僕のイシはどこにある?!

阿都

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第一章 白道

天使が通る、大行進! その4

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「なるほど。黄塚君を受け入れた理由は分かりました。でも、黄塚君は始めからPS倶楽部に入りたかった訳ではないのですね」

 ひどく冷静な声。
 問いかけた天城先輩は少し伏し目がちになり、何か思案しているようだった。
 朱沼部長は今度はいつも通り、颯爽と振り返ると、かつての部活仲間へ答える。

「確かにそうだし、まだ仮入部。もちろん無理強いするつもりはないよ。活動を見てもらって決めてもらおうと思ってる」
「そうですか。ところで、そのテーブルの上にあるのは……もしかして守護石選びですか?」

 天城先輩が急にテーブルの上を指し示した。
 意外と切り替えが早い人なのかな。

 テーブルクロスの上に散らばっている天然石。
 各色の水晶に、瑪瑙、翡翠、ラブラドライト、トルマリンにアクアマリン、その他定番のパワーストーンがだいたいそろっている。

「そうだよ。黄塚はなかなか好みがうるさくてね。1回目は全員振られたのさ」
「こちらでも行っているのですね。でも、そうですか……」

 またも考え込む天城会長。
 僕はと言うと、さっき見た朱沼部長の意味深な瞳の色が気になり、考えても答えは出ないと分かっているけど、悶々としていた。

「天城、話が終わりならそろそろ遠慮してもらってもいい? こっちはまだ部活の途中だし、だいたいあんたも今日は新入生への説明会だろ。こんなところで長居していいのかい?」

 そうだった。天城先輩にはパワーストーン同好会の説明会があるはず。
 そもそもどうしてここに来たんだろう。

 僕の疑問はこの場にいる皆の心情と完全に一致していたと思う。

 天城会長は夢から覚めるように顔を上げ、皆を見渡し、あでやかに微笑んだ後。
 爆弾を投下した。

「実は今日一日、彼の噂を耳にしまして。私も興味がわきました。守護石選びに参加したいのですが、お許しいただけますか、朱沼さん」

 ……絶句。 

 天使がキャンプファイヤーを囲んでフォークダンスを踊ってるのを幻視する。
 それほどまでのしらけた間。

 もう何度目だろう。一日でこんなに繰り返し呆然としたのは生まれて初めての経験だ。いいかげん驚き疲れてきた。

 どうやら天使があまりの過重労働で仕事を放棄したらしく、急に朱沼部長が爆発した。

「あーまーぎー! あんたいきなり何を言い出すんだい!」
「そうよそうよ! ここはPS倶楽部。パワーストーン同好会の会長さんでもそんな権利はありませんよー!」
「……天城先輩、横暴です」

 先輩三人が互いに連鎖反応を起こして誘爆中。
 唯一語らないのは白道さんだけど、あの顔は今朝、僕と達也の掛け合いを見ていた時にそっくりだから、たぶん現在フリーズ中なんだろう。 

 天城先輩はかわらず微笑みを継続しながら、微妙に上目遣いになって呟いた。

「あら。自信が無いですか。朱沼さんともあろう者が真っ向勝負をうけないと?」

 うわ、さりげなく何気なくものすごい挑発です。
 まさかと思いつつ部長を見ると、これまたしっかりきっぱり釣られた模様。一瞬にして目が据わったのが見て取れた。

「天城。パワーストーンの相性合わせであたしに勝てると思ってるのか?」
「大言壮語はおよしなさい。確かに負けた時もありましたが、勝率ははっきり五分と五分。貴女が圧倒的に勝ってた事実なんてありません」

 どうやら天城先輩の言葉は真実らしく、朱沼部長が珍しく反論を飲み込んだ。
 そこはかとなく漂う緊張感。
 
だけど、いまいち意味が分からない。パワーストーンの相性合わせは何となく想像がつくけれど、なぜそこで勝負が成立するのか。競い合うようなものじゃないだろう?

「……天城先輩がいかに強くても、私も昨年の私ではありません」
「玄丘さんの成長ぶりは同好会の頃から注目しておりました。ぜひともPS倶楽部での成果をみてみたいものですね」
「……お望みならば」

 なんだろ、この熱い展開。
 神秘をコールタールのようにまとう玄丘先輩が、スポーツ漫画のヒロインに見える。
 対する天城会長は、師匠にして最後の敵のような、まさしく王道のボスキャラ。

「負けない。いくら会長さんでも、この勝負は負けられないわ!」
「いい気迫ね、蒼川さん。同好会では何時だって本気にならなかった貴女が。美しいだけではない事を私に証明してみせて」

 もはや語る術なし、なす術なし。
 こちらはなんだか少女漫画の主人公とライバルのよう。星々の輝きようなエフェクトを背負ってる雰囲気。

 しかし天城会長、生き生きしてるな。
 日本舞踊とか能とか、演劇関係の習い事でもしてるのか。それとも見た目より、のりのいい人なのかな。

 というか、ちょっと待ってください。この流れは。

「オッケー、わかった。天城の参戦、認める! 勝負の方法は近日中に知らせるから、首を洗って待っていな!」
「……望むところ」
「見ていて、陽介クン。私が必ず貴方の石を見つけてあげる!」
「快諾して下さってありがとうございます。そういう訳なので、よろしくお願いしますね。黄塚君」

 えーっと。昨日に引き続き、僕に選択権は無い模様。

 楚々として退室する大和撫子の背をうつろに見送りながら、僕は何がどうなっているのか、なけなしの脳をフル回転させて分析を試みた。
 明確な答えが瞬時にはじき出される。
 モニターいっぱいに表示された『理解不能』の四文字だ。

 僕の守護石について議論が白熱し始めた先輩方が、なぜかすごく遠く感じる。こんなに狭い地学準備室なのに。

 ふと気がつくと、傍らに穏やかな同級生が立っていた。
 ちょっと困ったような苦笑いまでも柔らかな白道さんは、僕を見ていつもの一言を口にする。

「うん。やっぱり運命だと思う」

 ……本当に勘弁してください。
 僕はテーブルに頭を押し付けた。

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