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悪役令嬢が突然に訪問されるというのが、こんなにも地獄の様な事だとは思いませんでした。もし、機嫌を損ね、追放されたら、蝋燭を立てて暮らします

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こんな話を聞いた事がある。性悪転生ヒロイン。或いは隣国に通じているもしくは公金横領やら何やらの罪を犯しているヒロインや攻略対象のイケメンよりも悪役令嬢は地位も高く、道徳優位に立っているので、何を言っても暴言にはならない筈だ、という話を。例えば、相手が一番、気にしている成績の事を挙げて、大勢の人の前で馬鹿にしたとしても、悪役令嬢ものでは悪とはされない様に。
アンソロジーにおける本来のヒロイン枠の少女たちの扱いの悪さや攻略対象のイケメンを見れば、俺は常々、そう思っていた。
だが、魔法学園におけるオリビア嬢やサミュエル王子の俺への態度を見るに、それは随分と偏った目線であった事が理解できた。
俺はそんな事を考えながら、ぼんやりと部屋のバルコニーの上で紅茶を啜っていく。特に意味はない。令嬢といえば紅茶、みたいなイメージが強いから、飲んでいるだけだ。
某有名小説家の主人公が物事が終わった後に「やれやれ」と呟きながら、パスタを茹でたり、『シャーロック・ホームズの冒険』を読む様なものだ。
そういえば、あの日、家に帰ったら、その人の小説を読む予定だったのだが、その前に事故で死んでしまった。
面白そうなタイトルであったのに、実に惜しい事をした。
俺は結局、前世で読めなかった小説に思いを馳せながら、バルコニーから満点の星空を見上げていく。
空いっぱいに輝く星々。それはまるで、宝石箱の中で光り輝く宝石の様だ。
俺が暫く、星を見て物思いにふけていると、背後から声がしたので、慌てて振り向く。
そこには俺付きのメイドの姿。メイドは丁寧に頭を下げると、俺に来客を告げた。
こんな時間に誰だろう。非常識だ。俺は先程まで感じていた雅な心をすっかり消失し、代わりに頭の中を怒りの色で塗り潰し、不機嫌な様子で俺の元を訪れた客の元へと向かっていく。
だが、そんな怒りの気持ちは玄関に着くと同時に、すぐに宇宙の果てまで吹っ飛んでしまう。
何故ならば、玄関に立っていたのはオリビア・コンドール公爵令嬢であったのだから。
オレは素っ頓狂な声を上げて、
「お、オリビア様!?どうして、この様な家に!?先にお申し付けくだされば、それなりのおもてなしをさせていただいたもののーー」
「いえ、大掛かりなおもてなしなど不要ですわ。だって、私は貴女と話したかったんですもの。グレース」
彼女は笑顔だった。だが、その笑顔の裏には何やら黒いものがはっきりと感じられた。
私はひきつった笑顔を浮かべながら、オリビア嬢を応接室にまで案内する。
我が家の一階に存在する応接室は文字通り、来客をもてなすために作られた部屋で、部屋の中にはゆったりとして座り心地の良い長椅子が二脚が置かれ、その二脚の椅子の間にお茶や茶菓子を置くための茶色の長テーブルが置かれている。
現在、俺が座っているのはその長椅子であり、俺の向かい側にオリビア嬢が座っている。
メイドがお茶と茶菓子を運び終え、それが終わったところで、オリビア嬢は唐突に切り出す。
「貴女、グレース・ベンフォールではありませんね?何者です?誰がその体の中にいるんです?」
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