政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅

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二人の間にある距離

9

朝。

iPhoneの目覚ましで目が覚めて。

布団から起き上がって目覚ましを止める。

トイレに行こうと部屋を出て。

「…」

何気なく玄関を見ると。

…結局、帰って来なかったのか。

iPhoneの画面をスクロールする。

誰からも着信無し。

諸準備をして、スーツに着替えていつもより遅めに、家から出ようと革靴を履いていると。

ガチャ。



手をかけてないはずのドアの、鍵が開いた。

このドアを開けれるのは。

俺と。

もう一人だけ。

ゆっくりと開いて行くドアを見つめながら。

いつもだったら俺が出てる時間だからか?

そんな事を考えた。

開かれたドアの前には、目を見開く瑞紀。

何も言葉が出ない瑞紀を冷たく見下ろして。



会社に行こうと、瑞紀とドアの間を通ろうとふと瑞紀の首筋を見ると。

「…は。」

白い肌だからよく目立つ、無数に付けられたキスマーク。

多めに開けられたシャツのボタン。

見たくも無いのに、目線が上からだと胸元見えるし。

外に出るんだからそれぐらいちゃんと確認しなよ。

俺まで“そういう嫁に何も言わない旦那”になってしまう。

俺に関係無いならいくらでもやれば良いけど。

せめてマンションの近くまで来たら閉めなよ、ボタン。

俺の言葉に、瑞紀はビクッと体を揺らす。

そんな瑞紀の首筋にあるキスマークに、指を伸ばして。

そっと指差した。

「…キスマーク。学校には隠してから、行くようにね。」

俺が付けたと思われたら迷惑だ。

盛った高校生じゃあるまいし。

こんな分かる所につけない。

これ、明らかに俺に対してつけたな。

別に対抗心を燃やさなくても、そもそも争う気すらない。

そんな事を思いながら。

固まる瑞紀の横を通って、エレベーターへと歩き出す。

エレベーターの下矢印が書かれているボタンを押して、
エレベーターが来るのを待っていた時、もう一つ言わなきゃならない事をふと思い出して。

立ち尽くす瑞紀を振り返って言う。

「男のトコに泊まるのはどうでも良いけど、連絡ぐらいしてくれる。君が補導されたら俺に連絡来るから、迷惑なんだよね。」

それだけ言うと、俺は丁度来たエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターから下りて、玄関のロックを開けて外に出ると。

ロータリーの所に瑞紀と同じ制服を着た男が自転車にまたがっていた。

こいつか。

さりげなくスタイリングしてある髪と、好印象を与える上に流行にも乗ってる事がわかる制服の着こなし。

ここまで、送って来て一緒に学校行くのか。

別にどうでも良いけど。

その横を通り過ぎた時。

「…あの。」

声をかけられて。

周りに俺以外、人がいなかったので振り返ると。

「悠河さんですか?」

男はそう言いながら、跨っていた自転車から下りて、自転車をその場にとめる。

「…そうだけど。」

俺が返事を返すと、その男は笑いながら。

「…怒らないんですね」

は。

何で。

「…別に。」

「…本当に、瑞紀が言ってた通りだ。」

そう笑いながら言われて。

流石に少しムカついて。

瑞紀が俺の事をどう言ってるのか知らないけど、俺の事を勝手に理解された感じになるのは迷惑だ。

「君と瑞紀が付き合ってるなら、そのまま付き合い続ければ良い。迷惑さえかけられなければどうでも良いよ。結婚は出来ないけど。…高校生で結婚なんて少ないんだったね、感覚が麻痺してた。」

「…へぇ。」

好戦的な目を向ける男を見て。

「あと。…キスマーク。見える所に付けすぎ。」

そう言うと何も話しそうになかった男を置き去りにして、俺は車に乗った。


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