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天使王編
ルシフェルの記憶が目覚める時に
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これは私が夢を断られて泣いていた日のことだ。父を殺すと意気込んだルシフェルを私は呼び止めたのだ。
だが、そんなことで止まるルシフェルではない。
ルシフェルは私に向かって言った。
「本当にあいつを殺さなくてもいいのかい?」
「……お父さんの言う通りだよ。夢なんて追い掛けていても仕方がない。私は医者になるしかないんだよ」
「……医者ってそんなになりたいものなの?」
ルシフェルが私に向かって怪しげな笑みを浮かべて微笑む。
「医者になりたくなんてないけど、それでも自分の人生が安定するんだったら……」
「キミは自分の人生が安定するために人の命を救う医者になりたいのかい?」
「そ、それは……」
私は言葉を返すことができなかった。医者というのは人の命を預かる仕事であるのだ。それを親に言われたからといって成り行きでなったとしても上手くいくのだろうか。
そう考えると医師になるのが馬鹿らしく思えた。ただ言われるがままに医者になったとしても私が他人の人を預かれるとは思わなかったからだ。
そう確信した瞬間に私は何も怖くなかった。そんな私に向かってルシフェルは微笑む。
「ねぇ、ルシフェル……私をあげる。私のこと好きにしていいよ……私を生贄にしても私の体を媒介にして復活しても構わない。あっ、なんだったら私のお気に入りの玩具もみんなあげるよ」
「……よく言うよ。玩具でなんて遊ぶ趣味はないくせに。でも、いいよ。ようやくその気になったんだね」
ルシフェルは再び怪しげな笑みを浮かべる。それからもう一度、私の体に戻っていく。
突然のことに驚く私に向かってルシフェルは言った。
「さぁ、今日からキミはルシフェルになったんだ。キミとボクとは一蓮托生さ。もう離れることはできないよ」
その後の記憶は残っていない。私はそのまま家を飛び出していた。
その日の夜はどうして日を過ごしたのかを覚えていない。ただ気が付い時にはルシフェルがお菓子や食事を盗ませてくれたか、もしくは不正入手によって得た金銭か何かで売っているものを得ていたということを覚えている。
場所も街の一等地に聳え立つ高層ホテルの最上階。いわゆるスイートである。
死体や血痕が発見されないことからこの部屋が元は無人であったことがわかる。
時間も真夜中であるからホテルの人が尋ねてくるということもないのだろう。
私は味のしないハンバーグ弁当を食べ終え、デザートの代わりに用意されたジャムパンを食べ終えると巨大なベッドの上に大の字になって寝転ぶ。
「……お父さんどうしてるのかな?」
(心配しなくてもいいよ。だったら寝ている間にその光景を見せてあげるよ)
ルシフェルの言葉が囁くのと同時に私の瞼が閉じていく。
その後でルシフェルが目を開けろと指示を出したことで目を覚ます。
そこには機嫌の悪い父と自宅の長椅子の上で頭を抱える母ーー響子の姿が見えた。
(えっ、これって?)
(ボクの力の一つだよ。キミの体を飛ばしたんだ。一種の幽体離脱ってやつさ)
ルシフェルの話によれば彼の能力の一つで私にとって危うい場面が出てきそうになったり、私の今後の人生にとって大事な場面が出たりすればそうした危機が起こるまでの過程を夢という形で前もって見せることができるのだという。
(便利な力だろ?これ、前の奴には与えなかったんだ。あいつにこんな大層なものをやるのはもったいないと思ってさ)
そう語るルシフェルの顔はどことなく愉快であった。私もそれに対して微笑み返してみる。あいつというのが誰のことを指し示すのかがわからないが、この力が私だけに与えられたという特別感が私を快くさせた。
その後、幽体の状態で父の怒る理由を一通り見て、帰るための上手い言い訳を思いついた後で私は目を覚ました。
私の体はちゃんとベッドの上にあった。それから机に上に残ったお菓子を確認し、それを朝食の代わりにかきこむ。
お菓子を食べ終えると、私の中に住まうルシフェルは私に向かって言った。
(ねぇ、言い訳を考えたところ申し訳ないんだけれど、今後もこうしてちょくちょくサボってみたらどうかな?高級ホテルで一泊するもよし、地方に行ってそこら辺の旅館で素朴に過ごすのもよしだ。どうせ、空き部屋に泊まるだけだから問題はないだろう)
「お菓子や食事は不法に調達できるしねッ!」
私はウィンクを決めながらルシフェルに向かって微笑みかけた。
この時点で私の心は相当ルシフェルに説き伏せられていたように思う。
それから私は事前に考えていた通りの方法で父に謝り、ちょくちょくルシフェルの力を使って家出を行うようになった。
ルシフェルは元堕天使というだけのことはあり、どんな場所にも翼をはためかせて自由に飛んでいけた。
そこから後は自由に過ごした。夜の山や川、それに海というのは不気味ではあったけれども静かで過ごしやすい場所であった。
心霊スポットと呼ばれる場所にも訪れた。幽霊が出るという場所にも訪れたが、幽霊は堕天使を恐れたのか表れもしなかった。
こうして気ままな生活を過ごしてからしばらくした後のことだった。
いつも通りに家出をしようと翼を広げようとしたというのに翼が広がらなかったのだ。
私が疑問に思っていると、久し振りに頭の方からルシフェルからの言葉が聞こえてきた。
(ごめん。ぼくはもう時間切れみたいだ)
(時間切れってどういうこと?)
(ルシフェルの力はキミに移行されたんだよ。おめでとう。だが、残念なことにこの世界ではその力を扱うことができない。もう二度とキミはこの世界ではルシフェルの力を使えないだろうね)
(そ、そんなッ!)
ルシフェルの力がなくなるということも大きかったが、ルシフェルが消えてなくなるということに私には耐え切れなかった。
ルシフェルがいたからこそ今まで楽しく過ごせてきたというのに。
そんな私を慰めるかのようにルシフェルが言った。
(泣かないでくれ……その代わりにキミは近いうちに行くことになるであろう別の世界で力を扱うことができる。その時はキミが新たなルシフェルとなるんだ)
ルシフェルの声はそうして完全に消えてしまった。頭の中でいくら念じたとしてもルシフェルから言葉は返ってこなかった。
私は天使たちの王によってその記憶を呼び起こされた。同時に私がルシフェルと他の天使たちに呼ばれていた理由も理解した。
私がたまらなくなり地面に手をついていた時に天使たちの王が見下ろすように言った。
「思い出したか?ルシフェル?」
その言葉に対して私は上手く言葉を返すことができなかった。
だが、そんなことで止まるルシフェルではない。
ルシフェルは私に向かって言った。
「本当にあいつを殺さなくてもいいのかい?」
「……お父さんの言う通りだよ。夢なんて追い掛けていても仕方がない。私は医者になるしかないんだよ」
「……医者ってそんなになりたいものなの?」
ルシフェルが私に向かって怪しげな笑みを浮かべて微笑む。
「医者になりたくなんてないけど、それでも自分の人生が安定するんだったら……」
「キミは自分の人生が安定するために人の命を救う医者になりたいのかい?」
「そ、それは……」
私は言葉を返すことができなかった。医者というのは人の命を預かる仕事であるのだ。それを親に言われたからといって成り行きでなったとしても上手くいくのだろうか。
そう考えると医師になるのが馬鹿らしく思えた。ただ言われるがままに医者になったとしても私が他人の人を預かれるとは思わなかったからだ。
そう確信した瞬間に私は何も怖くなかった。そんな私に向かってルシフェルは微笑む。
「ねぇ、ルシフェル……私をあげる。私のこと好きにしていいよ……私を生贄にしても私の体を媒介にして復活しても構わない。あっ、なんだったら私のお気に入りの玩具もみんなあげるよ」
「……よく言うよ。玩具でなんて遊ぶ趣味はないくせに。でも、いいよ。ようやくその気になったんだね」
ルシフェルは再び怪しげな笑みを浮かべる。それからもう一度、私の体に戻っていく。
突然のことに驚く私に向かってルシフェルは言った。
「さぁ、今日からキミはルシフェルになったんだ。キミとボクとは一蓮托生さ。もう離れることはできないよ」
その後の記憶は残っていない。私はそのまま家を飛び出していた。
その日の夜はどうして日を過ごしたのかを覚えていない。ただ気が付い時にはルシフェルがお菓子や食事を盗ませてくれたか、もしくは不正入手によって得た金銭か何かで売っているものを得ていたということを覚えている。
場所も街の一等地に聳え立つ高層ホテルの最上階。いわゆるスイートである。
死体や血痕が発見されないことからこの部屋が元は無人であったことがわかる。
時間も真夜中であるからホテルの人が尋ねてくるということもないのだろう。
私は味のしないハンバーグ弁当を食べ終え、デザートの代わりに用意されたジャムパンを食べ終えると巨大なベッドの上に大の字になって寝転ぶ。
「……お父さんどうしてるのかな?」
(心配しなくてもいいよ。だったら寝ている間にその光景を見せてあげるよ)
ルシフェルの言葉が囁くのと同時に私の瞼が閉じていく。
その後でルシフェルが目を開けろと指示を出したことで目を覚ます。
そこには機嫌の悪い父と自宅の長椅子の上で頭を抱える母ーー響子の姿が見えた。
(えっ、これって?)
(ボクの力の一つだよ。キミの体を飛ばしたんだ。一種の幽体離脱ってやつさ)
ルシフェルの話によれば彼の能力の一つで私にとって危うい場面が出てきそうになったり、私の今後の人生にとって大事な場面が出たりすればそうした危機が起こるまでの過程を夢という形で前もって見せることができるのだという。
(便利な力だろ?これ、前の奴には与えなかったんだ。あいつにこんな大層なものをやるのはもったいないと思ってさ)
そう語るルシフェルの顔はどことなく愉快であった。私もそれに対して微笑み返してみる。あいつというのが誰のことを指し示すのかがわからないが、この力が私だけに与えられたという特別感が私を快くさせた。
その後、幽体の状態で父の怒る理由を一通り見て、帰るための上手い言い訳を思いついた後で私は目を覚ました。
私の体はちゃんとベッドの上にあった。それから机に上に残ったお菓子を確認し、それを朝食の代わりにかきこむ。
お菓子を食べ終えると、私の中に住まうルシフェルは私に向かって言った。
(ねぇ、言い訳を考えたところ申し訳ないんだけれど、今後もこうしてちょくちょくサボってみたらどうかな?高級ホテルで一泊するもよし、地方に行ってそこら辺の旅館で素朴に過ごすのもよしだ。どうせ、空き部屋に泊まるだけだから問題はないだろう)
「お菓子や食事は不法に調達できるしねッ!」
私はウィンクを決めながらルシフェルに向かって微笑みかけた。
この時点で私の心は相当ルシフェルに説き伏せられていたように思う。
それから私は事前に考えていた通りの方法で父に謝り、ちょくちょくルシフェルの力を使って家出を行うようになった。
ルシフェルは元堕天使というだけのことはあり、どんな場所にも翼をはためかせて自由に飛んでいけた。
そこから後は自由に過ごした。夜の山や川、それに海というのは不気味ではあったけれども静かで過ごしやすい場所であった。
心霊スポットと呼ばれる場所にも訪れた。幽霊が出るという場所にも訪れたが、幽霊は堕天使を恐れたのか表れもしなかった。
こうして気ままな生活を過ごしてからしばらくした後のことだった。
いつも通りに家出をしようと翼を広げようとしたというのに翼が広がらなかったのだ。
私が疑問に思っていると、久し振りに頭の方からルシフェルからの言葉が聞こえてきた。
(ごめん。ぼくはもう時間切れみたいだ)
(時間切れってどういうこと?)
(ルシフェルの力はキミに移行されたんだよ。おめでとう。だが、残念なことにこの世界ではその力を扱うことができない。もう二度とキミはこの世界ではルシフェルの力を使えないだろうね)
(そ、そんなッ!)
ルシフェルの力がなくなるということも大きかったが、ルシフェルが消えてなくなるということに私には耐え切れなかった。
ルシフェルがいたからこそ今まで楽しく過ごせてきたというのに。
そんな私を慰めるかのようにルシフェルが言った。
(泣かないでくれ……その代わりにキミは近いうちに行くことになるであろう別の世界で力を扱うことができる。その時はキミが新たなルシフェルとなるんだ)
ルシフェルの声はそうして完全に消えてしまった。頭の中でいくら念じたとしてもルシフェルから言葉は返ってこなかった。
私は天使たちの王によってその記憶を呼び起こされた。同時に私がルシフェルと他の天使たちに呼ばれていた理由も理解した。
私がたまらなくなり地面に手をついていた時に天使たちの王が見下ろすように言った。
「思い出したか?ルシフェル?」
その言葉に対して私は上手く言葉を返すことができなかった。
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