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思いっきり戦っているので、もう乙女ゲームというよりかは、バトル格闘ゲームになっているんですが……

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サミュエル王子とリチャードとの対決は既に一時間も経っている。近くに座っていた女子生徒が懐から、取り出した懐中時計から確認したので間違いない。
だが、こんなにも長い間、時間を掛けて戦っているのに、誰も飽きていないのが面白い。
と、いうか、既に二人のお披露目がもはや、お披露目ではなくなってきている。
もはや、魔法バトルの領域と化している。
サミュエルが氷の礫を作り出し、リチャードを攻撃しようとすれば、リチャードはそれを深い闇を作り出して氷の礫を闇へと吸い込ませていく。
リチャードは次に反撃を試みて、サミュエルの足に闇魔法を喰らわせていく。
すると、黒色の触手が現れて、サミュエルの体を捕らえていく。
「ふふ、魔法っていうのはこういう使い方もできるんだぜ」
「なるほど、やりますね。しかし、キミがここまでぼくを攻撃する目的はなんです?まるで、殺そうとしているかの様ですが」
それを聞くと、リチャードはチッチッと舌を鳴らし、人差し指を左右に揺らして、
「いえいえ、まさか、殿下を相手にその様な事を考える筈もありません。ただ、ある女性にこれ以上、付き纏うのをやめてもらいたいだけなので、その警告も込めて、こうしているわけですよ」
「ある女性?」
サミュエルの片眉が動く。
「ええ、ある女性です。私が今、最も恋焦がれている女性です!殿下!あなたは地位を利用し、彼女に近付こうとしている!」
「お、お兄様!もしや、その方というのは、この女の事ではございませんの!?」
妹君は勢いよく立ち上がると同時に、俺の方を指差して叫ぶ。
リチャードは迷う事なく首を縦に動かす。
「勿論さ!ぼくは彼女、グレース・ベンフォール男爵令嬢に恋をしている!だからこそ、この魔法を利用して、多くの男どもを打ち破ってやったのさ!彼女にいいところを見せるためにね!」
リチャードの台詞は他のマンガやアニメとかなら、悪役が言ってそうな台詞である。
そして、そのまま黒の触手に縛られているサミュエルの元を訪れて、またしても、闇魔法を操り、魔法から鞭を作り出す。
闇魔法を纏わせた鞭である。相当に強力なものだろう。
「こ、こんな事はしたくないんだけど、殿下が諦めてくださるのなら、私はあなたの負けを認め、触手を離しましょう」
それを聞いたサミュエルは顔を下げ、表情を見せない様にしていく。
サミュエルはその時、余程、これまでの出来事が衝撃的であったのか、中々、その顔を上げようとしない。
リチャードも多少はたじろぎ、心配になり、その顔を近付けた時だ。変化が起きたのは。
サミュエルは満面の笑みを浮かべるのと同時に、リチャードの顎を自らの頭で思いっきり殴り、彼を後方へと吹き飛ばす。
また、吹き飛ばされた衝撃で魔法が緩んだのだろう。サミュエルを縛っていた黒の触手は消えてしまう。
形勢逆転の瞬間であった。
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