」
「この機会を逃せば奴らに冥界の扉をくぐらせるのは難しくなるだろう。今日しかねぇ」
オーウェンが急かすように言った。その目には確かな決意が固まって見えていた。
彼女の最期を看取ったこともあってか、決意が固くなっているのだろう。
「えぇ、行きましょう」
それまでじっと話を聞いていたアリスが全員の意見をまとめた。話がまとまるのと同時にリーバイが会計を払い、ギルドマスターが奥の部屋へと彼らを連れ込む。
全員が部屋中にある長椅子の上に腰掛けたのを確認してから真剣な顔つきで全員に前金となる4枚の金貨をそれぞれに手渡す。
「やってくれるね?」
全員が一同に首を縦に動かす。四人の駆除人たちが闇の中を歩きながら『エノク』へと向かう。
『エノク』の前は既に行列が並んでいる。余程、人気の宿屋なのだろう。
二階建ての宿屋の前に恐ろしいほどの人間が酒やつまみを求めて並んでいた。
その中に不揃いな綺麗な衣服を着た老人と下賎な顔を浮かべた茶色の革のような服を着た二人の男の姿が見えた。
「いいか、今回は好きなものをなんでも頼め。これはお前たちに許された褒美なのだからな。遠慮する必要はない」
ロナルドは公爵家の執事に似つかわしい横暴な口調で二人に向かって言い放つ。
「ヘヘッ、流石はロッテンフォード家の執事様」
「ありがたくご相伴に預かりましょうか」
と、上から目線で訴えられたにも関わらず、犬のように尻尾を振って付いてくる下世話な顔を浮かべた二人。標的が彼らであることは間違いない。
駆除人たちは『エノク』の行列の中へと紛れ込み、三人を仕留めるための妙案を話し合っていく。
悩ましい方法であったが、今回はアリスが囮になるとのこと。
「お前、本気か?」
リーバイは目を丸くしながら問い掛けた。
「えぇ、そのために閣下は私を仲間に引き入れてくださったのでしょう?」
「無茶はするなよ。お前は王子のお気に入りなんだぞ」
「分かっています。けれど、私は人をまるで不要になった塵紙を捨てるように捨てたあの人たちが許せない……そういった理由で協力してはいけませんか?」
アリスの目は真剣であった。妹に対する情も家族に対する情も既に地の果てへと消え果てていたはずであるが、この時ばかりは彼女両目から確かな青色に燃え上がる憎悪の炎を確認したのである。
彼女の熱に押し出されたこともあった他に妙案が思い付かなかったということもあってか、リーバイは彼女の作戦を実行することに決めた。
酒場として食堂として提供している場所を抜け出し、リーバイは大金と共に部屋を借りた。
王都に住まう普通の人々はリーバイの顔を知らない。万が一、警備隊や自警団の聞き込みがあったとしてもリーバイに捜査の手が及ぶことはないだろう。
それでも話す時には印象に残らないように自然な様子で話し掛ける。
目を逸らしもせず、かと言って合わせもせず、時折顔を背けるという高度な技術だが、駆除人たちは難なくこなせるものなので問題はない。
リーバイはそう確信しながら隣の席でアリスが兵士たちに話し掛けるのを見つめていた。
同時にストーンが階段を登って偽名で借りた部屋に向かうのを見た。
計画としてはストーンが待ち伏せして、チャールズかヘンリーを仕留めるというもの。
残ったもう一人をオーウェンが、そしてロナルドをリーバイが仕留めるという計画になっていた。
注意をして窺っていると、色っぽい表情を浮かべたアリスが男の一人を連れ出して二階へと上がる姿を見せていた。
残された一人が不満をぶちまけながら酒を飲んでいるところにオーウェンが腰を掛ける。
「ここいいかな?」
と、爽やかな笑みを浮かべて問い掛けられてしまえば断れる人間などいるはずがない。爽やかな笑みの他に、愛想の良い顔でニコニコと笑いながらお酌を行う。
その度になにやら大袈裟な言葉で褒めているのか、すっかりと男は気をよくしていたらしい。デレデレと頭をさすっていた。
一方でロナルドの方は不機嫌であったらしい。自分のことが放って置かれて面白くなかったのだろう。
ぶつくさと不満気に一人で酒を飲んでいると、
「おっ、ここで私も呑んでいいですかな?」
と、聴き覚えのある声が聞こえてきた。
慌てて隣を振り返ると、そこには予想だにしない人物がいた。
彼は愛嬌のある顔で困ったように笑いながら、
「私じゃあ役不足ですかな?」
と、聞こえるようにはっきりと口に出した。間違いない。彼こそプラフティー公爵家の当主、リーバイその人である。
服こそ庶民が着るようなボロボロとした地味なものを着ている上に鞘に収められた剣も何の装飾もない地味なもの。
貴族の公爵というよりは安月給で酒を呑みにきた下っ端にいる憲兵のように見えて仕方がない。
『昼蝋燭』と普段から馬鹿にされている相手であり、服装も雰囲気も下っ端の憲兵にしか見えない男であるが、執事の自分にとっては遥かに格上の相手であることは間違いない。
すっかりと萎縮した様子で青ざめた顔を浮かべながら隣の席を譲る。
「まさか、閣下がこのようなところにいらっしゃるとは」
「いえいえ、家でも外でも役立たずと言われる私なので、たまにこうしてお忍びで呑みたくなるのですよ」
リーバイはそう断りを入れた後で店員に向かって上機嫌な様子で発泡酒を頼む。下品に発泡酒を飲み込む姿は到底公爵家の当主姿とは思えない。
ロナルドが見下したような目でリーバイを見つめていた時のこと。
突然、彼が悪酔いしたのか、ロナルドに腕を回して馴れ馴れしく絡み始めた。
「なかなかいい酒でしょう? 実は近くにも発泡酒を提供する店がありましてな。どうです? 今から二人で行きませんか?」
「いや、私は……」
「いいから! いいから! さぁ、行きましょう!」
と、半ば無理やりロナルドを酒場の外へと連れ出す。それをどこか忌々しい顔で見つめる男の姿。
そんな男に茶々を入れるようにオーウェンが言った。
「ハハっ、兄さん、振られちゃったね」
「そうだよ。これからあいつに奢ってもらうつもりだったんだが」
「構わないよ。酒やつまみくらいならおれが奢ってやるよ」
その言葉に男は両目を輝かせていた。そして言葉に甘えたのか、どんどんと上品な酒を注文して浴びるように呑んでいく。
酒の神が酒を嗜むように豪快に飲んでいく姿を見て興奮を覚えたのか、周りにいた客たちが拳を振り上げて応援していく。まるで、飲み比べの勝負を応援するかのように。
周囲の声援もあってか、浴びるように酒を呑んでいたのだが、とうとう体内の酒の許容範囲を越えたのだろう。机の上に突っ伏して倒れ込む。
机の上からは寝息さえ聞こえてきた。
既に勝負はついたと見え、各々の席へと戻っていく。
周りの客たちの目も届かなくなった。既に周りの客たちは自分たちの席へと戻って自分たちの酒を楽しんでいる。
オーウェンは解放するかのように男の元へと近寄り、背中を摩っていく。
同時にオーウェンはポケットの中に隠していた釘を取り出す。見えないように拳を作って釘を指の間に挟む。
それから釘を挟んだ手を首の元へと伸ばし、眠りこける男の延髄へと釘の先端を打ち込む。延髄は人体の急所。ここに何かを打ち込まれれば人体の生命機能は多ちまちのうちに失われてしまうといっても過言ではない。
実際、延髄に釘を打ち込まれた男は短く小さな悲鳴を上げながら冥界王の元へと旅立った。
これでは眠りこけているようにしか思えないだろう。安心したオーウェンは釘をポケットの中へと仕舞い込み、会計に向かう。
「おや、お連れさんは?」
「どうやら眠ってしまったらしい。悪いが、起こさないでくれると助かる」
と、言い放ってその場を後にした。何食わぬ顔を浮かべて。
堂々と嘘を言い張ることこそ駆除人の流儀というものだろう。
一方でアリスに誘惑されるまま二階へと
上がった男であったが、彼はそこで信じられないものを目撃することになった。
邪な目的で部屋の中へと足を踏み入れた男。下賎な笑みを浮かべながら扉を開くと、その先にいたのは自分より頭一つ高い大きな背を持つ禿げた頭を持つ男の姿。
慌ててその場を逃れようとしたものの、扉の前にはアリスが立ち塞がっている。
「退け!」
恐ろしい存在に追われたことで焦っていた男は声を荒げたのだが、アリスは身じろくことさえしない。そればかりか、毅然とした顔で男を睨んでいる。
苛立った男が腰に下げていた剣を抜いてアリスを斬り捨てようとした時のこと。
突然、剣を握る男の腕が掴み上げられ、大きく右方向へと捻られていく。
あまりの出来事に悲鳴を上げようとしたものの、口を塞がれてしまい言葉を発することもできなくなってしまう。
太くて硬い丸太のような逞しい腕で口を塞がれたまま男はベッドの上へと打ち付けられ、そのまま両手で首を掴み上げられた。まるで、絞首刑を喰らった罪人のように。
初めのうちこそバタバタと動いていたものの、やがて静かになったらしい。
最後の方には青い顔で大の字になってベッドの上に寝転がっていた。
こうして、凶悪な元傭兵は醒めることのない悪夢を見ながら冥界王の元へと旅立ったのである。
二人は元傭兵が動かなくなったのを確認してから何食わぬ顔で一階へと降り、人々の喧騒に紛れながら宿屋を後にした。実はこの時にもう一人の男がオーウェンの奢りという名目で宿中の酒を開けんばかりの勢いで酒を楽しみ、周りの人々の視線の注目を浴びていたのだが、二人は知る由もなかった。
屋敷へと向かう道中で今回の事件の後のことを推定していく。宿屋の店員が事切れた彼の姿を発見するのは翌朝のこと。それまで明らかになることはないだろう。
仮に宿屋の店員や客たちが詳細を覚えていて、人相書きが出回ったとしても公爵家にまで類が及ぶことはないはずだ。
二人は悠々自適な様子で闇の中へと消えていった。
ちょうど、二人が仕事を終えて屋敷への道を歩いていた時のこと。
リーバイがロナルドを連れて路地裏へと向かっていた。
「すいません、どうも少し呑みすぎたせいか、気分が悪くなってしまいまして……よろしければ背中を摩っていただけないでしょうか?」
ロナルドは呆れたような顔を浮かべていたが、相手はお忍びの姿をしているとはいえ公爵。逆らうわけにもいくまい。
リーバイと共に人々の姿が見えない店と店と隙間、野良猫やらが跋扈する路地裏へと到達した時のこと。
呑み過ぎのため気分を害し、壁に手を伸ばしていたはずのリーバイが不意にロナルドの背後へと回り込む。
一瞬の出来事に意表を突かれたような顔を浮かべるロナルド。
だが、彼がそれ以上の言葉を喋ることはなかった。というのもその口を掌を使って大きく塞がれてしまったというのが大きい。
口を塞がれたことで何もできなくなったロナルドに向かってリーバイは無言で腰に刺していた剣を背中から突き刺す。心臓へと一突きに。
口を塞がれてしまったこともあってか、抗議の言葉を口に出すこともできないロナルドに対してリーバイは深海の水のように冷えた声で言い放つ。
「テメェに騙された、エレナ嬢の恨みだ。たっぷりと受け取りな」
リーバイは唖然とした顔でロナルドの背中へと突き刺さった剣を引き抜いていく。
同時に濡れた剣をロナルドの上着で拭い取ると、鞘の中へと仕舞い込む。
路地裏の中には打ち捨てられたようにロナルド・コーンが倒れていた。
が、喧騒の状態にある中でわざわざ路地裏を覗き込むとする物好きはいない。
結局のところ、翌朝までロナルド・コーンの異変に気が付く者はいなかった。
*
翌朝、駆除の直後であるにも関わらず、お別れの儀式の準備を行うため、朝早くから目を覚ましたリーバイのもとにアリスの姿が現れた。
「おぉ、アリスか? どうかしたか?」
「閣下、私にお願いがあります。どうか、私とカーマイン殿下の仲を祝福してくださいませ」
予想だにしなかった言葉だ。昨晩の駆除の現場では何の異変も見えなかった。
いつも通りに駆除を進めているかのように思っていたのだが、彼女は駆除の合間もずっと思い悩んでいたのかもしれない。
「カーマイン殿下に騙されてるんじゃあないだろうな?」
リーバイは両目を日頃、愛用している剣のように鋭く尖らせながら問い掛ける。
「そ、そんなこと! 殿下はちゃんと私を見てくださっております!」
アリスの顔は必死だった。まるで、恋人を嫌う義父に逆らうかのように。
リーバイが呆れたように見つめていると、扉を開いてカーマインの姿が見えた。
「プラフティー公爵殿! 私はあなたが何と言おうとも彼女を連れていく! 既にご夫人からは許可を取っているので残るはあなただけだ!」
カーマインがそう宣言するのと同時にアリスに手を伸ばし、彼女を引き寄せるとその柔らかな形の良いピンク色の唇に自身の唇を重ね合わせていく。
これはアリスだけではなく、リーバイその人も思わず顔を赤らめてしまった。
カーマインは強い酒を呑んだ後のように顔を赤くするアリスを優しく受け止め、自身の元へと引き寄せていった。
愛する姿を見せられた上にリリーザの許可まで取っているのであればもう言うことは何もない。
「……そこまで言うのであればもう反対はしませんよ。しかし、もう一度アリス様には聞いておく必要がありますな」
「は、はい!」
アリスはひどく緊張した様子で答えた。
「アリス様、あなたは本当にこの方と一生を添い遂げるお覚悟で?」
「はい!」
アリスは迷うことなくリーバイに向かって言い放つ。その目は透き通っていたが、同時に確固たる意思が放たれているようにも思えた。
もう、二人の愛を誰にも邪魔をさせることはできないだろう。
リーバイは肩の力を落としつつも二人の仲を祝福したのである。
満足そうなな顔を浮かべて部屋を後にしようとするカーマインを呼び止め、
「お待ちくださいませ、殿下」
と、声を掛けた。
カーマインが振り返るのと同時に彼は側へと近寄り、恐ろしい顔を浮かべながら普段の様子から想像もできないほどの冷たい声で言い放つ。
「もし、あなた様が私の言葉を忘れ、暴君や暗君となり、人々を苦しめるようであれば私は何の躊躇いもなく、あなたを冥界へと送りに向かいますからな」
両肩を強張らせながらも必死に首を縦に動かすカーマインを見た後に続いて、アリスへと顔を向けて、
「アリス様、どうか私との思い出は胸の内に秘めたままにしておいてくださいませ。これから未来を歩まれるあなた様は過去に目を向ける必要などないのですから」
その言葉の暗喩は口止め。駆除人を抜けるのであれば当然ながら行うべきこと。
駆除人として駆除に参加した日より掟はリーバイから教えられて十分に理解していたアリスは必死になって首を縦に動かす。リーバイからの粛清を免れるために。
カーマインがアリスとの正式な婚約を発表したのはその日の別れの舞踏会の席の上。堂々と彼女を妃として迎え入れることを宣言したのである。
翌日の朝にカーマインは誰に咎められることもなく、従者と共にクライン王国を後にしたのである。
リーバイはその日の夜、報酬を受けるために三人で駆除人ギルドを訪れていた。
アリスはカーマインとの婚約で駆除人を外れたのでいつも通りの人数に戻ったというべきだろう。
リーバイたちが仕留めた三人の悪党はあの夜以降、王都を駆け回っていたらしいが、下手人の特徴を覚えている人間は殆どいないらしい。
証拠も残されていないため捜査は非常に難航しているとのこと。
以上の話を後金を受け取る際にギルドマスターから受け、リーバイたちは安心したように酒を啜る。
「しかし、旦那ももったいないことをしたね?いずれは養女にでも出来ただろうに」
「確かに、あの子はいい子かもしれないが、表はともかく裏稼業であれば、おれの後を継ぐとなれば少し役不足だね。まぁ、裏は子どもか……孫にでも期待するか」
「ハハっ、孫か子の方が旦那より腕のいい駆除人になったりしてな」
オーウェンが酒の入った杯を片手にケラケラと笑いながら茶々を入れる。
「そんな時はオメェの技量を貸してもらうか、釘でいけるんなら針でも応用は効くだろ?」
オーウェンはまたしてもケラケラと笑い出す。面白くて仕方がないとでも言わんばかりに。
リーバイも彼に釣られて笑いながら杯を突き出し、何杯目かの酒を嗜む。
杯の中をまたしている赤い色の蒸留酒を舐めながら窓の外を眺めていると、眩いばかりの月の光が差し込んでいることに気が付く。
「そういえば、今夜は満月だったなぁ」
ストーンがしみじみとした調子で言った。
「そうだな。もしかしたらアリスもあの王子と一緒に馬車の中で見上げてるかもしれんな」
「純情だねぇ。旦那。その心を活かして詩人にでもなったらどうだい?」
ギルドマスターの揶揄いを聞いたストーンとオーウェンが同時に笑う。リーバイが苦笑しながら酒を啜っていると、眩いばかりの満月がまるで笑っているかのように光り輝いていく。
「月まで笑っていやがるぜ」
リーバイは困ったような顔を浮かべながら酒を飲み干す。
相変わらず、窓の外の月は眩いばかりの光を放ちながら空の上に浮かんでいた。純情な気持ちで酒をあおるリーバイを揶揄うように。
*
あとがき
本日でこの連載は終了となります。先日の投稿が遅くなってしまい誠に申し訳ありません。最終回ということで気合を入れて書いていた分、時間も文字数も大幅にオーバーしてしまうという事態になってしまいました。
今回は過去編ということでしたが、また次回からは本編の時間軸を舞台にした外伝も書いていきたいです。
その時が、いつになるかは分かりませんが、その時もまた応援してもらえれば幸いです。
職人たちが腕によりを掛けて作られた彫刻が色々なところに設置され、ありとあらゆる花が飾り立てられた庭。
庭の端には巨大な屋敷から突き出したような木製のデッキの上に二脚の肘掛けが付いた柔らかな椅子と四脚の小さな黒色の机が置かれている。
二脚の椅子のうち右の椅子にリーバイが、左の椅子にカーマインが腰を掛けていた。小さな机を挟むように。
二人の背後には武装した兵隊たちの姿。彼らが護衛であることは言うまでもない。
彼らの頭の中に浮かんでいたのは先日の襲撃事件。彼らは憂慮していたのだ。
カーマインが討ち取られるということを。
カーマインは恐る恐るといった表情で自身の隣に座るリーバイを見つめていく。
リーバイは昨日、刺客が襲撃してきた時に見せた恐ろしい表情から一転して和かな顔で部下や家族たちからのお酌を受けながらデレデレと笑う姿に驚きを隠せない。
呆気に取られているカーマインに対してリーバイはニコニコと朗らかな笑みを顔いっぱいに浮かべていく。
その後でカーマインに杯を握らせて、地酒と主張する蒸留酒を注ぎこむ。
カーマインが握っている杯の中が紫色の液体で満たされていく。
地酒というのは葡萄酒のことなのかもしれない。肺を覗き込む限りは丸みのある上品な酒のように思えた。
カーマインが渡された酒を一気に飲み干すのと同時に少し荒いがコクがあって旨い。上質な味といっても過言ではない。
カーマインは杯をあちこち見回しながらリーバイに向かって問い掛けた。
「これらの酒は屋外へは輸出されないのか?」
素朴な疑問だった。リーバイの領地から複数の名産品が確認されているが、この酒を出せばリーバイの領地の収入も大幅に増幅するだろう。
リーバイはその疑問に対していつも通りの朗らかな笑みを浮かべながら答えた。
「そうですな。この酒を他の地域や国に輸出すれば我が領土の増えましょう。しかしそうなると私やここで作っている人たちの分がなくなりましょう」
リーバイは冗談めいた調子で答えたものの、その本質としてはこの地域では酒が少量しか取れぬ故に微かにでも作れる分を外に出せば領民たちが飲めなくなるというのがリーバイの意図であるに違いない。
それに加えて、更に多くの酒を作るとなれば領民たちにも負担を強いることになる。
とすれば領民たちで楽しむ分だけ作って、余ったものがあれば買いに来いというやり方で売るのが正しいのかもしれない。だから『地酒』という表現を使用しているに違いない。
プラフティー公爵家の領内で行商を行う有力な商人たちが反応しないのも公爵家の当主であるリーバイが留めているからだろう。
カーマインは酒を啜りながら考えていた。肘掛けの上に肘をついて頬杖をつく。疲れたとでも言わんばかりに。
カーマインはリーバイの正体に薄々気付きつつあった。といっても彼が駆除人だということまでは見抜いていない。
あくまでも『昼蝋燭』としての態度が演技に過ぎないということのみ。
ただの無能を装っているだけの有能な貴族だと判断したカーマインはリーバイに対して踏み込んだ質問までしてしまった。
「では、公爵。私に教えてくれないか?」
「何をです?」
「私は次期王位を継ぐことになるだろう。その際に私はアリス殿を王妃として見受けしたい」
見受けしたいということは即ちアリスを妃として娶りたいというところだろうか。
もしや揶揄っているのではないかと思われたが、隣に座っているカーマインが深々と頭を下げている姿を見るに本気だということだろう。
周りの兵士たちが騒めきを隠せずにいるが、リーバイは黙って手で静止させる。
本来であれば親でもないリーバイにはなんの関わりもないこと。
アリスも単なる居候もしくは話し相手として公爵家に雇い入れた世話役に過ぎない。
単なる雇用主でしかないリーバイに許可を求められても困るというのが本音。
だが、そういった言葉を口に出すことはしない。リーバイは杯を片手に黙って目を矢のように尖らせながらカーマインを睨んでいた。
黙って一瞥した後に少し低い声を出しながら言った。
「……アリスとは話はついていなさるんですか?」
「昨晩の合間にこっそりとな」
声の出し具合から察するにもしかすればアリスとは本当に心の奥底から愛し合っているのかもしれない。
後でアリスから話を伺うより他にない。
黙って一瞥を行った後に無言でリーバイは杯の中の酒を飲み干す。
ゆっくりと机の上に杯を置いたリーバイに対してカーマインは懇願するように言った。それも今まで使っていた上からの口調を敬語へと変えて。
「お願いしよう。いや、お願いします。プラフティー公爵殿! 急なことではありますが、私は本気でアリスをーー」
「殿下、少しお話がありまして。よろしいですかな?」
リーバイはカーマインに対して自身の政道に関する心構えを話していく。それは年長者から若者に対する助言であったのか、はたまた若き国王に対してリーバイが期待をしていたからであるのかは分からない。
ただ、彼が身振り手振りを交えて懇切丁寧に語っていったのは事実。
年若い王子に向かってリーバイは祖父が孫に教えるように語っていく。交易の重要性、農業の重要性、工業や職人の技を活用した上での発展術などを。
それらを有効的に活用する術を黙々と話していく姿は『昼蝋燭』と呼ばれる形からは程遠い。
「御政道というのは全ての人を幸せにすることは不可能です。ですが、使いようによっては多くの人を幸せにする素晴らしい魔術のようなものでございます。殿下はこのことを理解していただけますかな?」
カーマインは黙って首を縦に動かす。同時に互いの両目を見つめ合う。互いの瞳には決意に満ち溢れた男の姿が見えた。
全てを理解したと信じ、安心したということなのか、リーバイは無言でカーマインの杯へと瓶を注ぐ。カーマインもそれに応えるようにリーバイの杯へ瓶を注ぐ。
そして無言で杯をぶつけて乾杯を行う。
この時の二人少なくともカーマインにとってそれは未来へと向けた乾杯であったに違いない。
だが、リーバイはといえば不安が残っていた。カーマインの人を顧みないような態度や民衆を見下しているような態度には不安が残る。
一応は雇用主とメイドという関係性にはなっているが、既にリーバイの中ではアリスは大事な食客という扱いになっている。それに心の奥底で彼女をカーマインに渡して無事なのかという不安があるのも事実。
不安を胸に抱き、半信半疑の状態でありながらも自身の見識を渡し、考えを伝えたのはカーマインが少しでも良識を持つ王となってほしいと願ったため。
無駄なことではあるかもしれないが、少しでも内乱や権力による争いに巻き込まれることを防ぎたいというのが本音というものなのだ。
強引に愛する二人を引き裂くわけにもいかないので、少しでもマシ暗君や暴君といった最悪の道から外れてほしいと願った故の行動であるため少しでも道を逸れてほしいと無駄な努力をしているだけかもしれないが。
リーバイは杯を片手に苦笑するより他になかった。
*
リーバイとカーマインとの会談から2日の時間が経過した時のこと。
王都、ロッテンフォード邸。王都の郊外に位置する巨大な屋敷の主人となっているウィリアム・ロッテンフォードが自室のベッドの上に腰をかけながら不満気な顔を浮かべて足を鳴らしていた。
ウィリアムはこの屋敷の主人であるだけではなく、公爵という地位に相応しい広大な領地を受け取り、領地では軍備を重視した姿勢を取っている。
多くの費用を軍備に費やしているということもあってか、ロッテンフォード家の私兵は王国の軍隊の何分の一にも匹敵するほどの大軍勢であり、軍事についてであれば誰もが軍務について関心を持つであろうことは言うまでもない。
更に彼は十数台の馬車、三つの鉱山、二つの湖付きの別荘を所有する門閥貴族の筆頭とも言える存在であった。
臣民公爵の中で一番の力を持つのは彼以外にあり得ないだろう。
ロッテンフォード家に足りないものといえば王冠くらいだと揶揄する声さえ市中にある。
その噂が聞こえてか、ウィリアムは幼い頃より唯一足りないと言われる王冠を欲して仕方がなかった。それは先祖代々の遺言であったとも、彼自身の野心であったとも言われている。
だが、そのことを知る者はいない。それ程までに恵まれていた環境にいるウィリアムは苛立ち紛れに砂糖と桃を混ぜた甘味を重視した蒸留酒を飲み干し、口を拭うのと同時に不機嫌な態度で壁に掛けている剣に手を伸ばす。
自身が趣味で集めている鋭利な剣の手入れを行うためだ。
胸の内に感じた不満を消し去るため、一心不乱に剣を拭いていた時のこと。
コンコンとノックの音が聞こえる。自分だけの世界から現実へと引き戻されたことによって舌を打ちつつもウィリアムはノックの音に応えた。
「何者だ?」
「閣下、お客様でございます。ネオドラビア教の教皇を名乗る御仁がおいでだとか」
扉の向こうからしゃがれた声が聞こえる。声の主はロッテンフォード家に代々仕えたという由緒ある執事のロナルド・コーンであることは間違いない。
幼い頃から仕えている執事がきたこともあってか、少し穏やかなウィリアムは言い放つ。
「そんな暇はない。追い返せ」
「はっ」
ウィリアムは舌を打ちながら武器の手入れへと戻っていく。以前、ロナルドから聞いた話によればネオドラビア教というのは暗黒の竜を拝める邪教だとのこと。
聞けば国教とも言える多神教の教えさえも侮辱しているというではないか。そんな宗教の教祖に会う必要などない。
このところ、画策した計画が上手く進んでいないこと故に不愉快な来客が訪れたということもあって、ウィリアムの中の苛立ちは頂点へと達した。
すると、今度は扉の前でバタバタと歩く音が聞こえてきた。同時にノックを行うこともなくウラブラー侯爵夫妻が部屋の中へと雪崩れ込む。
息を切らし、両肩で息を吐き出しながら苦しそうな顔を浮かべる夫妻に対するウィリアムの反応はといえば冷淡なものであった。
「何の用だ?」
趣味の時間を邪魔されたこともあってか、ウィリアムは睨み付けるように問い掛けた。
「閣下、我々一同刺客を送り、カーマイン王子の抹殺を図りましたが、どちらもプラフティー公爵のために返り討ちにされ、我々は息子のエルバートまで……」
ウィリアムは口籠る姿に苛立ちを覚えた。まるで被害者のように振る舞うその姿に腹が立って仕方がなかったのだ。
ウィリアムの本音を言えば今握っている剣で叩き斬ってやりたい心境だが……。
(今、ここで奴らを斬っても銅貨一枚の特にもならんわ)
ウィリアムはやむを得ずに剣を鞘の中へと仕舞い込み、言い訳ばかりを続けるウィリアムの頬を強く叩いていく。
運動不足があったとはいえ強烈な張り手を喰らったウラブラー侯爵は回転しながら部屋の中へと倒れ込む。信じられないと言わんばかりに大きな口を開いてウィリアムを見つめるウラブラー侯爵。
勉強や家事手伝いを怠けたことで母親から張り手を飛ばされた子どものようにいつまでも頬を擦っていた。
そんな夫の姿を見て慌てて駆け寄るウラブラー侯爵夫人。彼女は明確に口にこそ出さないものの、批判するように鋭い視線でウィリアムを睨んでいた。
身の丈も考えずに、こちらを恨む夫人の姿にもウィリアムは苛立ちを覚えた。この時の怒りを敢えて例えるのであれば噴火寸前の火山というところだろうか。
それでも怒りという名の煮えたぎったマグマを抑え込み、ウィリアムは一人で剣を握り締めながら屋敷の外へと向かう。
既に屋敷の外は陽が西へと傾き、太陽に変わって月の光が世界を照らしていた。
暗闇の中で唯一の光とならなかったのはウィリアムが外に出かける風景を見て、同行したロナルドが洋燈を手に持って辺りを照らしていたからである。
彼が影のようにへばりついていたお陰で彼はあっさりと庭へと出ることができた。庭にある小さな林の中でウィリアムは剣を抜き、苛立ち紛れに小さな枯れ木を叩き斬った。
ウィリアムの道楽のため罪のない枯れ木が一刀のうちに斬り捨てられ、半分の形に分かれていく。切り口がやや雑であるのはウィリアムの実力がこの程度のものであるからとしか言いようがない。
「チッ、役立たずどもめ……」
「閣下、どうなさいますか? これ以上、この計画に我々が足を踏み入れればあのお二方の手によって名前を明らかにされてしまうかもしれませんぞ」
ロナルドは幽霊のような不気味な顔を上げながらウィリアムに向かって問い掛ける。
「……そうなってしまえば建国以来続いた名門もわしの代で終わりだな。なんとしても奴らの口を封じねば……」
「閣下、私にいい考えがございます」
ロナルドはこっそりと耳打ちを行う。ウィリアムは自分より何倍も歳を重ねた執事の言葉を聞いて、しばらくの間は呆気に取られたような表情を浮かべていたが、次の瞬間には邪悪な笑みを浮かべながら年老いたロナルドの背中を強く叩いていく。
「妙案だ! 早速、そのように手配しろ!」
「ハッ!」
執事は慌てて庭の林から姿を消す。そんな執事の背中をウィリアムは黙って見つめていた。彼が向かったのは先日ウラブラー侯爵夫妻から廃嫡を養子縁組を解除されたエレナの元である。
エレナはファンデレージ侯爵夫妻の娘であったが、侯爵夫妻が駆除人の手によって冥界の門をくぐったことで、その後は彼女を溺愛する婚約者のエルバートの元に養子として引き取られたそうだ。
が、エルバートが刺客たちに混じって襲撃に失敗して返り討ちに遭った後にはエルバートの生家であるウラブラー侯爵家からも追放され、今では聖堂で神々に仕えているとのこと。
そんな場所に執事が向かったのはエレナにウラブラー侯爵夫妻を冥界王の元へと送るように唆すため。その餌としてチラつかせるのはロッテンフォード家への養子入りという条件。
今のところ独身で次々と新しい恋人を作りつつも、頑なに子どもは作らないウィリアムの元へと養子に来れば貴族としての地位の回復のみならず、生家に居た時ともウラブラー侯爵家へ養子に入った時とも違う待遇を受けられるというのであれば彼女にとってまたとない条件であったはずだ。
そうなるための条件はウラブラー侯爵夫妻を冥界王の元へと送ることのみ。
成功すれば騙し討ちにしてエリナも口封じ、失敗したとしてもロッテンフォード家の名は明るみに出ない。
ウィリアムにとっては一度に二度美味しい計画といえた。
彼は不適な笑みを浮かべながらもう一度、斬りやすそうな枯れ木を探して林の中を彷徨う。
数十分ほど彷徨った後で枯れ木を探して叩き斬る。今のウィリアムにとって怖いものは何もない。全ては上手くいく。全てを調整した鉄板の上で焼く牛肉のように。
ウィリアムは一人、夜の庭で勝利の讃歌を上げた。
*
「……分かりました。私がウラブラー侯爵を冥界王の元へと送ればよろしいのですね?」
貴族令嬢に相応しい清貧を持ってする巫女やその見習いの制服とされる白色のワンピースへと着替えていたエレナはロッテンフォード邸から現れた使者の言葉に対して肯定の意を返した。
「その通りだ。ウラブラー侯爵はもはやお家のために居てはならぬ存在。成功すれば我が家の養子にしてやろう」
言葉を聞いたエレナは二つ返事でその言葉を受け入れた。前金で金貨の入った袋をロナルドから渡されたということも大きい。
とはいえどもウラブラー侯爵家を抹殺するのであればそれ相応の方法を思い付かねばならぬ。
悩みに悩んだ末に考えたのはエルバートを利用するということ。
卑劣な手段に思えるかもしれないが、既に身分を剥奪され、ウラブラー侯爵家からも勘当されて聖堂の巫女見習いとしての地位しかないエレナが近付けられるのはエルバートを利用するより他に手はないのだ。
計画としてはエルバートの墓前に神々の祝福を授けたいとウラブラー侯爵夫妻を誘い出し、二人が目を瞑っている間に短剣を突き刺すより他にあるまい。
エレナに協力者はいない。仕掛けて仕損じるわけにはいかないのだ。
エレナは早速、ウラブラー侯爵夫妻の元へと手紙を記し、二人を誘い出す。
息子を裏切ろうとした元婚約者からの手紙にウラブラー侯爵夫妻は疑念を持ったようだが、エレナが指定する日程を選んで聖堂を訪れたようだ。エレナ指定したのはカーマインが帰還する前日。カーマインに対する嫌がらせを目的とした日時であるのはいうまでもない。
目的としてはウラブラー侯爵を油断させるためというのも一つであったが、舞踏会で恥をかかれされたことに対する怒りの感情も込められている。
そんな嫌味を込めた日にエレナが夫妻に祝福を授けるのは聖堂の祈りの間。本来であれば見習いのエレナが祈りを授けられるはずがない。
が、この日ばかりは聖堂の主人である、白い髭を顎の下から臍の辺りにまで垂らした大神官に許可は取っている。
大聖堂の祈り間を用いて大神官と共に祝福を授けることを許されている。
その後に彼女が大神官の老人に強請った条件こそが最重要事項といえるだろう。
つまるところ、控えの間で三人だけで話す時間を与えてもらったのだ。
身分差など諸々のことを考えれば、話すことなどできないはずであるが、大神官の老人をたらし込んで控えの間を貸してもらったのだ。
上目遣いで媚びるように甘ったるい声を出せば大神官の老人はあっさりと許可を出した。
あとはウラブラー侯爵夫妻の態度であるが、問題はない。酒を飲ませて油断させたところに短剣を突き立てればよいだけなのだから。
熱心な計画を修行の合間に何度も復唱し、頭の中で想定の動きを繰り返していると日々が過ぎるのはあっという間のことであった。
エレナの指定した通りの日にウラブラー侯爵夫妻は大聖堂へと到着し、門の前で馬車を降り立つ。
大神官の老人に頭を下げても隣にいたエレナには見向きもしない。地位のためか、はたまたか心の中で抱いていた憎悪のためか、もしくは両方か。
エレナには判別もできなかった。だが、もはやどうでもいいことだ。ウラブラー侯爵夫妻は神の怒りを買ってその裁きを受ける羽目になるのだから。
大聖堂でうろ覚えの祈りの言葉を捧げ、人の良い大神官と別れた後でエレナは密かに購入した短剣とロナルドからもらった金の入った袋を服の中に忍ばせ、ウラブラー侯爵夫妻を部屋の中へと招き入れる。
自ら扉のノブを引っ張り、夫妻を用意された長椅子の上に掛けさせたのだが、二人はエレナに対して見向きもしなかった。まるで、小石でも側に落ちているかのような冷たい態度。
不満を持ちつつもエレナが手酌で酒が入った瓶をグラスの中へと注いでもウラブラー侯爵は不機嫌そうに眉を顰めるだけ。ウラブラー侯爵夫人に至っては敵を見つめるかのように細い目でエレナを睨んでいた。
明らかな敵意を向けられ、自身の心の中にある憎悪を高めていくエレナであったが、ここで挑発に乗ってしまっては計画が立ち行かなくなってしまう。
エレナは歯を食いしばりながら侯爵夫妻に酒を勧めていったが、侯爵夫妻の機嫌は獲物が手に入らない腹を空かした肉食獣のように悪くなっていくばかり。
それでもと耐えていたのだが、とうとう正面から酒を掛けられたので彼女の忍耐は限度を迎えた。
「何が義父様だ!白々しいッ!」
「そうよ! あなたは息子を……エルバートを裏切ろうとしたじゃない!! そんな子がよくも私たちに言えたわね!」
正面から酒を浴びせられたエレナはしばらくの間は沈んだ表情を見せていたが、すぐに両目を吊り上げ、瞳の中に確かな怒りの炎を燃やしながら無言のまま夫妻の元へと近付いていく。
「な、何よ」
それまでの取り入るように甘えていた姿から一変して、恐ろしい表情へと変貌したエレナを見て目を丸くする侯爵夫人に対して彼女は躊躇なく喉へと向けて隠し持っていた短剣を突き刺す。
エレナの短剣を喰らった侯爵夫人はしばらくは喉元に刺さった短剣を信じられないと言わんばかりの表情で凝視していたのだが、すぐに短剣がエレナの手によって引っこ抜かれ、夫人の喉から莫大な量の血液が噴き出す。
同時に噴水のように噴き出した血痕が雨のように地面の下へと散らばり、あちらこちらに赤いペンキで塗りたくったような彩りを作り上げていった。
同時に、エレナがこういった行為に対してはズブの素人でもあったということも加わり、返り血を塞ぐ術を用意していなかったこともあって彼女が着ていた純白のワンピースが真正面が余すことなく赤い色で染められていく。胸部からスカートの丈の部分まで。
赤色への変色を果たしたワンピースを着たまま右手に先端から先まで下手くそな画家が絵の具で塗ったように赤い液体で塗られた短剣を握ったまま近付いてくるエレナの姿は人々が闇の中に空想する闇の中から見出す怪異そのものといっても差し支えはない。
ウラブラー侯爵はしばらくの間、パクパクと口を動かしていたが、すぐに悲鳴を上げてその場から逃げ出そうとした。
もし、仮に侯爵が勇気を振り絞ってでもエレナと戦おうとしていたら結果は違ったものになっていたかもしれない。
しかし彼は恐怖心に負けた。相手が人間であるということも忘れ、妖怪から逃げようと扉へ向かって駆け出していったのだ。
その際に背中に向かって剣が勢いよく突き刺されていく。エレナが刺した短剣は侯爵の心臓へと到達したらしい。
しばらくの間はピクリとも動かなかったが、エレナが短剣を引き抜くのと同時に血液の大量出血を塞いでいた栓が離れたこともあって、勢いよく背中から血液が飛んでいった。
そればかりではない。何度も何度も突き刺す。大工が釘を打ち付ける時のように何度も執拗に。
壁や天井あたりに大規模な血が流れていく。既に部屋の中では惨劇が行われていた。
エレナは自身の足元に倒れている侯爵夫妻を見下ろす。足元でだらっとして倒れる夫妻たちは既に事切れている。
エレナは狂気に満ちた笑みを浮かべながら控えの間を後にした。
エレナと同時に同僚の巫女見習いが入れ違う形でお茶とお茶請けが載ったお盆を運んで訪れたのだが、彼女はその凄惨な光景を前にしてこの世のものとは思えぬような叫びを口にした。運が悪いとしか言いようがなかった。
遠くから絶叫を耳にしたエレナは己の勝利を確信して密かに微笑んだ。
同時にロッテンフォード邸の庭の中へと慌てた様子で駆け込む。
庭をくぐり、書斎の扉を懸命に叩くと、ロッテンフォード家の女中が血まみれとなった彼女の姿を発見して絶叫した。
悲鳴を聴きつけるのと同時にロッテンフォード家の私兵たちがエレナの元へと現れた。
予想外の相手が現れたことに対して絶句するエレナ。次に驚愕は恐怖へと変わり、両目に涙を浮かべながら兵士たちに向かって懇願を行う。
同時に癇癪を起こした子どもが喚き散らすようにロナルドからの依頼を口に出していく。
ウラブラー侯爵の一件はロッテンフォード家から頼まれたということ、この仕事を終えればロッテンフォード家の養子に出してくれることなどを。
私兵たちが皆、首を傾げていた時のこと。扉が開いてロナルドが姿を見せた。
「なんの騒ぎかね?」
ロナルドは不機嫌そうに両眉を顰めながら兵士たちへと問い掛けた。
「はい、この狂った娘が何やら訳のわからぬことを仰っておるのです」
兵士の一人が槍の穂先を突き付けて呆れ果てたような声で言った。
「私が? しかしなんのことだかわからんね。私とこの娘とは初対面だ」
ロナルドの言葉を聞いた時、エレナは頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。同時に悟った。ロナルドが、いや、ロッテンフォード家が自身を最初から捨て駒に活用していたということを。
「初対面? そんなはずない! あんたが私にウラブラー侯爵を冥界に送れって!」
「知らんものは知らん。目障りだ。この娘をさっさと警備隊にでも引き渡してしまえ」
その言葉を聞いたエレナは我を忘れた。強く握り締めていた短剣を片手にロナルドに向かって挑み掛かっていく。
だが、それよりも前にロナルドの前に二人の憲兵が立ち塞がり、エレナの両肩を槍で貫く。蚊に吸われたような小さな跡から順番に血が噴き出し、エレナは部屋の中に倒れ込む。
それを見たロナルドは眉を顰めながら私兵たちに命令を下した。
「何をしている! この娘の血でせっかくの家が汚れてしまうではないか!! 早く、この娘を屋敷の外へと投げ捨てろ!」
「はっ、はい!」
両肩に槍を突き刺した二人の兵士がエレナを抱き抱えて屋敷の外へと乱暴に放り捨てた。
「こいつ、トドメを刺さなくていいのか?」
「いいや、どのみちあの傷じゃもたないさ。せいぜい放っておくことだな」
エレナの両肩に二人の兵士は下品な笑みを口に出しながら屋敷の奥へと引っ込む。
エレナは二人の兵士が居なくなったのを確認し、傷が痛み、体を這いずらせながらも前へと進む。向かう場所はプラフティー公爵邸。
なぜ、彼女が人生の最後にそこを選んだのかは分からない。実際に彼女自身も分からなかったに違いない。
強いていうのであれば実姉であるアリスの存在だろうか。産まれてからずっと話す機会もなかった実の姉の顔が浮かぶ。
体を這いずらせながらエレナはこれまでの人生のことを思い返す。
これまで人生を振り返る時には自身の視点で身勝手に振り返るだけで、周りにいた他者のことは考えていなかった。
だが、薄らとした意識の下に冥界の門が近付いていくにつれてそのことに気付かされた。
かつての自分を俯瞰して見つめていくことで、自分は自分勝手で自分さえ良ければという身勝手な思いの持ち主だったと改めて気付かされた。
婚約者がいるというのに顔が良いという理由や王妃という地位に憧れを持ったが故にカーマインに接近したこと、エルバートの愛を裏切ったことなどを振り返っていくと自分の身勝手さが改めて思い起こされていく。
本来であれば貴族の地位をもっと昔に剥奪されるはずだったのにそんな自分を養子に迎え入れてくれたウラブラー侯爵夫妻、カーマインへと接近した話を聞いても信じずに自分を愛してくれたエルバート。
「刺客」としてカーマインの暗殺計画に自ら参加したのも何としてでも成功させて両親を安心させ、早くにエレナを迎えたいという焦りから生じたものだろう。
そのために彼は冥界王の元へと旅立ってしまったのである。
そして、カーマインとの一件まで我が儘でお転婆で破廉恥ともいえるような行動ばかり取っていた自分を見放すこともなく付いてきてくれた姉。
そんなこともつゆ知らずに世界は自分中心で回っていると思い込んでいた。
そうではないと気付かせてくれる機会はいくらでもあったはず。それを悉く駄目にしたのは自分自身。
エレナは両目に後悔の涙を流していく。嘘の涙ではない真実の涙。もう一度会えるのであれば全ての人たちに謝りたい。
自らの意思で傷付けてしまったウラブラー公爵夫妻にも真剣に頭を下げたい。
こうして、彼女は後悔の念にふけながらプラフティー公爵家の屋敷へと辿り着いた。
屋敷の門の前で彼女は必死になって姉の名前を呼ぶ。
消えそうなほどのか細い声であったためか、なかなか言葉は届かない。
もう駄目かと両目の瞼を閉じて門の前で倒れそうになった時のこと。
「おい! しっかりしろ!! あんたどうした!?」
と、門が開いて若い男の声が聞こえてきた。どうやらこちらへ駆け寄ってきているらしい。
人の声が聞こえてくるのと同時に安堵したのか、エレナは地面の上へと倒れ込む。
この時に頭をぶつけなかったのは頑強な若い男が彼女の体を両手でしっかりと支えていたからだろう。
若い男は倒れたエレナの体を必死に揺り動かし、耳元で「おい」と叫び続けるが、彼女の瞼は閉ざされそうになっていく。冥界王の元からの使者が彼女を冥界へと引っ張ろうとしている。
抵抗しようにも力が入らない。目の前にいる男が誰であるのかは知らない。
ただ、男のはっきりとした目鼻立ちや薄い桜色の唇から察するにそれなりの美男子であるということは想像がついた。
だが、仮に名前の知らない相手であっても冥界へと渡る前に懺悔の言葉を聞いてほしい。自身の後悔の念を聞いてほしい。ましてや美男子ならば尚更というところ。
最後まで自分は面食いらしいと苦笑しながらエレナは男の服の裾を強く引っ張りながらその耳元に向かってか細い声で吐き出す。
「私お姉様に酷いことばっかりしてきた……私、最低。お姉様はずっと私と仲良くなりたかったのに……私は自分さえよければって……見ないふりをしてた」
「……大丈夫だ。何があったのかは知らないが、きっとそのお姉様とやらも許してくれるさ」
男の言葉は慰めだ。声が震えているのがその証拠。ただ、その気遣いは嬉しいので指摘はしない。
エレナは黙って話を続けていく。
「私、身勝手だった。本当に愛してくれる人がいたのに、それを忘れて乗り換えようなんて……嫌われて当然だよね?」
「何を言ってるんだ。気の移り変わりなんて誰にでも起きることだよ」
男の口から苦笑するような声が漏れた。どうやら彼自身も反応に困っているようだ。当然だろう。
「相手の両親も怒るよね? 当然だよね。でも、こんな身勝手な私はきっと冥界に行っても怒りに触れて魂を食べられちゃうよね?」
「何を言ってるんだ。君はいい子じゃないか。ちゃんと謝れている。きみのお姉さんとなにがあったのか知らないけれど、きっと仲直りできるさ。さっさと傷を治して……」
どこまでもお人好しな男に好感を抱いた。この男であれば真相を打ち明けられるかもしれない。
エレナは服の裾を掴む力をより強く引っ張り、涙を交えながら今宵の懺悔を行う。
「ううん。無理、私は取り返しがつかないことをしてしまったもの。それに人だって……」
「人? 人がどうかしたのかい?」
「私騙されたの。ロッテンフォード家の執事に」
「騙されたってきみが?」
エレナは男の問い掛けを聞いて小さく首を縦に動かす。同時に懐から僅かばかりの金銭が入った袋を取り出す。
袋の入った手を震わせながらエレナは相手の男に必死な顔で懇願していった。
「こんなもの……公爵様の家に住むお姉様には端金かもしれないけれど、受け取って……それで少しでも役に立ってほしいんだ」
エレナはそう言い切るの同時に腕を落とし、そのまま両目の瞼を閉ざした。
男は何度も彼女の耳元で叫んだものの、彼女が起き上がる様子は見えない。
腕の中で既に彼女は冥界へと旅立ったらしい。腕の中で抱かれる彼女からは先ほどまで聞こえていた、か細い息すら聞こえてこなかった。
*
男もといオーウェンは彼女を抱き抱えながら自身の主人であり駆除人仲間でもあるリーバイの部屋の元へと向かう。
リーバイはつい先日、領地から帰宅したばかり。自身も今日付けで大工の仕事に戻ったばかりという時にとんでもないことが参ったというのを知らせるためである。
オーウェンは既に事切れた彼女を抱き抱えながら必死に窓を叩く。
部屋のベッドの上で休んでいたリーバイは眠そうに目を擦って窓を開くと、そこに血まみれとなって冥界王の元に向かったエレナの姿と彼女を抱き抱えたために服の正面を赤色で汚したオーウェンの姿を発見したのである。眠気など遥か彼方へと吹っ飛んでしまった。
「……オーウェン。そいつから何か言伝はあったのかい?」
「あぁ、これを姉さんによろしくと」
オーウェンはエレナから預かった袋をリーバイへと渡す。
ずっしりとした重みの伝わる皮袋。試しに中を開くとそこからは3枚の金貨を除けば全て銅貨という明らかな不揃いともいえる硬貨の山。
硬貨の山を積んだ後でリーバイはオーウェンに向かってもう一度問い掛ける。
「他に何か言っていたかい?」
「ロッテンフォード家の執事に騙されたと」
「……ロッテンフォード家の執事か」
リーバイの頭の中にカーマイン王子謀殺の陰謀がよぎる。
陰謀の黒幕であったロッテンフォード家は陰謀が失敗を感じるのと同時に操っていたウラブラー侯爵家を消そうと目論んだらしい。
そのためにエレナを利用したのだろう。
「……汚ったねぇ野郎だ」
リーバイは思わず吐き捨てる。同時に窓の外にいるオーウェンに向かって指示を出す。
「悪いが、明日までにロッテンフォード家の陰謀とやらを掴んでくれ」
「……わかった。任せておきな。駆除人として小さい頃から鍛えられたオレだ。屋敷に潜入するくらいは朝飯前ってもんよ」
オーウェンは胸を叩いて闇の中へと姿を消す。明日の朝までには情報を仕入れてくれるだろう。
リーバイは刀を握り締めながら明日のことを思案していく。
標的はロッテンフォード家の執事。困難な相手かもしれないが、駆除人名利に尽きるというもの。
リーバイは久し振りに駆除人として動き出せることに胸を弾ませていた。
*
「旦那から預かったウラブラー家を仕留めるための報酬は返すよ。そうなる前にあいつらが先に旅立ってしまったからな」
ギルドマスターは難しそうな顔を浮かべながらリーバイから受け取った金の入った袋を渡す。
だが、リーバイはそれを断り、ギルドマスターの前にエレナから受け取った袋を突き付ける。
「旦那、困るよ。賄賂なんて」
「賄賂じゃねぇ。新たな『ブラッディ・プリンセス』が入ったんだ。その金は迷惑料と新しい依頼を急に入れる手数料だと思ってくれや」
ギルドマスターは呆れたように深い溜息を吐き出しながらリーバイと向かい合う。頬杖をつき、面倒な顔を浮かべながら問い掛ける。
「わかったよ、それで相手は?」
「相手はロッテンフォード家の執事、ロナルド・コーン並びにロッテンフォード家の私兵の……なんつった?」
「ヘンリーとチャールズだ。ありきたりな名前だが、こいつらも十分に頭のおかしな奴でね。もともとはそこら辺にいるごろつき同然の傭兵だったんだが、ロナルドに身染められ、雇われたんだそうだ。しかもいつでも好き勝手に剣を振るえるというのが理由のふざけた野郎でね」
オーウェンは一晩のうちに調べてきた情報をバーカウンターの前で訳なく喋っていく。
ギルドマスターはなにも言わずに客が飲んだ酒が入った杯を拭いていた。
「どうするんだ? 旦那? こいつを冥界王の元へと送る機会はあるのかい?」
側で瓶をラッパ飲みしていたストーンが興味深そうな目を向けながら問い掛ける。
「どうなんだよ? オーウェン?」
方法が思い付かなかったのか、リーバイは責任を転嫁するようにオーウェンへと向かって問い掛けた。
「問題はない。あいつらは今日、街に繰り出す算段になってる。なんでもロナルドが自分の給料で奴らに『エノク』って宿屋で酒をご馳走するだそうだ」
「なるほど、こいつは奴らへの口封じ兼褒美ってところか」
「この機会を逃せば奴らに冥界の扉をくぐらせるのは難しくなるだろう。今日しかねぇ」
オーウェンが急かすように言った。その目には確かな決意が固まって見えていた。
彼女の最期を看取ったこともあってか、決意が固くなっているのだろう。
「えぇ、行きましょう」
それまでじっと話を聞いていたアリスが全員の意見をまとめた。話がまとまるのと同時にリーバイが会計を払い、ギルドマスターが奥の部屋へと彼らを連れ込む。
全員が部屋中にある長椅子の上に腰掛けたのを確認してから真剣な顔つきで全員に前金となる4枚の金貨をそれぞれに手渡す。
「やってくれるね?」
全員が一同に首を縦に動かす。四人の駆除人たちが闇の中を歩きながら『エノク』へと向かう。
『エノク』の前は既に行列が並んでいる。余程、人気の宿屋なのだろう。
二階建ての宿屋の前に恐ろしいほどの人間が酒やつまみを求めて並んでいた。
その中に不揃いな綺麗な衣服を着た老人と下賎な顔を浮かべた茶色の革のような服を着た二人の男の姿が見えた。
「いいか、今回は好きなものをなんでも頼め。これはお前たちに許された褒美なのだからな。遠慮する必要はない」
ロナルドは公爵家の執事に似つかわしい横暴な口調で二人に向かって言い放つ。
「ヘヘッ、流石はロッテンフォード家の執事様」
「ありがたくご相伴に預かりましょうか」
と、上から目線で訴えられたにも関わらず、犬のように尻尾を振って付いてくる下世話な顔を浮かべた二人。標的が彼らであることは間違いない。
駆除人たちは『エノク』の行列の中へと紛れ込み、三人を仕留めるための妙案を話し合っていく。
悩ましい方法であったが、今回はアリスが囮になるとのこと。
「お前、本気か?」
リーバイは目を丸くしながら問い掛けた。
「えぇ、そのために閣下は私を仲間に引き入れてくださったのでしょう?」
「無茶はするなよ。お前は王子のお気に入りなんだぞ」
「分かっています。けれど、私は人をまるで不要になった塵紙を捨てるように捨てたあの人たちが許せない……そういった理由で協力してはいけませんか?」
アリスの目は真剣であった。妹に対する情も家族に対する情も既に地の果てへと消え果てていたはずであるが、この時ばかりは彼女両目から確かな青色に燃え上がる憎悪の炎を確認したのである。
彼女の熱に押し出されたこともあった他に妙案が思い付かなかったということもあってか、リーバイは彼女の作戦を実行することに決めた。
酒場として食堂として提供している場所を抜け出し、リーバイは大金と共に部屋を借りた。
王都に住まう普通の人々はリーバイの顔を知らない。万が一、警備隊や自警団の聞き込みがあったとしてもリーバイに捜査の手が及ぶことはないだろう。
それでも話す時には印象に残らないように自然な様子で話し掛ける。
目を逸らしもせず、かと言って合わせもせず、時折顔を背けるという高度な技術だが、駆除人たちは難なくこなせるものなので問題はない。
リーバイはそう確信しながら隣の席でアリスが兵士たちに話し掛けるのを見つめていた。
同時にストーンが階段を登って偽名で借りた部屋に向かうのを見た。
計画としてはストーンが待ち伏せして、チャールズかヘンリーを仕留めるというもの。
残ったもう一人をオーウェンが、そしてロナルドをリーバイが仕留めるという計画になっていた。
注意をして窺っていると、色っぽい表情を浮かべたアリスが男の一人を連れ出して二階へと上がる姿を見せていた。
残された一人が不満をぶちまけながら酒を飲んでいるところにオーウェンが腰を掛ける。
「ここいいかな?」
と、爽やかな笑みを浮かべて問い掛けられてしまえば断れる人間などいるはずがない。爽やかな笑みの他に、愛想の良い顔でニコニコと笑いながらお酌を行う。
その度になにやら大袈裟な言葉で褒めているのか、すっかりと男は気をよくしていたらしい。デレデレと頭をさすっていた。
一方でロナルドの方は不機嫌であったらしい。自分のことが放って置かれて面白くなかったのだろう。
ぶつくさと不満気に一人で酒を飲んでいると、
「おっ、ここで私も呑んでいいですかな?」
と、聴き覚えのある声が聞こえてきた。
慌てて隣を振り返ると、そこには予想だにしない人物がいた。
彼は愛嬌のある顔で困ったように笑いながら、
「私じゃあ役不足ですかな?」
と、聞こえるようにはっきりと口に出した。間違いない。彼こそプラフティー公爵家の当主、リーバイその人である。
服こそ庶民が着るようなボロボロとした地味なものを着ている上に鞘に収められた剣も何の装飾もない地味なもの。
貴族の公爵というよりは安月給で酒を呑みにきた下っ端にいる憲兵のように見えて仕方がない。
『昼蝋燭』と普段から馬鹿にされている相手であり、服装も雰囲気も下っ端の憲兵にしか見えない男であるが、執事の自分にとっては遥かに格上の相手であることは間違いない。
すっかりと萎縮した様子で青ざめた顔を浮かべながら隣の席を譲る。
「まさか、閣下がこのようなところにいらっしゃるとは」
「いえいえ、家でも外でも役立たずと言われる私なので、たまにこうしてお忍びで呑みたくなるのですよ」
リーバイはそう断りを入れた後で店員に向かって上機嫌な様子で発泡酒を頼む。下品に発泡酒を飲み込む姿は到底公爵家の当主姿とは思えない。
ロナルドが見下したような目でリーバイを見つめていた時のこと。
突然、彼が悪酔いしたのか、ロナルドに腕を回して馴れ馴れしく絡み始めた。
「なかなかいい酒でしょう? 実は近くにも発泡酒を提供する店がありましてな。どうです? 今から二人で行きませんか?」
「いや、私は……」
「いいから! いいから! さぁ、行きましょう!」
と、半ば無理やりロナルドを酒場の外へと連れ出す。それをどこか忌々しい顔で見つめる男の姿。
そんな男に茶々を入れるようにオーウェンが言った。
「ハハっ、兄さん、振られちゃったね」
「そうだよ。これからあいつに奢ってもらうつもりだったんだが」
「構わないよ。酒やつまみくらいならおれが奢ってやるよ」
その言葉に男は両目を輝かせていた。そして言葉に甘えたのか、どんどんと上品な酒を注文して浴びるように呑んでいく。
酒の神が酒を嗜むように豪快に飲んでいく姿を見て興奮を覚えたのか、周りにいた客たちが拳を振り上げて応援していく。まるで、飲み比べの勝負を応援するかのように。
周囲の声援もあってか、浴びるように酒を呑んでいたのだが、とうとう体内の酒の許容範囲を越えたのだろう。机の上に突っ伏して倒れ込む。
机の上からは寝息さえ聞こえてきた。
既に勝負はついたと見え、各々の席へと戻っていく。
周りの客たちの目も届かなくなった。既に周りの客たちは自分たちの席へと戻って自分たちの酒を楽しんでいる。
オーウェンは解放するかのように男の元へと近寄り、背中を摩っていく。
同時にオーウェンはポケットの中に隠していた釘を取り出す。見えないように拳を作って釘を指の間に挟む。
それから釘を挟んだ手を首の元へと伸ばし、眠りこける男の延髄へと釘の先端を打ち込む。延髄は人体の急所。ここに何かを打ち込まれれば人体の生命機能は多ちまちのうちに失われてしまうといっても過言ではない。
実際、延髄に釘を打ち込まれた男は短く小さな悲鳴を上げながら冥界王の元へと旅立った。
これでは眠りこけているようにしか思えないだろう。安心したオーウェンは釘をポケットの中へと仕舞い込み、会計に向かう。
「おや、お連れさんは?」
「どうやら眠ってしまったらしい。悪いが、起こさないでくれると助かる」
と、言い放ってその場を後にした。何食わぬ顔を浮かべて。
堂々と嘘を言い張ることこそ駆除人の流儀というものだろう。
一方でアリスに誘惑されるまま二階へと
上がった男であったが、彼はそこで信じられないものを目撃することになった。
邪な目的で部屋の中へと足を踏み入れた男。下賎な笑みを浮かべながら扉を開くと、その先にいたのは自分より頭一つ高い大きな背を持つ禿げた頭を持つ男の姿。
慌ててその場を逃れようとしたものの、扉の前にはアリスが立ち塞がっている。
「退け!」
恐ろしい存在に追われたことで焦っていた男は声を荒げたのだが、アリスは身じろくことさえしない。そればかりか、毅然とした顔で男を睨んでいる。
苛立った男が腰に下げていた剣を抜いてアリスを斬り捨てようとした時のこと。
突然、剣を握る男の腕が掴み上げられ、大きく右方向へと捻られていく。
あまりの出来事に悲鳴を上げようとしたものの、口を塞がれてしまい言葉を発することもできなくなってしまう。
太くて硬い丸太のような逞しい腕で口を塞がれたまま男はベッドの上へと打ち付けられ、そのまま両手で首を掴み上げられた。まるで、絞首刑を喰らった罪人のように。
初めのうちこそバタバタと動いていたものの、やがて静かになったらしい。
最後の方には青い顔で大の字になってベッドの上に寝転がっていた。
こうして、凶悪な元傭兵は醒めることのない悪夢を見ながら冥界王の元へと旅立ったのである。
二人は元傭兵が動かなくなったのを確認してから何食わぬ顔で一階へと降り、人々の喧騒に紛れながら宿屋を後にした。実はこの時にもう一人の男がオーウェンの奢りという名目で宿中の酒を開けんばかりの勢いで酒を楽しみ、周りの人々の視線の注目を浴びていたのだが、二人は知る由もなかった。
屋敷へと向かう道中で今回の事件の後のことを推定していく。宿屋の店員が事切れた彼の姿を発見するのは翌朝のこと。それまで明らかになることはないだろう。
仮に宿屋の店員や客たちが詳細を覚えていて、人相書きが出回ったとしても公爵家にまで類が及ぶことはないはずだ。
二人は悠々自適な様子で闇の中へと消えていった。
ちょうど、二人が仕事を終えて屋敷への道を歩いていた時のこと。
リーバイがロナルドを連れて路地裏へと向かっていた。
「すいません、どうも少し呑みすぎたせいか、気分が悪くなってしまいまして……よろしければ背中を摩っていただけないでしょうか?」
ロナルドは呆れたような顔を浮かべていたが、相手はお忍びの姿をしているとはいえ公爵。逆らうわけにもいくまい。
リーバイと共に人々の姿が見えない店と店と隙間、野良猫やらが跋扈する路地裏へと到達した時のこと。
呑み過ぎのため気分を害し、壁に手を伸ばしていたはずのリーバイが不意にロナルドの背後へと回り込む。
一瞬の出来事に意表を突かれたような顔を浮かべるロナルド。
だが、彼がそれ以上の言葉を喋ることはなかった。というのもその口を掌を使って大きく塞がれてしまったというのが大きい。
口を塞がれたことで何もできなくなったロナルドに向かってリーバイは無言で腰に刺していた剣を背中から突き刺す。心臓へと一突きに。
口を塞がれてしまったこともあってか、抗議の言葉を口に出すこともできないロナルドに対してリーバイは深海の水のように冷えた声で言い放つ。
「テメェに騙された、エレナ嬢の恨みだ。たっぷりと受け取りな」
リーバイは唖然とした顔でロナルドの背中へと突き刺さった剣を引き抜いていく。
同時に濡れた剣をロナルドの上着で拭い取ると、鞘の中へと仕舞い込む。
路地裏の中には打ち捨てられたようにロナルド・コーンが倒れていた。
が、喧騒の状態にある中でわざわざ路地裏を覗き込むとする物好きはいない。
結局のところ、翌朝までロナルド・コーンの異変に気が付く者はいなかった。
*
翌朝、駆除の直後であるにも関わらず、お別れの儀式の準備を行うため、朝早くから目を覚ましたリーバイのもとにアリスの姿が現れた。
「おぉ、アリスか? どうかしたか?」
「閣下、私にお願いがあります。どうか、私とカーマイン殿下の仲を祝福してくださいませ」
予想だにしなかった言葉だ。昨晩の駆除の現場では何の異変も見えなかった。
いつも通りに駆除を進めているかのように思っていたのだが、彼女は駆除の合間もずっと思い悩んでいたのかもしれない。
「カーマイン殿下に騙されてるんじゃあないだろうな?」
リーバイは両目を日頃、愛用している剣のように鋭く尖らせながら問い掛ける。
「そ、そんなこと! 殿下はちゃんと私を見てくださっております!」
アリスの顔は必死だった。まるで、恋人を嫌う義父に逆らうかのように。
リーバイが呆れたように見つめていると、扉を開いてカーマインの姿が見えた。
「プラフティー公爵殿! 私はあなたが何と言おうとも彼女を連れていく! 既にご夫人からは許可を取っているので残るはあなただけだ!」
カーマインがそう宣言するのと同時にアリスに手を伸ばし、彼女を引き寄せるとその柔らかな形の良いピンク色の唇に自身の唇を重ね合わせていく。
これはアリスだけではなく、リーバイその人も思わず顔を赤らめてしまった。
カーマインは強い酒を呑んだ後のように顔を赤くするアリスを優しく受け止め、自身の元へと引き寄せていった。
愛する姿を見せられた上にリリーザの許可まで取っているのであればもう言うことは何もない。
「……そこまで言うのであればもう反対はしませんよ。しかし、もう一度アリス様には聞いておく必要がありますな」
「は、はい!」
アリスはひどく緊張した様子で答えた。
「アリス様、あなたは本当にこの方と一生を添い遂げるお覚悟で?」
「はい!」
アリスは迷うことなくリーバイに向かって言い放つ。その目は透き通っていたが、同時に確固たる意思が放たれているようにも思えた。
もう、二人の愛を誰にも邪魔をさせることはできないだろう。
リーバイは肩の力を落としつつも二人の仲を祝福したのである。
満足そうなな顔を浮かべて部屋を後にしようとするカーマインを呼び止め、
「お待ちくださいませ、殿下」
と、声を掛けた。
カーマインが振り返るのと同時に彼は側へと近寄り、恐ろしい顔を浮かべながら普段の様子から想像もできないほどの冷たい声で言い放つ。
「もし、あなた様が私の言葉を忘れ、暴君や暗君となり、人々を苦しめるようであれば私は何の躊躇いもなく、あなたを冥界へと送りに向かいますからな」
両肩を強張らせながらも必死に首を縦に動かすカーマインを見た後に続いて、アリスへと顔を向けて、
「アリス様、どうか私との思い出は胸の内に秘めたままにしておいてくださいませ。これから未来を歩まれるあなた様は過去に目を向ける必要などないのですから」
その言葉の暗喩は口止め。駆除人を抜けるのであれば当然ながら行うべきこと。
駆除人として駆除に参加した日より掟はリーバイから教えられて十分に理解していたアリスは必死になって首を縦に動かす。リーバイからの粛清を免れるために。
カーマインがアリスとの正式な婚約を発表したのはその日の別れの舞踏会の席の上。堂々と彼女を妃として迎え入れることを宣言したのである。
翌日の朝にカーマインは誰に咎められることもなく、従者と共にクライン王国を後にしたのである。
リーバイはその日の夜、報酬を受けるために三人で駆除人ギルドを訪れていた。
アリスはカーマインとの婚約で駆除人を外れたのでいつも通りの人数に戻ったというべきだろう。
リーバイたちが仕留めた三人の悪党はあの夜以降、王都を駆け回っていたらしいが、下手人の特徴を覚えている人間は殆どいないらしい。
証拠も残されていないため捜査は非常に難航しているとのこと。
以上の話を後金を受け取る際にギルドマスターから受け、リーバイたちは安心したように酒を啜る。
「しかし、旦那ももったいないことをしたね?いずれは養女にでも出来ただろうに」
「確かに、あの子はいい子かもしれないが、表はともかく裏稼業であれば、おれの後を継ぐとなれば少し役不足だね。まぁ、裏は子どもか……孫にでも期待するか」
「ハハっ、孫か子の方が旦那より腕のいい駆除人になったりしてな」
オーウェンが酒の入った杯を片手にケラケラと笑いながら茶々を入れる。
「そんな時はオメェの技量を貸してもらうか、釘でいけるんなら針でも応用は効くだろ?」
オーウェンはまたしてもケラケラと笑い出す。面白くて仕方がないとでも言わんばかりに。
リーバイも彼に釣られて笑いながら杯を突き出し、何杯目かの酒を嗜む。
杯の中をまたしている赤い色の蒸留酒を舐めながら窓の外を眺めていると、眩いばかりの月の光が差し込んでいることに気が付く。
「そういえば、今夜は満月だったなぁ」
ストーンがしみじみとした調子で言った。
「そうだな。もしかしたらアリスもあの王子と一緒に馬車の中で見上げてるかもしれんな」
「純情だねぇ。旦那。その心を活かして詩人にでもなったらどうだい?」
ギルドマスターの揶揄いを聞いたストーンとオーウェンが同時に笑う。リーバイが苦笑しながら酒を啜っていると、眩いばかりの満月がまるで笑っているかのように光り輝いていく。
「月まで笑っていやがるぜ」
リーバイは困ったような顔を浮かべながら酒を飲み干す。
相変わらず、窓の外の月は眩いばかりの光を放ちながら空の上に浮かんでいた。純情な気持ちで酒をあおるリーバイを揶揄うように。
*
あとがき
本日でこの連載は終了となります。先日の投稿が遅くなってしまい誠に申し訳ありません。最終回ということで気合を入れて書いていた分、時間も文字数も大幅にオーバーしてしまうという事態になってしまいました。
今回は過去編ということでしたが、また次回からは本編の時間軸を舞台にした外伝も書いていきたいです。
その時が、いつになるかは分かりませんが、その時もまた応援してもらえれば幸いです。
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感想いただきありがとうございます。
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