11 / 11
第一章 白道
天使が通る、大行進! その4
しおりを挟む
「なるほど。黄塚君を受け入れた理由は分かりました。でも、黄塚君は始めからPS倶楽部に入りたかった訳ではないのですね」
ひどく冷静な声。
問いかけた天城先輩は少し伏し目がちになり、何か思案しているようだった。
朱沼部長は今度はいつも通り、颯爽と振り返ると、かつての部活仲間へ答える。
「確かにそうだし、まだ仮入部。もちろん無理強いするつもりはないよ。活動を見てもらって決めてもらおうと思ってる」
「そうですか。ところで、そのテーブルの上にあるのは……もしかして守護石選びですか?」
天城先輩が急にテーブルの上を指し示した。
意外と切り替えが早い人なのかな。
テーブルクロスの上に散らばっている天然石。
各色の水晶に、瑪瑙、翡翠、ラブラドライト、トルマリンにアクアマリン、その他定番のパワーストーンがだいたいそろっている。
「そうだよ。黄塚はなかなか好みがうるさくてね。1回目は全員振られたのさ」
「こちらでも行っているのですね。でも、そうですか……」
またも考え込む天城会長。
僕はと言うと、さっき見た朱沼部長の意味深な瞳の色が気になり、考えても答えは出ないと分かっているけど、悶々としていた。
「天城、話が終わりならそろそろ遠慮してもらってもいい? こっちはまだ部活の途中だし、だいたいあんたも今日は新入生への説明会だろ。こんなところで長居していいのかい?」
そうだった。天城先輩にはパワーストーン同好会の説明会があるはず。
そもそもどうしてここに来たんだろう。
僕の疑問はこの場にいる皆の心情と完全に一致していたと思う。
天城会長は夢から覚めるように顔を上げ、皆を見渡し、あでやかに微笑んだ後。
爆弾を投下した。
「実は今日一日、彼の噂を耳にしまして。私も興味がわきました。守護石選びに参加したいのですが、お許しいただけますか、朱沼さん」
……絶句。
天使がキャンプファイヤーを囲んでフォークダンスを踊ってるのを幻視する。
それほどまでのしらけた間。
もう何度目だろう。一日でこんなに繰り返し呆然としたのは生まれて初めての経験だ。いいかげん驚き疲れてきた。
どうやら天使があまりの過重労働で仕事を放棄したらしく、急に朱沼部長が爆発した。
「あーまーぎー! あんたいきなり何を言い出すんだい!」
「そうよそうよ! ここはPS倶楽部。パワーストーン同好会の会長さんでもそんな権利はありませんよー!」
「……天城先輩、横暴です」
先輩三人が互いに連鎖反応を起こして誘爆中。
唯一語らないのは白道さんだけど、あの顔は今朝、僕と達也の掛け合いを見ていた時にそっくりだから、たぶん現在フリーズ中なんだろう。
天城先輩はかわらず微笑みを継続しながら、微妙に上目遣いになって呟いた。
「あら。自信が無いですか。朱沼さんともあろう者が真っ向勝負をうけないと?」
うわ、さりげなく何気なくものすごい挑発です。
まさかと思いつつ部長を見ると、これまたしっかりきっぱり釣られた模様。一瞬にして目が据わったのが見て取れた。
「天城。パワーストーンの相性合わせであたしに勝てると思ってるのか?」
「大言壮語はおよしなさい。確かに負けた時もありましたが、勝率ははっきり五分と五分。貴女が圧倒的に勝ってた事実なんてありません」
どうやら天城先輩の言葉は真実らしく、朱沼部長が珍しく反論を飲み込んだ。
そこはかとなく漂う緊張感。
だけど、いまいち意味が分からない。パワーストーンの相性合わせは何となく想像がつくけれど、なぜそこで勝負が成立するのか。競い合うようなものじゃないだろう?
「……天城先輩がいかに強くても、私も昨年の私ではありません」
「玄丘さんの成長ぶりは同好会の頃から注目しておりました。ぜひともPS倶楽部での成果をみてみたいものですね」
「……お望みならば」
なんだろ、この熱い展開。
神秘をコールタールのようにまとう玄丘先輩が、スポーツ漫画のヒロインに見える。
対する天城会長は、師匠にして最後の敵のような、まさしく王道のボスキャラ。
「負けない。いくら会長さんでも、この勝負は負けられないわ!」
「いい気迫ね、蒼川さん。同好会では何時だって本気にならなかった貴女が。美しいだけではない事を私に証明してみせて」
もはや語る術なし、なす術なし。
こちらはなんだか少女漫画の主人公とライバルのよう。星々の輝きようなエフェクトを背負ってる雰囲気。
しかし天城会長、生き生きしてるな。
日本舞踊とか能とか、演劇関係の習い事でもしてるのか。それとも見た目より、のりのいい人なのかな。
というか、ちょっと待ってください。この流れは。
「オッケー、わかった。天城の参戦、認める! 勝負の方法は近日中に知らせるから、首を洗って待っていな!」
「……望むところ」
「見ていて、陽介クン。私が必ず貴方の石を見つけてあげる!」
「快諾して下さってありがとうございます。そういう訳なので、よろしくお願いしますね。黄塚君」
えーっと。昨日に引き続き、僕に選択権は無い模様。
楚々として退室する大和撫子の背をうつろに見送りながら、僕は何がどうなっているのか、なけなしの脳をフル回転させて分析を試みた。
明確な答えが瞬時にはじき出される。
モニターいっぱいに表示された『理解不能』の四文字だ。
僕の守護石について議論が白熱し始めた先輩方が、なぜかすごく遠く感じる。こんなに狭い地学準備室なのに。
ふと気がつくと、傍らに穏やかな同級生が立っていた。
ちょっと困ったような苦笑いまでも柔らかな白道さんは、僕を見ていつもの一言を口にする。
「うん。やっぱり運命だと思う」
……本当に勘弁してください。
僕はテーブルに頭を押し付けた。
ひどく冷静な声。
問いかけた天城先輩は少し伏し目がちになり、何か思案しているようだった。
朱沼部長は今度はいつも通り、颯爽と振り返ると、かつての部活仲間へ答える。
「確かにそうだし、まだ仮入部。もちろん無理強いするつもりはないよ。活動を見てもらって決めてもらおうと思ってる」
「そうですか。ところで、そのテーブルの上にあるのは……もしかして守護石選びですか?」
天城先輩が急にテーブルの上を指し示した。
意外と切り替えが早い人なのかな。
テーブルクロスの上に散らばっている天然石。
各色の水晶に、瑪瑙、翡翠、ラブラドライト、トルマリンにアクアマリン、その他定番のパワーストーンがだいたいそろっている。
「そうだよ。黄塚はなかなか好みがうるさくてね。1回目は全員振られたのさ」
「こちらでも行っているのですね。でも、そうですか……」
またも考え込む天城会長。
僕はと言うと、さっき見た朱沼部長の意味深な瞳の色が気になり、考えても答えは出ないと分かっているけど、悶々としていた。
「天城、話が終わりならそろそろ遠慮してもらってもいい? こっちはまだ部活の途中だし、だいたいあんたも今日は新入生への説明会だろ。こんなところで長居していいのかい?」
そうだった。天城先輩にはパワーストーン同好会の説明会があるはず。
そもそもどうしてここに来たんだろう。
僕の疑問はこの場にいる皆の心情と完全に一致していたと思う。
天城会長は夢から覚めるように顔を上げ、皆を見渡し、あでやかに微笑んだ後。
爆弾を投下した。
「実は今日一日、彼の噂を耳にしまして。私も興味がわきました。守護石選びに参加したいのですが、お許しいただけますか、朱沼さん」
……絶句。
天使がキャンプファイヤーを囲んでフォークダンスを踊ってるのを幻視する。
それほどまでのしらけた間。
もう何度目だろう。一日でこんなに繰り返し呆然としたのは生まれて初めての経験だ。いいかげん驚き疲れてきた。
どうやら天使があまりの過重労働で仕事を放棄したらしく、急に朱沼部長が爆発した。
「あーまーぎー! あんたいきなり何を言い出すんだい!」
「そうよそうよ! ここはPS倶楽部。パワーストーン同好会の会長さんでもそんな権利はありませんよー!」
「……天城先輩、横暴です」
先輩三人が互いに連鎖反応を起こして誘爆中。
唯一語らないのは白道さんだけど、あの顔は今朝、僕と達也の掛け合いを見ていた時にそっくりだから、たぶん現在フリーズ中なんだろう。
天城先輩はかわらず微笑みを継続しながら、微妙に上目遣いになって呟いた。
「あら。自信が無いですか。朱沼さんともあろう者が真っ向勝負をうけないと?」
うわ、さりげなく何気なくものすごい挑発です。
まさかと思いつつ部長を見ると、これまたしっかりきっぱり釣られた模様。一瞬にして目が据わったのが見て取れた。
「天城。パワーストーンの相性合わせであたしに勝てると思ってるのか?」
「大言壮語はおよしなさい。確かに負けた時もありましたが、勝率ははっきり五分と五分。貴女が圧倒的に勝ってた事実なんてありません」
どうやら天城先輩の言葉は真実らしく、朱沼部長が珍しく反論を飲み込んだ。
そこはかとなく漂う緊張感。
だけど、いまいち意味が分からない。パワーストーンの相性合わせは何となく想像がつくけれど、なぜそこで勝負が成立するのか。競い合うようなものじゃないだろう?
「……天城先輩がいかに強くても、私も昨年の私ではありません」
「玄丘さんの成長ぶりは同好会の頃から注目しておりました。ぜひともPS倶楽部での成果をみてみたいものですね」
「……お望みならば」
なんだろ、この熱い展開。
神秘をコールタールのようにまとう玄丘先輩が、スポーツ漫画のヒロインに見える。
対する天城会長は、師匠にして最後の敵のような、まさしく王道のボスキャラ。
「負けない。いくら会長さんでも、この勝負は負けられないわ!」
「いい気迫ね、蒼川さん。同好会では何時だって本気にならなかった貴女が。美しいだけではない事を私に証明してみせて」
もはや語る術なし、なす術なし。
こちらはなんだか少女漫画の主人公とライバルのよう。星々の輝きようなエフェクトを背負ってる雰囲気。
しかし天城会長、生き生きしてるな。
日本舞踊とか能とか、演劇関係の習い事でもしてるのか。それとも見た目より、のりのいい人なのかな。
というか、ちょっと待ってください。この流れは。
「オッケー、わかった。天城の参戦、認める! 勝負の方法は近日中に知らせるから、首を洗って待っていな!」
「……望むところ」
「見ていて、陽介クン。私が必ず貴方の石を見つけてあげる!」
「快諾して下さってありがとうございます。そういう訳なので、よろしくお願いしますね。黄塚君」
えーっと。昨日に引き続き、僕に選択権は無い模様。
楚々として退室する大和撫子の背をうつろに見送りながら、僕は何がどうなっているのか、なけなしの脳をフル回転させて分析を試みた。
明確な答えが瞬時にはじき出される。
モニターいっぱいに表示された『理解不能』の四文字だ。
僕の守護石について議論が白熱し始めた先輩方が、なぜかすごく遠く感じる。こんなに狭い地学準備室なのに。
ふと気がつくと、傍らに穏やかな同級生が立っていた。
ちょっと困ったような苦笑いまでも柔らかな白道さんは、僕を見ていつもの一言を口にする。
「うん。やっぱり運命だと思う」
……本当に勘弁してください。
僕はテーブルに頭を押し付けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる