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お店経営編
第二章 44話『『元』究極メイド、商業の街を歩く』
しおりを挟む魔人会という謎多き組織に襲われた地点からカルムの言った通り2時間半。
アミナ一行は小さな商業の街である『バザール』に到着していた。
馬車を街の中に乗り入れ、宿泊予定の宿屋に向かっていた。
「おぉ……ここがバザールかぁ」
初めて来る土地にカイドウは馬車を運転しながら街中を見回す。
スターターも商売が盛んでは無い訳では無いのだが、それでもかなりの店の数に驚きの声をあげる者も多い。
「ん?どうしたんだい?アミナさん」
カイドウが自身の隣に座って膝の上にフィーを乗せているアミナに声をかけた。
アミナは再出発時に「少し外の空気に当たりたいです」と言って御者台にいるカイドウの隣に座っていた。
その言葉から察した通り、彼女の具合はとても悪そうだった。
「……すみません。先程の事がまだ……」
フィーを優しく撫でながらアミナは低く呟く。彼女の言っている事は、魔人会の構成員が奇妙に笑い、そして最後には自爆するという衝撃的過ぎる光景を目の当たりにした事だった。
「何故カイドウさんは、そこまで落ち着いていられるんですか……?」
「んーーまぁ、魔人会って存在は知ってたけど見た事が無かったってだけだからかな。先んじて知っている情報に驚く事って少ないだろう?」
「それは……そうですけど……。カルムさんがいきなり人を斬り捨てて、あまり危害を加えないように取り押さえたら何故か自爆してしまって。……やっぱりこの大陸にはまだまだ知らない事が多過ぎます……」
アミナは即戦闘即殺害の概念にも驚いたが、心優しいカイドウですら即殺害を承認し、それを正解だと言っている事に心底驚いた。
第四大陸に住んでいた頃の常識が再び通じなくなっている感覚をアミナは味わっていた。
「あっ、ここかな。『宿屋・バザールラザール』だ」
カイドウが上を見上げて言った。
そこには木造で立派な宿屋があり、看板には彼の言った通り『バザールラザール』と書いてあった。
小さな街という事もあり、街に入ってからすぐに宿屋を発見出来た。
「2人共着いたよ。荷物を持って降りる準備を」
御者台から馬車の中に向かってカイドウが声をかける。
するとカルムが静かに頷き、馬車の中から荷物を1人で運び出す。
そしてフィーは着いた途端に馬車の中に入り、いい加減起きろ、と言いたげにメイの顔面を肉球で押し潰した。
「んあ?……あぁ、もう着いたのか。ふあぁぁ」
大きな欠伸をしながらメイはフィーを頭に乗っけて馬車から降りる。
馬車を小屋に置くのはカイドウがやる為、アミナも御者台から降りようとした。
その時、カイドウが再び「アミナさん」と声をかけてきた。
「すぐに大陸の常識に順応しろなんて言わないし、アミナさんはそのままが1番かっこいいと思うから、僕の言葉なんか気にしちゃダメだよ」
そう言い残して、カイドウは宿屋の裏手にある馬小屋の方へと馬の歩みを進めた。
彼の言葉を複雑な心境で受け止め、アミナはメイとカルムに続いて宿屋の中へ入った。
宿屋バザールラザールの中はかなり綺麗で、小さめな宿屋ながらかなりの人数の宿泊客で賑わっていた。
翌々考えてみれば他の街などあまり行った事の無かったアミナは物珍しそうに宿屋の中を見回していた。
そんな中、カルムが宿屋の受付を済ませる。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「4人です」
そうカルムが答えた時、フィーはメイの頭をガジガジと噛んでいた。
恐らく自身も1人の内に数えてほしかったのだろう。
その光景を見ながらアミナは苦笑する。
「――かしこまりました。明日の朝までですね。お部屋は2階に上がりまして、突き当りの3部屋となります。どうぞごゆっくり」
カルムはあっという間に宿屋の部屋を取り終えた。
内容としては、1部屋にベッドが2つしか無い為、カイドウが1人部屋、アミナとフィーで1部屋、カルムとメイで1部屋、という事になった。
アミナ達はカイドウが入ってくるのを待って宿屋の2階へと上がる。
馬小屋から帰ってきたカイドウは何やら獣臭かった。
本人曰く「動物に懐かれやすいのかもね……」と匂いのついた上着を脱ぎながら言った。
もしかしたら馬小屋の馬に遊ばれてしまったのかもしれない。
カルムが全ての荷物を持っていてくれた為、アミナとカイドウはそれぞれの荷物を受け取って部屋の前へ行く。
カイドウが一番奥、アミナとフィーが端から2番目、カルムとメイがその隣、と言った並びだ。
「荷物を置いたら各々自由行動という事に致しましょう」
カルムが部屋の扉を開けながら言った。
それに賛成するようにアミナとカイドウは「やった」と嬉しそうな声を上げる。
相変わらず眠そうなメイは「私ぁもうちょい寝てるわ、晩飯になったら起こしてくれぃ」と言って一足先に部屋へ入っていった。
「まだお昼も食べてないのに……」とアミナは苦笑して部屋に入った。
そして荷物をベッドの上に広げて中身を整理する。
「えっと持ってきた物はっと……」
アミナがこの旅で持ってきたのは、いつもの短剣、スキルで使用できるようにと揃えてある数多の素材達、着替えの洋服数着にフィーのお気に入りの玩具、財布と日課のスケッチ用のメモ帳もしっかり持ってきている。
「忘れ物なーし。……ここまで来て忘れ物があっても困りますが……」
そう呟いて部屋の中を見回す。
木造の一室でベッドは2つ。
1つはアミナが使用し、もう1つの上にはフィーが乗って毛繕いをしている。
収納棚が壁際に設置され、ベッドの間に置いてある机の上にはランプが置かれていた。
質素だが必要最低限で落ち着く部屋。
そんな空間に置かれると、嫌でもしんみりとした気分になってしまう。
「……やはり私がおかしいのでしょうか」
ポツリと言葉をこぼす。
それを聞き取ったフィーはベッドから下りてアミナの横へと歩いて近づく。
「いくら犯罪者とは言え、出会った瞬間に戦闘をして殺さなければならないなんて、可哀想だと思う私はやはり甘いのでしょうか……」
よくよく考えてみればここは魔物が多く巣食う大陸だ。
弱肉強食のこの大陸で弱みを見せればすぐに食い物にされてしまう。
それはカルムさんの話からも十分理解出来た。
でも、だからと言って安易に人を殺めるだなんて……って、いやいや!
あの魔人会という組織の人達も他の人を傷つけて、殺している……。
大切なものを守る為にはやむを得ない時だってあるんだ。
しっかりしなさいアミナ、やらなくていい理由を無理矢理探すな。
私は私の手の届く範囲を絶対に守るんだ……!
何としてでも――
自身の頬をペチンと叩くと、アミナは顔を上げた。
するとフィーが、アミナの少し赤くなった頬をペロペロと舐めた。
「――。ありがとうございます」
アミナはフィーを抱いて体に顔を埋めて大きく息を吸った。
スゥーーと音が鳴り、もう一度息を吐いた。
そしてフィーから顔を離し、彼を床の上に置いた。
その時、部屋の扉がコンコンと鳴った。
「アミナさん、街を見に行こうと思うんだけど、一緒に来ないかい?」
カイドウの声だった。
床に立たせたフィーと顔を見合わせてから、アミナは「行きます、行きたいです!」と少しだけ元気が出たような返事をした。
入口まで近づくとフィーがついてきていないのに気がついて「フィーちゃん?」と呼びかけるが、フィーは既にベッドの上で寝転んでいた。
眠いのなら仕方が無い、とアミナは扉を開けてカイドウと合流した。
「それじゃあ行こうか」
「はい、楽しみです」
2人はそう言い合ってから宿屋を後にした。
―――
「うわぁぁ!!見て下さいカイドウさん!あのリザードロースの尻尾!!大きくて歯ごたえもあってとても美味しいんですよ!――あぁ!!あっちはフェルシードの串焼きです!!豆の形をしていますが中はジューシーで柔らかいお肉になっていて、植物と魔物の中間という珍しい特徴を持っているんですよ!!」
アミナは数多の店が出ているバザールの中央広場で目を輝かせながらあちこち走り回っていた。
その嬉しそうな様子にカイドウはアミナに問いかけた。
「アミナさんって素材よりもご飯系が好きなのかい?」
早速シェルシードの串焼きを買ったアミナは振り返って答える。
「どちらも見てて楽しいのですが、どちらかと言えば食材の方が嬉しくなりますね。素材が大好きで仕方が無い、という性格だったとしたら、自身のこのスキルをいらないものとして認識していなかったでしょうし」
串焼きを頬張り、串に刺さったシェルシード5粒を一気に平らげる。
そして幸せそうに「美味しぃ~」と顔がとろけるアミナを連れ、カイドウは更に広場を歩く。
「そういえばもう一つ。アミナさんってスターター以外の街に言った事ってあるのかい?」
串焼きを咀嚼して飲み込んだアミナが「はい。ここに来る前も対して他の街へは行った事ありませんね」と返した。
「第四大陸でも、1つ港町が近くにあるだけでそこ以外も行った事はありませんね。……思えばそういった冒険をしなかったせいで、あまり人とのコミュニケーションが得意では無かったのかもしれませんね……」
アミナは今までの苦い記憶を呼び覚ました。
スターターに来て冒険者ギルドへ行き、買わなくても良かった祖母の家を断りきれずに購入してほぼ一文無しに。
その後頑張って路上で色々やってみたらエルミナにクエストに誘われて、新しいスキルの可能性を感じた。
資金が十分に溜まってお店を開いてみたら、初っ端から盗品の修復依頼をさせられたり、その時に改めてコミュニケーション能力が乏しい事を理解させられた。
しかしその後はあまりオドオドする事も無く経営を出来ていた……と思う。
「そうかな。僕と出会った時はあまり緊張している様子は無かったけど」
「あの時は緊張より心配が勝ったんです。……思い返すと馬鹿らし過ぎますよ。空腹が気持ちいいからってご飯を食べるのを忘れるなんて」
「はふんっ!!馬鹿らし過ぎる……だと!!」
カイドウは突然地面にうずくまって息を荒げた。
あぁ、そうだった。
この人に罵声は駄目だった。
「過去の出来事ですら僕は罵声を浴びせられ、その事を今も尚掘り返されている!!しかも当時は心配が勝ったと言っておきながら今は阿呆らしい、馬鹿らしい、と罵ってくる……!!あぁ、当時のアミナさんの心配の眼差しの奥の奥には冷たい氷のような軽蔑するような意思が宿っていたのかも知れないと思うと……!!」
道端で突然しゃがみ、こんな事を呟いている男がいたら勿論通行人にガン見される。
アミナは呆れた目線を向けていると一瞬カイドウが顔を上げて目が合った。
「はん!!その顔!!その目だよアミナさん!!僕を軽蔑する目と顔と佇まい!!もっと向けてくれ!!もっとさぁ遠慮しなくていいからさぁ!!!!それは僕の栄養となって血となり肉となるんだ!!」
そこまで言われたアミナはもう、ほっとく事にした。
栄養ならご飯から摂ればいいのに、と心の中で呟きながら体の向きを変えた。
カイドウをその場に置いてアミナはスタスタと先を歩く。
これが彼の望み通りになってしまうかもしれないが、あの場で知り合いだと思われるのはなんだかとても嫌だった。
「あぁ!!アミナさん!!待ってくれ!!でも、そんな態度も良い!!」
普通のイケメンが普通じゃない異常な行動を取っているのを街中の人々が見ている中、アミナはただ無言で彼を置き去りにし、中央広場からまだまだ続いている商店街の中を足早に歩くのだった。
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