社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

文字の大きさ
7 / 13

6*雫サイド*

しおりを挟む
コーヒーを入れて、席に戻った私をキーボードを打つ手を止めた松永さんはちらっと見て
「手伝うよ。」
と言った。

どうせすぐ出すんだから、と荷物を乱雑に詰め込んでいた私はごちゃごちゃな箱の中を見られるのも恥ずかしく、また秘書としての能力を疑われるかもしれないという不安から
「だ、大丈夫です!
そんなに多くもないし、始業までには片付けられると思いますので気にしないでください。」
と断った。

すると松永さんは綺麗な眉毛を少し寄せた後
「…そう。」
と言って、それからは無言でパソコンに向かって仕事をしていた。

私は松永さんの仕事の邪魔をしないように気を使いながら、どうにか荷ほどきを終える。

その間に沢山の社員が出社して来たので、私は挨拶をしながらの荷ほどきだったのだが、一つ驚いたことがある。

出社して来た社員たちは例外なく松永さんに朝の挨拶をしたことだった。

もちろん松永さんは目の前のパソコンから目線を外すことはなく、また挨拶を返すこともないのだが社員たちはそんなの気にも留めない、むしろ当然くらいの顔持ちで挨拶をして行くのだった。

また、松永さんも挨拶に対して、うるさい、だとか言うこともなかった。

他の部署でも松永さんのような人は少なからずいるのだが、そう言う人に対して周りはその人の仕事の邪魔をしないよう、息を殺すかのように横や後ろを通って行く。

私はまるで何もなかったかのような顔をしている松永さんの横顔を盗み見ることしかできなかった。




意外と荷ほどきが終わるのがギリギリになってしまった私は、急いで更衣室に行き割り当てられたロッカーの前で制服に着替え昨晩百貨店で買っておいたチョコレートを持って席に戻る。

相変わらずパソコンに向かい続けてる松永さんの腕の横にあった空のマグカップを手に持ってお茶室に入ると、私と同じ制服を着た私と同じぐらいの歳だと思われる女性が二人同じようにマグカップにコーヒーを入れていた。

その二人は私を見ると話をやめ、少し考えたような顔をしてそれからすぐにハッとしたような顔になると
「…っあ、松永さんの?」
と聞いてきた。

その問いに対して私は
「あ、はい。
今日から松永さんの専属秘書になった、立石です。」
と言いながら軽くお辞儀をする。

すると先程聞いてきた女性が
「立石さん!
よし、覚えた!これから大変だろうけど頑張ろうね!」
と言った。

それに対して横の女性も、うんうんと頷き、
「コーヒー入れにきたんだよね?
もしよかったら残ってるから使って!」
と言ってくれた。

「え、あ、ありがとうございます」
と私が思わず微笑むと、二人は顔を見合わせて
「…なるほどねぇ。」
「やっぱりね!」
などと話している。

その会話の意味がわからず、首をかしげると二人は、なんでもないの、と言って
「もしよかったらお昼一緒に食べに行こうね」
と言い残して出て行った。

二人の会話はよくわからなかったが、気遣いが嬉しくてこれから始まる秘書生活に少し浮き足立ちながらコーヒーを入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

快楽の檻は出られない。という夢を見ました

粉雪 雀
恋愛
目を覚ますと窓も扉もない、全く見知らぬ部屋にいたアミティは、「悪魔」を名乗る青年ヴァンと出会う。 ヴァン曰く、ここは『快楽の檻』 アミティ自身がヴァンと契約し、この部屋に自分とヴァンを閉じ込めたらしい。 「…という設定の夢なのね。」 あっさり受け入れてしまったアミティは快楽を求め始めたのだった。 あっさりめです。

『2次元の彼R《リターンズ》~天才理系女子(りけじょ)「里景如志(さとかげ・しし)のAI恋愛事情~』

あらお☆ひろ
現代文学
はじめまして。「あらお☆ひろ」です。 アルファポリスでのデビューになります。 一応、赤井翼先生の「弟子」です!公認です(笑)! 今作は赤井先生に作ってらった「プロット」と「セリフ入りチャプター」を元に執筆させてもらってます。 主人公は「グリグリメガネ」で男っ気の無い22歳の帰国子女で「コンピュータ専門学校」の「プログラミング講師」の女の子「里景如志(さとかげ・しし)」ちゃんです。 思いっきり「りけじょ」な如志ちゃんは、20歳で失恋を経験した後、「2次元」に逃げ込んだ女の子なんですが「ひょんなこと」で手に入れた「スーパーコンピュータ」との出会いで、人生が大きく変わります。 「生成AI」や「GPT」を取り上げているので「専門用語」もバシバシ出てきますが、そこは読み逃がしてもらっても大丈夫なように赤井先生がストーリーは作ってくれてます。 主人公の如志ちゃんの周りには「イケメン」くんも出てきます。 「2次元」VS「リアル」の対決もあります。 「H」なシーンは「風呂上がり」のシーンくらいです(笑)。 あと、赤井先生も良く書きますが「ラストはハッピーエンド」です! ラスト前で大変な目に遭いますが、そこはで安心して読んでくださいね! 皆さんからの「ご意見」、「ご感想」お待ちしています!(あまり厳しいことは書かないでくださいね!ガラスのメンタルなもんで(笑)。) では、「2次元の彼~」始まりまーす! (⋈◍>◡<◍)。✧♡ (追伸、前半の挿絵は赤井翼先生に作ってもらいました。そこまでAI作画の「腕」が上がりませんでした(笑)。)

処理中です...