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第3章 飛躍する物語の章

第39話 シルザールの街で犯人を推理した

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「では、その二人がもし犯人だったら、という視点で考えてみるとしよう」

 なんだか話の流れは最悪だ。

「まずヴァルドアだか、確かにお前の言う通り『赤い太陽の雫』が盗まれたことを知らなかった、という行動に見える」

「そうだろう。知っていたらシルザールに戻ったりしないからな」

「そう見えるが、状況証拠としてはヴァルドア以外には考えられない」

「まあ、確かにそれは認めざるを得ないが」

「だとするとやはり怪しいのはヴァルドアということになるな」

 元の木阿弥だ。

「いや、だからその話の決着はついていたじゃないか」

「疑われたときのことを考えて態と戻って来た、ということもあり得るんじゃないか?」

「流石にそんな危ない橋は渡らないだろうに。戻らないで逃げれば問題なかったじゃないか。ルスカナまでは行けていたんだからな」

「そうもそうだな。ではやはりヴァルドアは冤罪ということになるか」

 まあ事実なのだから仕方ない。マシューの疑いを確実に晴らしておくことが後々いい方向に話が持って行ける気がする。

「となるとオメガというやつが怪しいな。ダンテ、そのオメガの隠形魔法は相当なものなのか?」

「そうお聞きしています。ただ封印魔法の方は聞いた記憶がありません。ただし封印魔法やその解除魔法は中々人前で披露する様な類のものではありませんので私が知らないだけかも知れません」

「お前でも知らないことがあるんだな」

「滅相もございません。私が知っていることは私が知っている事だけです」

 もしかしてダンテは上司であるマシューを馬鹿にしているのか?マシューが気が付いていないようだから、まあいいか。

「ではオメガの可能性はあるな」

「それも解決済では?」

「そんなことを言っていたが、確信がないとも言っていた」

 確かにそう言った。

「それは確かに言ったかも知れない。でも、オメガが犯人なら同じように犯人を捜している俺を連れてここには来ないだろうに。自分が犯人であることの証拠を見つけてしまうかも知れないじゃないか」

「お前のことを無能だと思っているんじゃないのか?」

 それはありそうで怖いが多分違うだろう。違うと思いたい。

「そんなことは無いって。俺の隠形魔法はそこそこだったろ?オメガには直ぐにバレてしまったけど」

「なんだと、お前の隠形魔法が直ぐにバレただと?僕が暫らくは気が付けなかったほどのお前の隠形魔法が?」

 マシューはプライドを傷つけられたようだ。他の魔法でならマシューの方が上かも知れないが隠形魔法に関してはオメガに分があるかも知れない。

「俺が部屋に入る前から気が付かれていたよ」

「それは隠形魔法じゃなくて魔法探知に長けているというこじゃないのか?」

「確かに探知魔法にも長けているかも知れないけれど、俺がオメガの部屋に入った時に彼は既に隠形魔法で隠れていて俺はそれに気が付けなかったけどな」

「それはお前の探知魔法が拙いだけではないか?」

「確かに俺の探知魔法はあまりたいしたことはないが、オメガの隠形魔法が拙いことの証拠にはならないだろう」

「まあ、そうだな」

 オメガが自分よりも隠形魔法に長けていることを認めたくないのだ。

「でも俺の隠形魔法はそこそこのものだったろ?」

「僕は隠形魔法は少し、少しだけ苦手なのだ。探知魔法は得意だが。その僕が気づくのが遅れたのだから確かにお前の隠形魔法はそこそこと言ってもいいだろう」

「だとすると?」

「だとするとオメガが犯人だという事になるな」

 そうなるか。しかし、確かに俺を連れて来た、というだけがオメガ犯人説の反証だが、それほど強いものではない。それによく考えれば俺がオメガを犯人ではないと確信している訳ではない。

「そうなるか」

「やはりそのオメガとやらが犯人ではないか。本人に詰問するのが一番だな」

 マシューにならその権限があるのか。『赤い太陽の雫』の捜索ならば十分あり得るか。

「確かに俺を連れてきたことも、今の捜索状況を探る目的を隠すため、ということもあるか」

「なんだお前、オメガを庇っていたんじゃないか?」

 今思えばオメガを庇う必然性はない。お世話になっているワリス・ボワールさんの配下だというだけだ。ただ『赤い太陽の雫』が盗まれたと知った時の驚きは不自然なものではなかった。俺が騙されやすいだけかも知れないが。

「庇っていたというか、今はワリスさんのところでお世話になっているからな」

「その程度のことか。では状況証拠としてはヴァルドアだがそれは違うとすると次にオメガが有力な犯人候補である、という事に異存はないな?」

 おれは仕方なしに頷く。確かに反証も弱い。ただ、問題はオメガが『赤い太陽の雫』を持っているとすると、その無限に供給されるマナで特級魔法士としての力を十二分に発揮できる、ということになる。捕まえたくとも捕まえられないのではないか?

「異存はないが、それじゃあ今から彼を捕まえに行くのか?」

「行くに決まっているだろう。僕が捕まえれば当然僕の手柄だし場合によっては『赤い太陽の雫』が下賜されるかも知れない」

「マシュー様、それはないでしょう」

 ダンテが淡々と抑揚のない声で言う。

「なんだ、僕が取り戻したのなら、僕に呉れてもいいじゃないか」

「シルザール家の家宝ですよ。アステアに二つとして無い貴重なものです。ご領主様が手放される筈がありません」

「なんだ、それなら僕が捕まえるのはやめておこう。面倒だしな。そうだ、マロンに言って同門の彼に捕まえさせよう。その方か面白い。ハーメルに汚名挽回の機会を与える訳にも行かないしな」

 マシュー・エンロールは能力は高くても性格は悪い。それが天才的な魔法使いなのだから始末が悪い。

「それにもし間違っていてもマロンの責任になるしな。ダンテ、直ぐにマロンに伝えて来てくれ、直ぐにだ」

 マシューが言い終わる前にダンテの姿は消えていた。さすがは上級魔法士、仕事も早いし知識も豊富で能力も高いようだ。

「さて、それで?」

「それで?」

「お前は今からどうするんだ?」

 マシューの目が怪し気に光った。俺はこれからどうなるのだろうか?








 







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