虹の戦記

綾野祐介

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第7章 マゼランの三騎竜

ヴォルデス道場

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第7章 マゼランの三騎竜

ヴォルデス道場

「一応名乗ってもらおうか」

「それはいいが、あんたはここの師範か道場主あたりかい?」

「そうだ。儂はこのヴォルデス道場の師範ソル=ヴォルデスだ。名乗っても仕方ないが、礼儀として名乗っやったぞ。次はお前たちだ」

「俺はロック=レパード、こいつはルーク=ロジック、それに元々道場破りに来ていたのはマコト=シンドウ、それにさっきあいたのところの塾生を一掃していたのはアクシズ=バレンタイン、最後にローカス道場のクスイー=ローカス。まあ今は全員ローカス道場の一員だけどな」

 マコト=シンドウとクスイー=ローカスの名前を言った時のソルの表情をルークは注意深く観察していた。そして二人の名前の時、ソルの表情は少し変化があった。それがそのまま証拠にはならないが聞き覚えのある名、ということは確かだと確信した。

「なるほど、少し聞き覚えのある名もあるようだ。まあいい、では相手をしてもらうとしようか」

 聞き覚えがある、ということは認めたがそれが誰のことなのかは応えていない。

「それはいいけど強い奴じゃないとおれは納得しないぜ」

「そう慌てるな。こいつはさっきの師範代とは違うぞ」

 師範と一緒に居て一人だけロックに切り掛からなかった男が前に出てきた。

「サルス=アーデと言う。覚える必要はない」

 そう言うとサルスはいきなりロックに切り掛かって来た。速い。ロックも少し前、クスイーの剣を受ける前なら避け切れなかったかも知れないほどの速さだ。師範が自信を持って出してきたことも十分頷ける腕だ。

「凄い、強い。これは少しは楽しめるかも知れない」

 ロックは本当に嬉しそうだ。ただマコトの関心はサルスの強さそのものではない。強い奴が犯人の可能性がある、という一点だけだった。

「ソルさん、ロックが勝ったら聞きたいことが有ります。腕づくでも応えてもらうのでよろしく」

 ルークは優しい笑顔でそう伝える。

「勝てたら、な」

 ソルはまだ自信を持っている。それほどサルスを信用しているのだろうか。ルークが見るにロックとの差は歴然だったが。

「ロック、毒かもしれない!」

 ルークが叫んだ。相手は剣に毒を塗っているかも知れない。掠っただけでも十分効果がある種類のものであれば、掠らせるわけには行かない。

 ソルの顔色が変わった。判り易い。

「判った、任せろ」

 ロックはそう言うと、それまでただ受けるだけに専念していたのを止めてロックから打ち込んだ。クスイーには及ばないがロックの剣速も超一流だ。

 ロックがサルスの剣を跳ね上げる。その剣がソルの目の前に突き刺さった。なんとか避けたソルが尻餅をつく。その慌てぶりからすると、やはり毒が塗ってあったのだろう。

「勝ったぞ。それで何を聞くんだ?」

「ルークはその人を押さえておいて」

 ルークはロックにサルスを拘束させた。

「それで、聞きたいことなんですが、マコト、あれを」

 マコトは手拭いを取り出した。

「この手拭いに見覚えは?」

 ソルは見ようともしない。

「ちゃんと見てもらいましょう。マコトの父親を殺した奴が持っていた手拭いです。もし知っていて隠すのなら、あなたも同罪ですよ」

 ソルは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



ヴォルデス道場②

 結局問い詰めると(一般的には脅すとも言うが)ソルは全てを白状した。ヴォルデス道場と同等の私塾を狙って一番強い奴を闇討ちしていたのだ。

 あまり続けてしまうと目立つので数年に一度くらいは襲っていたらしい。その被害にローカス道場もマコトの父親の道場も遭ってしまったのだ。

 どの道場を襲うのかは適当だったらしい。その前年にヴォルデス道場が当たって負けた、とか、少し話題になっていたとか。

 殺すつもりで襲っていたわけではないが、死んでも構わない程度には痛めつける事にしていた。それでクスイーの父親は命は助かったがマコトの父親は命を落としてしまったのだ。

 襲うのは最後に出てきた師範代を中心に師範代全員の4名で実行していたらしい。そこまで聞き出して二人に問う。

「それで、こいつらをどうする?」

 マコトは元々復讐するために探していたのだ。中々見つからなかったがやっと犯人の全貌が知れた。クスイーは勿論犯人には憤りを感じていたが復讐しようと探したりはしていなかったし、思っても居なかった。今犯人だと知れたところで戸惑っている、というのが本音だった。

「俺は、こいつらを許せない。親父と同じ目に遭わせてやりたい」

 マコトの目は真剣だった。父親が死んでからずっと、そのことだけを考えて生きて来たのだ。

「それはこの人たち全員を殺す、ってことになるよ」

 ルークが思わず確認する。マコトが復讐の為に誰かを探しているとは想像していた。いずれこんな場面がくることも。しかしマコトに人殺しをさせる訳にはいかない、と思っていた。

 敵討ちは一応認められていたが、それは正式に申請し許可を得てうえで立合っての事になる。滅多な事では許可は下りなかった。特に一般人ではほぼ許されない。殺された者が貴族で犯人が一般人という場合が殆どだ。見せしめの意味合いが強い。

「当り前だ、俺はそのために今まで生きてきたんだ」

 ロックたちの前には師範と師範代4人が後ろ手に縛られて座っている。塾生たちは多くは帰ってしまっていたが残った数人は遠巻きに見ているだけだ。道場の行く末を心配しているのだろうか。

「駄目だ。そんなことをしたら剣士祭にでられないじゃないか」

 ロックが真剣に言う。ロックなりに心配しているのだ。多分。そうに違いない、とルークは自分に言い聞かせる。

「馬鹿かお前は。剣士祭より敵討ちが大事に決まっているだろう」

「馬鹿はお前だ。俺はお前と剣士祭に出場する。絶対にだ」

 ロックは真面目に真剣な眼差しでマコトに詰め寄る。マコトはロックが本当に剣士祭に出て欲しいだけなのかを測りかねている。

「クスイーにも意見を聞きたいな」

 ルークが少し助け船を出す。

「僕は、この人たちが父を襲った犯人ならばちゃんと捕まって罪を償ってほしい。それと父に謝ってほしいです」

 クスイーならそう言うだろうとは思ったが、ルークは改めてクスイーの人の好さを再確認していた。道場が潰れかけてしまったのも、こいつらの所為なのに。

「そんな甘いことを言っているからお前ははんにんまえなんだよ」

 マコトの怒りは今度はクスイーに向かう。この場で5人全員を殺すことはできない、と判っているが怒りが収まらないのだ。

「それがクスイーなんだよ。お前も見習うべきだ。そして俺たちは一緒に剣士祭に出場するんだ」

 マコトもロックやルーク、アクシズもクスイーもいる中で勝手に5人を殺すことは不可能だと理解している。ただ気持ちが納得しないだけなのだ。

「判った。仕方ない。もう言わない。それでこいつらをどうするんだ?」

「当然騎士団に引き渡しますよ。マコトの父親を殺したりクスイーの父親に怪我をさせた犯人ですから」

「それでどうなるんだ?」

「その辺りは僕では判りませんが」

「まあ、道場は閉鎖、こいつらは牢獄行きか強制労働だな」

 代わりにアクシズが応える。

「多分余罪もあるだろうから、一生出られないんじゃないか」

「そんなところですか」

「不満か?」

「死罪にはならないんですか?」

 州によって違うがガーテニア州には死罪があった。

「余罪によっては死罪もあるだろう。どうだ、これで少しは納得したか?」

「全然納得なんかできない。でもお前たちと剣を交えてまでこいつらを殺すのは無理だと思っただけだ」

 それはもしかしたらマコトの本音だったのかも知れない。



ヴォルデス道場③

「おっ、やる気ならやるぜ」

「ロック、お前とは二度と真剣ではやるもんか。俺もお前とやるまでは自分の腕にそこそこ自信があったんだが、お前は化け物だ。そしてルーク、お前もな。アクシズは達人、クスイーは、よく判らん。それに俺か。確かに剣士祭ではいいとこまで行けるかもな」

 最早マコトも気持ちを入れ替えてしまったようだ。それまでの人生を復讐に掛けてきたのだから、その思いは相当強いはずだが、現実を見るいい切っ掛けになったのかもしれない。

 ヴォルデス道場までガーデニア騎士団に来てもらって道場主兼師範と師範代四人を捕まえてもらった。他の塾生は関与していないようだった。塾生は全員で三十人程度だが、目ぼしい剣士はいなかった。

 道場は一旦騎士団の管理下に置かれるが、いずれは解散することになるだろう、ということだ。その際はぜひともローカス道場へ、という勧誘も忘れていなかった。

 結果、後日二十数人がローカス道場の塾生になるのはまた別のお話。

 マゼラン駐留ガーデニア騎士団のルーリ=メッセス中隊長によるとヴォルデス道場のソル=ヴォルデスは自身の道場のために闇討ちを繰り返していたが、どうも依頼を受けて対象者を襲っていたこともあったらしい。嘱託殺人というやつだ。当然有償であり、裏の仕事だった。その筋では有名だったらしい。

 マコトは腕の立つ剣士を単純に探していたが、実は殺人の依頼がしたいとその筋の者を探していたら直ぐに見つかっていたのだった。

 また、ソルは黒幕ではない、ということだった。あくまで実行部隊の長であり、殺人の仕事を割り振られているだけなのだ。但し、ウォード=ローカスやマコトの父親を襲ったのは自らの利益の為であり、依頼があったわけではないらしい。

「結局、その黒幕とやらをなんとかしないと闇討ちはなくならない、ということか」

「そうですね。以後も我々は捜索を続けます。この度はご協力ありがとうございました。皆さまのことはグロウス大隊長にもご報告しておきます」

「ルーリさん、それは止めておいてほしいな。また変なことに首を突っ込んでいるのかと僕たちが怒られてしまうからね」

「判りました。ではマゼランで何かお困りのことかありましたら何なりとお申し出ください。出来る限りのことはさせていただきます」

 ルーリ=メッセスは真面目が服を着ているかのような騎士団員だった。グロウスの元にはこういった人材が多く集まるのだろう。ガーデニア騎士団は安泰だなぁ、と思うルークだった。

「で?」

「で、じゃないよ。また何か企んでいる顔してる。なんで君はそう自分から危険なことに首を突っ込んでいくんだろうね」

「それは性分だから仕方ない。修行にもなるだろ?」

「命がけの修行なんだよ。判ってる?」

「判ってるさ。黒幕なんだから強いんだろ?」

 ロックは黒幕まで捕まえる気でいる。

「俺はやらんぜ」

 アクシズはもう興味を失っている。マコトが関わっていたから自分も関わったが、それ以上のことをする気は無かった。ロックの様に物珍しいだけで動く気はない。

「クスイーの修行はまだやっと始まったばかり、と言っても過言ではないからな。俺はクスイーと道場で続きをやっているよ」

 クスイーはやっと相手の剣に合わせられるようになってきた。但し真剣で本当に襲ってくる相手限定だ。そして攻撃するときには自分の剣速を十分発揮できるのだ。

「僕はもしかしたら実戦でないと駄目なのかも知れません」

「おいおい、それでは修行が出来ないじゃないか。実戦で練習するしかない、というのはやはり問題だが、何かいい方法はないものか」

 練習ではどうしても剣速が抑えられない。攻撃する時はいいが防御が全く出来ないのだ。

「よし、それじゃあクスイーと俺で黒幕を探そう」

 ロックが無茶を言い出す。

「それで実戦を積み重ねれば十分な修行になる」

「ロック、それはあまりにも危険じゃないかな」

「俺が付いているから大丈夫」

「それはそうなんだけど」

「ルークも付いて来ればいいじゃないか」

 ロックはもう言い出したら聞かない病が発症してしまっている。結局ロックとルーク、クスイーが黒幕捜索に行くことになった。アクシズとマコトは道場で修行だ。マコトも道場に住むことになった。これで五人揃ったわけだ。



ヴォルデス道場④

「それで当てはあるの?」

 ロックが何も考えていないのは判っているが、念のため聞いてみた。

「ない」

 やはり何も考えていなかった。ロックらしいが、それでは動きようがない。

「一人、何か知らないか聞いてみたい人ならいるけどね」

「よし、その人に会いに行こう」

「誰だか聞かないの?」

「いいよ、行こう」

 ロックが先頭に歩き出す。どこの誰だか聞いてもいないのに何処に行くつもりだろう。ルークはクスイーは仕方なしについて行く。

「ロック、どこに向かっているの?」

「えっ?知らない。何処に行くんだ?」

「いや、僕が行きたい場所もだいたい合っているけど、行先も知らないで歩き出したの?」

「うん、よく判らないがこっちかな、くらいな感じで。それで間違っているのか?」

「いや、合ってるけど。実はソニー=アレスに聞いてみたいと思ってたんだ」

 ソニーがマゼランに滞在している理由は判らないし、アクシズを紹介してくれた本心も判らない。ただ、ソニーならマゼランの闇の部分にも少し知識があるのでないかとルークは思っていた。

 ソニーがロックやアークとは違う、少し闇の部分を抱えているとルークは感じていたのだ。

「ソニーか、そうだな、あいつなら何か知っていてもおかしくはないな。よし、じゃあ行こう」

「あの、ソニーさんというのは」

「ああ、クスイーは会った事なかったね。ソニー=アレスは僕たちがロスで例の黒死病事件の時に知り合ったアストラッド州太守の息子さんだよ。」

「ええ、そんな方が今マゼランにいらっしゃるのですか?」

「そうだね。彼の目的はよく判らないけど、最初に会ったのもロスだったし、色々と旅をしているみたいだ。アストラッド侯の長男だと言っていたから、いずれは太守を継ぐ身だとは思うんだけど、護衛も連れずに、ああ、初めて会った時はアーク=ライザーと言うアストラッド州騎士団長の息子が一緒だったけど、今は別行動をしているみたい」

「そうなんですね。そう言えばルークさんもアゼリア公のご養子さんでした。なんだか失礼な事ばかりしているようで」

「気にすることはないよ、僕は僕だし、アゼリア州太守を継ぐなんてことはあり得ないから」

「そうなんですか?」

「あることで狼公を助けたとこがあって、それを恩に感じて僕を養子という事にしてくれただけだから。僕も太守なんて勿論継ぐ気もないし、こうやって旅をしているんだから、クスイーたちと何も変わらないよ」

「ルークさんにそう言っていただけると、少し気が楽になります」

「まあ、同世代の友人としてつきあってくれればいいよ。ロックに付き合うのは大変だけど」

 話し込みながら歩いているとソニーの宿に着いた。

「ここだよ」

「ソニーは流石にいい宿に泊まっているな」

 確かにその宿はマゼランでも一、二を争う高級宿だった。太守の息子というのは伊達ではない、というところか。

「ソニー、ルークだけど居るかい?」

 部屋の扉をノックしてルークが声を掛けると、直ぐにドアが開いた。

「いらっしゃい、ルーク。それと久しぶりだね、ロック。後、その人は」

 ソニーは突然の来訪に驚かない。来るのが判っていたのだ。

「彼はクスイー=ローカス。ローカス道場の道場主の息子さんだよ」

「なるほど彼が。それで今日はどうしました?」

 ルークはソニーに事の詳細を説明するのだった。



ヴォルデス道場⑤

「ヴォルデス道場は確かに悪い噂はあったけど、あの道場が闇討ちの実行役だったんだね。黒幕か、ちょっと情報は無いな。判った、僕の方でも少し調べてみるよ。何か判ったら連絡する。」

「ありがとう、助かるよ。アクシズさんのことも含めて助けてもらってばかりだ」

「気にしないでいいよ、別に僕にとっても悪いことじゃないから。アクシズはお家再興を願っているんだ、その手助けをしたいだけなんだよ」

 ルークからすると、ソニーの本心は判らないし、何かを企んでいることは確かだが確証もないので表面上助けてもらっているだけで十分だと思うようにしていた。


「クスイーくんだったか、君も大変だったね。父上は大丈夫なのかい?」

「ありがとうごさいます。もう剣士としては立ち合いなどできませんが、日常生活はなんとか一人でてせきますので」

「それは良かった。でも剣士祭はそれほど重要な出来事なんだね」

「剣士祭で注目を集めた道場は塾生も集まりますから。元々うちの道場も父が活躍して私塾としては有数の道場に成れたのですが、父の怪我で一気に塾生が減ってしまいましたから」

 各州の騎士団所属や聖都騎士団御用達以外の道場は剣士祭で名を売るしか塾生を集める手段が無かった。逆に言うと剣士祭で負けが続いた道場は没落していくのだ。

「そうなんだ。うちの騎士団傘下の道場にも確か騎士団員じゃない塾生はそこそこ居たんじゃないかな」

「アストラッド州傘下のスレイン道場ならかなり大きい方だと思います」

「スレインならよく知ってる。出稽古にでも行くなら僕から伝えておくけど」

 それはとても有難い申し出だった。今のところ道場内での稽古は続けているがそれがどの程度通用するのか判らない。ロックを筆頭に個人的には相当行けるとは思っているのだが、上には上が居るかもしれない。

「それは願ってもない。ロック、行くだろ?」

「もちろん。で、そのスレイン道場は強い奴がいるのか?」

「まあ、剣士祭で優勝は無理でも上位には食い込めたり込めなかったり、ってところかな」

「それはあまり強くないんじゃないか?」

「そう言うなよ、ロックやアークと比べると強い人はそうそう居るもんじゃないよ」

「アークとはちゃんと試合いたかった。アークはもう居ないんだな」

「うん、アストラッドにもどっているよ。まあ、いつかそんな機会もあるんじゃないかな」

 ソニーは少し何かを含んだ口調で言った。

「マゼランでの修業が終わったらアストラッドに行くさ。その時まであいつも修行を怠るなと伝えておいてくれ」

 ロックは本気の様だった。元々東へ東へと向かう旅の途中だ、ガーデニア州を過ぎれば次はアストラッド州ということになる。

「判った、確かに伝えておくよ」

「それじゃあ黒幕の件と出稽古の件、確かに頼んだ、帰るぞ」

 ロックは用事が済んだらさっさと帰りたいのだ。

「待ってよ、ごめんねソニー、また来るよ」

「ロックらしくていいよ、確かに頼まれた。期待はしないで待ってて」

「ありがとう、それじゃあ」

 ルークとクスイーは慌ててロックを追いかけるのだった。

  

ヴォルデス道場⑥

「ソニーからの連絡があるまで、どうしようか」

 ロックはさっさと歩き出している。

「例の地下で賭け試合をやっている店に行くぞ」

 ロックは店の場所を知らない筈なのだが、何故だか自信をもって歩いている。それが確かに方向として合っているのだ。

「ロック、店の場所を知ってるの?」

「いや、知らない。間違っているのか?」

「合ってるけど」

「ならいいじゃないか、行こう」

 ロックの特殊能力とでも言うのだろうか。目的地を知らなくてもちゃんと道が判っているようだ。ルークも今までロックがそんなことが出来るとは知らなかった。

「ロックさんに付いて行って大丈夫ですか?」

 クスイーも不安になったのだろう、ルークに確認してきた。

「大丈夫、道は合ってる」

「それならいいんですが。ロックさんは道に詳しいんですね」

 クスイーは少し勘違いしている。ロックは道を知っている訳ではない。

 店に着くとちょうどいい時間だった。賭け試合が始まったばかりだ。

「さて、どうするかな」

「やっぱり、何も考えてなかったね」

 ロックは来たのはいいが、ここでどうしようとかの考えはない。ルーク任せだ。

「とりあえず、顔役のような人を探して殺しの依頼でもしたらいいんじゃないかな。何か適当な理由と殺したい相手を見繕って」

 ロックもロックだがルークも相当なものだとクスイーは思った。二人とも考え方や感じ方が自分たちとは違うのだろうとクスイーは納得することにした。

「ジェイ、居るよね」

(なんじゃ、付いて来いと言ったのはお主だろう)

「ありがとう。じゃあ、後は頼むよ」

 ルークが殺しの依頼をしたら、その人間が誰と会ってどんな話をするのかジェイに追いかけてもらうのだ。上手く行けば黒幕までたどり着けるかも知れない。少なくともヴォルデス道場が摘発されてしまったので別の実行部隊と接触するだろう。その際には幹部のような存在が関わってくる可能性が高い。

 ロックがそこまで考えてここまで来たのかは判らないが、事の本質を見抜く直感はさえているのかも知れない。それをなんとか形にしなければいけないルークの苦労は絶えないのだが。

 ルークは店の店員の男を捕まえて話し出す。相手は最初は訝しがっていたが、少し金を握らせると奥に連れて行ってくれた。ロックとクスイーは大人しく待っている。

 暫らくするとルークが戻って来た。

「どうだった?」

「うん、なんとか上手く行きそうだ。ローカス道場の人はヴォルデス道場の件に関わっていて依頼対象には出来なかったので仕方なしにルーリ=メッセスの名前を借りさせてもらった。困った時には何でも申し出てくれと言ってたから」

「おいおい大丈夫か?」

「事情は話して、ちゃんと彼を護衛しないとね、そこはロックの出番だ」

「判った、任せろ」

「あとはジェイとソニーの報告待ちだね」

 やはりルークも普通の考えの人ではないとクスイーは少し怖くなってきたのだった。



ヴォルデス道場⑦

「そんな、私を殺して欲しい、なんて依頼をしたって言うのですか?」

「うん、ごめん、でも黒幕が捕まればルーリさんもいい仕事ができたと思うでしょ?」

 ルーリ=メッセスは青ざめて震えながら訴える。

「私を守っていただけるんですよね。お願いしますよ。確かに何でも言ってほしいとはいいましたが、これはちょっと酷すぎます」

「俺とルークがずっと見張るから大丈夫だよ。クスイーにはちょっと荷が重いかも知れないから道場へ帰すけど二人がいれば問題ないさ」

 ロックは自信満々だった。実行部隊だったヴォルデス道場の師範や師範代を問題なく倒せたのだ、他の部隊が来てもそう変わるものではないと思っていた。

「急いで欲しい、とも伝えてあるから今夜あたり来るかも知れないね」

 ルーリはガーデニア騎士団宿舎に居る、とまで伝えてあったので、いつ来るのかは時間の問題だった。できれば今夜来て欲しい。ここに長く寝泊まりする訳にも行かない。但し、実際に殺しに来るまでは続くのだが。

「でももしかしたら失敗したかもな、流石に騎士団宿舎には殺しに来れないこともありそうだ」

「それでは私は殺されないということで大丈夫ですか?」

「いや、ちゃんとガーデニア騎士団のルーリだと言ったのに受けてくれたから、騎士団宿舎にでも侵入できるということじゃないかな」

「えええ、それじゃあ、やっぱり私を殺しに来るってことですか」

「むしろ来てくれないと困るよ、折角の手掛りなんだから。剣士でも魔道士でも対処できると思うから、任せておいて」

 実際に襲われないと捕まえられないので、ロックとルークは別の部屋で待機してルーリを一人で眠らせる。ジェイに見張りに頼んで何かあったらすぐ知らせるように言っておいた。

(本当にお前たちは使い魔の使い方が酷いの。寝る暇もない)

「ジェイって寝るんだっけ?」

(使い魔とはいえ実体を持っておるのだ、睡眠は不可欠だぞ)

 普段は姿を消しているが、確かに実体はある。話したり飛んだり壁を抜けたりするのは、魔道の応用だった。

「それは知らなかったな、じゃあ僕たちが見張っている間は休んでいていいよ」

(我は勝手に休んでおるから気にするな。呼べば起きるだけだ)

「そうなんだ、じゃあ必要な時にはお構いなく呼ぶね」

(やはりお主は使い魔使いが荒いわ)

 ジェイはそういうと気配を消したが特に怒っている訳でもなさそうだった。色々なことに巻き込まれて波乱万丈ではあるが、あの森にずっと居ただけでは決して出来なかったことを今経験出来ていることに満足しているのだ。

「とりあえず安心して寝ていいよ、ルーリさん」

「眠れる訳無いじゃないですか、命を狙われているんですよ?」

「だから俺たちが守るって言っているだろう。とりあえず今晩は二人とも起きているから、安心して寝ていいぞ」

 そう言われてもルーリは結局一睡もできる筈が無かった。喧嘩や暴動、犯罪者を捕まえたりするのは慣れているのだが、自分を殺しに来る相手とは会ったことがなかった。何かいつも出会う犯罪者や殺人者とは違う感じがするのだ。他人の命を守るのは使命だが自分の命を守るのはただの防衛だ。

 ルーリはとりあえず眠れなくても寝床に入って横になることで身体を休めることにした。そのうちに寝息を立てだす。ああだこうだと言いながら普通に眠ってしまった。案外肝が据わっているのかも知れない。

 そして、結局その夜は暗殺者は現れなかった。翌朝、昼間は騎士団員と行動を共にしているから、さすがに襲っては来ないだろうとロックとルークはジェイを残してローカス道場に一旦戻ることにした。夜にはまた宿舎に戻ってくるのだ。

 道場に戻るとソニーから時間が空いたら宿まで来て欲しいと伝言が届いていた。何か情報が掴めたのかも知れない。ロックたちは少し仮眠を取ってからソニーの宿に向かうことにした。
 
  

ヴォルデス道場⑧

「お呼び立てして申し訳ありませんね」

「いや、こちらが頼みごとをしているんだから当然だよ。」

 ソニーを訪ねたのはロックとルークの二人だ。後は道場に待機してもらっている。

「それで何か判ったのか?」

「そうですね。一応少しは。終焉の地、という組織を覚えていますか?」

「もちろん覚えているよ、ロスの後も結構あちこちで絡んできたからね」

「なるほどそうでしたか。あの、ルシア=ミストという幹部の現在の状況は判らないのですが、どうも組織の中の別動隊が暗躍している可能性があります」

 ここでも終焉の地か、というのが正直な感想だった。あらゆるところの闇に潜んで何がしたいのだろうか。

「ルシアはどちらかと言うと魔道に特化した暗殺部隊の長だったと思うのですが、今マゼランで暗躍しているのは剣士が中心となった終焉の地ということです」

 さすがはマゼランだ、そんなところにも剣士が幅を利かせているのか。

「終焉の地を利用している誰かが居る、ということなのでしょうが、ヴォルデス道場とは別に終焉の地も主だった道場の師範や師範代を狙っている、という話です」

「そうすると、終焉の地への依頼主は別の道場、ということになるのかな」

 好敵手と成り得る道場を潰して自分たちの道場の名を上げようということか。流石に聖都騎士団傘下や各州騎士団の正式な傘下の道場は襲えないのだろうが、私塾は標的にされる可能性が高い。
 
 ただ大小数百はあろう私塾の全てを攻撃の対象とする訳にも行かない筈だった。

 人気私塾を襲って自らの道場が有利になる、そして塾生も増えて金回りも良くなる。その金でまた他の人気道場を襲わせる。ヴォルデス道場は、それを直接やっていたのだが、そのヴォルデス道場にも依頼し、また終焉の地も使って目的を遂げる、それはそこそこ有名な私塾が関わっている可能性が高い。

「ヴォルデス道場は壊滅させられたけど終焉の地は組織全容が判らないから難しいね」

「終焉の地は背後にも色々ときな臭い噂はあるし、ガーデニア騎士団も簡単に手を出せないかも知れないよ」

「それは問題だろう。グロウス先輩が許さないと思うが」

「グロウスさんならそう言うかも知れないね。場合によってはガーデニア騎士団と終焉の地の全面戦争に発展しかねない」

「それはそれで拙いんじゃないかな。アストラッド騎士団も表立って終焉の地と諍いを起こす気は無いと判断しそうだし。多分アストラッドにも終焉の地は入り込んでいるのに間違いないからね。今そのあたりのことをアークに調べてもらっているところなんだ」

 ソニーはソニーで色々と心配して手を回しているようだ。アークと別行動を取っている理由の一つには間違いないだろう。但し、それが全てとは到底思えないが。

「公国としても州騎士団としても闇ギルドの終焉の地を壊滅に追い込む確固たる信念で協力してくれるといいんだけど、どうも裏には色々とあるようなので一致団結とはならないようなんだよ」

 ソニーは公国や各州騎士団の未来を憂いているように見える。ソニーの行動の全てが終焉の地壊滅のため、ということはあり得るのだろうか。ルークはソニーがそんな単純な人間だとは思えなかった。但し、情報はありがたい。

「相手は終焉の地の剣士部隊、それに終焉の地を使っている道場が特定はできないがある、ということだね。もしかしたら依頼者の道場も複数なのかも知れない」

「もう少し特定できる情報があればよかったんだけど、今のところはこんな感じなんだ、悪いね」

「いや、十分だよ。闇雲に探し回るよりは終焉の地っていう顔が見える相手を探す方が闇に潜んでいるとしても判り易くていいし」

「また何か判ったら伝えるよ。ロックとルークなら大丈夫だとは思うけど、終焉の地も甘く見れる相手ではないから」

「ミストはそこそこの使い手だったし、気を抜かないようにしないとも、ソニー、ありがとう」

 ロックとルークは礼を言ってソニーの元を辞した。夕方にはルーリの居る宿舎に行く。それまで少しは時間があったので一旦ローカス道場に戻って現況を報告するのだった。 



ヴォルデス道場⑨

「終焉の地か、話にはきいたことがあるな」

 アクシズが言う。闇ギルドなので一般的には知られていない筈なのだが、アクシズにも色々と裏社会との繋がりがあるようだ。

「そんな闇ギルドなんてものがあるんだな。殺しを専門に扱っているのか」

 マコトやクスイーの直接的な仇はヴォルデス道場だったのだが、その黒幕というか、もう一つの実行部隊である終焉の地なのだ。終焉の地を利用して色々と画策している黒幕が居るのは確かだろうが、そこまで突き止めるの中々難しそうだった。

「話したことなかったか、前に終焉の地とは絡んだことがあるんだ。そこの幹部、ルシア=ミストという奴は、そこそこ強かった。まあ、主に魔道の方が、だがな」

「確かにルシアが絡んできているとしたら、ちょっと厄介なことになるかもね。でも剣士を襲うのにはあまり適してはいないとも思うから、剣士を中心とした別動隊と見た方がいいだろうね」

「そいつらは強いんだろうな」

「まあ、そこそこ名の通った剣士を、大勢とはいえ襲ってきているんだから、ある程度は使えるとは思うけど、ヴォルデス道場の師範たちは、それほどでも無かっただろ?」

 ロックは少し残念そうだった。ルーリ=メッセスの命が掛かっているのだから、あまりにも強い剣士が来てしまうのも問題なのだろうが、どうせ相手をするのなら強いに越したことはないとも思うのだ。

 ソニーからの情報を整理して話した後、ロックとルークはアクシズも連れて再びガーデニア騎士団の宿舎へと向かう。今夜は交代で見張るのだ。二時間おきに二人が起きて一人が仮眠する。

 ロックとアクシズは魔道の方は全く使い物にならなかったので、ルークが仮眠を取っているときに魔道士が襲ってきたら要注意だった。

「ちゃんと来てくれたんですね、よかった」

 ルーリは気が気ではなかった。勤務中もいつ襲われるか、ビクビクしながら務めていた。周りには騎士団員が大勢いたので襲われはしないと思っていても、やはり気になるのだ。

「来るに決まっているだろ、そんな無責任なことはしないさ」

「そもそも私の暗殺を依頼すること自体が」

「まあ、それは言うなって。ルーリも終焉の地が捕まればお手柄だろ?」

「えっ、終焉の地って、あの闇ギルドの?」

「ああ、ヴォルデス道場が壊滅してしまったので、残る暗殺の実働部隊は終焉の地らしい。言ってなかったか?」

「聞いてません!知ってたら力付くでも止めさせます」

「力付くでも?」

「いや、それは無理だとしても絶対に止めさせていました。命がいくつあっても足りません」

 それで無くとも怯えていたルーリが、さらに怯えだす。ガーデニア騎士団も終焉の地にはいままで何度も煮え湯を飲まされているのだ。

「まあ、あまり気にしないで今日も寝ててくれればいいよ」

 ルークにそう言われると少しは安心するルーリだった。ルーリは寝床について目を閉じると、いままで怯え切っていたのが嘘のように眠りに付いた。やはり神経は相当図太いようだ。

「じゃあ、とりあえず先に僕は休ませてもらうね」

 話し合って最初にルークが仮眠することになった。魔道士が襲ってくるとしたら、もっと夜が更けてから、という見方だ。

 そして、その見方は少し間違っていた。終焉の地の暗殺班には魔道士が居なかったのだ。

 ルークが仮眠を取って1時間ほどが経過したとき。人の気配にロックが気が付く。よほど注意していないと判らない程の足音だった。アクシズも追って気が付く。相手は三人だ。

 足音からすると相当な使い手らしい。ロックはワクワクが止らない。アクシズにはそのあたりの感覚は理解できなかった。

 ルーリは目を覚まさない。足音が扉の前に到達したときにはルークは目を覚ましていた。

「来たね」

 小声でルークが言う。

「三人だ、ちょうどいいな」

 ロックとしては一人が一人の相手をするのが物足りないのだが。

 カチャ。ドアを開ける音。部屋に中は暗い。ロックたちは完璧に気配を絶っている。侵入者三人は気が付いていない。

 その時、ルークが魔道で灯を灯を点けた。



ヴォルデス道場⑩

「うっ」

 暗闇の中、急に灯が点いたことで侵入者たちはたじろいだ。

 三人の侵入者の内、二人はルークとアクシズが取り押さえる。しかし残りの一人はロックの手を逃れた。相当な手練れとみえる。

「おっ、なかなかやるな」

 ロックは嬉しそうに言う。既に二人とも剣を構えている。二人とも突然の点灯は意に介していない。

「えっ」

 ルークが思わず声を上げる。その男の顔に見覚えがあったからだ。

「ルシア、ルシア=ミストじゃないか」

 そこにはルシア=ミストが居た。

「いや、違う」

 ロックが叫ぶ。

「そいつはルシアじゃない、別物だ」

 ロックと男は何合か剣を交える。ロックはちゃんと受けている。躱してはいない。受けさせるを得ないのだ。

「ほほう、かなりやるな。ルシアを知っているのか。俺をあんな出来損ないと一緒にするな」

 ルシアの顔をしている男が言う。見た目はルシアにしか見えない。

「お前は何者なんだ?ルシアじゃないのは剣で判るが」

「俺か、俺はルシアの兄、フロウ=ミストだ。不肖の弟が世話になったようだな。だが、お前たちが生きているところを見るとあいつはまた失敗したのか。本当に使えない奴だ」

 ルシアの魔道はかなりのものだった。それを出来損ないと言い放つこの男は、ロックと対峙しても怯んではいない。

「兄弟で終焉の地なのか。その腕があれば正規の道場でも優遇されるだろうに」

「兄弟で終焉の地だと?何を言っている、そもそも終焉の地を組織したのは我が父だ。だからルシアくらいの実力しかなくても幹部を名乗らせてもらえるのだ。俺は正真正銘、自らの力で勝ち取った幹部だがな」

 確かに男の剣は鋭い。ロックがマゼランで会った中でも一、二を争うくらいだ。さらに何合か打ち合うが、ロックとしては楽しくて仕方が無かった。

「フロウと言ったか、本当に強いな。こんなところじゃなくて、ちゃんとしたところで立ち合いたいくらいだ。でも、暗殺者として暗躍するのなら放ってはおけない。ここで仕留めさせてもらう」

「大口を叩くものだな。いいだろう、少し本気になるとしよう」

 そう言うとフロウは剣を構えなおす。先ほどまでの正眼から下段の構えに変えた。これがフロウの本来の形なのか。

「待って。終焉の地にルーリ=メッセスの暗殺を依頼したのは僕だ。依頼は取り消す。依頼金は返却不要。どうです、これであなたがここに居る意味は無くなりましたよ、どうします?」

 ルークは何か嫌な予感がしてロックとフロウの衝突を避けさせようとした。ロックが負けるとは思わなかったが、どこか怪我をしてしまうかも知れない。

「どうするか。確かに俺がここに居る意味はないな。だが、そこの二人は返してもらわないと帰れないが、それは応じてくれるのだろうな」

 相手としては当然の要求だった。但し、ロックがその全てを許さない。

「駄目だ。ここでちゃんと決着を付ける」

 そういうと珍しくロックの方から切り掛かる。クスイーとの修行のお陰でロックの剣速も相当速くなっている。その全力の打ち込みだ。フロウは辛うじて受けるが反撃する隙を見つけられない。フロウも本気だがロックも本気なのだ。

 数合打ち合い、ロックの剣をフロウが受けきれなくなってきた。ロックはまだ速くなる。

「ちょっ、ちょっと待て。参った、降参だ。何だお前の剣は。速さといい強さといい、化け物か」

 フロウ自身が強いからこそ判るロックの力だった。

「死ぬよりはマシというものだ。ここは大人しく引くとしよう」

「引く?」

「さっきそいつが言っただろう。手を引くというのだ。その二人のことは好きにしてくれ」

「なんだ、見捨てるのか。というか、お前も捕まえるに決まっているだろう」

「おいおい、依頼は無くなったんだ、殺しもしていない。俺も捕まえるのか」

「当り前だろう。今までしてきたことを牢獄で反省するんだな」

 騒ぎの中、騎士団員を呼びに行っていたルーリたちに三人は引き渡された。

「よし、これで心置きなく剣士祭に望めるな」

 ロックが晴れ晴れしい笑顔で締めくくった。
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