魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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ファースト・ミッション編

拳銃と麻薬と

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白籠市を牛耳る、関東随一の暴力団組織、東海林会のリーダーともなれば、忙しいのは仕方がない事なのかもしれない。
だが、部下がこのような失態を犯して、真夜中に呼び出されるとはいくら、東海林会の会長たるもの限界があった。しかも、場所は港に近い貸し倉庫の一室。
あの何とも言えない貸し倉庫特有の臭い匂いと汚れが苦手ではあったが、重要な案件とあればいくしかあるまい。
そう言い聞かせて、既に部下を捕らえている倉庫に足を踏み入れる。
倉庫のシャッターを開けた東海林会のリーダー岡田武人は失態を犯した部下にその怒りをぶつける事にした。
「も、申し訳ありません!まさか、武器の取引現場を抑えられるなんて……」
中年のサングラスをかけた男は涙ながらに言い訳を放つ。
だが、その姿は武人の怒りを買うばかり。
武人はプロのボクサーのような鋭い拳を失態を犯した部下に放つ。
部下の歯が一本折れたらしい。白く光るものが飛んでいくのを武人は確認した。
だが、怒りは収まらない。むしろ、怒りは火山のマグマのようにふつふつと湧き出していくばかり。
武人はサングラスの男の胸ぐらを掴み、再び男の顔を殴る。再び歯が飛んでいく。
「テメェの指詰めるくらいじゃあ済まねーんだぞ、バカヤロー……この事がトマスの旦那に知られてみろ、オレたち全員終わりだぜ、東海林会は警察に潰される前に旦那方に潰されるだろうよ」
武人はそう考えると、ムカつきを感じて男を再び殴り飛ばす。
ギャァと叫ぶ声が聞こえた。大方、ダメージが腰にでも響いたのだろう。
だが、そんな事は構いもせずに武人は部下のヤクザ達に男を立たせるように指示を出す。
「そのバカを始末しろ、そして、何としてもこの損失を取り返せッ!じゃあないと、次の報告日にオレは奴らに切り刻まれて、魚の餌にされちまうんだぞ!」
武人の言葉に全員が従い、男に向かって拷問器具を取り出す。
武人はそれを見て笑い出してしまう。そしてその場から立ち去ろうと入り口に向けていた足を捕らえられている部下の方向に向け直して、
「待て、あのバカの粛清にはオレも立ち会うぜ」
生き物ーー特に人間を苦しめるというのは武人にとっては至高の娯楽であった。
しかも、殺してもという拷問ならば、彼は三度の飯よりも好きだと言っても過言ではないだろう。
彼は生まれながらのサディストであったのだ。
彼は舌で唇を舐めながら、拷問器具を手に男の方に向かう。




「こいつは酷いな」
殺人課に所属して3年目の若手刑事である、柿谷淳一は遺体のあまりの凄惨さに思わず目を逸らしてしまう。
馬面で身長の高い彼は日頃から、何事にも動じないと名馬だと署内で揶揄され、噂されてきたが、これ程酷い現場を見ると吐き気を催さずにはいられないというのが人情だろう。
事実、淳一の他にも何人かの刑事が来ていたが、全員が全員を顔をしかめているか、不快な思いを全身から漂わせていたのだから。
「つまり、被害者は生きながらにして、に合わされていたというのかね?」
小田切士郎と名乗るベテランの刑事は鑑識の白衣を着た禿頭の検査医に尋ねる。
「ええ、間違い無いでしょう、それにしても何故、あなたが?この事件は例の事件とは無関係の筈だとお伝えしましたが……」
「もしかしてと思ってな……」
そう呟いたあのベテランの小田切刑事には何か深い事情があるのだろう、と淳一は考えた。
小田切刑事は海外の映画を見る人が見れば、この人こそが刑事デカだと主張したくなる人かもしれない。
ゴツい顎にプロレスラーのようにガッチリとした体格。クリーム色のトレンチコート。同じくクリーム色のスーツにハンチング帽。彼を語る特徴とすればこのくらいのものだろうか。
そんないかにもな刑事の悩み事とは何だろうか。
検査医の言う『例の事件』とやらの事だろうか。
少なくとも、本件とは関係なさそうだと淳一は結論付けた。
あの刑事が何であるにせよ、自分は自分の事件を解決するばかりだ。
淳一はそう言い聞かせて、検査医の方に向かう。
「あの、彼の直接の死因は何なんですか?」
淳一の言葉に検査医は携帯端末を操り、死体の情報をタップして、正確な死因を教えてやる。
「恐らく、被害者は血を大量に抜かれて死んだんだろう……それが直接の死因だろうな、何だって全体のあらゆる箇所に想像もつかないような傷があり、我々の手には負えないような酷い状態なんだ、それに加えて銃傷や切り傷や頭を鈍器で殴られた跡、首を縄で締められた跡などの直接的な死因がないんだ、加害者の絶対に楽には殺させないと言う執念を感じるね」
そう語った検査医の表情は使い古した車の窓ガラスのように曇っていた。
当然だろう。あんな凄惨な死体を見れば誰だってそうなる。
淳一はそう自分にも言い聞かせた。
「東海林会の奴らめ、好き勝手にやりやがって……」
無意識から出た言葉であったが、その場にいた全員が聞こえるには十分過ぎるほどの大きな声であった。
小田切が申し訳なさそうにハンチング帽を被り直す。
分かっている。この場にいる全員が東海林会には諦めにも似た感情を持っている事を。
刈谷阿里耶が街を支配していた時代も、本多太郎が市長をしていた時代も彼らは『傍観者』だった。
そして、中には身内を脅されて止むなく従っていた人間だっていただろう。
弟を殺されると脅されていた自分のように……。
淳一はそれだけに、東海林会の横暴に従っている人々に何も言えなかった。
だが、こんな時に自分のかつての友人は何と言うだろうと考えた。
最初は敵同士だった。自分自身警察官でありながら、街を牛耳るヤクザのためにただ一人、賄賂や脅迫に応じない「清楚潔白な警察官」と戦った。
刈谷阿里耶より更に凶悪な東海林会ならびに岡田武人になす術もなく、チャールズ・ホイットマン相手に無意味にも関わらずに、銃を放り投げた1968年の旧アメリカ合衆国の警察官たちのように怯えてしまうだろうか。
答えは否だ。彼は人々の安全を守るためならば、東海林会だろうが、刈谷組だろうが立ち向かって行くだろう。
そう言う人間なのだ、中村孝太郎という人間は。
淳一はそう考えると、いても経ってもいられずに、捜査に集まった捜査員たちを相手に演説を始める事にした。
例え、自分に不備があったとしても、それでも何かしらの反撃の手段にはなるだろう。
淳一は大声で注目を浴びせさせると、大きく息を吐き、演説を始めた。

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