社内で秘密の恋が始まる

美桜羅

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帰りの電車の中、ぼんやりと空を見ながらさっきのご飯の事を思い返す。

立石さん、たくさん食べてたな…

その華奢な体に似合わずに、結構な量食べてた…と思う。

最初は少し驚いたけど、美味しいですね、これ早く食べてください、と満面の笑みで話しかけてくれる様子を見てたら、いいな、と思った。

立石さんは…いい

これ以上の言葉では表せない。
とにかく立石さんはいい。

くる料理という料理に一喜一憂して、帰り際は最後の最後までおごられることを渋っていた。

別にいいのにな
どうせ使わないから、たまっていくだけだし

元来食事を取ることにあまり興味がないので、会社に行っても昼休憩も関係なく仕事に打ち込むし、誰とのご飯も楽しめなかった。

食事の優先順位が低いのだ。

死ななければいい。
死なない程度に摂取すればいい。

食事を取る時間よりも、本を読んだり映画を観たりした方がよっぽど有意義に感じる。

…だけど。
うん、そうだな。
今日のご飯は楽しかった。
し、美味しかった。

何より味がした。
あんなに美味しいご飯は初めてとまではいかないけど、久しぶりだった。

立石さんと毎日、というか毎回一緒にご飯を食べることができたらどんなに幸せだろうか。

あの笑顔はどうしたら手に入るのだろうか。

どうしても、手に入れたい。

でもどうしたら手に入るのかがまだわからない。

情報が少なすぎる。

どんなものが好きで
どんなものが苦手で
彼女の基礎情報で知ってるのは名前だけ。

当分の目標はある程度の基礎情報を知ることだな。

長くなりそうな道のりに、思わず両手で顔を覆ってため息をつく。

でもどうしても手に入れたいのだから仕方がない。

明日のお昼休みになにを話そうか。
そもそもどんなお弁当を作ってきてくれるのか。
いや、強引すぎはしなかったか。

そう考えていると、いつのまにか家の最寄駅に着いていた。

いつもの会食の後に残る、気怠さは体にはない。

むしろこれから本を一冊読もうか、とまで考えている。

彼女を絶対に手に入れる。

その決意のもと、寒い夜の中をゆっくりと歩き出した。
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