魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第二部『アナベル・パニック』

アナベル人形フェア

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「聞いてくださいよ!孝太郎さん!」
倉本明美は涙をいっぱいに溜めた目で孝太郎を見つめていた。孝太郎はそのために、自身で作った弁当を口の中にかきこむ機会を失ったが、愚痴を言う暇もなく、丸渕眼鏡の女性は言葉を捲し立てていく。まるで、マシンガンのように。
「うちのベッビシッターがアナベル人形なんて気持ち悪いものを昨日勝手に家に持ち込んでですね!それにうちの子供たちが大泣きしちゃって、それに管理人さんがパニックを起こして、署に慌てて連絡をかけたのをおぼえているでしょ?」
孝太郎は昨日の小さな騒動の事を思い起こす。昨日、ようやく五日前のトマホーク・コープの騒動が収まり、いよいよ加藤の裁判に使用するための証言を集めに出かけようとした矢先の出来事だったので、孝太郎はかつて電車内で死亡した竹田泰徳が何やらやらかしたのだろうと判断して、白籠市のアンタッチャブルを連れて現場へと向かった。
何よりも慌てたのは明美だった。オロオロとした様子で普段の冷静沈着な計算係の姿は何処へやら。輪入道のように怒りの炎に身を包まれているのではないかと孝太郎に危惧させるくらいの怒り様だったので、思わず引いてしまった事を覚えている。それで、蓋を開けてみれば、アナベル人形を怖がった赤ちゃんが大泣きしたと言う話だったので、孝太郎はこの時に大きく肩を落としたのを覚えている。それで、事件は済んだ筈だったのだが、目の前の丸渕眼鏡の計算係は何を怒っているのだろうか。孝太郎は困惑した笑顔を浮かべて話の続きを聞く事にした。
「それで、ですね!今日もあたしがここに来る前にその人が来たんですけれど、その時にアナベル人形は単身赴任中の夫が静岡から送ってきた奴だからって、それが娘に見せても可愛いって言ったからって笑いながら言ってきたんですよ!それに腹が立っててて、信じられない!あの後に上に色々言うのがどれだけ大変だったと思ってるのよ!」
明美が拗ねている事が孝太郎はようやく理解した。小さく溜息を吐いてから諫める言葉を明美に投げかけて、これで話は終わりかと思ったが、好物のチョココロネを食いかけの聡子が口を挟んだ事によって、事態は思いもよらぬ方向に進む。
「そう言えばさぁ~女子高生とアナベル人形で思い出したけれど、最近流行の教団、バプテスト・アナベル教もアナベル人形を使ってるし、何より教祖はあんたのベビーシッターの娘さんと同じ女子高生じゃなかった?」
孝太郎はそう言えばと、昨日のニュースを思い返す。
現役女子高生の教祖は無口を絵に描いたような少女で、取材や家族を教団に取られた被害者とも言える家族の質問には一切答えない事で有名だ。だか、昨日のニュースだけは例外で、彼女は細々とした声で一人のマスコミの質問に答えた。信者の行方不明事件には教団は一切関与していないと明言した。
それだけの反応であったが、普段の受け答えは付き人や幹部に任せる彼女が小さな声とは言え質問に答えた事には衝撃が大きかったに違いないだろう。
孝太郎はその様子を昨日の晩に遅い夕食を摂りながら懸命に見ていた事から、明確に覚えていた。
孝太郎が夕食を食べ終え、食後のタバコを吸おうとした時にはニュースがトマホーク・コープの撤退と日本支社の解体を告げるニュースになっていた事から、マスコミはこの件を重視していない事を孝太郎は確認した。
マスコミは目の前のニュースにしか飛び付かないのだ。いかに未来を脅かすニュースがあろうとも人々の関心を集めさせるようなニュースでなければ飛び付きはしない。つまり、マスコミは宇宙究明学会事件の反省から何も学んでいないと言えよう。孝太郎はそんな事を考えながら、アナベル人形に怒る明美の顔を見つめながら、頭の中でバプテスト・アナベル教の成立の歴史を思い返す。
バプテスト・アナベル教はかつての三大カルト教団と言われた宇宙究明学会を除く教団によって作られた新興宗教団体だ。彼らはイエス・キリストとオシリス神を絶対の神と崇めた宇宙究明学会と類似する点はあるが、相違点の方が多いとも言えるだろう。主な相違点は二つの神を崇める宇宙究明学会とは異なり、彼らはアナベル人形を媒介にイエス・キリストが宿ると信じ、信者の部屋には必ずアナベル人形が置かれ、また集団で修行とやらを行う際にもアナベル人形の目の前で行うらしい。
要するに、人形を媒介に神が宿ると信じているらしい。これはルシファー教のかつての教祖、流子屋栗栖の教え、我々の神は物に宿ると言う教えから引用したらしい。その意味では彼らの信じる神は『悪魔』と断定言えないのでもなかったのだが、それをこの教団の教徒の前で喋ると、たちまちのうちに聖書を盾にお前こそが悪魔だと弾劾するために正しい指摘を言えずにいる。
孝太郎が知る限りのバプテスト・アナベル教の教えはこんな所であり、三年前から家族と教団の対立が激化している事を除けば、特に大きなトラブルを起こす事なく社会に寄与していたと言えるだろう。少なくとも、信者たちの心を救っていると言う面では。
孝太郎が弁当の箸を動かしながら、バプテスト・アナベル教の事を聡子は明美にペラペラと喋っていたらしく、明美が目を輝かせて聡子の話を聞き入っていた。
「そう言えば、親父が少し前に言ってたな、京都の方で妙なアナベル人形をばら撒いている奴がいるって、しかもそいつらは親父の傘下じゃない暴力団と手を組んでるとか組んでないとかで、不穏な動きが大きいらしいぜぇ~明美も気を付けろよぉ~」
脅してから、口元の端を吊り上げる聡子を明美はポカポカと叩く。
「ひ、酷いよ!どうしてそんな事を言うのかな!?あたしは引っかからないよ!そもそも、神なんてどうやってこの世界にいるなんて証明するのよ!わたしは数学じゃ測れないものは信用しない主義だから!」
聡子はそれでもニヤニヤとした笑みを引っ込めようとはしない。
「でもさぁ~仮に旦那が……」
「聡子ちゃんのバカー!」
と、ここで明美はお痛が過ぎた聡子を叱り付けた。軽口を叩き合うこの二人のやり取りを見るのが孝太郎は好きだった。
と、ここで昼休憩の時間が終了した事を孝太郎は手元の端末で確認した。同時にこれまで黙々と食事を取っていた絵里子は全員に食事を片付けて、仕事に戻るように告げた。
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