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話がつまらないので、頭の中で暇潰しに全振りします!

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「お久しゅうございます。グレース様」
そう言って頭を下げるのはロージー・アントレニセス。
王国の名門、アントレニセス子爵家の令嬢であり、『社交界の華』『完璧にして完全な令嬢』と噂される程の凄い人だ。
男爵家と子爵家とは密接な付き合いがあり、これまでのグレースとそれに憑依した性悪女の記憶を辿って、その事を思い出した。
巨大な門の前で挨拶を交わし、今日の主人役ホストである俺は彼女の前に立ち、緩やかに庭を案内していく。
男爵といえども貴族は貴族。それなりに大きな庭であった。
庭には金色に塗られた水瓶を構えた女神像やら、伝説上の羊をモチーフにした幻獣の像やらが置かれている他に、庭の隅には多くの木が林の様に生い茂っていて、家の人間や来客が希望すれば、森林浴が楽しめる様になっている。
これらの贅沢品を見た時に俺の頭の中である考えが思い浮かぶ。それは、親父は自分の財力をひけらかしたい、という事だ。
それで、王家に自分は貴族としての暮らしをしているとアピールし、爵位を上げてもらう事が目的だろう。
骨のアンデットが活躍する有名魔王ラノベの某有名ゲロ吐き少女の親が似た様な設定だった。
あれは確か、貴族の地位を降ろされても、貴族としての生活を続ける事で、自分たちは落ちぶれていないという事をPRするものだったので、親父とは対照的とでも言えるが、必要のない金を無駄に使用しているという点では似ているので間違いではないだろう。
俺が深刻な顔で、そんな事を考えていると、ロージーが俺の前で手を振る。
俺の意識が途切れている事を気にしてくれたのだろう。
なので、俺は彼女に微笑みを向け、なんともないと言ってみせる。
メイドの案内のもと、俺とロージーは庭の中にあるガーデンパラソルの元に行く。
男爵家の庭が一望できる場所に設置された所に置かれた椅子の前で、まず子爵令嬢のロージーを先に座らせ、後で俺が座るという技法だ。
俺が座ると同時に、彼女は社交界でのいわゆる世間話を始めていく。
特に面白くもないのだが、怪しまれてもいけないので、俺は適当な相槌を打っていく。
彼女の話が長過ぎるので、俺は頭の中で前世の世界各地の国歌を再生していた。
まずは帝国縛りで、エチオピア帝国からアフリカ中央帝国まで。その次に共和国縛りで、ナイジェリアからアメリカまで。
そして、最後、一番夢中になった共産主義国の縛りで。
その際に思わず口から出てしまったのだ。共産主義国家の大元、ソビエト連邦の曲が。
と、ここで、突然、ロージー嬢が立ち上がり、俺の元に身を乗り出す。
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