ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 1話『『元』究極メイド、早速トラブる』

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その日、アミナはダンジョンを共に攻略した、この大陸に来て初めて出来た友人を街の入口で見送り、店を開く準備をしていた。
自宅に着いてから街へと繰り出し、クエスト達成の報酬金を持って商店街で買い物をした。

お店開店に必要だった様々な魔道具の説明書や植物図鑑に鉱石図鑑等々、素材に関連する本も購入した。
この街で購入出来る本の質は分からないが、とりあえずは大丈夫だろう。
それでも金貨30枚は余裕で消費してしまったが、それはもはや不可抗力だ。
だがこれからはもう少しだけ経費の事を考えなくてはならない。
守銭奴にはなりたくないが、やはりお金は大事だ。

看板も出したし、先日のクエスト達成で話題も十分。
立地も冒険者ギルドの近くで悪くは無いハズ。
素材も分けてもらった魔物の素材があるし、普通の木等や石もある。
大抵の物なら作れる準備が出来ている。

そして今日が『アミナ雑貨店』開店一日目。
初日は緩く……なんて甘ったれた事は言ってられない。
初日から全力投球、一挙手一投足に全力を込めて、依頼者の人に寄り添った物を作り出す。
ただ、それだけだ。

「さぁ……!!どんと来い!!」


―――


「……誰も来ない」

店の中にあるカウンターに独り立っているアミナは、閑散とした店内を見回しながら不満気に呟く。
静かな店内に自身の声だけが響くのがただただ虚しかった。

デジャヴだ、とてもデジャヴだ。
何だこの即落ち2コマ感は……!!
いやいや、そんな事はどうでもいい。

「あれだけギルド内で話題沸騰だったのにこの現状……かなり不味いですね……」

顎に手を当ててアミナは思考する。
眉をひそめて悩んでいるアミナを、フィーは横目で見て伸びをする。
しかしそんな事、今のアミナに気にしている余裕はなかった。

路上での実演もやったしその時に宣伝もした。
自由市場に出店もして、エルミナさんとも不本意だったけど戦った。
その後クエストに行ってそれを達成したから、ギルドの食堂は大盛りあがりだった。
昨日の食堂全体のお酒の代金は全部エルミナさんが「折角のお祝いだ、楽しくやろう」と言って払ってくれたから、話題もあるハズ。

「何が……何がいけないんだ……」

街へ買い物にも行ったからお店が開くって分かってくれている人は0じゃないハズ。
看板もでかでかと出したし、冒険者ギルドに近くて人通りも――

その時、アミナの中に一つの予測が生まれた。

もしかして、冒険者ギルドの近くだから人が来ない……?
いや、そもそもこの家の立地があまり良くないのか?
冒険者ギルドに近いと言ってもそれは距離的な問題。
よくよく考えれば周囲に住宅はほとんど無い。
それに冒険者がこの道を通るとしても、それは冒険者が冒険者ギルドに行く為に通っているだけに過ぎない……。
住宅街からは少し遠くて、わざわざ治安の悪い冒険者ギルドの近くのこんな辺鄙な場所を歩く一般人がいるだろうか。
こんな出来立てのお店にわざわざ立ち寄ってくれる冒険者が果たしているだろうか。

「むおぉぉ……2階建ての一軒家でギルドに近くて庭もある。……これだけ聞くと結構いい物件に聞こえてしまう……。だからおばあちゃんはこんな所に住んでたんでしょうか……」

そんな事を呟きながら、アミナが頭を抱えて体をうねうねさせていると、店の扉がガチャリと開いた。
その音に反応したフィーが顔を入口に向け、人が入ってきたのを確認すると、うねうねとしているアミナの頭を引っ叩き、入口に顔を向けさせた。

「あっ、すみません。いらっしゃいま――」

アミナは入ってきた男達の見た目にギョッとした。
入ってきた男達は3人組で、全員が厳つい格好をしており、ならず者と言う言葉を体現したかのような見た目をしていた。
筋骨隆々なその肉体は、ギーラにも負けず劣らずの迫力で、スキンヘッドなのがより厳つさを増幅させていた。

「よぅ姉ちゃん。開いてっか?」

ドスの利いた声で男の一人が言う。
アミナはその声に少し震えながら対応した。

「は、はい。当店今日開店したばかりでして……」

ヤバいどうしよう……!
こんなに厳つい人が来るなんて思わなかった……!
でもよくよく考えれば冒険者だもんね、これくらい逞しくないとやっていけないのかもしれないけど――

「あん?何見てんだ?」

ヒィィ!!
めちゃくちゃ怖い顔してるぅ~!!
なんか胸筋ピクピクしてるし、額の血管浮かび上がってるし、これだからスキンヘッドは嫌いなんだぁぁ……!!
装備もなんかトゲいっぱい生やして変だし、ギーラさんみたいに筋肉見せつけてるから多分筋肉バカだし!!
やっぱり人見知り克服出来てない今お店を開くのは早かったかもしれない……!!

「なぁ姉ちゃん聞いてっか!?」

「はっ、はいぃ!!何でしょうか!!」

アミナは聞いていなかった事を正直に告白したような返事をした。
するとハゲの男は「だーかーらー!!」と大声を張り上げてアミナの目の前のカウンターに物をドンと置いた。
その音にすらアミナはビクッとしたが、フィーは何もしない。
何故フィーが反応を示さないかと言うと、開店前にアミナに『いいですか、お客様は神様です。絶対に何があっても、手を出しちゃいけませんよ。手を出していいのは、来てくれたお子さんと遊ぶ時だけです』と言われていたからだ。
相手がどんな客だろうと、フィーはアミナの言う事に従い、何も手を出さない。

そしてアミナは、カウンターの上に置かれた物を見る。
するとそれは、持ち手に傷のついた金色のダガーだった。
「これは?」と聞くと3人組の内の1人の男が口を開いた。

「コイツぁ俺等が使ってたダガーでな。持ち手に傷がついちまったんで、直そうかと思ってよ」

それに続いてもう1人の男も口を開いた。

「そうそう。どこで直そうかって話してる時、丁度この店が見えてな。看板見りゃ、素材収集から道具の製作まで、って書いてあったからよ。修理も出来んじゃねぇかなって思って寄ったんだ。どうだ?直せっか?」

アミナは「なるほど」と一度頷き、そのダガーを手に取った。
形状は単純で刀身が20センチちょいの普通のダガーだったが、装飾がエラく細かく、刃が収まっていた鞘も綺麗な装飾が施されている。
あまり実践には向いていなさそうなダガーだ。

「とりあえずご依頼内容は理解しました。この持ち手の修復でよろしいですか?」

「あぁ、それで頼むぜ」

「それではこのダガーの素材を教えて頂けますか?奥から代用できそうな素材を探してまいりますので」

アミナがそう言うと、男達は途端に黙った。
不思議に思ったアミナがもう一度聞き直そうとすると、最初に口を開いた粗暴な男がアミナに言った。

「き、金だよ金!!見りゃわかんだろ!!」

そう怒鳴られてしまっては仕方が無い。
アミナはその言葉に少し違和感を覚えながらもそれを悟られないように笑顔を作った。

「金ですね、承知しました。では奥から鉄を取ってきて参りますので、あちらの椅子に座ってお待ちください」

そう言ってアミナは笑顔のまま、カウンターの奥にある部屋へと姿を消し、男は「なるべく早くしてくれよ」と言って暇を持て余したかのように椅子に座って貧乏ゆすりを始めた。

扉を背にしてもたれかかったアミナは詳しくそのダガーを見た。
鞘から刃を引き抜き、よぉく眺めた。

やっぱり、大して使用されていない。
摩耗も劣化も、点検した痕跡だって無い。
それに握っているなら到底つくはずの無い位置にある傷。
これあれだ。
あいつ等客じゃねぇ。
でもただここで帰すのも癪だし……

アミナは少しだけ考えて、掌をポンッと叩いた。

「いい事思いついちゃいました」

―――

しばらくして、アミナはダガーと補修用の鉄を持って奥の扉から出て来た。
すると男の一人がものすごい形相でカウンターへ近づいてくる。
アミナは「遅れてしまって申し訳ありません」と一言笑顔で謝罪したが、男の怒りはすぐには収まらず、アミナの胸ぐらを捻り上げた。

「いつまで待たせやがんだ!!さっさと修理をしろ!!」

男の怒号は店を通り越して街中に聞こえるような声量だった。
しかしアミナに悪びれた様子も恐怖している様子も無く、ただ「すみませんでした」と言った。

地面に下ろされたアミナはカウンターにダガーと鉄を置いた。
その後、「一つ伺ってもよろしいですか?」と言った。
男はイライラした様子で「なんだよ」と言った。

「貴方、どこの大陸出身ですか?」

「あ?どこって、第二大陸に決まってんだろ」

「そちらのお連れ様もですか?」

「あぁそうだよ!そもそも、俺等みてぇな冒険者は魔法でも使えねぇ限り外の大陸になんか出れねぇんだよ。そんくらい知っとけ」

更に憤った様子を見せる男にアミナは「そうですか」と呟いた後、またしても「すみません」と謝罪の言葉を述べた。
するとアミナの目つきが変わり、男達に言った。

「それでは皆様、ご退店下さい」

アミナのその一言に全員が「は?」と言う。
しかしアミナの言う事は変わらず「ご退店下さい」と言う。

「ふざけんじゃねぇ!!俺達はダガーを直しに来たんだ!!なのに直さねぇとはどういうこった!!」

憤る男の顔がアミナの眼前まで迫り髪を揺らす。
アミナは「はぁ」と一つため息をつくと「まだ分かってないのか」と呟いた。
それに男は「今なんて!?」と大声で言ったので、遂に言ってやる事にした。

「これ、盗品ですね」

「なっ……!!」
「何を根拠に言ってやがる!!」

横の椅子に座っていた男達も思わず反応した。
これは完全に黒だ。
アミナはそう確信しながら口を開く。

「この特徴的な細かい装飾、これは第三大陸に住んでいる少数民族『オーロ』の物です。彼等はまだ文明の発達していなかった百年程前に金を発掘し、文字通りの黄金時代を築きました。そんな彼等は自分達を代表する黄金の装飾品を作る事で世界中にその存在をアピールしようとしました。唯一無二の模様を入れて……。そしてこれが盗品だと確信した決定的な理由がもう一つあります」

「な、なんだってんだよ」

「オーロ民族は自身の作った道具を、作った人間が死ぬと傷をつけると昔本で読みました。職人にとって自身の作った物は、文字通り自身の魂の一部を乗せて作った物。だから傷をつけて一緒にあの世に送ってあげて、埋葬も一緒にするそうです」

冷や汗をかいている男は「それがどうした」と自信なさげに言った。

「そして、貴方方は出身を「第二大陸だ。魔法が無い限り出られない」と仰いました。第三大陸の大地に眠っているハズのこの品がどうして、大陸外に出たことのない貴方達が持っているのでしょうかね」

椅子に座っていた男達は額に汗をかき始めた。
やっぱり完全に図星だ。
すると目の前の男が顔を真っ赤にしてアミナの胸ぐらを掴んで再び持ち上げた。

「ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!!」

アミナの小さな体を持ち上げた巨漢の迫力は凄まじく、その表情はまさに鬼だった。
しかしアミナは先程のように動じたりしない。
今はただ、その鬼の形相を見下ろしている。

「そんなのの何が証拠だ!!いい加減その口閉じねぇと痛い目に――ッ!!」

そう言いかけた次の瞬間、アミナは脚を振り上げて男の顎を蹴り上げた。
喋っていた最中の男は蹴り上げられた歯と歯の間に舌が挟まり、舌が噛みちぎられた。
あまりの痛みに、男はアミナを持ち上げている手を離し、口に当てた。
地面に着地したアミナは男に近づきながら言う。

「観賞用のダガーを普段使いしてるって言った時点で違和感に気づけよハゲ猿が。これなら同じ筋肉ダルマでもギーラさんの方が100倍マシですよ」

そして藻掻き苦しむ男に追撃するようにアミナは男の上に馬乗りになった。

「大方、傷がついてると商品として売れないから修理をしたかった。だけど自分達にそんな技術はないし、有名な所でやると盗品だとすぐバレてしまう。だからこの街で偶然見つけた私のお店に来たんでしょうけど、アテが外れましたね」

男は馬乗りになるアミナに恐怖の顔をしながらも、腰に差していた小型の見窄らしいナイフでアミナの首を狙って刺そうとした。
しかし、アミナはそこに手をかざした。
すると刃がアミナの手に触れた瞬間に砂粒のように分解していき、地面へサラサラと落ちた。
その時初めて、男の顔は完全に恐怖に支配された。

「やっぱり便利ですね、新しい技。……そういえば、まだ人間で出来るか試した事が無いのですが……貴方も、こうなってみますか?」

完全に分解されきったナイフの方にアミナが視線をやると、男はあまりの恐怖に失禁し、気絶してしまった。
それを確認したアミナは馬乗りから立ち上がって、男の仲間の方に視線をやった。
男の仲間も同じように恐怖に震え、脚がガクガクと情けなく動いていた。

「安心して下さい。お客様は神様ですからそんな事はしませんよ。……えぇ、”お客様”は、ね?」

ニコニコとしながら、仲間の男達の方へ向かって言った。
そしてそれに続いて

「今日の所は見逃してあげます。二度とこのような事はしないで下さい」

アミナの冷たい言い方に男達は頷く。
そして思い出したかのように「それと」と続けた。
男達はどんな要求が来るのか、と身構えた。

「ここにお店が出来た事を、街の皆様に知らせてきて下さい。暴力的な方法以外でなら何でも構いませんので」

想像とは違った要求に、一瞬戸惑った様子を見せた男達はアミナの「よろしいですか?」の一言でピンッと姿勢を整え、直角にお辞儀をした。

「さて、誰かが命を削って作った物を軽率に穢す貴方達に渡す品はありません。どうぞ、お引き取りを」

その言葉に男の連れは体中に汗をかき、気絶した男を抱え、「すみませんでしたー!!」と叫んで走って店を出ていった。
その様子をカウンターの中に戻りながら見ていたアミナは不満気にフィーに向かって呟いた。

「あぁ……最初に来店した人があんな方々だったなんて……なんだか先が思いやられますね」

撫でられているフィーは心地よさそうに「にゃあ」と鳴く。

「それにしても偉いですね。ちゃんと私が言った事を守って手を出さなかった。本当に賢い子です」

顎の下を擽られるように撫でられたフィーは更に気持ちよさそうな声で鳴いた。

「まぁ幸い、あの人達はお客様ではなかった訳ですし、次に来る人を初のお客様だと願って待っていましょう」

誰も居なくなった店内には、男のナイフだった物と、男達が置いていった盗品のダガー、そして、フィーの「にゃー」という鳴き声だけがただ残った。


それらはこれから始まる、波乱万丈なお店経営の物語の最初の1ページとなったのだった。

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