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フレンチ・ファンタジア編

フランス幻想を巡る争い

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孝太郎は最新式の弾丸のような形をした高速の電車に乗り、関西へと向かう。孝太郎はソワソワと落ち着かない様子らしく、忙しなく両脚を震わせたり、指を叩いたりしていた。
そんな様子の孝太郎が心配になったのだろう。隣に座っていた絵里子は孝太郎の顔を覗き込む。
孝太郎は弱々しい微笑を浮かべてから、黙って電車の天井を眺めていた。
孝太郎は座席に座りながら、タバコを口にしていた。ともかく、関西はもう直ぐなのだ。孝太郎は自分自身にそう言い聞かせて座り直していた。





「お、オレ達が一体何をしたって言うんだ!?」
「黙れ、お前達が麻薬を生産し、たったの一時間で麻薬を普及させた事は分かっているんだ。関西でも一二を争う麻薬の密売組織、白雲組の跡を継いだ極龍連合……壊滅後は白雲組と同じくルーカス・カルテルと手を組んだと思っていたが……オレの思い過ごしだったらしいな」
複数の同じ人間が日本家屋の広間の中で一人の男を取り囲んでいた。
和服の大きな二本の髭を口の周りに生やした男は震える手で自分を取り囲む男達を指差す。
かつては極龍連合の組長を務めていた男は目の前の状況を整理していく。
目の前の男は自分自身のクローンを作り出したのだろうか。いや、そんな事は不可能だろう。いくら科学や魔法が進んだ23世紀の今日においても即座にクローンを生み出す事は不可能だろう。なら、男は自分自身を増やす魔法を使用したのだろうか。いや、男の魔法はキノコを扱う魔法だろう。実際に男が右手を空中に向けるのと殆ど同時に自分のあちこちにキノコが生えたのだから。
キノコは生えている分は気味が悪いだけで済むのだが、抜かれると言葉にならない程の激痛を味わうのだ。
そんなキノコに特化する魔法を扱う男が自分自身を増やすと言う分身魔法を使えるだろうか。少なくとも、魔力が持ちそうにないだろう。
では、この状況は何なのだろう。男が右手を空中に掲げるのと同時に振った白い粉のようなものが地面に落ちるのと同時に男の体がまるでキノコやら竹の子が地面から生えてくるかのように生え、組員を襲っていき、最終的には屋敷を守る組員達を全滅に追い込んだのだ。
自分を取り囲む男の本体と思われる男がマシンガンの銃口を突きつけながら尋ねる。
「あんた、ルーカス・カルテルとはどうやって手を切ったんだ?あのカルテルは悪質な奴らでね、自分との取り引きを反故にしようとしたり、裏切ったりしようとする勢力には容赦のない制裁を喰らわせるんだ。あんたはそいつをどうやって乗り切った?教えてくれ、あんたの処世術を……」
組長だった男は唇を震わせながら答える。
「る、ルーカス・カルテルとは手を切っていない……ルーカス・カルテルとは内緒でフレンチ・ファンタジアを仕入れたんだッ!」
大勢の同じ男の中心と思われる男は大きく溜息を吐き、酷く残念そうに首を左右に振りながら呟いた。
我がご主人様マイ・マイスターへの今後の良き教授になるかと思ったが、期待外れだったようだな」
男はそう言って指を鳴らし、大勢の男に元組長を殺すように指示を出す。
マシンガンの銃口が部屋の中に響いていく。
ダニー・ジョーンズは元組長の膝からキノコを引っこ抜き、絶滅させた極龍連合の組員達が横たわる日本庭園の中でそのキノコを齧った。
キノコはいつもと同じ美味しさを保っていた。食べるたびにダニーは体力が増していくような感覚を味わっていた。
この魔法を身に付け、マフィアの世界に入ってから、自身の魔法『混乱と狂乱の演舞ヘルタースケルター』を使い自身の皇帝に貢献してきた日々の事を思い返す。
ダニーはこのキノコを食べる度に魔力が増し、相手にキノコを植え付けるだけではなく、自分自身の体にキノコを生やす事にも成功していた。
敵の体から生やしたキノコを食べる時と同様に自分から生えたキノコを食べた時にも彼の魔力は回復したような気がした。
ダニーは極龍連合の全滅風景を眺めながらキノコを食べ終えると、すっかり陽は傾いていた。
ダニーは辺りを見渡し、男を始末した部屋に自分自身と瓜二つの男が立っている事を確認し、指を鳴らして自分と全く同じ男をこの世から消失させた。
自分自身と同じ格好の同じ体型の人間を生み出し、生産していき、即戦力として戦わせる魔法の特性の一つをダニーは大いに気に入っていた。
彼らは部下よりも役に立っていると言えるだろう。
コーサ・ノストラを見渡しても自分と同じような人間を作り上げ、攻めていけるのは自分だけだろう。
ダニーは手に下げていたマシンガンも元の異空間の武器庫に戻し、屋敷の前に止めている車へと足を進めていく。
麻薬の残っていない日本式の屋敷になど彼は興味すら湧かなかった。






エミリオ・デニーロはホテルの中で極龍連合全滅の知らせを耳にした。
それから、ホテルに用意された机を大きく叩く。
エミリオは頭を抑えながら、今後の対策について考えていく。
関東の拠点は白籠市のオフィス街に存在する例のビル以外は殆どが警察やら刈谷組やら例の武装組織の手によって落とされてしまっている。
だからこそ、関西にも同じように拠点を置こうかと考えたのだが、それすらも一日で潰されるとは……。
エミリオは真っ白な歯磨き粉のcmに使われる俳優のように整った歯で何万匹のもの苦虫を噛み潰す。
煮湯を飲ませれたと言う日本で使われる比喩表現がこれ程似合う状況はないだろう。エミリオは美しい金髪の髪をかきむしりながら、今後の対策を講じる事にしようとした、まさにその時だ。
ドタドタとホテルの廊下に敷き詰められた絨毯を踏み鳴らす音がドア越しに響く。
エミリオは武器保存ウェポン・セーブからコルト式のオート拳銃を取り出し、万一の事態に備えていた。
エミリオがホテルの部屋の前とベッドの前に設置された出っ張りのような小さな壁に身を隠しながら、万一の事態に備えた。
扉を乱暴に蹴り開ける音が聞こえ、次の瞬間にはマシンガンが発射されていく。
マシンガンのから飛ばされた銃弾がホテルのあちこちに穴を開けていく。
エミリオはひとしきり撃って、弾を交換している無礼な侵入者達に一泡を吹かせてやろうと考え、マシンガンの弾丸をスカラベという古代エジプトの人食い虫に変換させ、無礼な侵入者達を襲わせた。
スカラベに体のあちこちを噛まれた侵入者達は噛まれた場所を抑え、地面でのたうち回っていく。
エミリオは無礼な侵入者達を冷たい視線で見下ろしながら、冥土の土産とばかりに自分の魔法の特性を説明していく。
「ぼくの魔法は物質変換魔法です。三年前と違って、元の物質を大きさの異なる物にも変換させられるようになりましたね」
エミリオは冷たい視線を向けると、スカラベ達にホテル内を探るように指示を出す。
エミリオの指示を受け、大量のスカラベは天井に潜り込み、ホテルの中を駆けていく。
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