3 / 5
誘い
しおりを挟む
翌日、学校の授業が終わり放課後になった。じゃあなと篤志に挨拶されて俺も返事をして自分の席で用事をしているように見せかける。生徒たちが帰って行く中、チラチラと早川さんの様子を窺う。鞄を持って立ち上がり帰る様子であった。俺は急ぎ気味で尚且つ他のクラスメイトに悟られないように早川さんに近づき小声で言った。
「早川さん、迷惑じゃなかったら一緒に帰らない?」
ずるい言い方をしたが自分なりに考えた結果であった。良かったら一緒に帰らないだと何か理由をつけられて断られるのではないかと思ったから、迷惑じゃなかったらと言えば、早川さんはストレートに迷惑とは言わないであろう。緊張しつつ返事を待つ。だが、杞憂のようでにこやかな笑顔で返事をしてくれた。
「うん。一緒に帰ろう」
俺は心の中でガッツポーズをした。
教室を出て質問する。
「早川さんはどういうルートで帰っているの?」
その問いに答えてくれた。どうやら一緒に居られるのは少しのようであった。貴重な時間が無駄にならないように質問する。
「早川さんって読書が趣味なの?」
「うん。それと学校が休みの日はお菓子を作ることもあるよ」
「お菓子かー。得意なの?」
「うーん?得意というわけではないけど……そのうち作るから食べてみる?」
その言葉を聞き俺は喜んだ。好きな人の手作りのお菓子!
「食べたい」
そう言うと早川さんは何がいいかな?と色々提案してきたけど、お任せにした。早川さんはお菓子の話をしているのが楽しそうで、俺は時折相槌をうち、聞き役に徹した。そして、あっという間に別々の道で帰る所まで来てしまった。
「それじゃあまたね」
早川さんに『またね』と言われて次の約束が出来たようで嬉しかった。
「うん、またね」
俺も返事をした。恐らく俺の顔はにやけているだろうが、早川さんは普通に笑顔と判断したらしく特にドン引きした様子もない。
家に帰り着替えて公園に行く。日課のぼんやりとした時間を過ごすことと、ベンチに早く今日のことを報告したかったからである。《心のあるベンチ》の所に行き腰を下ろす。
「聞いてくれよ。今日、早川さんと学校から一緒に帰ったんだ。しかも早川さんがそのうちお菓子を作ってくれるって言ったんだよ」
俺は興奮気味に話した。
「落ち着けよ。そんなに大きな声で興奮しながら話していたら、変な人に見えて俺まで恥ずかしいよ」
そう言われて気づき、慌てて心を落ち着けた。
空の雲を眺めながら呟く。
「幸せだなー」
「何でぼんやりしながら、縁側でお茶を飲むおじいさんみたいな状態なんだよ?最終的な幸せは好きな人と付き合うことだろ?まだ付き合えていないんだから気を引き締めろ」
ベンチの言いたいことはわからなくもないけど、恐らく恋をしたこともないだろうし、今後も恋をすることもないベンチにはわからない感情なのであろう。
「わかってるよ」
そして、ベンチに報告と雑談タイムが終わり、夕食を食べに家に帰った。食事を終えると用意しておいた服に着替えて、ハンカチをしまおうとした。だが、ズボンのポケットに入れるとぐちゃぐちゃになってしまいそうで、慌てて何かバッグがないか探した。幸い、家族で旅行に行った時に使ったショルダーバッグがあったのでそれに入れて持っていくことにした。そしていつもの公園のベンチに向かった。
ベンチに座り周りを見渡す。
「今日は来る日かな?」
その問いにベンチは呆れる。
「一緒に帰ったんだろ?なんでその時、聞かなかった?」
「いや、塾をさぼっているなら塾のことは聞きにくいよ。嫌な思いをさせるかもしれないじゃん」
「言われて見ればそうかもな。お前も少しは成長したのかもな。いや、臆病なだけか」
その言葉は的を射ているような気がしたので何も言い返すことは出来なかった。
周囲を警戒しながらベンチと雑談をしていたら、早川さんがやってきた。
「こんばんは」
俺は緊張気味に挨拶した。
「こんばんは」
そして、早川さんが座ろうとしているので、ちょっと待ってと言い、慌ててショルダーバッグからハンカチを取り出して、彼女が座る場所にハンカチを広げて敷いた。
「え?斉藤君、ハンカチ汚したら悪いよ」
どうやら彼女はハンカチの意味を知っていたらしい。
「いや、俺がやってみたいと思っただけだから遠慮なく座って」
苦しい言い訳と思いつつ言葉を捻り出した。
「それじゃあ、お言葉に甘えてありがとうね」
彼女は嬉しそうに座った。
ベンチが小声でナイスと呟く。
そして、彼女と会話をしていると更にベンチが呪いの呪文のように言葉を繰り返す。
「デートに誘え、デートに誘え、デートに誘え……」
ベンチの呪いの言葉の圧に屈して彼女に聞いてみる。
「早川さんって土日とか何してるの?」
「午前中は勉強してるけど、午後は読書したりお菓子作ったりしてるかな?」
「それじゃあ、土曜でも日曜でもいいから午後から一緒に遊びに行かない?」
それを聞いて少し黙り込んだ。いつも早川さんが座る所は逆光で表情が見えにくい。
「うん、いいよ。じゃあ、日曜日にお昼を食べた後にどうかな?」
「よかった!楽しみだね!」
喉は乾いているわけではないが緊張のあまり体感的に乾いた気がして二人分の飲み物を買おうとか考えていた。そこへベンチが止めに入った。
「あまり相手が気を使いそうなことをしないほうが良いんじゃないか?それに焦って見え見えの行動取ると、ドン引きされるかもしれないぞ?」
そう言われてそうかもしれないと思いつつやめておいた。
その後も雑談をして彼女の帰る時間になり、彼女は立ち上がりながら言った。
「ハンカチありがとう。洗濯して返すね」
「いやいいよ。自分で洗うから。俺の顔を立ててくれると嬉しいんだけどな」
そう言うと彼女はふふっと笑いながらありがとうと言った。表情は見えないままなのが心配だが。そして、いつものように彼女の背中を見送った。
ぶはっと息を吐く。今までの緊張で上手く息を出来ていた気がしなかった。
「よくやった」
ベンチが上から目線で褒めてきて更に言葉を続けた。
「早速、デートプランを決めないとだな」
「デートか……」
俺がにやけつつ言うとベンチに真面目に考えろと叱られた。ベンチに質問してみる。
「デートの経験ないんだけど、お前は何か情報ある?」
「彼女は読書をするんだろ?本屋とかカフェが無難じゃないのか?」
「なるほど。なら近場のショッピングモールとかがいいか」
そして、ベンチとの会議が終わり俺も帰路に着いた。
「早川さん、迷惑じゃなかったら一緒に帰らない?」
ずるい言い方をしたが自分なりに考えた結果であった。良かったら一緒に帰らないだと何か理由をつけられて断られるのではないかと思ったから、迷惑じゃなかったらと言えば、早川さんはストレートに迷惑とは言わないであろう。緊張しつつ返事を待つ。だが、杞憂のようでにこやかな笑顔で返事をしてくれた。
「うん。一緒に帰ろう」
俺は心の中でガッツポーズをした。
教室を出て質問する。
「早川さんはどういうルートで帰っているの?」
その問いに答えてくれた。どうやら一緒に居られるのは少しのようであった。貴重な時間が無駄にならないように質問する。
「早川さんって読書が趣味なの?」
「うん。それと学校が休みの日はお菓子を作ることもあるよ」
「お菓子かー。得意なの?」
「うーん?得意というわけではないけど……そのうち作るから食べてみる?」
その言葉を聞き俺は喜んだ。好きな人の手作りのお菓子!
「食べたい」
そう言うと早川さんは何がいいかな?と色々提案してきたけど、お任せにした。早川さんはお菓子の話をしているのが楽しそうで、俺は時折相槌をうち、聞き役に徹した。そして、あっという間に別々の道で帰る所まで来てしまった。
「それじゃあまたね」
早川さんに『またね』と言われて次の約束が出来たようで嬉しかった。
「うん、またね」
俺も返事をした。恐らく俺の顔はにやけているだろうが、早川さんは普通に笑顔と判断したらしく特にドン引きした様子もない。
家に帰り着替えて公園に行く。日課のぼんやりとした時間を過ごすことと、ベンチに早く今日のことを報告したかったからである。《心のあるベンチ》の所に行き腰を下ろす。
「聞いてくれよ。今日、早川さんと学校から一緒に帰ったんだ。しかも早川さんがそのうちお菓子を作ってくれるって言ったんだよ」
俺は興奮気味に話した。
「落ち着けよ。そんなに大きな声で興奮しながら話していたら、変な人に見えて俺まで恥ずかしいよ」
そう言われて気づき、慌てて心を落ち着けた。
空の雲を眺めながら呟く。
「幸せだなー」
「何でぼんやりしながら、縁側でお茶を飲むおじいさんみたいな状態なんだよ?最終的な幸せは好きな人と付き合うことだろ?まだ付き合えていないんだから気を引き締めろ」
ベンチの言いたいことはわからなくもないけど、恐らく恋をしたこともないだろうし、今後も恋をすることもないベンチにはわからない感情なのであろう。
「わかってるよ」
そして、ベンチに報告と雑談タイムが終わり、夕食を食べに家に帰った。食事を終えると用意しておいた服に着替えて、ハンカチをしまおうとした。だが、ズボンのポケットに入れるとぐちゃぐちゃになってしまいそうで、慌てて何かバッグがないか探した。幸い、家族で旅行に行った時に使ったショルダーバッグがあったのでそれに入れて持っていくことにした。そしていつもの公園のベンチに向かった。
ベンチに座り周りを見渡す。
「今日は来る日かな?」
その問いにベンチは呆れる。
「一緒に帰ったんだろ?なんでその時、聞かなかった?」
「いや、塾をさぼっているなら塾のことは聞きにくいよ。嫌な思いをさせるかもしれないじゃん」
「言われて見ればそうかもな。お前も少しは成長したのかもな。いや、臆病なだけか」
その言葉は的を射ているような気がしたので何も言い返すことは出来なかった。
周囲を警戒しながらベンチと雑談をしていたら、早川さんがやってきた。
「こんばんは」
俺は緊張気味に挨拶した。
「こんばんは」
そして、早川さんが座ろうとしているので、ちょっと待ってと言い、慌ててショルダーバッグからハンカチを取り出して、彼女が座る場所にハンカチを広げて敷いた。
「え?斉藤君、ハンカチ汚したら悪いよ」
どうやら彼女はハンカチの意味を知っていたらしい。
「いや、俺がやってみたいと思っただけだから遠慮なく座って」
苦しい言い訳と思いつつ言葉を捻り出した。
「それじゃあ、お言葉に甘えてありがとうね」
彼女は嬉しそうに座った。
ベンチが小声でナイスと呟く。
そして、彼女と会話をしていると更にベンチが呪いの呪文のように言葉を繰り返す。
「デートに誘え、デートに誘え、デートに誘え……」
ベンチの呪いの言葉の圧に屈して彼女に聞いてみる。
「早川さんって土日とか何してるの?」
「午前中は勉強してるけど、午後は読書したりお菓子作ったりしてるかな?」
「それじゃあ、土曜でも日曜でもいいから午後から一緒に遊びに行かない?」
それを聞いて少し黙り込んだ。いつも早川さんが座る所は逆光で表情が見えにくい。
「うん、いいよ。じゃあ、日曜日にお昼を食べた後にどうかな?」
「よかった!楽しみだね!」
喉は乾いているわけではないが緊張のあまり体感的に乾いた気がして二人分の飲み物を買おうとか考えていた。そこへベンチが止めに入った。
「あまり相手が気を使いそうなことをしないほうが良いんじゃないか?それに焦って見え見えの行動取ると、ドン引きされるかもしれないぞ?」
そう言われてそうかもしれないと思いつつやめておいた。
その後も雑談をして彼女の帰る時間になり、彼女は立ち上がりながら言った。
「ハンカチありがとう。洗濯して返すね」
「いやいいよ。自分で洗うから。俺の顔を立ててくれると嬉しいんだけどな」
そう言うと彼女はふふっと笑いながらありがとうと言った。表情は見えないままなのが心配だが。そして、いつものように彼女の背中を見送った。
ぶはっと息を吐く。今までの緊張で上手く息を出来ていた気がしなかった。
「よくやった」
ベンチが上から目線で褒めてきて更に言葉を続けた。
「早速、デートプランを決めないとだな」
「デートか……」
俺がにやけつつ言うとベンチに真面目に考えろと叱られた。ベンチに質問してみる。
「デートの経験ないんだけど、お前は何か情報ある?」
「彼女は読書をするんだろ?本屋とかカフェが無難じゃないのか?」
「なるほど。なら近場のショッピングモールとかがいいか」
そして、ベンチとの会議が終わり俺も帰路に着いた。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる