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第一章
第十六話
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翌朝。
わたしは眠い目をこすりながら起き上がりました。こう見えて長いメイド生活で鍛えられています。昨夜が少々遅かったからといって寝過ごすことはありません。
それに、きのうは休日でしたが、きょうから授業が始まるのです。
すべての科目に参加しなければならないわけではありませんが、できれば出ておきたいものもあります。あまり寝てばかりはいられないのです。
もちろん、アストリカも起きていました。
「じゃ、いっしょに朝食を取りに行こう」
「はい」
アストリカといっしょに食堂をめざします。きのうも利用したので場所はわかっています。とても広く、清潔な空間で、出される食事もどれも美味しかった。
そしてわたしは、とりあえずきのうのうちは群衆に埋没していることに成功しました。
このまま、目立たずに暮らしていければ良いのですけれど。目立てば目立つほど正体が露見する可能性も高まるのですから。
その日も食堂はたくさんの生徒や教師で賑わっていました。
わたしとアストリカはいっしょに列に並び、食事を受け取ります。
この日のメニューはライ麦パンとマッシュルーム入りのオムレツに新鮮そうなじゃがいものシチューでした。朝食としては十分な量です。小食の自分が恨めしくなるくらい。
わたしは体形が痩せすぎているのでよくもっと食べるようにと云われるのですが、からだがそれほど多くの食事を受けつけてくれないのです。
「ここにしよう」
アストリカといっしょに空いた席を見つけて座ります。
ところが、そのとき、彼女のうしろを男子生徒が走っていってかすかにぶつかったのでした。
アストリカは姿勢を崩し、料理を飛び散らせます。
しかし、その男子生徒は、そのまま無視して去っていってしまいました。ひどい態度です。
「ちょっと。何をするのよ」
「あ、ごめんなさい」
飛び散ったシチューがとなりの席の生徒にかかってしまったようです。アストリカは申し訳なさそうに謝りました。
しかし、その生徒は彼女の謝罪を受け入れることなく、皮肉っぽく口の先を歪めたのでした。
「何だ、お貴族のアストリカさまか。それじゃ、平民の服の汚れなんて気にも留めないわよね。どうせ粗末な服ですし」
「いや、ごめん、そういうわけじゃないのだけれど」
アストリカは困った様子でとりあえず料理の皿を置きました。そして、懐から真っ白な手巾を取り出し、その生徒へ差し出します。
「これ、良かったら使って。何だったらその服の洗濯代も支払うから。汚してしまってほんとにごめんなさい」
「けっこうよ。何? 平民は何でも金さえ支払えばそれで済むと思っているの?」
「そんなことはないわ」
アストリカはあきらかに困惑していました。
そして、わたしはといえば、彼女のとなりでその生徒に腹を立てていました。
料理の汁が散ったのはアストリカ自身のせいじゃないのに、何という傲慢な云い草なのでしょう。
アストリカが貴族の令嬢であることは事実ですが、それもまた彼女の責任ではありません。
人を出自で決めつけ、本人を見ようとしない。たとえ相手が貴族であれ、それは差別でしかありえません。
ですが、わたしはなるべく悪目立ちしないと決めたのです。ここは我慢です。我慢。
わたしは眠い目をこすりながら起き上がりました。こう見えて長いメイド生活で鍛えられています。昨夜が少々遅かったからといって寝過ごすことはありません。
それに、きのうは休日でしたが、きょうから授業が始まるのです。
すべての科目に参加しなければならないわけではありませんが、できれば出ておきたいものもあります。あまり寝てばかりはいられないのです。
もちろん、アストリカも起きていました。
「じゃ、いっしょに朝食を取りに行こう」
「はい」
アストリカといっしょに食堂をめざします。きのうも利用したので場所はわかっています。とても広く、清潔な空間で、出される食事もどれも美味しかった。
そしてわたしは、とりあえずきのうのうちは群衆に埋没していることに成功しました。
このまま、目立たずに暮らしていければ良いのですけれど。目立てば目立つほど正体が露見する可能性も高まるのですから。
その日も食堂はたくさんの生徒や教師で賑わっていました。
わたしとアストリカはいっしょに列に並び、食事を受け取ります。
この日のメニューはライ麦パンとマッシュルーム入りのオムレツに新鮮そうなじゃがいものシチューでした。朝食としては十分な量です。小食の自分が恨めしくなるくらい。
わたしは体形が痩せすぎているのでよくもっと食べるようにと云われるのですが、からだがそれほど多くの食事を受けつけてくれないのです。
「ここにしよう」
アストリカといっしょに空いた席を見つけて座ります。
ところが、そのとき、彼女のうしろを男子生徒が走っていってかすかにぶつかったのでした。
アストリカは姿勢を崩し、料理を飛び散らせます。
しかし、その男子生徒は、そのまま無視して去っていってしまいました。ひどい態度です。
「ちょっと。何をするのよ」
「あ、ごめんなさい」
飛び散ったシチューがとなりの席の生徒にかかってしまったようです。アストリカは申し訳なさそうに謝りました。
しかし、その生徒は彼女の謝罪を受け入れることなく、皮肉っぽく口の先を歪めたのでした。
「何だ、お貴族のアストリカさまか。それじゃ、平民の服の汚れなんて気にも留めないわよね。どうせ粗末な服ですし」
「いや、ごめん、そういうわけじゃないのだけれど」
アストリカは困った様子でとりあえず料理の皿を置きました。そして、懐から真っ白な手巾を取り出し、その生徒へ差し出します。
「これ、良かったら使って。何だったらその服の洗濯代も支払うから。汚してしまってほんとにごめんなさい」
「けっこうよ。何? 平民は何でも金さえ支払えばそれで済むと思っているの?」
「そんなことはないわ」
アストリカはあきらかに困惑していました。
そして、わたしはといえば、彼女のとなりでその生徒に腹を立てていました。
料理の汁が散ったのはアストリカ自身のせいじゃないのに、何という傲慢な云い草なのでしょう。
アストリカが貴族の令嬢であることは事実ですが、それもまた彼女の責任ではありません。
人を出自で決めつけ、本人を見ようとしない。たとえ相手が貴族であれ、それは差別でしかありえません。
ですが、わたしはなるべく悪目立ちしないと決めたのです。ここは我慢です。我慢。
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